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自分殺しの英雄証明  作者: 生焼けの積乱雲
1章 延々と続く異常な日常
2/5

帰還 

 オロウ王国の南西に位置する街、エルメア。 外周は魔獣の侵入を阻むための堅牢な城壁に囲まれており、その内側には人々の喧騒と活気が満ちている。

 街の中心部、南西の交差点の一角に「冒険者組合エルメア支部」が堂々と構えていた。 組合の扉を開けてすぐの場所には巨大な掲示板が設置され、人々から寄せられた依頼書が無数に張り出されている。

 建物内は大きく二つの空間に分けられており、片側には大小様々な机が並び、冒険者たちが遠征の準備や収益の分配、素材の相談に興じている。

 そして区切られたもう半分のスペースには、十ほどの受付窓口が並び、担当の職員たちが慌ただしく常駐していた。

 その窓口の一つで、大きなリュックを机に置いた大柄な男が、持ち帰った荷物の換金をしていた。


「はぁ!? これ、金にならないのかよ!?」


突然響いた大きな声に、周囲の冒険者たちが一斉に肩を震わせ、視線を向けた。

「ラグトさん、声が大きいですよ。ただでさえ同業者から怖がられやすいんですから」


 そう言って溜息をついたのは、若い受付嬢のリエルだった。彼女はラグトが自信満々に差し出したオレンジ色の結晶を重そうに横へ退けると、手際よく他の素材の鑑定へと移る。


「あ……悪い。だが、こんな色の結晶、カライロ洞窟に五年以上潜ってるが見たことないぞ。」


「まあ、確かにあの洞窟から『橙石とうせき』の結晶が持ち込まれたことはありませんね。でもこれ、カライロ洞窟へ行く道中にある鉄鉱山なら山のように採れるんですよ。」


 リエルは、五年以上もこの周辺を通っていながら知らなかったのか、と思案するように苦笑いを浮かべた。

彼女は「鑑定」のギフトの所持者だ。ギフトの名前については、類似の能力全般に使われる物で、人によって能力の優劣は存在しているが、目利きにたけた能力といえる。

この類のギフトは、本人にとっては五感の一部として機能するため、他人に説明するのは難しいらしい。彼女曰く、「一度見たものを別のものと見間違えるほうが難しい」とのことだ。

俺の能力とは、天地ほどの差がある有用な力といえる。


「……これを持ち帰るために、アブナスギルベアの胸骨を捨てたんだが」


「えっ!? 嘘でしょ……。あれ、8000ミル(通貨)くらいしますよ。それを、この石のために……?」


「いや、だから、セッカクガエルが今まで見たことない硬い結晶を背負ってたからよ……」


「誰か冒険者が道端に捨てたのを、食べちゃったんですかね。ははは。せっかく、ですから、魔獣の研究者の元にでも持っていけば、多少のお金にはなるかも……」


リエルは冗談交じりに笑った後、真面目な口調に戻って続けた。


「でも、ダンジョンに置いてきたものは仕方ないですね。この石に関しても、組合側で『カエルが背負っていた』という付加価値をつけることはできません。私の『鑑定』でも、普通の橙石との違いはないです。……一度、持ち帰りますか?」


 まだ働き始めて二年のリエルだが、知識量も多く「鑑定」のギフトの品質も高いようで、彼女が間違えたという話もない。研究者に持っていっても期待は薄いだろう。

何より、そんなことに割く時間は俺にはない。

まして、定住する場所もないのに、これを持ち帰るなんてことも。


「いや、いい。相場通りで買い取ってくれ」

「はい、30ミルですね」


両手に抱えるほどのオレンジ色の結晶は、昼食代にも満たない値段で引き取られていった。 その後、リエルはカウンターに置かれた俺のリュックを漁りながら、次々と他の素材を鑑定していく。


「ふぅ……これで全部ですね。合計すると――」


彼女は、計算用の金属玉が並んだ道具を手際よく弾いている。


「今回は、なかなか貯め込みましたね。27000ミルになります。問題ないですか?」

「ああ、問題ない」


27000か。ぼちぼちだな。装備の手入れ代を差し引いても、多少の手元金は残る。


「ところで……今回は何日間、潜ってました?」

リエルは書類に筆を走らせながら、尋ねてきた。

「だいたい、十五日だな」

「それはまた……長くいましたね。・・・5回くらいですかね。」

彼女は手元の資料に目を向けながら、独り言のように呟いた。

こんなことを俺に聞いてくるのは彼女くらいだ。

「ああ、そんなところだ。」


俺がそう短く答えると「そうですか。」と言うと、今度は顔をこちらに向ける。

「よし、まとめ終わりました。今、お金を持ってきますから、ちょっと待ってて、くださいね。」


笑顔を向けってそう言い残すと、報酬を用意するために奥の部屋へと歩いていった。



 周囲で聞こえる、賑やかな人々の声が、静寂に包まれたダンジョンで死と隣り合わせだった、彼を2日程度の平和な日常へと引き戻していく。

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『ダンジョン』それは、地殻変動によって自然に形成された巨大な洞窟や、古の時代に建造されながらも今は打ち捨てられた遺構のうち、危険度の高いものを指す。

 ダンジョン内には、地上では見られない特殊な植物、魔獣と呼ばれる特殊な生物が生息し、遺跡には遺物が眠っている。それらを討伐、回収し、街に流通させることで生計を立てる者たちを、人々は**『冒険者』**と呼ぶ。

 その冒険者の支援をしてるのが、『冒険者組合』通称『ギルド』である。ギルドはオロウ王国の公共機関であり、冒険者たちの管理、魔獣の討伐依頼、遺物や魔獣素材の売買、流通を行っている。 冒険者には戦闘能力、実績を考慮しDからSまでの階級が与えられていた。


 この物語の主人公である、ラグト・ケラトルはA級の冒険者であり、都市エルメアから20キロ程の位置にあるカライロ洞窟を収入源にしていた。

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読んでいただきありがとうございます。

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