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その五(影と王子のお茶会)

今回は長めです。小説の紹介文を変更しました。




「お茶会、ですか」

「ええ、リュウに挨拶したいとおっしゃっていたでしょう?それを兼ねてと思いまして。いかがでしょう」

 

 ヴィル王子が訪ねてきたのは、お昼時を過ぎて丁度小腹がすいた頃であった。

 お茶の時間とはよく考えられている、とフィアナは思う。


「お茶会と言いましても作法を気にしなくていいほどの小さいものですが」

 きちんと前回の言葉に責任を持ってか、そこまで配慮してくれたらしい。

「勿論ですわ」

「では侍女の方もご一緒に」

 


 そういって王子はフィアナの手を取った。その余りの自然な流れに、一瞬ぱちぱちと目を瞬かせる。エスコートが当り前になっている王子はともかく、フィアナの経験はそんなに豊富ではないのだ。

 本来姫である筈のシャアラは、今日も侍女服を着ていた。そのシャアラがぴくりと眉を動かしたのが見え、やはり姫としてのプライドが揺らされるのだろうかとフィアナは肩身が狭かった。しかしシャアラがそんな様子を見せたのは一瞬で、彼女は直ぐに侍女の仮面を被る。

 


「姫様、何を持って行きましょうか?」

「結構ですよ。もう揃えてありますから」

 


 そのシャアラ言葉に反応したのは姫と呼ばれたフィアナではなく、ヴィル王子の方である。そのにこにことした顔をちらりと見てからフィアナは苦笑する。

 


「結構だそうよ。貴女もそのまま来て頂戴」

「かしこまりました」

 


 そう言って姫の衣装を身に纏ったフィアナとヴィルが二人で手を取って、その後ろをシャアラが歩くという構図で歩いていく。本来なら妙な構図であるが、それを理解しているのはこの場の二人だけだ。

 フィアナは歩きながら廊下を見回した。

 やはりこの屋敷はフィアナの祖国と随分違う。廊下は開放的だし、絨毯がひいてあるため足音が響かないのもフィアナにとっては慣れないことだった。

 それはシャアラの方も同じようで、姫としての体裁を繕わなくていい分キラキラした目で屋敷中を見回していた。勢い余って絨毯を破ってしまったりしないかとフィアナからしてみれば心配である。

 そんな二人を尻目に、愛想はいい癖に世間話の一つも持ちかけようとしない王子に焦れて、フィアナの方から口を開いた。

 


「どちらでお茶会をなさるのです?」

「ここには無数の小さな庭があるのですが、そのうちの私の気に入りの一つで催そうかと。既にリュウも来ている筈です」

 


 その場所に着く間、王子はこの屋敷の事を説明してくれた。

 図書室は昼を過ぎてからお茶の時間までは解放されているから自由に行っていいこと。中庭も近くならば出ていいが、それより遠くに行く時は必ず騎士を呼ぶこと。

 ここは離宮に近いものらしいが、本邸とは繋がっているらしい。西の渡り廊下を渡れば本邸にいけるが、決していかないようにと言われた。

 その後も細々と言いつけを言われ、軽く軟禁じゃないかと心の中で嘆息した。

 フィアナ達は隣国の王女で、王子の婚約者候補。自由は期待していなかったがそれでも面白くはなかった。

 そうこうしている間に開いた窓―――というには大きすぎる場所が見えてきた。そこから庭に繋がっているらしく、カーテンがひらひらと風に揺られるのに混じって幾らかの花びらが迷い込んでいる。

 小さな庭、というには若干広い庭に彼はいた。

 姫に聞いた通り真っ黒い髪の毛は肩をすぎるほどで、銀縁の眼鏡の奥は青の瞳だ。肌はヴィルと同じくらい焼けているが、面白いくらい表情がなかった。

 四六時中にこにこしているヴィル王子の後でリュウを見ると、彼の顔が整っているせいもあって人形のようである。伏し目がちの目を彼は完全に伏せて、フィアナに対して目礼した。

 



「初めまして」

「・・・どうも」

「こら、リュウ。申し訳ありません。人前で喋ることが苦手らしいのです。趣味も殆ど籠ってやるような事ばかりで根暗な奴なんです」

 



 はははと笑いながらヴィル王子はにこやかに言ってのけたが、根暗という言葉にリュウが過剰反応を示して、ヴィル王子をぎろりと睨みつけていた。主従関係を疑う光景である。

 リュウはそれでも視線を合わせて喋ろうとしてくれたようだ。

 


「この度は・・・遠いところからよくいらしてくださいました。私に・・・挨拶などわざわざ・・・」

「いいんですよ。無理を言ってすみませんでした」

 


 フィアナは横でむっつりとしているシャアラに気付いていたが、敢えて気付かないふりで通した。

 そのシャアラに気付いたのだろう。リュウが身体ごとシャアラに向き直った。

 


「なんだ・・・お前も来たのか」

「はい。ご同伴に与りました」

 


 シャアラの言葉を聞いた途端、リュウが眉間にしわを寄せる。それを見たシャアラはそれでもにっこりと笑いかけた。

 


「何でしょうか」

「・・・気持ち悪い喋り方だ」

「!そのような」

「・・・気持ち悪すぎる、やめろ、似合わん」

 


 二度目の「気持ち悪い」発言にシャアラがぴたりと固まり、ぷるぷると震えだした。フィアナが慌てて仲裁に入ろうとしたが、その前にリュウが最後の爆弾を放った。

 


「お前に淑女の真似ごとなど・・・無理だ」

 


 しかも微妙に鼻で笑った。

 ぷちん、という音がフィアナにも聞こえてきた気がして、まずいと思った時にはもう遅かった。

 


「うるさいなぁっ!!」

 


 大声を放ち顔を真っ赤にしてフィアナは地団駄を踏んだ。幾ら姫の振りをしていないからと言って明らかにやりすぎである。

 


「いい加減になさい!」

「うっ!・・・すみません」

 


 フィアナから怒られたシャアラはしょぼんと暮れたが、怒られた威力はいか程か。

 またじろりとリュウを睨んでいる。しょっちゅうこんなことをやっているのかとフィアナは呆れた溜息をもらす。それを見ていたヴィルはくすくすと笑っていた。

 


「随分と元気な侍女さんですね」

「あら、恥ずかしいわ。ちょっとお転婆が過ぎますの。どうか不躾をお許しください」

「いえ、今のはうちのリュウがどう考えても悪いですから。こちらこそ申し訳ない」

 


 笑いあう主二人に、付き人二人は居心地悪そうに視線を彷徨わせた。

 


「この子ったら口より先に手が出てしまう性分なので困っていますの」

「それを言えばうちのも口ばかりが達者で」

 


 フィアナとしてはシャアラに対する意向返しも兼ねている。王子も王子で思うところがあるのかいい笑顔だった。

 


「彼女とは長いんですか?」

 


 座った王子が紅茶のカップをつまんで言う。こてんと首を傾けるのは癖なのだろうか。それにフィアナは相貌を崩しながら頷く。

 


「私が小さい時から彼女とは共にいましたの。髪色と眼の色がよく似ていましたから打ち解けやすかったのかもしれませんわ」

 


 二人が一緒にいたのは事実であるが、フィアナの場合は最初から影武者を望まれてのことだった。打ち解けやすかった、という理由も強ち嘘ではない。

「そうなんですか」と頷く王子に「ヴィル王子もリュウ殿とは長いのですか?」と逆に尋ねた。全くないリュウの情報を得るいいチャンスである。

 


「姫たちと比べれば短いですよ。彼と仕事をし始めたのは六、七年前ですから」

「あら、そうなんですか」

 


 仕事、と言ってのけるところが意外であった。公私は混同しないタイプなのだろうか。

 


「ところでこの国はどうですか」

 


 あっさりと話の流れを変えられてしまい、フィアナは拍子抜けした。探られたくない腹でもあったのか、それとも単純に感想を聞きたかったのかは推し量りかねた。

 


「いいところだと思っています。花もこんなにたくさん咲いているところを見たのは私は初めてです。美しい国ですわね」

「ありがとうございます。花が多いのはこの国の美点ですから。特にこの屋敷の庭は自慢なのですよ」

「私も最初この庭を見たときに感動いたしましたわ。・・・庭といえば、で申し訳ないのですが。厩舎はどちらにあります?」

「厩舎、ですか」

 


 突然どうしたのか、というようにヴィル王子は目を瞬かせた。シャアラにゴリ押しされてフィアナはこの話題を今日王子に言わなければならなかった。

 今もシャアラがじとじととした視線を送ってきていたため、仕方なく口に出した。

 


「こちらにご厄介になっている栗毛の牝馬がいると思うのですが、実はこの子の馬なのです」

「その馬のことなら覚えています。随分立派でしたから。ですが・・・侍女の馬なのですか?」

 


 眉を顰めた王子は初めて見たかもしれない。困惑しているのだろう、王女の姿をしたフィアナと侍女の姿をしたシャアラとを交互に見た。

 


「ええ。実はこの子運動が得意でして。褒美として馬を与えましたの」

 


 さも当然のことのように言ってのけたが、勿論侍女への褒美に馬など普通はあり得ない。が、ここはそれで通しておかないと後々アパネの扱いに困るだろう。

 アパネはシャアラに当り前だが懐いている。ここで下手にフィアナの馬であることにしても、フィアナは馬に乗れないのだ。

 


「そう・・・なのですか。厩舎はこの屋敷の東よりの庭にあります。侍女殿、ならば馬を走らせたいのでは?」


 

 まだ納得しきれていないようだが、王子は頷きシャアラに声をかけた。シャアラはフィアナに目線で許可を取ってから口を開いた。その瞳はキラキラと輝いている。

 


「はい、勿論です。けれど無理だということは分かっていますから・・・」

「ああ、大丈夫ですよ。明後日遠乗りに姫を誘おうと思っていましてね。宜しければ侍女殿もその馬に乗って来られてはいかがですか」

「まぁ!本当ですか!!」

「王子。申し訳ないのですけれど、私は馬に乗れませんわ」

 


 折角のチャンスをふいにする気かとシャアラから鋭い視線が飛んだが、ここだけは引けない。

 ―――フィアナはシャアラにせがまれて乗馬をしたことがあるが、余りの不安定さと不安に二度と乗らないと誓ったのだ。姫は調子に乗って馬を飛ばすし、フィアナの言うことなど聞いてはくれなかった。苦い思い出である。

 


「大丈夫ですよ。私はこう見えて乗馬は得意なのです」

「しかし・・・」

 


 いい笑顔で制されてしまっては、フィアナは上手く口が開けなかった。

 


「リュウ、お前もついてきてもらうから、侍女殿の馬に乗せてもらいなさい」

「は」

「え」


 

 成程面白いことを言いだしたとフィアナは王子を見つめた。その笑っている瞳の奥に何を思っているのか。単純に楽しそうでもあるが。

 


「侍女殿は二人は乗せられませんか」

「いいえ、ですがリュウ・・・殿が前に乗られますと身長差がありますから前が見えませんわ」

「リュウが横乗りをすればいいのではないですか」

「・・・・・」

「・・・・・」

 


 リュウとシャアラが二人とも固まっている。フィアナはその様子を想像して危うく吹き出しかけた。

 


「冗談です」

「・・・お戯れを」

 


 リュウがなんとか絞り出した声は掠れていた。







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