15.何のプレイですか
その話でいくと、旧MLOのサービス終了時からNPC達の老化も止まったという事なのだろうか?
同じ疑問を感じたらしい長船が呟く。
「サービス終了時から時が止まった…か。でも、街や城などで話を聞いた感じ、他のNPC達の時間は普通に動いているみたいだな。精錬所やショップの店員なんかは、「我が家は代々続いていて、あなたがご存じだった主人は六代前の先祖に当たります。」とか話し掛けて来た事あるし、国を治めている王なんかもかなり代替わりしてるみたいだ。」
「…うーん?よくわかんないけど、銀行の貸金庫や家のキャビネットなんかに入れてた食料品や薬なんかは劣化してないみたいだから、それと同じような扱いなのかもね?
ユーザーの所有する家の中にいる訳だから、バトラーやメイドも影響を受けるって事なのかも?
あ!そうだ。ミーア、手持ちのインベントリにある食べ物とか薬は全部腐ってると思うからちゃんと捨てて置きなさいよ。」
「ええっ? うわっホントだ。もうっ!早く言ってよーー」
慌ててミーアちゃんがポイポイと放り出した腐ったアイテム類が、次々と中空で消えていく。
…うちのアパートの生ゴミもこんな風に簡単に捨てられりゃ楽なんやけどな。
「にしても、せっかくの美少年だったのに惜しいわねぇ。今の姿も如何にも"バトラー"って感じで、これはこれで素敵だけど。」
「恐れ入ります。」
照れくさそうに、エドワード氏の尻尾がゆっくりと揺れる。
「…いいこと考えたっ」
ニヤッと怪しげな微笑みを湛えつつユキノさんがエドワード氏にじりじりと近づいていった。
◇◆◇
「エドワード ほらっ、もっとちゃんと舐めて…ん、そうそう。いい感じ」
「…ご主人様、もうお許し下さい。」
「まだダメよ。私がいいって言うまで舐めるのを止めちゃダメ。」
…何だこのエロい会話。一体何のプレイやねんっ!
現在エドワード氏は、ユキノさんがキャビネットの中から取り出した赤いキャンディを舐めさせられている。
ロマンスグレーだった髪は徐々に艶を取り戻し、輝くような蜂蜜色へと変化していった。
皺の刻まれた優しそうな壮年の顔はキリッとした理知的な顔へと若返って行く。
心持ち身長も伸びて、少しがっちりとしたように見える。
「へぇ。エドワードってこんなイケメンくんだったんだね。うわぁ成長の過程が見れなくてほんと残念っ!」
その顎をつつっと指先で撫でながら、ユキノさんが呟いた。
「…もう飲んでいいわよ。」
ごくりっと音を立ててエドワード氏がキャンディを飲み込んだのがわかった。
…いや、だからコレは一体何のプレイなのかと。
しかし、いかにも仕事が出来そうで凛々しい雰囲気の大の男が(現時点での見た目は30代前半ってとこか?)頭の上の三角の耳をペタンと寝かせ、ふさふさの尻尾を丸め込んで服従する姿は、何とも微妙なものがある。
ユキノさんって女王様気質なんかも。…あんま深く関わらんようにしとこう。
「…あれ?でもよく考えてみたら、この世界って確か亜人の類っていなかったっすよね?
エドワードさんの耳とか尻尾って何なんですか?」
そう。このMLOはファンタジー系RPGとしては珍しく、エルフやドワーフ、獣人などの亜人の類は一切存在しないのだ。現実世界にも普通に存在しそうな生物達と、あとは魔物の類だけである。
「ん?ただのアクセサリーよ。単なる私の趣味。」
あー…デスヨネー。
◇◆◇
ひとしきりエドワード氏を弄んだ後で、ようやくユキノさんが屋敷の中を案内してくれる事になった。
「今いたのがリビングで、こっちがホール。昔はここがキンシップのメンバー達の溜まり場になってたから、よくここで駄弁ったり、イベントをやったりしてたわ。」
キンシップっていうのは、他のMMOで言う所の仲間内のギルドの事だ。
「そう言えば、ユキノさん達のキンシップってどうなったんですか?ひょっとして、まだ誰かメンバーが残ってたりします?」
「んー…元々、所属メンバーは社会人ばっかりだったし、リアルの事情で引退する人が増えちゃって…。私も来れなくなったから人の事言えないんだけど、最後はキンシップマスターもアカウントを削除してきっばり引退しちゃった。だから、キンシップは残ってないの。フレンドも誰か1人ぐらいはクローズドβに参加してたらいいなって思ってたんだけど、オンラインの人はいないみたいね。フレンドリストに登録されてる人数自体が大分減ってるから、アカウント自体残ってない人が多いんじゃないかな。」
淋しそうに言うユキノさんを見ていてようやく思い出した。
「あっ!そういや、まだフレンド登録してもらってなかったですね。よろしくお願いします。」