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フェイズ・ジョーカー  作者: ナイトレイド
つきのうさぎと魔法使い。
12/47

五月六日

これにて、つきのうさぎと魔法使いの話は終了です!

最後まで読んでくれてありがとうございます!

五月六日 PM??:?? ????


「ようやく緊張の日々が終わりか」


「長いようで短かったですなぁ」


「一時は何か問題が起こるかもしれないとひやひやしていたんですけど、さすがは公安部と警護課っていうことですかね?」


 芳養麻春人は事件の報告書を上層部の連中に届けに来ていた。薄暗い会議室の中で自分達よりも階級が上の人達は世間話のように語り合っている。


 誰一人、芳養麻の提出した報告書に目を通している者はいない。全員が隣に座っている人達と話をしている。この状況にどうしょうもない怒りが込みあがってきた。


 報告書には今回の経緯と一緒に殉職した者達をリストアップしている。なのに、それなのに彼らはそれを見ようとしない。


 ユーリン・ノーランという海外からの大物来訪者がいなくなるということばっかりに目を向けてばかりで現場の人達がいなくなったということに誰も何も言わない。話すことすらない。


 聞こえるように歯軋りしてやろうかという感情を必死に留める。


「彼女を狙っていた犯人の身柄を押さえていますがどうすればよろしいでしぃようか? 検察へ」


「あぁ、それはいい」


 送検措置をいおうとした芳養麻を一人が止める。


「いい・・というのは?」


「その犯人の身柄に関してはある方達との約束でね。引き渡す事になっている」


「・・で、では! 音楽ホールの爆破については? 既にマスコミに知れ渡って」


「それも問題ない。既に手を打ってある。音楽ホールの爆破事件については保管されていたガスが漏れた事による火災ということで報道されることになっている」


「・・・・」


「そもそも」


 黙りこんだ芳養麻に一人が笑いながら――。


「今回の警備については芳養麻クンの配置ミスもあるんじゃないのかね?」


「・・・・・それは・・・」


「まぁまぁ、保護対象である彼女が無事だったんだからいいじゃないか」


「そうですよ。彼女が命を落とさなかっただけ儲けモノと考えればいいんです」


 なるほどーといいながら彼らは笑い出す。


 天照音楽ホールは一部が壊れてしまっていただけだったのでそこを立ち入り禁止にするということでコンサートを実施した。コンサートは大盛況で問題もなく終わったことに彼らは満足している。


 芳養麻は無表情を貫きながらも拳から血がでてもおかしくないくらい握り締めていた。


 こいつらは部下を何だと思っているんだ?


 彼らは自分達の職務を全うして命を落としたというのにそれに対する言葉もないのか。


 芳養麻はこの場でもう一度誓った。


 上に登ってやる。そしてこいつらみたいなウミを全て一掃して強い警察を作ってみせる。


 魔術師なんかに屈しない警察を。無駄な命を落とさない組織。


 だから今は耐える。


 彼らの命を無駄にしない為にも。




















五月六日 AM10:00 草薙屋敷





 五月六日は月曜日、本来なら高校の授業再開でゴールデンウィーク終了した翌日なのだが先日が日曜日だったことから振り替え休日でまだお休みが続いている。


 最終日だとみんなは金のことなどを考えずに外に飛び出して遊び尽くし彼女とデートしたり長い旅行から帰ってきて家族でのんびーりしたりしている筈。だが、相馬ナイトはそういう休日エンジョイ気分にどうしてもなれなかった。


 そもそもなれるわけがない。


「反省しましたか? 自分がどうしょうもないくらい惨めで愚かな存在だと自覚しましたか?」


 見下ろすような角度(本人は狙ってやってる)でメイドさんが尋ねてくる。その問いに相馬は小さく首を縦に振る。


「まだ反省が足りないようですね」


「反省してるよ!? 肯定したじゃん!」


「私に意見をする時点で反省をしていないということになるのですよ」


「横暴だ! なんだこの裁判!?」


「裁判、いいえ違いますよ。ここは処刑場です、お嬢様を誑かして余計なフラグを立てている愚か者を処刑する場所です」


 メイドの冷たい視線に何もいえなくなる。


 てか、フラグってなんだい。


 冷たい瞳でみてくるメイド。


 どうしてこうなったのか、五月四日、爆散魔の魔術師を倒してから相馬は意識を失った。


 目を開けるとどういうわけかエイレーネの住んでいる屋敷の一室で起きた途端、メイドの命令で正座をするようにいわれて現在に至る。ちなみに目を覚ましたのは五月五日。


 あれから半日ばかり正座を続けているから足が痺れを通り越して何も感じない。


「ところでエレネは? 姿見えませんけれど」


「・・・・・」


 目をそらした。


「あのさ、これって」


「正座を崩して構いませんよ。私はこれから掃除、洗濯、買い物、料理、洗濯をしないといけないので」


 動揺しているのがバレバレでメイドは同じ事を二回繰り返している事に気づいていない。


 ジトーと半眼で睨んでいるとぷいっと目をそらして彼女は部屋から出て行こうとしてくるりと顔だけをこちらに向けて。


「お嬢様は居間でお客様とお話中ですので絶対に訪れる事のないようにお願いします」


「てか・・しばらく動けないからさ」


「絶対ですよ」


 何度も釘を刺して彼女は出て行った。


 いなくなってから相馬はその場に崩れ落ちる。床にべたーんと倒れる。畳の香りがなかなかにいい。


「やっと・・・平凡な日常に戻れるってことなんかなぁ」


 足をぴーんと伸ばして相馬は静かに呟いた。あの後、爆散魔の魔術師と一緒にいたもう一人がどうなったのか相馬は知らない。いや、知りたくないというのが本当の所だろう。


「そういえば携帯が何度か鳴ってたな」


 正座中は動く事も禁止されていた。ちょっとでも動けばクナイが飛んでくる恐怖もあったから確認する事ができなかった。


 相馬はポケットに入れておいた(あの事件で奇跡的に壊れなかった)携帯電話を取り出す。


 チェックするとメールが入っている。


 確認すると一通目は朱柚からで不発弾の撤去が無事に終始了したので家に戻れるという事。よくよく考えればこの不発弾がなければこの事件に深く関わる事もなかったのかもしれない。


 次は友人の鎖音原からだ。


 明日の授業が終わった後、カラオケにでもいかないかというお誘い。特に予定もないからオーケーと後で返事をしようということで次のメールを見る。


「さてと・・」


 送り主に目を通した途端、相馬は起き上がって部屋を飛び出した。












「ナイトさんは出て行っちゃいましたか?」


「そのようですね。お嬢様いいのですか」


「今回・・だけですよ」


 服を着て慌てて出て行く相馬の姿を見ながらエイレーネ・D・草薙とメイドの二人は縁側にでておいしくお茶を飲みながら和菓子を食べている。


 燈火月下という和菓子屋で数量限定の水羊羹を味わっていた。ここの水羊羹、かなりの人気があって開店前に並んだとしても買えるかどうかわからないほど。


「あのお方は本気かもしれません」


「・・・・そうだとしてもこの国から出る前には会う権利くらいありますよ。私はいつでも彼と会えるんですから・・・甘いかな?」


「徹底的に戦う主義ではありませんからお嬢様は、でもそれが貴方らしくていいと思います」


 メイドは見抜いている。相馬ナイトには追いかけずにここにいて自分の傍にいてほしいと主は思っている。けれどそれを言わないのは自分のエゴを彼に押し付けるのが嫌だから。


 数奇なめぐり合わせで彼と知り合って救われて自分の主は彼と傍にいられることが嬉しくて今はそれだけでいいと考えている。


 甘く、心の広いお方だと思う。だからこそあっちこっちふらふらしている相馬ナイトが許せない。


 戻ってきたら覚悟していろよとメイドは密かに帰宅したときの事を考えていた。


「お邪魔するぜい」


「あら、安倍さん。今日は?」


「ここに相馬ナイトの野郎がいるってきいたから事後報告くらいはしてやろうって思ったんですけど、エレネさん。あの野郎はいますか」


「入れ違いになってしまいましたね。さっき出て行っちゃいました」


「ンだよ・・ったく」


「戻ってくると思うので伝えておきましょうか?」


「え、あぁ・・じゃあお願いします」


「水羊羹ありますけれど、安部さんも食べますか?」


「いいんですか!?」


 安倍は目を見開いて彼女の隣に座ろうとして動きを止めると二つくらい距離をあけて座る。


「うふふ、どうぞ」


 エイレーネが差し出した水羊羹の載っている皿を差し出す。


 安倍は顔を赤くしながらどうもと一礼して受け取ると食べる。


「なかなか、おいしいっすね。早速なんですけど今回の事件について」


 水羊羹を味わいながら安倍は相馬ナイトが気を失った後の事を話す。


 芳養麻が応援を呼んだことで駆けつけた警官隊によって爆散魔の魔術師とその弟子の二人は拘束された。相馬が守ったユーリン・ノーランとリナイアス安全な所に避難された後に、信頼できる医者を呼んだ。


「それで魔術師の方は?」


「学会からの要請で身柄を聖祈騎士団の連中に引き渡す事になったらしいです。どうやら学会の方に圧力かけて渡すように命令してきたそうだ」


「・・そうですか」


「あいつらは日の出をみることはねぇだろうな」


 三人は遠い目をして空を見る。













 余談だが、彼らの知らない小さな事実がある、後に苦しい尋問で爆散魔の魔術師がユーリン・ノーランの秘密を吐き出したらしいのだが、密かな検査の結果、彼女にそんな術式の痕跡などみつからないことから妄言だとして処理をした。











 ユーリン・ノーランは普通の人間であると認定されたのである。










 相馬ナイトはひーひーいいながら指定された場所に辿り着いた。


「大丈夫?」


 ひーひーいっている相馬に彼女は戸惑いながら尋ねる。


「だ、大丈夫。少し休めりゃ問題ないひゃら」


「そう・・ごめんね。あんなメール送っちゃって。今日しか時間なかったから」


「いや、俺もちゃんとユーさんと話しておきたかったから問題ないよ」


 ありがとう、といってユーリン・ノーランは小さく笑う。


 少し歩こうという話になって二人は商店街の中を進んでいく。


「リナイアスさんは?」


「しばらく事情聴取を受けていたんだけど、昨日・・・私に泣きながら謝罪してきたんだ・・・・・友達失格だよね、彼女の抱えていた悩みに気づけなかったんだから」


 俯いているユーリン、様子からして本当に彼女の気持ちを察せなかったことに許せないみたいだ。


「だったらこれからもっと仲良くなっていけばいいじゃないですか」


「え?」


「お互いに知らないところがあるなんていうのは当然ですよ。全ての気持ちを吐き出せるほど人間は器用な生き物じゃないんですから、これからゆっくりと今よりも距離を詰めればいいんすよ」


「そんなものなのかな?」


「友達なんて一回喧嘩したほうがいいものなんです。どんな形であれ、もめた後に見えてくるものがあるんです」


 そういいながら話す相馬の表情はどこか影があるようにみえた。


 だから。


「・・・後でもう一度、話し合ってみるね」


「そのほうがいいよ」


「ナイト君は・・・・どうして私を助けてくれたの?」














「自己満足に浸りたかったから・・・・かな」

















「え?」


 相馬は青空に向かって手を伸ばす。


 どこまでも続いているような青空に吸い込まれそうな小さな手を伸ばした。つられるようにしてユーリンも空を見る。


 空は澄み切っていた。


「俺には何かを変えられる力がある、欲しくて手に入れたものじゃないんだけど、これがあれば目の前で泣いている人を助けられる事ができる・・・・というのが建前で、本音は俺が後悔したくないからなんだ、ただ、傍にいるだけで傷つけて遠くにいってしまった人とユーさんを勝手に重ねていたんだ」



 誰かを助けたいというのは建前、



 相馬が彼女を助けたのは昔、出来なかった事をやり遂げたかったという自己満足に過ぎない。どれだけきれいごとで塗り固めたとしても、真実は変わらない。



「・・・そう」


「だから、ユーさんが思っているようないい奴じゃないんだよ。俺――っ!」


 彼女が小さく呟いたのに顔を向けようとしたところで後ろから抱きしめられる。どくんどくんと後ろから自分の鼓動とは別の鼓動が響いてくる。


「弁護士の人に確認したんだけどね。私に与えられるおじちゃんからの遺産は愛しい人がみつけたら渡されるんだって」


「い、愛しい人? ざ、財産?」


 突然の事に頭が混乱していて彼女の言葉を理解できない。


 なにをいっているのかわからい。


 まだ五月だというのに夏みたいに体が暑い。熱でもでてきたのか?と考えていると耳元でユーリンが爆弾発言を下した。


「相馬ナイト君。もし十年後に貴方がつきあっている相手がいなかったら私と結婚を前提に付き合ってくれますか?」


「―――――ッ、そ、それって」


 告白!?


 相馬の頭はさらに混乱し始める。


 どうしてこうなる!?


 自分はさっき彼女に卑下されるようなことを言っていたというのに、なにをどうなればこんな「結婚してください、テヘ☆」みたいな個別ルート突入しているんだろう。


「いや、いや、俺はユーさんが思っているようないい人じゃないんだけどっていおうとしたら、なんでこんな展開に!?」


「ナイト君は自分を卑下しているけれど、それなら私も自分の殻に閉じこもってばかりのどうしょうもない女になるよ」


「いや、ユーさんは」


「同じだよ。ナイト君も自分を卑下しているけれど他の人からみたら違う。私はこれから殻に閉じこもる事をやめていく」


 顔が見えないからはっきりと断言する事はできないけれど、声からしてユーリンはどこか生き生きした顔を浮かべているのかもしれない。けれど、これはどういう状況だろう。


 無言で考えている相馬に何かを感じ取ったのかユーリンの声のトーンが少し下がる。


「十年経ったら私、三十歳過ぎているからやっぱり・・ダメかな?」


「いや、ダメじゃない!」


 って何を言っているんだーと頭を抱えそうになる。


 突然の告白に自分の思考回路はまともな答えをだしてくれなくなっているみたいだ。


「でも、俺なんかでいいんですか・・だってユーさんなら色んな人と」


「私はナイト君がいいんだ」


 そういって彼女はさらに距離を詰めてくる。


 お熱い事で、ヒューヒュー!などの野次がとんできたがそんなものを聞いている余裕はなかった。


 誰かに好かれているのがとてもはがゆい感じがする。愛されるってよくわからないぃ!


「ユーさんは今日の夜には帰るんだよね」


「うん、リナはまだこの国で事情聴取があるから少し遅くなるんだ」


「大変ですね。世界をあっちこっち移動するってのは」


「そうでもないんだ・・・・ナイト君。私決めたんだ」


「決めたってなにを?」


「私、音楽を子ども達に教えていこうと思うの」


「教える・・? 教師になるってこと」


「そんなところだよ。歌うのが大好きな子達がもっと頑張れるように背中をそっと押してあげたいって。歌手活動はまだ続けるよ・・・あ、そういえば」


 ユーリンは急に離れるととっとっと数歩、進んで止まる。


「ユーさん?」


「そういえば昨日のコンサート眠ってて聴けなかったんだよね。ここで私の歌を聴かせてあげる」


 くるりとその場で回るようにして彼女は微笑む。


「・・・いや、今度でいいよ」


 彼女からの提案を相馬はやんわりと断る。


「え、でも」


 断られた事で彼女は不安そうな表情になったけれど、次の言葉で満面の笑顔を浮かべた。


「今度、また会う時の楽しみにとっておきたいんだけど。いいかな」


「・・・いいよ!」





 相馬の言葉にユーリンはきょとんとした後、はにかんだような笑みを浮かべて頷いた。






 この笑顔が見られてよかった、守ってよかったと相馬はそう感じた。


明日くらいに座談会ならぬあとがきみたいなの、投稿しようかと思っています。


その時に、次の話の予告もしますので!

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