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自分殺しの英雄証明  作者: 生焼けの積乱雲
1章 延々と続く異常な日常
3/5

街での日常①

 ギルドの面する大通りには、冒険者の利用を想定した武器、防具、消耗品を扱う店舗がいくつも軒を連ねている。しかし、ラグトが向かったのはそれら賑やかな大通りから一本入った、薄暗い裏路地にある雑貨屋だった。


 使い込まれて立て付けの悪くなった扉を押し開く。不快な軋み音が呼び鈴の代わりとなり、奥の椅子に座って作業をしていた男が顔を上げた。  


「お、ラグトじゃねえか。めっきり姿を見せねえから、てっきり他の店に鞍替えしちまったかと思ったぞ。」


 短く不揃いに伸びた髭をさすりながら、中年の男が冗談めかして言う。店主のゼインだ。店主と言っても他に店員はおらず、本人は半分趣味でこの店を営んでいる。


 店内には剣や斧、レイピアに盾といった装備が乱雑に並び、棚には薬品や乾燥した薬草、多種多様な鉱石が並べられている。一見するとただの物置のような印象を受ける。

 ゼインと適当な挨拶を交わした後、ラグトは腰の鞘から一本の長剣を抜き、作業机の上に置いた。


「で、いつも通りでいいのか?」

「ああ。いつもの消耗品を一通り頼む。……あと、これより丈夫な剣はないか?」

「日の夜には出るのか?」


 ゼインの問いに、ラグトはローブの下に隠してある、懐中時計のような機械へ目をやった。 針が一本しかないその特注品は、ラグトの能力ギフトが次に発動するまでの「猶予時間」を刻んでいる。針が一周するのにかかる時間が70時間。まだ、2割弱しか針は進んでいない。


「いや……明後日の明け方に出る。」

「ふむ。準備をする側からすれば、明日の夜と大差ねえな。」


文句を言いながらも、ゼインは慣れた手つきで預かった剣の歪みを確認し始めた。


「で、今より、丈夫な剣だったな。仕入れることはできる。だがな、お前みたいに・・その、なんだ、同じ物同士をぶつけ合えば、どんな名剣だってすぐにガタが来るぞ。」


「わかってるよ。今回はそういう理由じゃないんだが・・橙石っつう石を背負った魔獣が現れてな・・」


「ほう」というと、ゼインは俺が言葉を続けるのを待っている。

彼の店は、高級品を取り扱っているわけじゃない、高品質なものを求めすぎれば断られるだろう。


「理想を言えば、橙石を切り付けても、刀身がダメにならない物……この長剣の二倍の額までは出せる」


「なるほど、橙石ね。それは、叩き割ろうというわけじゃないよな。もしそうなら、ピッケルと爆薬を用意するが?」


「いや、そういうわけじゃない。剣が壊れなければ、俺としては十分だ。」


「そうかー・・、了解した。明後日までには間に合わねえが、次にここへ来る時までに今より丈夫な剣を数本用意しておいてやるさ。」

「ああ、頼む。」

「……お前も、忘れるなよ。俺が赤字になっちまうからな」

ゼインの言葉に込められた重い意図が、ラグトの肩にのしかかった。

「……わかってる」


重苦しくなりかけた空気を振り払うように、ゼインが話題を変えた。


「そうだ。セシルがここ数日、お前が帰ってきてないか毎日聞きに来てるぞ。」

「……ギルドでも似たようなことを言われたよ。」


ここへも来る前、リエルにも、「セシルさんが10日くらい前から、毎日のように来てますよ!」と言われた。まさか、この薄汚い店にまで、足を運んでいたとは・・


「毎回店内を徘徊して悩み抜いた末に、この薬草の花を右から順に買っていくんだよ。今朝は黄色だったな。さすがの俺も気が引けるぜ。」


 ゼインが視線を向けた先には、しわしわに乾燥した花が詰められたガラス瓶が並んでいた。 右から赤、灰、藍、紫、黒、青、黄、白……。 値札には一輪40ミル。

併せて280ミルか・・・


たしかに、「店に入ったから、店主に悪いし何か買おう。」で購入するには値が張っている。


「……夜にでも、酒場へ行くよ。」


「そうか。それがいい。依頼された物は、明後日の朝まできっちり用意しとくさ。安心しな。」

「ああ、いつも助かってる。」


ラグトが店を後にしようと振り返ると、閉まりかけた扉の隙間から「まいどー」というゼインの適当な声が響いた。


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