六月二十八日
今回で急展開・・・・かな?
六月二十八日 AM11:50 国友高校一年四組教室。
教室内にペンを動かす乾いた音がしている。
どこの高校でも小テスト、抜き打ちテスト、中間テスト、期末テストというものが存在していて、現在、国友高校は期末テストの真っ只中。
期末テストを早く行って成績不良者は七月終盤までの補習、それ以外の生徒は林間学校などと行事を楽しむ仕組みになっている。
試験監督の先生はぼんやりと景色をみていたり持参した本を読んだりと時間を潰していてちゃんと監督をしているのか怪しい所。
けれど、生徒達は目の前の問題を解くのに必死で教師のやっていることに気にしてられない。かくいう相馬ナイトも机に置かれているプリントの問題と睨めっこしている。
歴史の空欄補充の問題、この問題は生徒から人気が高い。
人気が高い理由としてあがるのは配点が大きくてここをおさえておけば赤点回避可能であるというのと、問題が楽しいからということがあげられる。
問題は先生が知人の人達の名前を少しもじった人たちによる歴史の解説だったりしたもので、担当教師は廊下に立たされたり答えを間違えたりしているので狙いどころの一つ。
『そこ、間違っているのではないか?』
ぴたり、と走らせているペンを止めて、紙の端に「静かに」と速筆する。
『しかし、そこの年代は1600年ではないのか?お前の書いていた“のーと”とやらの答えとは違うぞ?』
少し考えながら相馬は「そうかもしれないけれど、ズルになる」と答える。
『む、成る程・・では何も言わないようにしよう』
ちらりと横目で浮遊している銀髪少女を見ながら問題の間違い箇所が他にないか目を向ける。
自分の記憶の限りだと彼女の指摘された以外なかったようなので他の問題に意識を向けようとするけれど、残りの問題に手がつけられない。
耳元で女性の鼻息やふむという声が聞こえていたら仕方がないのかもしれないのだろうけれど、これは困る。
「はい、時間だよ~。ペンを置いて集めていくから」
教師からの無慈悲な宣言に不幸にも相馬はペンを机の上に置いた。
ころころと虚しくペンが机の上を転がる。
相馬ナイトが十六夜と名づけた少女と契約を結んで既に一週間と少しを迎えようとしていた。
十六夜はどういうわけか相馬以外の人間にはみることができないみたいでクラスメイトや妹の前で何をしていても誰も気にしない。相馬以外は。
自分以外にみえない少女。
このことを他の人間に話すわけにはいかない。
話せば即座に病院を勧められてしまうのは目に見えているし家族に心配かけたくなという理由もあった。
だが、それは相馬の理由であって十六夜の理由にはならず、彼女はことあるごとに精神的に相馬を追い詰めていく。
早朝になるかならいかの時間帯になると耳元で十六夜がおはようと耳元で囁き、目覚ましよりも妹のモーニングコールよりも早く目が覚めてゆっくりとできない。しかも妹の朱柚の機嫌が悪くなり、そのご機嫌とりのために財布の紐が緩くなる。
食事の時間になれば「みたこともない食事だ」といって横から相馬の弁当や朝食をつまみ食いして行く。彼女の姿がみえないからみんなの前で文句を言うわけにいかず、すきっ腹を抱えることが増したことで財布の紐が緩くなる。
極めつけはそろそろ寝ようかなと考えているとベットの上で礼儀正しく座りながら真剣な表情で相馬を見つめて。
『約束だ。私に恋というものを教えてくれ』
真顔でこんなことをいってくるから困りながら自分の知っている恋について話す。かなりの時間を費やすから期末テストの試験勉強の時間が削られてしまう。
さらに相馬を悩ませる事になったのは。
「相馬ナイト、お昼を食べる」
期末テストが終わってみんながのんびりしている空気の中でがらりとドアを開けてブレザーを着た少女が入ってくる。
羽鳥天月。一週間前に相馬に付き合って欲しいと告白をしてきた少女。
クラスに残っている男性陣はまた、アイツかと嫉妬の混じった視線が相馬に向けられる。
ずっと続いている事なので気にしなくなった。
羽鳥は周囲の視線をものとせずに空席となっている場所に座ると弁当箱を広げる。
告白騒動から次の日、彼女は相馬のクラスにやってきて一緒に食事をとろうと提案してきた。
どうしてかと尋ねると「彼氏彼女は無理だけど、友達なら問題ない・・・・ダメ?」といわれた。
友達としてなら大丈夫かなと考えてオーケーすると毎日やってくるようになった。
相馬が異性と仲良くしていると知ったら“親友”の剣立鳴海が暴走するかもしれないのだが、剣立はテストが終わるとさっさと外に飛び出してしまっているために知らない。
「(アイツら、まだ生徒会とやりあうつもりなのかな?)」
剣立鳴海と安倍彦馬は異世界からやってくる吸血鬼というのを見つけだすことで自分達を格下といった生徒会を見返すつもりなんだろう・・・・といってもそう考えているのは安倍だけでどうして剣立が一緒に行動しているのかはわからない。
「・・・・食べないの?」
考えていると羽鳥が顔を覗き込むようにして尋ねてくる。
「あぁ・・食べる」
カバンの中から弁当箱を取り出して昼食を取る。
二人の間に会話というのはない、相馬が会話をすれば羽鳥は答えるけれど自分から話しかけるという事をしない。
沈黙が続く時間に相馬は慣れて来ていた。
「そういえば、期末テストが終わったけれど、羽鳥はどうだった?」
「問題ない」
「そっか」
「貴方は?」
「やることは全部やった・・後は結果をまつのみだよ」
「そう」
赤点はとらないだろうと思ってはいるけれど何分、テスト勉強の時間が少ない。
もう少し時間がなかったらはっきりと問題ないと言い切れるんだけれど、不安要素が多すぎる。
「(不安要素といえば・・・・この契約もか)」
ちらりと自分の手の甲につけられた契約の印というのをみる。
印は結んだ時と終了した時にしか姿を見せないという。
契約というのがどういうものなのか尋ねても彼女は契約は契約だといってそれ以上は答えてくれない。
「どうしたの?」
「いや・・・・少し考え事」
彼女が何か口を開こうとした所でポケットの中の携帯電話が小さく振動する。
羽鳥は開こうとした口を閉じた。
「・・・・用事が出来た。また今度」
「お、おう」
弁当を食べ終えると羽鳥は足早に教室を立ち去る。
期末テストは終わっているので帰宅するのも残るのも自由。
弁当を食べ終えた相馬はどうするかと考えていると背後から声をかけられる。
『帰らないのか?』
「・・・・どこにいっていたんだよ」
『散歩だ。ずっとソウバナイトの傍にいたら迷惑をかけてしまうからな・・恋を知る為に外に出ていた』
淡々と話す十六夜に複雑な気持ちを抱きながらも相馬はカバンを手に取る。
誰も呼び止める者がいないのでスムーズに下駄箱まで進んで靴を履き替えて校舎を後にする。
校舎から出た瞬間、体に何かを吹っかけられたような感覚に支配された。
「なん・・・・」
体を包み込んだ感覚に戸惑っていると隣で気配を感じて横を見る。
「む・・ソウバナイト、どうして私と同じ時間の中にいる?」
「へ?いや・・あれ!?」
隣にいる十六夜は普通に立っている。
当たり前の事だが、契約を結んでからの十六夜は少し宙に浮いて移動をしていたので地面に足を付けているのをみるのは久しぶりといえた。
「というか・・ここどこだ?」
グラウンドにいたはずなのに、どういうわけか廃墟になっている工場らしき建物の中に立っている。
しかも、二人の前に巨大な狼が口からぼたぼたと涎を垂らして黄色い瞳はこちらに向けられていた。
どうも嫌な予感がする。
「フェンリルだな」
「へ?」
十六夜が呟いた言葉に反応するよりも早く、雄叫びのような声をあげてフェンリルが飛び掛った。
相馬は咄嗟に十六夜を抱えて横に跳ぶ。地面を転がりながらも二人がフェンリルの牙の餌食になることはなかった。
標的を失ったフェンリルは廃工場の壁に激突して大きな悲鳴を上げる。
「大丈夫か?」
「・・・・あぁ、だが」
「話は後だ、逃げるぞ」
地面に転がっている鉄パイプを途中で拾いながら走る。
逃げようとして気づいたのだが工場の外は砂漠になっていて隠れる場所などない、それどころか風が強くて顔に砂が飛んできた。
「外に逃げるのはダメか・・中っていっても」
来た道を戻るという選択肢はない。まだ遠いが先ほどのフェンリルという怪物の足音が響いてきている。
そこで、相馬は気づいた。
隣の十六夜がずっと工場の、さらに上の分厚い雲で隠されている空を見ている。
「十六夜?」
「・・・・なにかくる」
「え?」
彼女の目線を追って見上げた瞬間、工場の入口からフェンリルが飛び出して鋭い牙をむき出しにしてこちらに迫る。
咄嗟の事で反応が遅れた相馬は十六夜だけでも守ろうと前にでた。
しかし、フェンリルの牙が体に噛み付こうとした瞬間、空から白い光のようなものが一直線に落下する。
光は真っ直ぐにフェンリルのわき腹に直撃して、横に大きく仰け反った。
空から落下した第三者は黒い全身装甲のような鎧。背中には機械の翼、両手には光線刀のようなものを握り締めている。
顔の部分は龍を模したもので目の部分と額は青いバイザーで隠されていて素顔はみえない。
フェンリルが口から涎をこぼしながら不意打ちした敵を見据える。
どうやら自分達よりも先にあっちを始末しようという動きらしい。
黒い全身装甲はブゥゥゥンとバイザーに黄色い二つの光を灯し光線刀を構えると地面を蹴る。
蹴っただけで足場にしていた砂が大きく凹む。かなりの重量の鎧なのかと思っていると背中の翼からヒュンと音がして空へと上昇した。
正面から歯をむき出しにして飛び掛るフェンリルの襲撃をあっさり回避するとそのまま後ろに回りこみ刀で背中を切る。
じゅっと肉の焼ける音にフェンリルは悲鳴を上げながらも後ろ足で蹴り飛ばす。
蹴られた鎧は衝撃とともに廃工場に体を叩きつける。
ボロボロの壁に激突した部分が千切れてそのまま中に倒れこんだ。
フェンリルは動きを止めて土煙の中を睨む。
無闇に飛び掛れば先ほどのように一太刀浴びてしまうのは目に見えている。
だからこそ、土煙の中から飛んで来た青いレーザーに気づけなかった。
土煙が空中でうねる様に動いたと思うと煙を切り裂いて一条の光がフェンリルの首近くに突き刺さる。
どろどろと貫いた箇所から血のようなものが流れ出してフェンリルは苦しそうな悲鳴を上げた。
ゆっくりと起き上がった鎧は光線刀を構えて地面を蹴る。
刃がフェンリルの首を斬りおとそうとしたところで周囲にノイズが入った。
「え?」
ノイズに驚いて相馬はごしごしと眼を擦るけれど、ノイズは見間違いではないそれどころか激しくなってきている。
どういうことか考えていると十六夜が相馬の腕を掴む。
「崩れるぞ」
「へ?」
瞬間、ガラスが割れるみたいに周囲の景色が砕け散る。
世界が割れて相馬と十六夜は国友高校のグラウンドにぽつんと立っていた。
「あ・・・・あれ?」
『元の世界に戻れたな』
「え、へ!?」
ふわふわと宙に浮かんでいる十六夜を見てからもう一度、周りをみる。
彼女の言うとおり、さきほどまで自分がいた場所。
時間を確認すると13:20、少しだけ時間が流れていた。
「よくわからないけれど、疲れた」
体にどっとのしかかってきた疲労感に座り込みそうになるのをこらえてグラウンドをでることにする。
『ソウバナイト』
「ん?」
『明日はてすと休みというものだったな』
「そうだけど」
テストが終わった次の日は教師の採点する為の時間を設ける為に一日休みとなっている。
羽目を外せばとんでもない罰則が待っているけれど。
そもそも隣でぷかぷか浮いている少女がいるから羽目を外せるかどうかはわからないわけで。
『でーとをしよう』
頭上で彼女が言い放った言葉が耳に入るまでに三秒。
言葉が脳に届いて理解するまでに二秒。
計五秒の時間を費やして相馬が搾り出した答えは。
「へ?」
マヌケな態度だった。
横坂市の外れ、自衛隊駐屯地。
そこに対特殊生物殲滅自衛隊の施設がある。
壊れた夏という日本で起こった史上最大テロから姿を見せるようになった合成生物を殲滅するべく組織された精鋭の集まり。
但し、その特殊部隊に普通の人間は二割程度しかいない。
対特殊生物殲滅自衛隊はミュータントで構成されている。
ミュータントは壊れた夏以降に散布された未知のウィルスXに感染し発症した人間の中で特殊な力に目覚めた者達で彼らは普通の人間よりも力が強いなど、普通ではない。
そんな合成生物を殲滅する精鋭の集りの中に羽鳥天月がいる。
鉄と汗の臭いの中で彼女はぼーっと思い返す。
羽鳥を始めとする第八部隊は上層部からの命令で試作機のテストを含めて別次元から攻め込んでくる敵と戦う。
別次元といわれて最初は冗談かなにかと隊員達が思う中で羽鳥だけは冷たい瞳で戦う力を欲して、試作機のテストパイロットを進み出た。
何度か実験を繰り返しての実戦投入。
投入されたのは廃工場、そこにいた巨大な狼の異形と彼女は戦った。
普段使っている特殊戦闘服よりも重たい鎧に苦戦しながらも狼を追い詰めた力に羽鳥は喜びを感じる。
これで戦える、と。
体に沸き起こる高揚感を味わいながら片隅に浮かんだ記憶に意識を向ける。
「・・・・あの時」
狼と戦っている時、視界に一人の人間を捉えた。
上からの情報では人間が入れない立ち入り禁止エリアの一つということだった、けれど、ミュータントとして視覚、聴覚などが人一倍優れている彼女が間違えるわけがない。
「相馬・・・・ナイト」
バイザーが反映している自分の顔を見る。顔の一部分を覗き込む。
ミュータントとして力を使っている時に見たのだ。
なにより彼の顔を自分が見間違えるはずがない。
バイザーに向かってため息をこぼす。息があたって曇る。
どうして、彼があそこにいたのか。
隣にいた女はなんなのか、狼に狙われていたのか?
もし、そうだというなら守らなければならない。
それができる力が自分にはある。
『羽鳥少尉、今から装甲を解除します。衝撃が起こるかもしれませんけれど我慢してください』
「・・・了解」
耳元の通信システムからの整備員の言葉に無言で肯定する。
といっても向こうは返事を待たずに彼女が纏っている鎧やパーツを外す。
パージと同時に蒸気が噴き出し体が自由になった。
むくりと体を起こすと白衣の男性がクリップボードを持って尋ねる。
「どこか、問題はありましたか?」
「飛翔する時にブースターに小刻みの振動があった」
「ありがとうございます」
ぺこりと会釈して研究員の男性は離れた。
入れ替わるようにして第八部隊の隊長を務めている烏丸礼湖がやってくる。
「どう?試作機は」
「高性能、まるで自分の体みたいに動いてくれる」
「・・・・体に異常とかは」
「大丈夫」
「それにしても上も変なものを押し付けてくれたわね。“龍機壱式〈りゅうきいっしき〉”って名前だったかしら・・特殊戦闘服やPSでも十分だったけれど、一体どういう理由でこんなものを作ったのかしら?」
烏丸は目の前で鎮座している龍の鎧のようなものを眺めながら不満げな声を漏らす。
羽鳥は鎧を一瞥して。
「でも、これがあればもっと多くの敵を殲滅する事ができるかもしれない・・・・」
「今でも十分殲滅しているじゃない」
「でも、複数でやっと一体」
的確な指摘に烏丸は黙る。
合成生物と対峙する時は複数で距離をあけながら特殊弾を体内に撃ちこむのがセオリー。
それが限界。
もし、今以上に合成生物達が姿を見せれば対処するのは難しくなる。
「そのための・・・・試作機」
今の状況を変えるために作られたのが目の前に鎮座している独立戦闘鎧衣一号機それが龍機壱式。
これからの戦闘データを元にさらなる強化・改良を重ねて量産機生産までもっていくのが龍機計画。羽鳥達が上層部から参加を命じられたプロジェクト。
黒い鎧を眺める羽鳥をみて烏丸は複雑な顔を羽鳥に向ける。
何かを期待するように見ている彼女は合成生物、人ならざるものを殺す事に関して強い決意めいた覚悟を持っていて烏丸はそれが不安だった。
先月も別の部隊長の指示を聞かずに自爆寸前の合成生物に突撃して始末しようとしたことがあったらしく、隊長に注意するように言われている。
隊員の過去は詮索する方ではないけれど、羽鳥天月という少女を見ていると酷く不安になってしまう。
『そっちも大変だねぇ』
夜、夕食が終わって部屋でのんびりしていると久しぶりにユーリン・ノーランから電話がかかってきた。
ユーリン・ノーランは世界的に有名な歌手で五月に日本に来日した時の事件で相馬は彼女と知り合いになる。
時々、外国にいる彼女から国際電話がかかっていたけれど、久しぶりのお話に相馬は喜んでいた。
「その代わり、友達もできたんですけどね・・・・ユーさんは?」
『私は、あたらしい曲の練習だよ。今度のは自信作だよ!』
「うわー、聴いて見たいや」
『今度、会った時に一番に聴かせてあげるね?それよりもナイト君』
電話の向こうのユーリンの声が少し低くなる。
『無理・・してない?』
さっきまでの楽しそうな声から一転して心の底から心配している彼女に申し訳ない気持ちになりながらも相馬は大丈夫と答えた。
「大丈夫、色々とあったけれど俺は元気だよ。だから心配しないで」
『・・・・だといいけれど、本当に何かあったら連絡してきてね。私にできることならなんでもするから』
「ありがとう」
本当に心配してくれていることに感謝する。
「あ、ユーさんに相談したい事があるんだけれど、いいかな?」
『いいよ!』
「こんな相談するのおかしいんだけど、明日、女の子とデー」
明日のデートのことを相談しようとしたところで、ふわりと携帯が浮き上がったかと思うとブチンとユーリンとの通話がきられてしまう。
何事かと見上げると不機嫌な表情をした十六夜が相馬の携帯電話を握り締めていた。
「ど、どうしたんだよ」
「明日のデートについての相談をするな」
「デートなんてしたことがないからさ、女性の意見というものを」
「お前の心で決めたものなら私はなんでもいい・・・・他人から得た知識を利用するのだけはやめてくれ」
不機嫌な声で彼女は相馬に携帯電話を返す。
本当に嫌そうに顔を歪めながら十六夜は言う。
「私は恋を知りたい。だから・・・」
「わかった、十六夜がそういうならそうする。でも、期待はしないでくれよ。デートなんてあまりしたことないし」
「・・大丈夫だ、お前なら任せられる」
「質問なんだけど、携帯電話さっき持っていたよな? 誰にも見えない触れないんじゃなかったの?」
「簡単だ。そのけいたいとやらを触るときだけ時間を同調させた。そうすれば触ることが出来る」
「ずっと、姿を見せたらいいのに」
そうすれば普通に喋ったりとかできるのにと相馬が言うと彼女は困ったような悲しそうな顔をする。
「どうした―」
「私が姿を現すとお前に迷惑をかけてしまう。故に姿を見せるのは明日だけ・・・・・・すまない」
申し訳なさそうにいって彼女は外に出て行った。
残された相馬は天井を見る。
十六夜は何かを隠している、けれど、いえない理由がなにかある。
その理由がわかれば。
「・・・・なに考えてんだ」
さきほどまでの思考を振り払う。
自分は平凡な世界に生きる人間で、安倍彦馬や火町塔志郎達みたいに厄介ごとがはびこる世界の中で生きていける人間じゃない。
ちらり、と自分の手を見る。
斬られたり食われたり色々な目にあってきた、これからもそうなる必要はない。
「きっと・・・・ない」
拳を握り締めた彼のは苦悶の表情を浮かべていることに気づかなかった。
そして、ユーリンとの電話と中途半端にしてしまって彼女に心配をかけてしまったことに気づいたのはそれから十分後のこと。
十六夜はぷかぷかと浮遊しながら憂鬱そうな表情で街を眺めていた。
「冷たかった・・かな」
彼女はさきほどの相馬ナイトのやり取りを思い返しながらぽつりと呟く。
明日のデートの為に、相談をする事は悪くない。けれど、誰かの知識で自分を楽しませようとされるのが嫌いで電話を無理やり奪った。
彼の気持ちもわからなくないけれど、どうしても嫌だ。
誰かの入れ知恵というのが嫌で仕方がない。
それが、自分とは違う同姓だということに。
「・・・・・・」
不機嫌な顔をしながら彼女はふと、気づいた。
どうして自分はここまで怒っているのだろう。
今までならありえないことだ。
他者に無関心、興味など一切抱かず、有象無象の一つとして処理していた。
家族を除いては。
そんな自分が一人の人間とデートするということだけで感情を露にしていることが不思議だった。
「これが・・・・変化?」
ぽつりと呟きながら十六夜は考える。
困った事に答えが出ない。
どうするかと悩んでいるとこちらをみている気配を感じて視線を向けた。
「よーやくみつけたぜ」
そこにいたのは学生、国友高校の制服を着た不良、長谷川。
「お前が吸血姫だってことはもうばれてんだ。大人しくついてきてもらおうか」
「断る」
「だったら排除だ。叩き潰してやるぜぇ!」
長谷川は見下したような態度を取りながら地面を蹴って手を振り上げた。
十六夜は一瞥しただけで攻撃を回避するとそのまま離れようとする。
頬に熱が走った、触れると指先に赤い液体が流れていた。
「へっ、逃げられると思うなよ」
「・・・・・・」
赤い液体をみたと同時に十六夜は間合いを詰める。
いきなり距離を詰められた事で彼は目を見開いてマヌケな表情をしたまま、
「失せろ」
額に指をぴんとぶつける。
轟音が響いて長谷川は地面に叩きつけられて小さなクレーターを作った。
「身の程を弁えろ。貴様のような雑魚が傷をつけるとは本来なら万死に値するところだが・・・・そういうことに興味がない。失せろ」
威圧的な態度と殺気を放ち十六夜は相手を見下す。
さきほどの攻撃、いわゆるデコピンは指先に力をいれただけに過ぎない。
圧倒的な力量の差。
勝てないと思い知らされてこの場から消えないかと見ているとゆらりと、起き上がる。
「ざけんな・・・・てめぇ、雑魚だと・・・・この、俺が雑魚だというのかぁああああああ!」
怒りの咆哮。
体がむくりと膨れ上がり黒い毛が腕や背中から膨れ上がるようにでてくると鼻が前に伸びて狼の顔へと変わる。
「・・・・・・面倒だ、一撃で終わらせよう」
何もない空間に手を触れてくるりと円を描くようにして魔法陣を展開する。
掌ほどだった魔法陣を狼に向かって投げた。
途中で巨大化した魔法陣は大きな膜となり狼を包み込む。
「グッ・・・・グゥゥゥゥゥウウウ!」
重圧で動きを封じられながらも拘束から逃れようとする狼を一瞥して十六夜はその場から離れる。
「に、逃ゲられると思ウなよ・・・・てンエのいられる場所なんザねぇんダ・・・・・・みつけだしテ」
離れていく背中に狼は呪詛のような言葉を投げた。
十六夜は一度も振り返らずに透けるように消える。




