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11.設楽恭平の場合

ヴォイドくんのターン。

「…うーん」



俺は思わずGSPを握り締めたまま唸った。


GSPの画面上には、俺の操るキャラクターのヴォイドの横に、狩友でもあり、且つその生産品のお世話になってる鍛冶職人の長船、そしてついさっき知り合ったばかり2人の女性プレイヤーが映し出されている。



  ◇◆◇


俺こと設楽恭平したらきょうへい27歳会社員(年齢イコール彼女いない暦絶賛更新中)が「MLO~VR~」の存在を知ったのは、1月中旬の事だった。


某大手ゲーム総合情報サイトに掲載された、その今までにはない突き抜けたグラフィックのスクリーンショット、まるで映画のようにハイクオリティなプレイ動画は、廃ゲーマーである俺のハートをガッチリ鷲掴みにしたのだ。

開発者インタビューを見てさらに止めを刺され、後はもうとにかく早くやってみたくて居ても立ってもいられない状態だった。


旧MLOの存在自体は話に聞いた事もあったが、何しろサービスが終了したのが今から12年も前の話だ。今でこそすっかり廃の俺だが、当時はまだPCもGSも持っていない厨房だったので、しおらしくポ○モンとかやっていたガキんちょだった。

なので昔の事はよくわからない。 というか、別に興味もないしな。

でもこんだけハイクオリティな作品見せられて期待するなって方が無理ってもんやろ?


だから第1回クローズドβの募集が掛かった時はそりゃもう即応募した。

募集数3000人という狭き門を突破出来たと知った時には感激のあまり咽び泣き、祝いの晩餐に思わずカップラーメンに卵を入れるという贅沢までしてしまった。


クローズドβ開始は2月初旬。オープン当日、俺は風呂に入り禊をした。

もちろん漢らしく全裸で待機する為に。


VRバイザーを持っていない俺の場合、キャラクリエーションで自分の体格データを取り込むなどという事は出来なかったので、適当にデフォルトのサンプルデータの中からパーツを選んで赤毛マッチョの西洋人風にしておいた。


デカい大剣を振り回してガンガンMOBを薙ぎ払いたかったんで、最初に降り立つスタート地点の選択では、軍事力が高く武を重んじる国という設定の《オプヴァルデン公国》というのを迷わず選んだ。


ちなみに他には、


この世界の中心的存在の大国で魔術や学問、宝飾などに秀でているという《パルノイエ王国》。

海に面した商業国家で貿易や農業、紡績業などが盛んという設定の《フェルデンティア公国》。


 という2箇所がスタート地点として選択出来るようになっている。



オプヴァルデンへと降り立った俺は、取り敢えず安い両手剣と皮鎧を手に入れ、首都にある宿屋に泊まりこみクエスト斡旋所で依頼されるクエストを受けまくった。

最初のうちはどこのゲームでもやるのと同じような「雑魚MOBをチマチマと狩る簡単なお仕事です」というようなものが多かった。

けれど、そこそこスキルが上がってちょっとした遠出が出来るようになって来ると、街の連中から声を掛けられるようになった。


このゲームの場合、リアリティを追求する為か基本的に相手のキャラ名やステータスが表示されない。

なので、いきなり知らないヤツに声を掛けられても、リアルすぎて相手がプレイヤーなのかNPCなのかわからない時がある。


「ちょっとあんた、聞いたぜ?こないだガリートの地下水道に巣食ってたでっかいポイズントード倒したんだってな?すげぇな!一杯奢るから、詳しい話を聞かせてくれないか?」


そんな感じで誘われ、飲み屋で話し込んだら気が付いた時には「あんただったらきっとセフトの亡霊の正体も見破れるんじゃないのか?」とか言われて、次のクエストが派生している…というような感じだった。



瞬く間に1週間のβテスト期間が終わり、第2回のクローズドβが始まったのが3月中旬だった。

前回参加したユーザーは特に手続きをしなくても、継続プレイが可能だったのがありがたい。

この時、前回と大きく違っていたのは、カムバックユーザーたちの存在だった。

彼らは非常に高いスキルを持ち、高位エリアを踏破していた。

彼らが座標を記録していた時空魔法のおかげで、今まではとても到達出来なかったような遠い異国のマップなどにも転送してもらえるようになり、狩場の幅や受けられるクエストが格段に増えた。

店売りのしょぼい装備や、効き目の薄い薬草類に頼らなくても質のいい生産品が手に入るようになった。


その頃だ。武器を売っていた長船と知り合い、一緒に狩りに出かけるようになったのは。


長船はベテランではあるものの、生産特化キャラだった為、初心者の俺とつるんでも狩レベル的にちょうどいい感じだった。

そんなこんなで、あちこち一緒に出掛けているうちに、あっという間に第2回のクローズドβ期間も終了した。



   ◇◆◇



4月中旬になり、第3回クローズドβがオープンしてすぐに長船からこう持ちかけられた。


「俺、しばらく拠点をパルノイエに変えようかと思ってんだ」



ある日長船がオプヴァルデンの街でいつものように武器を売っていると、とある客に


「お前さん、随分いい物を作るじゃねぇか。そういや遠い異国の地に《カタナ》って言うやたら美しくて軽い恐ろしく切れる両手剣があるって話を聞いた事あるか?

…何でも噂によると、その伝説のカタナを作る鍛冶師ってのが、5年ほど前にパルノイエ王国に亡命して来て、首都パルノのどっかに匿われているらしいって話だぜ?」


 …などと 言う話を持ち出されたらしい。



長船の名前のモデルは言わずと知れた伝説の刀鍛冶師《備前長船兼光》だ。

世界観の縛りからか、今まで西洋剣と中東あたりがモデルの剣しか作れなかったのが、ここに来て日本刀が作れそうなクエストが発生したのだ。

これは手掛かりを探さない訳には行くまい。


そうは言っても、俺も長船も時空魔法を使う事が出来ない。

ここオプヴァルデン公国の首都ノルテリエと、パルノイエ王国の首都パルノは地球で言うと日本とオーストラリアぐらいの距離があるのだ。(地続きではあるが)

旧MLO時代には、それぞれの国の首都同士は街の入り口にある転送サービスから飛ばしてもらえるようになっていたららしいが、クローズドβの現在、使用不能となっている。


その為、逆に旧ユーザー達に各国の首都周辺部のマップの座標をメモしている人間がほとんどいないのだ。

うまくパルノ周辺の座標をメモしている人を捕まえて転送してもらったとしても、拠点設定ホームを変更してしまえば、帰還機能を使ってこの街には戻って来れなくなる。あっちで簡単に目的の人物が見付かるかもわからないし、次はいつ帰って来れる事になるかわからない。1週間というこの短いクローズドβの期間中に戻って来るのはまず無理だと思って間違いない。


長船はおそらく鍛冶師としてはこのMLO内では最高レベルだ。

その長船が作る《カタナ》を俺自身この目で見てみたい。

…というか、是非俺の為に作ってもらいたい。


そんな訳で、2つ返事でパルノイエに付いて行く事にしたのである。



  ◇◆◇



それがどういう訳だか、さっき知り合ったばっかの女2人と酒盛り状態…。

しかも、長船は14歳のガキにプロポーズまでしてやがるし。


…一体なんやねんこれは?


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