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その十五(危険を孕むデート)

投稿してすぐ読んでくださった方へ。

少しだけ改稿しました。申し訳ないのですが、再度目を通していただけれるとありがたいです。




 王子だって男なのだ。

 そういう経験だって勿論あるだろう。


 しかも、あの容姿だ。普通の人よりあってもおかしくない。




 理性ではそうわかっている。




 けれど、フィアナは胃の奥になにやらもやもやするものを抱えていた。

 あの王子の腕に縋り付くように身を寄せ、こちらを見て笑った女。

 あれは、『自分』に自信がある女の顔だった。

 その顔を見たとき、自分にはできそうにない顔だと漠然と思った。

 


 フィアナは、『フィアナ自身』に自信を持っていないのだから。





 だからかもしれない。




 王子を少し困らせたい、というまるで子供のような感情が働いたのは。

 



 まだ女の相手をしている王子を横目で見て、フィアナは言った通りの店に向かった。

 しかし目ぼしいものもなくすぐに顔を上げたが、視線の先では王子がまだ女に苦戦しているようだった。

 その光景に今度は胃がむかむかした為に、ぶっちょう面でそのまま次の店に向かって歩き出す。


 その時にやはり王子を見ると、今度は顔を寄せられていた。

 

 その姿を見て少しだけ思ったのだ。



 王子が、困ればいいと。



 だから言ったはずの店からどんどん離れた。

 わざと人混みに紛れるように。



 ぶらぶらと歩いて目ぼしい古本屋に入れば、そこでフィアナは夢中になった。

 珍しい本ばかり並ぶそこで、店主と意気投合したのである。店の店主である老人は、人好きのいい笑顔を浮かべて「昔のだがね」と古ぼけた本を並べてくれた。

 フィアナ自身はこんなに本を買えるほど今お金を持っていないのだと眉根を下げたが、老人はこんな本に興味を示してくれるだけで十分だと笑った。

 だからそこで本を読みふけってしまったのだ。



 王子が迎えに来てくれるという、根拠のない自信もあった。

 


 しかし待てど暮らせど王子がくる気配はない。周りに騎士が控えていると言っていたし、きっとすぐに居場所は割れると思っていたのだが。



 さすがに遅すぎやしないかと思い、フィアナは店を出て周りを見回した。

 しかし道行く人の中に見知った顔は誰一人いなかった。

 


 あれっと思った後で、一気に血の気が引いた。

 


 慌てて本を戻して、老人に礼を言って店を出る。

 そのまま駆け足で先程自分がいくといった店に戻ったが、女も王子もすでにいなかった。

 そこでも周りを見回したが、フィアナの見たことのある顔はない。




「・・・・・・・・・・や、やっちゃった?」




 顔を青くしてフィアナが立ち竦んでいると、周りから奇異の目で見られていることに気付いた。

 いくらこの国の服を着ていようが、フィアナはこの国の者ではない。

 目立つのだろう、視線を集めていることがいやでもわかる。それは、決していい視線ばかりではない。

 慌てて視線を巡らせれば、灰色のフードを目深に被った男と目が合う。

 そのフードの中は暗いのに、目があったとはっきり分かったのだ。

 男は、じっとフィアナを見ていた。

 フィアナと視線があっても逸らすことなく、逆にその視線は強まる。

 


 ぞくりと背筋が粟立ち、フィアナは思わず一歩下がった。

 しばらくフィアナを見つめていた男だったが、ゆっくりと歩き出した。

 





 ―――フィアナに向かって。






 

「っ・・・!」 

 





 


 

 男は器用に人波を縫って、真っすぐフィアナに向かってくる。

 フィアナは慌てて視線を逸らし、足早に男と逆方向へ歩き始めた。

 人の波に逆らうように歩けば、何度も行き交う人と肩がぶつかる。

 こんなにも人がいるのに、あの男のものと思われる足音が聞こえる気がした。

 それは段々と大きくなり、フィアナに近づいてきているように感じる。

 



 背筋を這い上がる恐怖感に、息が荒くなる。

 



 

「い、いや・・・っ!」

 




 

 足音に急き立てられるように、フィアナは小走りになる。

 人にぶつかっても気にせずにフィアナは進む。



 後ろを見れば、男はまだついてきていた。

 やはりフィアナをじっと見据えている。



 言いようのない恐怖を覚えて、さすがにフィアナは走り出した。




 全く知らない道を走り、息を乱しながら何度かまがり角を曲がる。

 そして現れた目の前の店に飛び込んだ。




 息を整えながら後ろの暖簾のれんを閉め、転がり込むようにカウンターと思われる場所まで滑り込む。

 しゃがみこんで、息を潜めるように縮こまった。

 どくんどくんと自分の心臓の音が大きく聞こえて、フィアナはショールを握りしめた。

 ここに来る途中で擦りむいたらしい膝から、つうっと血が垂れる。

 痛みは感じないが、その血が外からここまで続いてやしないかとフィアナは怯えた。

 






 足音が近づいてくる。



 近い。 


 

 あの男のものだったらどうしようとフィアナは震えた。


 

 かつん、かつん。

 


 店の少し手前で足音が止む。

 歩き出したが、周りを見回しているのか足取りはゆっくりだ。

 



 

 フィアナは近づいてくる足音に、ぎゅっと目を瞑った。

 



 さらりと暖簾のれんが揺れて、隙間から光が差し込んだ。

 

 長く黒い影が差し込む。





「・・・・・・っ!」





 フィアナが恐怖に喉を引き攣らせた時だった。












 

「なんだい!あんた、見ない顔だね!」

「・・・・っ?!」

 






 

 女性の声が響き渡り、男の息をのむ音が聞こえた。

 ざり、と靴が砂を引く音が聞こえる。その音とともに影が消え、暖簾がしまる。

 薄くなった恐怖感にフィアナはなんとか呼吸ができるようになり、肩を震わせて何度も息を吸う。


 外から何やら鼻を鳴らす音が聞こえた。女性のものだろうか。


 

「あんた、お金は持ってんのかい?ここは市民の商店街だよ、冷やかしならかえってくんな!」

 


 威勢のいいその声の後、男は何やら舌打ちして元来た道へと戻っていくのが足音で分かった。

 


「全く・・・ああいうのが困るんだよねぇ」

 


 何やらぼそぼそといいながら、女性の方もどこかへ歩き出したようだ。

 店の扉の前からは、完全に人の気配が消える。

 しぃんとしたその場で、フィアナは縮こまったままなんとか落ち着きを取り戻した。

 



 どうして逃げてしまったのかはわからない。



 

 けれど、本能が逃げろといったのがわかったのだ。

 あの男の目は、異常だった。

 灰色のコートの奥の不気味な視線を思い出して、また背筋がぞくりと粟立った。

 



 一つ息を吐いて、なんとか立ち上がる。

 改めて店を見回すと、目の前にはいくつもの額縁があった。

 


「こ、れ・・・」


 

 そこに並べられていたのは数々の肖像画だった。

 確かにここに入る直前に、いくらか表に額縁が置いてあるのを見た。それはどうやら展示用の絵だったようだ。

 そんなことまで考え付く余裕がなかったのだが。



 

 絵には王族は勿論のこと、歌で評判の美姫や、高名な娼館の女。多くの男を落としたと今や道行く場所で語られる、黒髪赤眼の美女。これらは国境を越えてもあるようだと、フィアナはしげしげと眺めた。

 この国の美貌で有名な貴族の物も多くあるようだし、他の鎧を纏った姿は騎士のものだろうか。

 第一隊長から並べられているそれを見れば、騎士の格は一目瞭然だった。

 人気の騎士のものは、やはり数が少ないようだ。

 こんなところでも順位が付けられるのか、とフィアナは苦笑した。





 貴族の方を見れば、やはりというべきか美麗の王子のものも売れて残り少ない。

 ただし彼の場合は元の枚数が多いようで、完売とはいかないようだ。

 まだ数枚、微笑を浮かべた顔で描かれているのが残っている。

 どこか強張った笑みのそれは、いつもフィアナが見ている本来の彼とは少し違うようだ。

 絵だと差がでるのだろうか。

 それを一枚手に取って、しげしげと眺める。




 やはり、どこか違う。




 唸りながら見ても、何かが違うのだ。

 見つめても何が変わるわけでもないと絵を棚に戻すと、フィアナは再び他の絵に目をやった。

 流すように見つめていたフィアナだが、ある一か所に目が止まる。




 行儀よく並べられた数々の肖像画の中で、すっぽりと空いた空間が一か所あった。

 騎士の列の最も端にあるものだ。

 元々何もないところなのかもしれない、とは思いつつもフィアナはその場所をじっと見つめる。

 不思議そうにそれを見つめるフィアナの頭上に、ふいに影が差した。

 




「なんだいあんた。何が欲しいんだい?!」



 


 それは恰幅のいいこの店の女店主の影だったらしい。

 豪快なその声に、フィアナは驚いて目を見開いて固まる。

 くっきりとした二重の目は不機嫌そうに細められていたが、その声からさっき男を追い払ってくれた女性の声と同じだと気づき、礼を言わねばと口を開く。

 




「あ、あの」



「なんだい、まさかあんたも文無しとかいうんじゃないだろうね?」

 




 さっきも変な格好の男がいたけどさ!と彼女は憤慨したようにいった。

 




「さ、さっきの男、すみません、私のせいでここまで来たのかも・・・」




 申し訳なくそういえば、彼女は眉尻を跳ね上げた。



「なんだい、おっかけられてたのかい?・・・女の敵だったのか、そりゃ清々するわ!」



 

 あははははっと笑う女性に、フィアナは再度謝って、そして礼の言葉を口にする。



 

「気にすんじゃないよ!で、何がほしいんだい。言っとくけど、冷やかしはご免だよ!」

「え、あの・・・」



 

 ちらちらとフィアナは先ほど見つめていた場所に視線をやる。

 彼女はフィアナが見つめていた空間を見て、眉を上げた。



 

「なに?そこはなんもないよ」

「あの・・・この店は、王宮の方の絵も売っているんですよね?」

「ああ」

「リンドウって人の肖像画はないんでしょうか?」



 

 あれだけの美形なのだ。

 絵の一枚や二枚、本当に王宮の者ならあるだろうと思っての発言だったのだが。

 




「あんた!リンドウ様をしってるのかい?!」



 



 行き成り乗り出してきた女店主に、驚いてフィアナは身を引く。あまりの迫力に頷いていた。

 




 それに。






 リンドウ、さま?

 









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