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その最後(影姫の恋愛簿)

最終話です。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

 



 目の前にあるのは、豪勢な馬車だった。



 その馬車から降りて、笑顔で城の執事と会話している男性に嫌というほどフィアナは覚えがあった。

 その男性は、フィアナとシャアラが出てきたのをみとめると、執事との会話を切り上げて二人に向かって―――正確にはフィアナに向かって手を挙げた。



「フィアナ!会いに来たよ」



 そういって朗らかに笑うのは、月白の髪と白磁の肌の美男子――――ラジェだった。


 そう、一年ぶりに見る彼だ。


 白地に金と青の刺繍が輝く正装で現れた彼は、シャアラとフィアナの生まれ育った城の庭に立ち、腕を広げた。

 その顔は一年経って更に磨かれた仕草と風貌でフィアナに微笑んでいた。

 長かった前髪はすっきりと切られ耳に向かって流されている。

 髪に隠されなくなった繊細な美貌と深海の瞳が露わになり、確かな喜びを持ってフィアナをその瞳に収めている。


 その姿にすでにメイドがざわめきたって、窓から必死でその姿をみようとしている程だ。

 がたがたと壊れやしないかと思うほど鳴る窓に、一瞬心配になったが、それどころではないのはフィアナの方だ。


 まさに貴公子然とした彼に向って、フィアナは叫んだ。



「なんでここにいるの?!」

「なんでって・・・」



 彼は腕に飛び込んでこないフィアナに不服そうに頬を膨らませた。



「約束通り、片田舎の領地を手に入れて、生きていくのに十分なお金を貰ったから迎えに来たんだよ」



 迎えに来た?


 その言葉に呆然とし、いつまでたっても抱擁に応じてくれないフィアナに、心底残念そうにラジェは腕を引っ込めて肩を竦めた。


「っていうのは冗談で、明日開催される夜会に参加する為に逸早く挨拶に来たんだ。私は辺境伯、ラジェ・リンドウ・ヤマブキとして。そしてヴィルは王子としてね」


 一年前に一悶着起こしちゃってるからね、と空笑いをする彼の後ろの馬車から何やら呻き声を上げる物体が降りてきた。

 まさか、あれは。


「全く・・・あの程度で音を上げるなんてね」


 憤慨したようにラジェが言うが、あれは見間違えでなければ隣国の王子でなかろうか。

 王子然とした雰囲気は全くなく、仲良く地面と睨めっこしている。

 そのまま地面に吐瀉物を吐かなければいいのだが。


「今日から一か月だけこっちにいるから、よろしくね」


 にっこりと笑ったラジェに、色めきたった声が背後から上がったことにフィアナは気付かない振りをした。


 そのあとはあれよあれよと彼らは客人だと城に上がり込み、しかし手早くシャアラのご両親に挨拶を済ませた。

 彼らは二人ともシャアラとフィアナと話したそうにしていたが、シャアラに命令された執事に押されるがまま、名残惜しそうに城を後にした。


 翌日には宣言通り夜会に馳せ参じるとのことだ。






 そして翌日、フィアナはなぜか鏡の前でドレスを着させられていた。

 シャアラとは別に。

 …影武者用にいつも用意されているドレスかと思ったが、違ったようだ。シャアラのドレスとは全然様相が違う。


 シャアラはその風貌を引き立てる可愛らしいドレスだった。

 ふんわりとしたフォルムと、背中に大きく誂えられた透明とも思えるような透ける素材でできたリボンは羽のよう。

 春を思わせるような黄色のグラデーションドレスは、彼女を春の妖精のように仕立て上げるだろう思い、フィアナは心を躍らせた。

 

 ―――――そう、自分もパーティにでるのだとは思わずに。


 対してフィアナのドレスはセクシーに腰元を彩るドレープと、ぐっと開いた背中のラインが色気をさらに醸し出す。

 胸元に袖にと白の繊細なレースがそこかしこに組み込まれた、濃い紺の大人びたドレスだった。


「なぜ…?」

「今回、陛下はフィアナ様にカルラ侯爵家の娘として出席せよとのことです。フィアナ様の想い人がいらっしゃるから是非にとシャアラ様が陛下に進言しておりました。一足早いですが、影武者としての任も終わりですわね」


 なんという娘に甘い親だろうか。

 しかもよく相談をされずに任が解かれてしまった。


 これでフィアナはただの侯爵家から王家へと奉仕する侍女になったわけだ。

 いくらその準備がちゃくちゃくと進み、この一年であとはシャアラの婚約を待つだけとなっていたとは言え、こうあっさりと解任されてしまうとこれまでの自分はなんだったのだろうと思う。

 いや、将来解任されることはわかっていたのだから覚悟はしていたつもりだったのだが、心はうまく反応してくれない。


 呆然とするフィアナになれたように手早く化粧が施されていく。


「…やっと、フィアナ様に合う化粧ができますわね」


 そう呟いた長年フィアナの顔をシャアラの顔にしてきた女性は、目を潤ませていた。

 その涙ぐんだ声音に、フィアナは現実に引き戻された。


 はっとして鏡を見れば、そこにいたのはシャアラ姫に扮した影武者フィアナではなかった。

 そこには少し鋭いが潤むような色合いを灯した瞳が、はっきりとした意思を持ってフィアナを見つめていた。

 

「…私、こんな顔していたのね。」


「ええ、ええ。フィアナ様は大人の女性の魅力あふれる、美しい女性ですわ。私、『フィアナ様』を飾りたてられる日を楽しみにしておりましたのよ」


 自分がぎこちなく頬を持ち上げれば、鏡の向こうから大人びたセクシーな女性も微笑んでくれる。

 その顔は、シャアラ・スウハ姫ではなく、フィアナ・カルラの顔だった。

 

 …そうだ、フィアナ・カルラとして生きることができる時がやってきたのだ。


 悲しむべきことではなく、喜ぶべきことなのだと、昔の自分ならば決して思えなかっただろう感動を覚えたフィアナはやっと、自分の人生の一歩を踏み出したのだという実感を得ようとしていた。


「ありがとう…」


 フィアナも涙ぐんだ声で、長年連れ添った彼女の声に答えたのだった。







 そして初めてフィアナ・カルラ侯爵令嬢として出たパーティ会場。


 フィアナの国のパーティは、色ガラスがふんだんに使われ普通では出せないような色合いを会場中に照らし出す幻想的な空間となっていた。

 今回は隣国の王子と辺境伯になる人物が参加するのは周知の事実で、いつもより人数も多ければ気合も入っている。

 早くもグループを作った女性たちがきゃっきゃっと噂話に話を咲かせているし、男たちはそんな女性たちを遠目から眺め、なんとか話しかけようと虎視眈々と狙う始末だ。

 煌めく男女にいつもと違う立場からか気後れしてしまい、なるべく紛れようとグラスを片手に壁の華になる。


 そのフィアナをちらりちらりと男性たちが気にしているが、フィアナは気づかない。

 彼らは美しすぎるフィアナにどう声をかけてよいか考えあぐねていたし、女性たちは初めて見る女性はどこの誰だろうと興味津々だった。

 

 最初の一歩を踏み出そうとした男は、何やら黒い影に口を押えられ、耳元でぼそぼそと呟かれれば、顔を青くして回れ右をして去って行った。そして影は俊敏な動作でまた消えていく。


 そんなことを知らないフィアナは、静かにため息を零した。


 ――――…誰にも話しかけられないわ。先程ボーイの方と話しただけ。何をしにきたのかしら。

 

 少しフィアナが落ち込みだした時に、会場の入り口が俄かにざわめきたった。

 そのざわめきはさざなみのように会場中に伝わり、彼らが到着したことをフィアナは否が応でも知ることとなった。



「…さっそく取り巻かれてるわね」



 人混みの隙間から伺えば、二人の周りはすでに人で溢れていた。

 ヴィルはさっそく顔を青くしているが、ラジェは慣れたように進んでいく。周りに溢れるご令嬢にヴィル王子は窒息死しそうだというのに、彼の影武者は助けようともせずに綽々と進んでいっている。


 なんと今日のラジェは月白の髪を隠してのご登場だった。


 その髪は黒になっていた。この国でも珍しくない色の横に金茶で褐色の肌を持つヴィル。

 どちらかといえば遠目でも目をひくのはヴィルであった。


 それが計算されてのことだとしらないフィアナは首を傾げただけだった。


 しかし勿論髪色がどうであろうと見目もよい美丈夫の彼。


 きょろきょろと辺りを見回すラジェに、周りの女性がやれ「自分を見た!」「いえ私よ!」と戦いを繰り広げだしている。しかしそう口論を繰り広げる彼女たちなどラジェは露とも気にせず、必死に会場を見回しているようだ。

 自惚れでなければ、ラジェはフィアナを探しているに違いない。

 こちらの国ではフィアナの薄紅色の髪がすぐに見つかることはないだろう。今日は化粧も変えて雰囲気を変えているし。


 姫が国王夫妻と兄殿下とでてくるまでまだ時間がある。

 どこかに逃げておこうとフィアナはボーイにグラスを渡すとそっと会場を後にした。


 その姿を追って何人かの男が会場を後にしようとしたが、その彼らの肩を人間業からかけ離れた動きで人波を縫って追いかけた男が、がっしりと肩を掴み真っ黒な笑顔で引き止めた。


 その笑顔は、男たちにトラウマを植え付けたとかなんとか。



 ヴィルはラジェがその場を切り抜けるために見事女性陣の盾として扱われた挙句、人混みの中に置いて行かれ、早くも壁の華になりたいと擦った揉んだしていたようだった。

 片や元々そういったことに長けていたラジェだ。そそくさとその場を離れることに成功した。


 しかし話題の人物が一人を残し颯爽といなくなってしまったことから、会場は一時騒然となったのは言うまでもない。









「はぁ…」


 会場から二つも上がった場所にあるバルコニーで、フィアナはため息をついていた。

 次々と登場するゲストに盛り上がる会場の参加者は、余程この城を熟知していない限りここまであがってこようとは思わないだろう。


 いつかのような美しい幻想的な夜だった。

 あの時のような咲き誇る花はなくとも、眼下の建物から漏れる光、そして頭上に輝く月は、あの夜を思い出すに相応しい。

 着飾った女性に囲まれたラジェを思い出して、フィアナは再びため息を吐いた。


 ―――――――何をやっているのかしら。私は…。


 姫の仮面を被っているときは上手くできたことが、フィアナになった途端上手くできないことに自分が一番驚いていた。

 それに、囲まれているラジェを見た途端、港町で感じたような苛々がお腹の奥底からせりあがってきて、その場にいられなくなったのもある。

 どんなに美しく化粧をしてドレスを着ても、姫の仮面を被らないフィアナはただの乙女だった。


「今は…会いたくないなぁ」

「誰に会いたくないって?」


 その覚えの声にびっくりして振り向けば、やはりというべきか彼がいた。

 息を切らしているから、慌てて追いかけてきたのだろうか。

 しかも、その髪は月白の髪に戻っている。どうやらさっきまでの黒髪は、かつらだったようだ。


「ラジェ…」

「探したよ」

「私なんか探さなくても、あなたは引く手あまただったようにお見受けしましたけど?」


 つっけんどんな物言いになって、はっとした。

 これでは拗ねた子供のようだと。

 弁解しようと全身を彼に向けた瞬間、フィアナは固まった。


 彼があまりに、慈愛に満ちた顔をしていたから。


「私はずっと、あなただけを追ってここまで来ましたよ」 


 フィアナに恋い焦がれて堪らないと訴える男の、熱くて、激しくて、そして優しい目線に、フィアナは囚われる。

 彼が近づいてきて、その身を月明かりの元に晒すほどに近づいても、まだフィアナはその柔らかな拘束に捕まったままだった。

 いっそ、更なる力を持って、フィアナはラジェから逃げられないことを感じていた。

 そんなフィアナの手を取って、ラジェは恭しく口づけると、バルコニーの先へとフィアナを導いた。


「会いたかった、フィアナ」


 掠れたようなやや低めの声に、フィアナの背筋がぞくりと震えた。


「やっと…ちゃんと呼んでくれたわね…」

「うん、すごく緊張したよ。でも…凄く嬉しいんだ。これからは君の本当の名を呼べる」


 茶目っ気たっぷりのラジェの口調に、フィアナとラジェはくすくす笑う。

 緊張があっという間に解れていく。この一年の間に二人はそれぞれに成長したけれど、気持ちは変わらず、そこにあったのだ。

 暫く笑い合って優しく手を取り合っていた二人だったが、やがてフィアナが口を開く。


「…ねぇ、ラジェ」


「なんだい?」


「私ね、したいことが見つかったの」


 静かに微笑むラジェが先を促す。

 フィアナは堪え切れないかのようにラジェの手からするりと抜けだして、バルコニーの手摺から身を乗り出すようにして夜空を見上げる。


「私、世界を見てみたいの。色んなところに行って、違う景色が見てみたい。旅がしたいの!」


 くるりと回るかのようにドレスをはためかせラジェを振り返ったフィアナは、夜空を背負って美しく輝いていた。



 美しかった。



 ラジェが今までみた何よりも、誰よりも。



 あの遠い遠い夜に、まだ幼くも強い仮面を被る彼女の美しさにラジェは惹かれた。


 しかし、今の彼女の方がずっとずっと美しかった。


 大人になった彼女は艶やかな薄紅色の髪をはためかせ、希望に満ちた目でラジェを見つめている。


 幸せだ、とラジェは思った。


 どうしようもなく幸せだった。


 求めていた彼女の笑顔を、自分に向けられる声を、全てが享受できる今に感謝した。



 期待に胸を躍らせ様々な地名を語る彼女に、ラジェは何度も何度も頷いた。


 言いたいことを言い切ったのか、笑みを残したままのフィアナは、はぁと息を零すと恥じらう様に頬を染めた。


 そしてぽつりと言った。



「…できたらあなたと一緒に」



 ラジェは目を見開いた。


 そして感動のあまり、目に薄く涙を溜めてフィアナに駆け寄り、その体を抱きしめた。



「ああ!フィアナ!」



 フィアナをぎゅうと抱きしめたその腕は、太くて逞しくて、これからの未来を共に支えてくれると信じれる力強い腕だった。


「共に新たな世界を見よう、共に生きよう」


 フィアナもやっと、ここまで来たのだ。彼の腕を素直に受け止められる日が来たのだと感じながら、ラジェの背にそっと腕を回した。



「フィアナ…愛している」


「はい…私も、貴方を愛しています」



 二人はどちらともなく見つめあうと、そっとお互いの唇を合わせた。


 お互いの体温や気持ちを分け合うかのような優しいキスだった。


 そっと唇を離したとき、恥じらうかのように顔を染めたフィアナの顔をラジェの手が捉えた。



「んんっ…?!」


 その瞬間、先程よりも深く深く口づけをされていた。


 あまりに長い間求められるものだから、苦しいと顔を逸らそうとしたが、頬を優しく包み込んだラジェの手がそれを許さない力で押しとどめ、逆の腕が更に体を密着させようと抱きしめてくる。

 いい加減にしろと叫ぼうとした口に、するりと柔らかいものが入り込んでくる。

 それは驚き固まるフィアナの舌を優しく撫で解し、ゆっくりと絡んでくる。

 頭がぼうっとしてきたフィアナの耳に、満足したかのようなリップ音が聞こえて恥ずかしさのあまり消えてしまいたくなる。


「…好きだ」


 脳髄を溶かすような彼の囁きに、フィアナはその身を任せ、同じように気持ちをのせて愛の言葉を囁いたのだった。







 ******







 最近巷で流行っているという小説を読み終えた少女は、ふうと息を吐いてその本を閉じた。


 この一週間、空いた時間を使って読み進めていた本が、今終わった。

 少女はその薄紅色の髪をまとめていたバレッタを外して、コバルトブルーのようだといわれる瞳を細めながら、その小説のカバーを指で辿った。

 内容を思い返しながらのその作業の横で、空気のようだった執事がこぽこぽと音を立ててカップに何かを注いでいく。


 ことりと自身の座るカウチのサイドテーブルに置かれたカップからは、ミルクの香りがする。

 寝る前にミルクなど、子ども扱いも甚だしいと思いながら、黒い執事服を着た童顔の青年に、少女は話しかける。


「ねぇ、この本って本当なのかしら…」


 ミルクを啜りながら唐突に話しかけた少女に、柔和な笑みを浮かべた執事が答える。


「さぁ、どうでしょうね」


「影武者同士の恋愛なんて、うまくいかないわよね。小説の中だけよ」


「わかりませんよ。影である前に、一人の人間なのですから」


「でもね、お互い秘密を隠しあって―――」


 言い募ろうとした少女の口元に、そっと青年の人差し指が立てられた。


「はいはい。現実的なのは結構ですから。さぁアーシェ姫様、そろそろお休みの時間です」


 蕩けるような甘い声で言われた姫という言葉に、アーシェと呼ばれた少女は顔を赤くして叫んだ。


「もう、何度も言っているでしょう!姫様なんていうのやめて。私は姫じゃないわ」


 このアーシェという少女は母親にそっくりの話し方をする。逆に彼女の弟のライナは、見た目も仕草も父親にそっくりだった。

 ただ、母の芯の強さを二人とも受け継いで、親密にしている隣国の王族のお二人はこの二人に頭が上がらない様子だった。その様子を思い出して肩を竦めた彼は、彼女が半分残したミルクを片付けながら、それでも優しく微笑んだ。


「僕にとっての姫ですから。さぁ、明日の為にもお早く。明日はアララギ王子殿下に会いに行く日ですよ」

「わかってるわ」

「王子殿下の十七歳の誕生日なんですから。侍女たちが息をまいておりましたよ。さぁお早く。」


 急かす執事に何やら拗ねたように頬を膨らませた少女だったが、本を傍の机に置くと大人しく寝室へと入っていった。


 それを確かめて黒い執事服を着た男―――ルチエは机の上に置かれたその本を手に取った。


 ぺらりとめくった本の文字を目で追う。


 お伽噺と少女は思ったかもしれないが、これはれっきとした真実だ。

 確かにこの本の中では少女向きに脚色もされて、今よりもずっとずっと昔の話のように扱われているけれど、ルチエの頭の中には真実の物語が収まっている。


 だからこそすこしこの物語の続きを話しておいた方がいいかもしれない。


 あれから、シャアラ姫と呼ばれた姫が隣国に嫁ぐには、更に一年を要した。それはシャアラ姫が『まだ自分は姫と呼ばれる人物たり得ていない』という思いからだったようだ。


 シャアラ姫にとってフィアナが理想だった。


 そのため、『まだフィアナの足元にも及ばない私では、ヴィル王子の気持ちを受け入れられない!』と彼女はヴィル王子の求婚を断固拒否した。

 その後苦労したのはヴィル王子だけではない。

 その言葉に感激したフィアナが手取り足取りシャアラを指導し、見事影武者から女家庭教師ガヴァネスへと変貌を遂げたのだ。

 結果ラジェもルチエも一年この国に通い詰めた。

 しかしその間に確実にラジェとフィアナは交流を深めれたこと、そして本格的な領地経営のノウハウを二人が学ぶ時間が取れたことは僥倖だった。

 ヴィルの元に泣きながらシャアラが嫁ぐときには、フィアナも迷わずラジェの元へとやってきたのだ。


 辺境の地では優秀な警備隊ガードマンがいたために、今まで以上に学生の街であったその場所は発展した。

 特に領主となった彼は『次代に正しく繋げる』ことを目標として取りくみ、フィアナは優秀な街の警備隊ガードマンとなった特殊隊をはじめ、凝り固まった男たちの心を解し、学生たちの心を掴んだ。そして、美しき領主の愛すべき妻は社交界でも羽ばたき、隣国との絆を深めていった。


 そして何より、フィアナは真摯にラジェを支えた。


 全てが軌道に乗ったころ、学生の街を離れ彼らは何度も旅をした。


 家族が増えても、それは変わらなかった。



 そして今、フィアナと呼ばれた女性の物語は、彼女の元主の手によって本にされ、売り出されている。

 それを知ったフィアナは激怒したが、この物語が人々に受け入れられたことに頬を染めた。



 そう。



 ルチエの今の主であり旦那様、とも呼ぶべき男の妻。



 彼女の、本当にあった物語。






 その本の題名は――――――。








『影姫の恋愛簿』fin









これにて完結です!

お付き合いいただき、ありがとうございました!

次話はあとがきになります。

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