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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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夢見る乙女は眠れない 1

「……以上が今回わかったことだぜ」

「思ったより水場が少ないな。まだ見つけられてないだけかもしれんが」

「だといいがな。川はあるんだったな。ならそこを中心に拠点を……」


 アセビ、フジ、大男が難しい顔をして、ああでもないこうでもないと話し合っている。霧の森の調査結果を報告しているのだ。

 少し離れた場所で女子たちが、男どもの様子を伺っている。

 マーガレットはすでに空腹らしく、さっさとご飯を食べたいオーラを惜しげもなく醸し出していた。


「お腹空いたわね。まだ終わらないのかしら」

「フフフッ気長に待とうじゃないか。明日の仕事にも影響があるかもしれないからな」


 サツキはマーガレットを優しく見つめる。問題児の妹分の空腹を少しでもごまかすため、女子全員で盛り上がれる話題を振ることにした。

 年長者のサツキは実質副リーダーだ。常にマーガレットとルピナスに気を遣っているのである。


「そういえばフクシア。あなたとフジは付き合いが長いのか?」

「そうですね。フジとは生まれ故郷の村で物心ついたときからずっといっしょでした」

「ふたりともいいコンビだよね。炎魔法が使えてうらやましいなぁ。すごくかっこいいと思うの」

「あはは、そうかな?」


 フクシアは特に臆することなく自然に言葉を返す。

 クレマチスに来たばかりのころは、黒魔法を使わない人々とどう交流すればいいかわからずにいた。しかしアセビ一行と交流するうちに、だんだんと慣れていったのだろう。

 マーガレットが手を挙げて口を挟む。


「なら付き合っちゃえば? いっしょにいた時間が長いなら、相手のことも理解できるでしょ? フジくんめちゃくちゃイケメンじゃない」

「フジとですか~? ちょっとなぁ~。フジも多分わたしのことなんとも思ってないんじゃないかな?」


 フクシアは苦笑した。手を横に何度も振り、互いに脈はないと完全に否定する。

 ルピナスは何もそこまでと思うが、黙っていることにした。余計なことを言って、ナイフを投げられたくないのだ。


「ふむ。フジは駄目か? あなたのことを大切にしていると思うしお似合いだと思うのだが……」

「それはどうかな? フジはちょっと優しくて気配りができて、顔が良くて背が高くて、料理が得意で炎魔法が使えるだけですからね。わたしとは合わないんじゃないかな。いじわるなところもありますしね」

「ふむ……?」


 フクシアはフジを貶しているつもりなのだが、どう考えても評価しているようにしか聞こえない。

 付き合いが長いこともあり、ふたりは半分兄妹のような関係になってしまっている。いっしょにいた時間が長くても、必ずしも恋愛に発展するとは限らないのだ。

 ふたりの相性が抜群なのは、事実ではあるのだが。


「その点アセビくんはいいですよね。温かくて優しくて頼りになってそれから……」


 フクシアのアセビを賛美する言葉は、まだまだ止まる気配はない。

 このままでは未来永劫終わらないと考え、マーガレットはフクシアの唇を人差し指でぎゅっと押さえ、強制的に待ったをかけた。


「むぐっ!」

「それはないわ。アセビって結構いじわるよ?」


 マーガレットはばっさりと、フクシアの言葉を否定する。


「頭ぐりぐりするし、デコピンするし、言葉の暴力をぶつけてくるの! あたしは心に傷を負ったわ! アセビは鬼ダンゴムシよ!」

「アセビは優しいけどなぁ」

「アセビは頼れる良い男だぞ」

「やっぱりあたしにだけいじわる……いたっっっ!」


 フクシアはマーガレットの指を噛んだ。むっとした表情を浮かべている。何か言いたげな様子だ。

 フクシアが、口を開く。


「羨ましいなぁ……マーガレットさんは」

「何が?」

「ルピナスさんとサツキさんに聞きますけど、アセビくんにぐりぐりされたり、デコピンされたり、言葉の暴力で傷つけられたことがありますか?」


 ルピナスとサツキは互いに顔を見合わせ、同時に首を横に振る。心に傷を負ったことはないと主張した。


「ほっぺた軽く引っ張られたりとかはあるけど。ぼくはアレ好きだから別にいいよぅ」

「剣を突きつけられたことはあるが、実際に斬られたことはない。魔法の実験台になったことはあったが、あれは私が自ら買って出たことだしな」


 穏やかな表情で答えるルピナスとサツキを見て、マーガレットは顔を赤くして地団駄を踏む。扱いの差を感じたのだろう。

 フクシアは首を傾げて、どこか冷めた瞳でじっとマーガレットを見つめていた。


「何を怒ってるんですか」

「だってそうじゃない! やっぱあたしだけ……」

「誰よりも優しいアセビくんが、マーガレットさんにだけそういう行為をするんですよ?」


 フクシアはマーガレットの両肩を掴み、絞り出すようにして言葉を吐き出した。


「あなたはアセビくんにとって、特別な存在ってことなんじゃないのかな……?」

「特別……」


 特別な存在と言われ、マーガレットは数秒満更でもなさそうな顔をする。しかしすぐに眉間にシワを寄せ、額に握り拳を当てた。

 フクシアの両肩を掴む力が強くなる。マーガレットは腕を振りほどき、1歩後ずさった。


「で、でも! 優しくされたくない? 頭なでなでされたり、背中ぽんぽんされたり、あーんって食べさせてもらったり、優しくぎゅっと抱き締められたり、甘やかされたくない? 構ってほしくない? 全力で愛してほしくない?」

「貪欲すぎるよぅ」

「正直なところがマーガレットの良いところさ」

「それもいいですけどねぇ」


 今度はフクシアが眉間にシワを寄せる番だった。腕を組んでしばらく考え込んでいたが、やはり自身が正しいと思ったらしい。

 フクシアはマーガレットの手を握り、真剣な眼差しを向ける。


「わたしもアセビくんの特別な存在になりたいです。どうすればなれるか教えてほしいな」

「なんかフクチャン怖いわね……」

「おーい! みんなこっちこっち!」


 女子たちが声のする方向に目を向けると、アセビが手を振っている姿が見えた。食堂を指差している。これからみんなで食事をしようと誘っているのだろう。

 フジがいつものように前髪をかき上げ、ニヤリと笑いながら、女子たちを手招きした。


「待たせたな。腹減っただろ? みんなで飯でも食おうじゃないか」

「あら〜! 賛成!」


 マーガレットはいの一番に走りだし、アセビの腕を握った。食事も嬉しいのだが、何よりフクシアから逃げる口実ができてホッとしていたのである。


「熱いからくっつくなって!」

「えへへ! いいじゃない!」


 マーガレットを見つめるフクシアの背中を、サツキが微笑みながらぐいぐいと押した。


「お喋りは食事をしながらでもできる。さぁ、みんなで食堂に行こう」

「ぼくはお酒が飲みたいんだなぁ」


 ルピナスはすでに酒のことで頭がいっぱいである。サツキは吹き出しそうになるのを堪えながら、食堂へと足を向けた。

 ルピナスは例のゲロ事件以降、酒を浴びるように飲むことを控えているが、まだまだ依存している。サツキはまた愛する妹分が悲しみを背負わないよう見張らなくてはと考えるが、フジの言葉により中断されてしまった。


「そうだった。これを大将から預かった。あんた宛に送られてきたそうだ。受け取ってくれ」

「む? 手紙か」


 フジが封筒をサツキに渡す。彼女は差出人が誰か考えたのだが、見当がつかず首を捻った。

 フジは用件はすんだと言わんばかりにサツキに背中を向け、食堂へ足を進めながら口を開く。


「ククッ、どこかの冒険者ギルドからのスカウトじゃないか? なんせあんたやアセビは不死王を倒した有名人だからな」


 優秀な人材の引き抜きはどこの冒険者ギルドでも常に行われている。原則禁止されてはいない。条件の良い冒険者ギルドに誘われたら、移籍したくなるのは当然のことだからだ。

 しかし必ずしも新天地が合うとは限らない。人間関係のトラブル、任務中の怪我で再起不能になることもよくある話なのだ。目先の利益だけを考えて、おいしい話に飛びついてばかりでは、冒険者として大成できないのである。


「さて……」


 サツキが封を丁寧に破り、中に入っていた白い用紙を広げた。

 サツキの穏やかな表情が変わっていく。完全に笑みが消えてしまった。手紙に重大なことが書かれていたに違いない。

 ルピナスがサツキの表情の変化に気づき、そっと口を開いた。


「サツキ? お手紙には何て書いてあったの?」

「いや……別に」


 サツキは一瞬不安そうな表情を浮かべるが、すぐ微笑んだ。足早に食堂へと足を向ける。その背中は、どこか寂しげだった。

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