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GAME -JIN-  作者: 転寝猫
9/9

Epilogue

カーテンを開けると、真っ青な空が広がっていた。

思わず…憂鬱なため息をつく。

今日はせっかくの日曜だというのに…

何で、わざわざ学校に行かなきゃならないんだろう。

しかも…それが模擬試験なんだから、尚更だ。

高校生になっても、学校の成績は相変わらずの低空飛行で。

最高学府に現役合格した不知火先輩が、どんだけすごかったのか…改めて実感する。

朝食のパンをかじっている俺に、母さんがねえねえ、と声を掛けてくる。

「仁知ってた?あの子、彼女いるらしいわよ!」

あの子…って。

母さんが指さしたTVに写っていたのは………

「ああ…知ってるよ」

「そうなの!?なーんか、ちょっとショックよねぇ」

アイドルに彼女がいることくらいで、何がショックだ…と、思いながら。

少しだけいたずらっぽい気持ちになって、母さんの会話に付き合ってやることにした。

「でも、それ…そいつが言いだしたの、年末くらいじゃなかったっけ?」

良く知ってるわねぇ、と感心したようにつぶやいて、母さんは尚も言う。

「でもね!なんか最近、更にカッコよくなったと思わない!?やっぱり男の子も、恋すると綺麗になるのかしらねぇ」

………何だそりゃ。

「一般の人なんでしょ?一体どんな人なのかしらねぇ。やっぱりすっごい美人なのかしら」

最近綺麗になった………か。

前に野球部の先輩が言ってたこと。

『眼鏡外したらすごい美人だったりして』…てやつ、大当たりだったもんな。

「綺麗な人だよ。それに…優しくて」

思わずそう答えて…

目を丸くした母さんと…目が合う。

「あんた…KEIくんの彼女知ってるの?」

「あ………いや、まさか………そんな気がしただけだよっ」

慌てて椅子から立ち上がり、肩掛けカバンを手にして。

いってきまーす、と叫んで、俺は玄関へ向かった。


自転車を飛ばしていたら…

なぜか、あの神社にたどり着いていた。

「…あれ?」

何でこんなとこ…来ちゃったんだろう。

ウンディーネと別れて以来、不知火先輩の合格祈願に不知火と訪れたことを除いては、一度も足を運んだことがなかったというのに。

一人で来るのは………やっぱりちょっと、辛い。

どこかから、彼女の明るい笑い声が聞こえてきそうな気がして。

この神社は…俺にとって、更にかけがえのない場所になっていた。

姉ちゃんとの思い出。

それに…ウンディーネとも。

あの日の精霊達の戦闘現場は、ニュースによると『不発弾の爆発事故』だったのだそうだ。

そして………

あの高層ビルの屋上から、姿を消した筈の…土橋。

俺達が訪ねていった、あの研究室で…拳銃自殺を図り、死亡したという。

俺は、野球部の練習があって行けなかったけど…

『あんな寂しいお葬式、初めてだったわ』

と…不知火は眉間に皺を寄せながら、つぶやいた。

あの日、あいつがわめいた言葉の一つ一つが…改めて思い返され。

ゲームに翻弄された…あいつの分まで。

精一杯生きようと…誓った。


春に正式入部した野球部で、俺は監督に宣言した。

『俺、ピッチャーやります!』

最初は呆れていた先輩達も、コントロールの不安を克服し、練習の成果も徐々に現れ始めた俺を…段々認めてくれるようになってきた。

こないだの練習試合では、先発を任せてくれて。

調子が良かったので、最後まで投げきることも出来て。

結果は、完封勝利。

応援に来た不知火は、あの日と同じ、大きなガッツポーズで喜んでくれた。

それもこれも………

ウンディーネのおかげだ。

ポケットから携帯を取り出す。そして…カメラのソフトを起動する。

ウンディーネと出会った…あの日みたいに。

今日も…何か映るのだろうか。


と………

「サラマンドラ!?」

思わず叫んだ俺をぎょっとした顔で見て、彼は…ゆっくりと姿を現した。

「よお、仁!よく俺が分かったなぁ」

せっかくおどかそうと思って、隠れてたのに…と笑う。

けど………

「お前…何でこんな所に!?」

あの日から、もう半年近くたっているのだ。

きっと、どこか遠い異国の地にいるとばかり…思ってたのに。

俺の動揺ぶりに気を良くした様子で、彼は胸を張って言う。

「実は…お前に話さなきゃなんねぇことがあってよ」

「………俺に?」

不知火じゃなくて…俺か?

「実はさ…」

勿体ぶった様子のサラマンドラに、ちょっとイライラしながら続きを促す。

と………

「ウンディーネから…伝言預かったんだ」

「………ウンディーネから!?」

…どういう意味だろう。

彼女は今、別の世界にいて…話なんて出来無い筈なのに。

それがさぁ、と、サラマンドラは自慢げに腕を組む。

「なんつーか、魔力の関係なのか、何なのか知らねーけど…時々あっちの世界の様子とか?聞こえてくることがあるんだよな。前にも何回かあったんだけどよ、今回はかなりはっきり聞こえてきて…」

「それって………」

何か…よく分からないけど。

まあ…そんなことはいい。

「で…何だ!?」

「ああ、そんなにせっつくなって!そんなに長い時間は話せなかったんだけどさ」

『私は元気です。いつの日か、あなたに会える日を楽しみにしています』

そう伝えて欲しいと…彼女は言ったのだそうだ。

「なんかよ…せっかくだったら、もっとかわいらしい事言えばいいのにな、あいつはほんとに真面目っつうか、堅いっつーか」

「いや…ありがとう」

…ウンディーネらしい。

伝えたいことが沢山ありすぎて、言い始めたらキリがないから。

結局…そういう他人行儀な伝言しか、残せなかったんだろう。笑顔になった俺を、不思議そうに見る…サラマンドラ。

「そうそう、シルフィードが『私は幸せです』って、睦月と文ちゃんに伝えてくれってさ」

「………何だ、それ?」

いや、と怪訝そうな顔で首を捻る。

「あいつらに言えば分かるって。だから伝えてやってくんないかな」

「そんなの…直接会って言えばいいだろ?…っていうかお前、不知火には会ったのか?」

「………あ」

気まずそうな顔で、頭をかく。

「あいつは………いいんだ。俺…もう行かなきゃなんねーからよ」

「もう…って、何だよ?」

どうせ…用事なんかないくせに。

「よろしく言っといてくれ。じゃあ、また…」

「ちょっと…待てよ!」

『あいつのことは、もういいんだ』

強がって笑う、不知火の寂しそうな瞳を思い出す。

『いつ会えるかも分かんないのに、そんな毎日毎日思い出しててもしょうがないもん』

俺は、すたすた歩いて行く、サラマンドラの背中に向かって叫ぶ。

「あいつ、お前にすっごく会いたがってるんだぞ!?それなのに」

こんなに近くにいて、顔も見ないで行ってしまうなんて…

あまりにも、素っ気ないんじゃないだろうか。

すると………

振り返った彼の目は…困惑の色に満ちていた。

「すずに会ったら…俺、どうしていいかわかんねえし」

「…どうしていいか…って」

「別れんの…辛くなるの………やだし」

…はっとした。

「だから………」これ以上言わせるのは…何だか酷な気がして。

「分かった…もう言わない。不知火にはよろしくって伝えとくよ」

そう告げると、彼はほっとした様子で…笑った。

「ありがと!けど………俺がこんな事言ってたなんて、すずには言うなよ!」

肩ごしに手を振りながら、サラマンドラは…

竹林の中に…姿を消した。


「先輩!お久しぶりです」

『仁くん、お久しぶり…でも、どうしたの?』

びっくりした様子の…先輩の声。

どうやら、車の中にいるらしい。

ということは…睦月も一緒なのかな。

サラマンドラの話をすると、声が急に大きくなる。『…サラマンドラに?』

「何でも、偶然…あっちの世界と繋がって、その…うまく説明出来ないんですけど」

シルフィードの伝言の話をすると…

彼女はほっとしたように、ありがとう…と言ってくれた。

サラマンドラと二人で首を捻った、あのメッセージ。

どうやら、本当に先輩には伝わったらしい。

なら…良かった。

今度二人で野球の試合、観に来てくださいね、と告げ、電話を切った。

ふと携帯の時計に目をやる。

「やべ…急がなきゃ」


猛スピードで自転車を走らせていると…

まだ半分寝ぼけているような、ふらふら歩く不知火の後ろ姿が見えた。

「不知火!」

彼女は振り返り…いつものように、不機嫌そうな顔で悪態をつく。

「何?あんた…遅刻?」

「馬ー鹿、俺が遅刻ならお前も遅刻だ!それより…」

サラマンドラに会った、と言うと…彼女は目を丸くした。

だが、彼とのやりとりの一部始終を聞かせ、一息ついた俺の肩を…

不知火は思いっきり掴んで…怒鳴る。

「あんた…何であいつ、ここに連れて来なかったのよ!?」

彼女のもっともな苦情に、気まずい思いで口ごもる。

「いや…それが」

「ったくもぉ…あんたもあんただけど、サラマンドラもサラマンドラよ!ねぇ、あいつ…今どこにいるの!?神社に行ったら私も会える!?」

目を輝かせる彼女に…話すのはちょっと、勇気が要った。

「ごめん、多分………もうあいつ、どっか行っちゃったと思う」

「……………えええ?何でよぉもう、あの馬鹿」

寂しそうな顔で、憤慨した声を上げる不知火に…

つい…口を滑らせてしまう。

「お前に会うと………別れんの辛くなるからって言ってた」

と………

彼女はぽかんとした顔で…俺を見る。

「『俺がこんなこと言ったなんて、すずには言うな』って…言われたんだけど」

すると…不知火は。

大きく深呼吸して、にっこり笑って頷いた。

「分かった!私も聞かなかったことにしてあげるっ」

俺とウンディーネと一緒で。

こいつとサラマンドラは…パートナーだったのだから。

きっと…あいつの気持ちが伝わったのだろうと思う。

そして………

腕時計に目を遣り、素っ頓狂な声を上げる不知火。

「あ、やっばーい遅刻しちゃう!!!ちょっと水月!後ろ乗っけて!!!」

「あ!?何だよお前…重い」

「うっさい黙れ!!!」

さっきまでの、聞き分けのいい様子はどこへやら。

相変わらず…忙しい奴だ。

風を切って走り始めた自転車の後ろで。

ふいに不知火が…あっ、と声をあげた。

「…どうした?不知火」

一瞬…間があり。

「…んーん、何でもない」

彼女は楽しそうに…答える。

相変わらず…変な奴。

こんな所、クラスの奴らに見られたら…冷やかされて大騒ぎだろう。

そんなの…不本意この上ない。

自転車の後ろに乗せるんだったら…やっぱり。

『いつの日か、あなたに会える日を楽しみにしています』

彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ。

そうだな。

いつの日か………

「ねえ水月!?」

「…何だよ?」

不知火の明るい声が、五月の青空に…響き渡った。

「水月………春だねっ」

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