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14.蝶のように舞い、蜂のように刺す

「それは戦ってみればわかるわ。」



ユキノさんはそう言い放ち、ミーアちゃんの背中を送り出した。



「ほらっ!ミーア そこっ!!

 弱パンチ+強パンチ+ハイキックに回し蹴りっ! 最後はムーンサルトで華麗にフィニッシュよー!!」



ミーアちゃんの華奢な身体から、見事なコンボ技が次々と繰り出されて行く。

彼女が足を振り上げるたびにミニスカートがひらひらと風に舞い…

…むっちりした太ももと白いパンt 「…うっ!」ゴフッ(鼻血)



いかん。これはちょっと刺激が強すぎる。

二次ならともかくとして、VRだとナマそのものって感じがまた何とも生々しすぎ。



しかし…何の武器も持ってないなとは思ってたら、まさかの格闘娘だったとは。

いや、よく見たらナックルグローブを付けてるみたいだから、全くの素手って言う訳でもないか。



長船の方は「いやぁ。格闘って、本当にいいものですね~」とか呟いてるし。



「…っていうか、ユキノさん!「ロリコンは死刑にすべきだと思います!」とか言ってたじゃないすか?なのに、コレはありなんですか?」


「それとこれとは別っ!これは可愛いからいいの。可愛ければ許されるの。可愛いは正義っ!」




…やっぱ、何んかよくわからん人だ。



そんな感じでちょこちょこと戦闘を繰り返しつつ、3時間程歩いてようやくコベントリー住宅街に辿り着いた時には、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。



「狩りしながらだとは言え、思ったより時間掛かっちゃったわね。本来ならオスタードで10分も掛からないで来れるんだけど。パルノの城門からここまで転送してもらう事も出来るし。

ちなみにこの橋を渡ってすぐの所にあるのが管理事務所。家を売買したり、バトラーやメイドを雇いたい時はここを利用するの。

本当は、ここから自宅まで転送してもらう事も出来るけど、せっかくだから今日は歩いて行きましょうか。他の家の様子も見れるし。」



ユキノさんの案内に従って、小川に掛かる橋を渡り閑静な住宅地へと入っていく。


電気があるわけでもないのに、ふんわりとライトアップされたかのように佇む家々はノスタルジックで、どれも魅力的だ。

デザインも中世ヨーロッパ風の石造りの物から、東南アジア風、ファンタジー映画で見たホビットの家のような物、遊牧民のゲルのような物、伝統的日本家屋のような物…大きさもデザインも実に様々である。


ただ、例えどんなコンパクトな建物の家にでもしっかりと広い庭が付属している。日本の住宅事情からすれば羨ましい限りだ。



「さすがに、かなり空き家になっちゃってるわね。サービス終了から12年かー。この世界では140年以上も経ってるんだもん。当然と言っちゃ当然かな?」


「そう言えば、家を購入したままログインしなくなっちゃった人達の持ち家ってどうなるの?家主不在の家ばかり残ってたら、新規に参入した人は買いたくても場所が空いてないって事になったりしない?」


「一応、毎年きっちり管理費を払わなきゃいけないって事になってるのよ。銀行に預けてるお金から自動的に引き落とされるようになってるんだけど、引き落とすお金が無くなった時点で家は没収される事になってるわ。 …だから、ほら。今はほとんどの家に「売家」の看板が上がってるでしょ?この家の持ち主達は長い年月の間に、きっと銀行の預金が尽きちゃったんだと思う。  …我が家はちゃんと残ってるのかなー。うー、何だかだんだん心配になって来た。」



しばらく歩き、小高い丘になった所に建つ1軒の家を指してユキノさんはニッコリ微笑んだ。



「良かった!あった。 あれが我がウォールバンガー家のマイホームよ」




  ◇◆◇




「そのままだと部外者は立ち入れないようになってるの。今、ゲストの招待設定するから、ちょっと待ってね。」



言われるままに木の柵に囲まれた入り口付近に立ち尽くし、ぼんやりと丘の家を見上げる。


…デカイ。やたらデカイ!

何やねんこれ!

庭も滅茶苦茶広いし、ヨーロッパあたりのレトロな邸宅って感じだ。



「お待たせ。我が家へようこそ!」



そう言ってユキノさんが俺たちの方を振り返ると同時に玄関の扉が静かに開き、中からロマンスグレーの壮年の紳士が颯爽と降りて来て、深々と頭を下げながら迎え入れてくれた。



「お帰りなさいませ。ご主人様、お嬢様。心よりお帰りになる日をお待ち申し上げておりました。

長船様、ヴォイド様もようこそ当家へお越し下さいました。」



よく見ると、黒い執事服に白い手袋でキッチリと身を包んだその人物の頭には、蜂蜜色の三角の耳がピクピクと動き、お尻ではふさふさとした尻尾がパタパタと忙しなく揺れている。



「うわーーーー!うっそー エドワードがすっかりおじさんになっちゃってるっ!」


「…申し訳ございません。あれから既に180年の時が経っておりますので。」


「そっかぁ!それもそうよね。私が引退したのってもう15年前だし、こっちではさらにそれだけの時間が経ってるって事かぁ。…でも、昔はあーんなに小っちゃくてほんと可愛かったのになぁ」


「こちらにご奉仕に上がった当時、わたくしはまだほんの15歳の少年でございましたから。」



懐かしそうに語り合いながらも、天井の高いリビングへと通された。


…やっぱ思った通り、家の中も半端なくデカイ。暖炉とかあるし!

ていうか、こんなデカイ家、買う時も相当なもんだったろうに、180年も管理費払い続けて維持出来たって…ユキノさんって一体どんだけ金持ちなんだ?



「でも、エドワードさんって195歳(?)にしてはお若いですよね。長船さんなんて元の姿に戻った時、すんごいヨボヨボのお爺さんだったのにっ」


「ぶはっ! ゲホッゲホッ」



ミーアちゃんの質問に、部屋の中の家具を勝手に開けて物色して回っていた長船が盛大にむせる。



「それがでございますね。…ご主人様方がおいでにならないようになられてから、最初の何十年かはわたくしも普通に歳をとっていたのございます。…ですが、ある日を境に変化が訪れたのです。

…あれは確か今から144年前の事でした。

これまでたくさんおいでになられた冒険者の方々が突然姿を消されたのと同時に、わたくしの時も止まったのでございます。」


エドワードの見た目年齢は51歳。

「執事」ではなくあえて「バトラー」にしてみました。


ちなみにウォールバンガー家は、英国のマナーハウス(貴族が荘園マナーに建てた邸宅)の小振りなヤツをイメージ。



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