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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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キラキラ 5

 アセビがマーガレットの元へたどり着くと、鼻を摘んで1歩後ずさった。


「うんぴっぴだった?」

「違うっての! 実は……」


 アセビは誤解を解くため、マーガレットに先ほど出会った少女のことを早口で説明した。信じていなかったのか、怪訝そうな表情を浮かべている。

 アセビが地図を見せると信じたらしく、マーガレットは興味津々にそれを見つめた。


「あら? 本当のことだったのね。この地図手作りで素敵だわ。でも不思議……人が住んでるような森には見えないのだけれど」

「霧の森は広いからな。どっかに小さな村があるんじゃないかって思ってるんだわ」

「ふーん。それよりこの地図に描いてあるお花畑に行ってみたいわ!」


 マーガレットは地図に描かれた花畑を見て、目を輝かせていた。


「不死王の館がここだから……うん! ちょっと行ったらすぐだな。行ってみるか!」

「行きましょ!」


 マーガレットは弾けるような笑顔を見せ、スキップし始めた。花畑に心を弾ませる彼女を見て、自然とアセビの気持ちも温かなものになっていく。


「えへへ! アセビも早く早く!」

「はいはい」

「お花畑! お花畑! お花ばたげっ!!」

「マーガレット!?」


 マーガレットは石につまずき、盛大に転んだ。それだけではない。顔面を地面にぶつけてしまった。踏んだり蹴ったりである。

 アセビが急いで駆けつけマーガレットの体を抱き起こすと、白目を向いて泡を吹いていた。


「おいマーガレット!? 大丈夫か!? おい!?」


 マーガレットはアセビの呼び掛けに一切反応せず、肩を何度強く揺すっても反応しない。急いで口に手を当てると、呼吸をしているのが確認できた。どうやら死んではいないらしい。


「良かった……でもこのまま意識が戻らなかったら……」

「……人工呼吸……人工呼吸を……しなさい」

「……あ?」

「人工呼吸……愛を込めた……キス……」


 アセビがマーガレットに視線を向けると、目を閉じたまま口を動かしている。どうやら意識を失ったふりをしていただけらしい。恐らく構ってもらいたかっただけなのだろう。

 アセビは白けた表情でマーガレットから手を離し、そのまま足を花畑へと向けた。


「オレ先行くわ」

「ちょっと待って! もっとあたしに構って! 優しくして! 甘えさせて! 愛して!」

「また今度な」

「いやん!! ちょっと待っで!?」


 マーガレットはすっとんきょうな声を出した。アセビは面倒臭いと思いながら振り向く。構ってちゃんの問題児は再び盛大にずっこけていた。


「あー、はいはい」


 アセビは大きなため息をつくが、マーガレットの目にじわりと涙が浮かんだのを見て、すぐに駆け寄った。

 嘘泣きではかったのだ。マーガレットは震える体を起こし、火が注いたように泣き出した。


「うわーん!! 痛いよぉぉぉ!! 足が千切れちゃうよぉぉぉ!!!!!!!」

「これはマジのマジでずっこけたな……」


 マーガレットのワンピースが赤くにじんでいる。アセビが急いでめくると、膝が深く切れていることがわかった。赤々とした血が絶え間なく流れ続けている。


「えーん! アセビのエッチー! 痛いぃぃ!」

「うわ……マジで痛そうだなこれは……ん、待てよ? 確か花畑の近くに……!」


 アセビはポケットから地図を取りだし、急いで広げてみた。花畑の近くに池が描かれている。


「やっぱり!」


 アセビはマーガレットの背中と膝裏に手を通し、そのまま勢いよく持ち上げた。


「傷は浅いぞ! もうちょっとだけ頑張れ! 池が近くにあるからな! そこで足を冷やそう!」

「お、お姫様抱っこ!?」

「痛いのは生きてる証拠だ! 生きてるって素晴らしいよな! サツキが言ってたぞ!」


 マーガレットは必死な表情で走るアセビを見て、頬を赤くする。いつも他の女子より適当な扱いをされていると思っていた。しかしそうではなかったのだ。

 なんだかんだ言って、アセビはマーガレットのことを大切に想っているのである。


「もうちょっと我慢してくれよ!」


 マーガレットはアセビの顔から目を逸らすことができずにいた。

 心臓が高鳴る。体温がどんどん上昇していく。


「アセビ……ちょっと恥ずかしいから……離してほしいかなって……」

「離すわけねえだろ! 弱気になるな! 池が見えてきたぞ!」

「えへへ……ずっと離さないでね」


 マーガレットは幸せだった。彼女が回復魔法の達人ということをアセビが忘れていたからだ。

 マーガレットは幸せだった。アセビがそのことに気づくのは、もう少し先のことだったからだ。


「ちょっとしみるかもだが……我慢してくれよ」


 アセビとマーガレットは池に到着した。水は透き通っていて綺麗だった。飲んでも、体に付着させても、問題はないだろう。

 アセビはポケットからハンカチを取りだし、急いで池の水につけると、力強く絞った。それをマーガレットの膝にそっと当てる。


「いたっ……」


 マーガレットは痛みで顔を歪める。

 アセビは優しく頭を撫で、微笑んだ。


「痛かったな。我慢できるか?」

「もちろん! 痛くないわ! 平気だっての!」


 アセビの普段見せない優しい表情に、マーガレットは頬を赤くし、満足そうに笑みを浮かべた。


「ちょっとえぐってみようかしら!」

「いやいやいやいや! それはやめとけ!」


 マーガレットがワイバーンの巣にアセビを置き去りにしなければ。借金を肩代わりさせなければ。日頃からがんばる姿を見せていれば。アセビは普段から優しい表情を見せていたかもしれない。

 マーガレットはあり得たかもしれない未来を思うと後悔したが、すぐに気持ちを切り替えた。常に今を生きているからだ。つまり今が良ければそれで良いのだ。


「えへへ、転んで良かったわね!」

「おバカ、良いわけないだろ! あまり心配させるんじゃねえぞ!」

「えへへ! はーい!」


 アセビは楽しそうに返事をするマーガレットを見てやれやれと肩をすくめたが、笑顔になった彼女を見て内心安堵していた。


「悪いがマーガレット、花畑はまた今度にしようぜ。すぐ近くにあるけどさ、その足じゃ楽しめないだろ?」

「う、うん……? そうね……?」


 マーガレットはアセビに優しくされ満足していた。花畑のことはすでに忘却の彼方だったのである。言われなかったら忘れていたことだろう。

 花畑に行く権利とアセビに優しくされる権利を選ぶなら、マーガレットは即答で後者を選ぶ。


「歩けるか?」

「うん! 平気よ! ほら見てっ!? いたっ!」


 マーガレットは心配させないよう勢いよく立ち上がろうとするが、膝に鋭い痛みが走り、しゃがみこんでしまった。アセビが支えるように、優しく肩を掴む。


「コラ! 膝切ってるんだから無理するなって! よっこらせっと!」

「おおお!? またまたお姫様抱っこ!?」


 アセビは再度マーガレットを抱き抱えて、ゴブリンの巣へと繋がっている例の穴へ向かって歩き始めた。

 これ以上の調査は不可能と判断したのだ。今日の仕事はもう終わりにするつもりなのである。


「このほうがお前の顔が見えるからな。痛いのに我慢されても困るんでね。それともおんぶがいいか?」

「お姫様抱っこでお願いします! お姫様抱っこでお願いします!」

「何で2回言ったの。何で2回言ったの」


 マーガレットは生まれて始めて、自分の膝に心の底から感謝した。顔をりんごのように赤くし、アセビの腕に体全体を委ねている。

 マーガレットはこの状況に喜びつつも、以前言われたことを思い出した。申し訳なさそうに、上目使いでアセビに向かって口を開く。


「あの……アセビ……?」

「ん? どうした?」

「あたし……お、重たくない……?」


 ロマンティックな雰囲気でアセビにお姫様抱っこされていたいマーガレットだったが、以前サツキと比べて重たいと指摘されたことを思い出していた。彼女のほうが身長が高く、色々な部分も大きい。それなのにマーガレットの方が重たいのだ。そのことを気にしているのである。


「うーん。お前が重たいっていうか。ルピナスやサツキが軽すぎるだけな気がする」

「ですよねー! そうよねー! あたし普通よねー!」

「っていうか。もしかしてオレに重たいって言われたこと、気にしてました?」

「はぁ!? 気にしてませんけどぉ!?」

「本当に申し訳ない」

「謝られたら余計惨めになるんですけどぉ!?」

「本当に申し訳ない」


 アセビは申し訳なさ半分、からかうのが面白い半分の気持ちでマーガレットに謝罪した。彼女は頬を膨らましていたが、この冗談のようなやりとりができることを密かに楽しんでいるのだ。

 大好きな男の子に構ってもらえる。ぼっちにとってそれは至高の喜びなのだ。

 アセビはマーガレットを見つめながら首を傾げた。


「しっかしお前スタイル良く見えるんだけどな。骨が重たいのかねぇ」

「あたしおっぱいが大きいの! その分がちょっとだけ重たいのかもしれないわよ!」

「ふうん。そうなんだ」

「もうちょっと食いつきなさいよ……」


 その後もふたりはどうでもいい世間話をしながら、例の穴へ向かっていた。アセビが膝を気にする素振りを見せる度に、マーガレットは大切に思われている事実を噛み締め、嬉しそうに微笑んだ。

 この瞬間がずっと続いてほしい。マーガレットは心の中で祈りを捧げるが、永遠などない。何事も必ず終わりのときが来る。それも突然に。


「あー!!!!!!」


 正面から悲鳴にも近い甲高い声が聞こえた。アセビとマーガレットが急いで目を向ける。赤い人影がふたつ見えた。

 フジとフクシアである。霧の森の調査を引き続き行っていたのだ。


「何やってるんですか!!」


 フクシアが泣きそうな顔でアセビの元に小走りで駆け寄った。彼女の気持ちを察したマーガレットは、勝ち誇ったような表情を浮かべる。

 フジはいつものようにニヤニヤしながら前髪をかき上げ、遠巻きにアセビたちを見守っていた。


「はは、マーガレットが転んで怪我をしてね。運んでいるんだ」

「あたしぃ、かよわいからぁ、アセビにぃ、お姫様抱っこぉ、してもらってるのぉ」

「むぅぅぅぅ!!」


 マーガレットは下卑た笑みを浮かべていた。流石のフクシアも、アセビの目の前では脅しのナイフを投げることはできない。

 できることはひとつだけ。フクシアは吐き捨てるように叫んだ。


「マーガレットさんは回復魔法使えるでしょう!?」


 数秒の静寂が霧の森に訪れた。

 マーガレットは余計なこと言いやがってと言わんばかりに眉間にシワを寄せる。

 今度はフクシアが勝ち誇ったような表情を浮かべた。


「そういえばそうだった。フクちゃんに言われるまで気づかなかったぜ……マーガレット、ヒールで膝を治すんだ。降りてくれるか?」

「なになに? ヒールってなに?」

「ちょっと!! いい加減にしてほしいかな!」

「ククッ面白くなってきたぞ」


 とぼけて首を傾げるマーガレットを見て、フクシアはアセビの腕から引き剥がそうとした。しかし構ってちゃんの問題児はなかなか離れようとしない。

 フクシアの瞳から生気が失われた。じっとマーガレットを見つめている。今のフクシアは何をするかわからない。マーガレットはナイフを投げられたことを思い出して体を震わせた。


「や、やばっ……」

「良くないんじゃないかな……こういうのは」

「ちょ!? 待って待って! ヒール! あっ、ほら見て膝治ったから!」


 流石のマーガレットもこれ以上フクシアを煽るのはまずいと判断した。急いでヒールを唱え膝の傷を治す。あと数秒判断が遅れていたら、大惨事になっていたかもしれない。

 マーガレットが元気よくジャンプし、完治したことを必死にアピールすると、フクシアの瞳に生気が戻った。


「確かに……治ってますね」

「と、当然よ! あたし回復魔法の達人なんだから!」

「はは! 悪い悪い、ちょっと気が動転してたわ! お前回復魔法使えたんだったな!」

「それにしても、アセビくんも大変でしたね! 重たかったでしょう、辛かったでしょう!」

「ぶーぶー! せっかくお姫様抱っこしてもらってたのに!」

「実はわたしも、お姫様抱っこしてもらったことあるんですよぉ」

「なんですってっ!?」


 睨み合う女子たちをよそに、アセビとフジは互いに手を上げ、軽く挨拶をした。


「よう、邪魔したな」

「別に邪魔じゃないさ。調査の方は順調か?」

「ぼちぼちってところだ。俺とフクにはこの森は少々広すぎる」

「実は今日いいものをもらったんだ! ちょっとこれを見てほしいんだが……」


 アセビとフジは、今後の仕事をスムーズに進めるために、互いの近況報告をしようとしている。

 しかしそれどころではなくなった。ふたりの目に、ナイフを握ったフクシアの姿が映ったからだ。


「わたしも足を怪我したら……アセビくんにもう1度お姫様抱っこして……もらえるんじゃないかな……?」

「フクちゃん!?」

「フクお前なにやってるんだ!?」

「ひっ! 待ちなさいって!」


 アセビとフジとマーガレットは、フクシアから急いでナイフを取り上げた。おかげで彼女は怪我をせずにすんだのである。しかし暴走したことを後悔するフクシアを慰めるのに、数時間費やすことになったのであった。

 こうしてマーガレットのアセビ独り占めタイムは、突然の来訪者により、終わりを告げたのである。


「フクちゃん、大丈夫? 落ち着いた?」

「アセビくん……優しいなぁ……嬉しいなぁ……」

「フクチャンやっぱ怖いのだけれど」

「俺はマーガレットちゃんとフクの相性は、最高だと思ってるんだがねぇ……ククッ」

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