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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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キラキラ 4

「う〜! 漏れる漏れる!」


 霧の森は自然に囲まれた広大な土地だ。アレをしたら開放感があることだろう。

 アセビがズボンのチャックに指を伸ばそうとしたその時である。どこからか、視線を感じた。

 アセビは周囲をきょろきょろと見回し、最後に正面を見据える。そこにうつ伏せになっている少女がいた。


「うぉあっ!?」

「……何よ」


 アセビの目の前に、紫色の長い髪を三つ編みにした少女がいた。年齢は10代半ばぐらいに見える。肌は雪のように白く、紫色の衣服から覗く手足は細く長い。天使のような愛らしい顔だが、つんと済ました表情のせいで、どこか冷たい印象を受ける。


「じろじろ見てんじゃないわよ」


 謎の少女はうつ伏せになっているが、その理由は簡単だ。華奢な背中に、大きな丸太が乗っているのだ。これでは身動きが取れないだろう。


「おいおい! 君、大丈夫なのか!?」

「気にしないで。さっさと自分の用件すませたら? アレしたいんでしょ?」


 謎の少女は白けた表情でため息をついた。助けを求めることはせず、アセビから視線を反らさずに、ただじっと見つめている。手足が細い少女では、背中に乗った丸太は動かせないだろう。

 アセビが手助けをするため、急いで近づこうと足を動かす。その瞬間謎の少女は眉間にシワを寄せた。


「余計なお世話なんだけど! いいから早くやることやってここから帰りなさいよ変態!」

「確かにそうだな!」


 アセビは謎の少女の意見に素直に従うことにしたらしい。背中を向け、生い茂る木々の間に足を向けて、急いでこの場をあとにした。

 少女はアセビの姿が見えなくなると、手元に生えた草を握り、ぽつりと言葉を漏らす。


「うぅ……アタシってなんでいつも……誰か助けて……」

「すまないね! 出すもの出してすっきりしてからじゃないと、力が入らないもんでね!」


 少女が顔を上げると、アセビが得意げな顔で立っていた。アレをした後だと思うと、なかなか格好がつかないものである。

 アセビは少女の背中に乗った丸太を両手で掴み、持ち上げようとした。体全体に力を込めるが、見た目よりも重たく、動く気配がない。

 アセビは額ににじんだ汗を拭い、大きく息を吐いた。


「ふーっ! 見た目より重たいな、この丸太!」


 少女は一瞬表情を輝かせるが、すぐに顔を赤くし、アセビに怒りの感情をぶつける。


「ちょっとアンタ! なにやってんのよ! 余計なことするなって言ったでしょ!」

「無駄にエネルギー使いたくなかったが、こいつはそうも言ってられないな」

「ちょっと聞いてるの!? アタシのことは放っておいてって……」

「はいはい静かにしててねー」


 アセビは金切り声を上げる少女を黙らせるため、ポケットからジャムパンを取りだし、それを彼女の口に押し込んだ。


「むぐっ……!!」


 口内に広がる甘いジャムと柔らかいパンの食感が口を塞いだ。少女は沈黙する。

 アセビは肩を回して再度気合いを入れ直した。


「ストレングス!」


 アセビの腕力が強化され、いとも簡単に丸太が持ち上がった。先程まで苦戦していたのが嘘のようだ。

 少女はチャンスと言わんばかりに勢いよく転がり、丸太から逃れた。これで自由の身となったわけである。

 アセビは少女が脱出したことを確認すると、ゆっくり丸太を地面に置き、彼女に向かって手を伸ばした。


「大丈夫かな?」


 少女は困惑したような表情を浮かべている。震える手でアセビの手を握った。


「よいしょっと」


 アセビは腕に力を入れて、少女を立たせた。


「よし! 怪我はなさそうだね」

「ないけど……アンタなんで戻ってきたのよ?」

「さっきやることやってから帰れって言っただろ? なら君を助けてから帰らないとな」

「……フン、余計なことしないでくれる? でも一応感謝はしておいてあげるわ」


 少女は冷たくそっけない言葉を浴びせるが、目には光るものが見えていた。表情は穏やかで、アセビに感謝しているのは誰が見ても一撃でわかる。どうやら素直に思ったことが言えないタイプらしい。

 アセビは自然と笑みがこぼれたが、少女はむすっとした表情を浮かべた。


「な、なによ!!」

「いや、別に?」


 アレをやって、少女も助けた。やるべきことは全て終わらせたのだ。

 アセビがマーガレットの元へ戻ろうと背中を向けた瞬間、少女が急いで前に立ち塞がり、両手を広げた。


「待ちなさいよ。ありが……じゃなかった! さっきあたしの口に入れたあのふわふわ! 何よあれ!」

「ん? 知らないの?」

「はぁ!? 知ってるんですけどぉ!? でもちょっと聞いただけなんですけどぉ!?」


 少女の反応を見るに、ジャムパンのことを知らないらしい。顔を赤くし、必死の形相でアセビに食ってかかった。知らないことを恥ずかしいと思っているのだろう。

 アセビはポケットからジャムパンを取りだし、少女に渡した。


「これはジャムパンっていうんだ。中に甘いドロドロしたのが入ってただろ? あれがジャム。君に食べさせたのは苺のジャムパンだね」

「ふ、ふーん。ま! 知ってたんですけどぉ!」


 ごまかすようにアセビから視線を外し、少女はジャムパンの匂いを嗅いだり、指でつついて観察している。

 アセビはふとマーガレットのことを思いだした。あまり待たせると機嫌が悪くなってしまう可能性が高い。

 アセビは今度こそ戻ろうとしたが、目の前の少女は再び両手を広げて立ち塞がった。


「もういいかな? そろそろ戻りたいんだけど……」

「待ちなさいよ! 不本意だけど? アタシ? アンタに? 助けて? もらったから? 何かお礼? してあげても? いいんですけど?」

「その気持ちだけで大丈夫なんで……いや、待てよ!」

「な、なによ!?」

「君、もしかしてこの森に詳しかったりする?」


 少女はある程度大きな街に住んでいるなら誰もが知っているであろう、ジャムパンのことを知らなかった。霧の森には村があり、彼女がそこで生まれ育った人間とアセビは予想している。

 少女は鼻を鳴らして、手をひらひらと動かした。


「この森は、アタシの庭みたいなものですけど?」

「おお! この森に詳しい子がいて助かるよ! 色々聞かせてほしいんだけど、いいかな?」


 アセビは歓喜の声を上げて少女に近づく。彼女は顔を赤くし後ずさった。


「ち、近い……」

「ん?」


 首を傾げるアセビに向かって、少女は小さく畳んだ紙を押し付けた。


「これは?」

「広げてみなさいよ……」


 広げてみると、手作りの地図だった。不死王リッチの館だけでなく池、花畑、小さな小屋、遺跡などが描かれている。アセビが知らない場所だ。


「すげぇ! こんなところに、池があるのか!? 他にも細かく描かれてる!!」

「あたしが時間かけて描いた地図だけど、もういらないからあげるわ!」

「ありがとう! 助かったよ!」


 アセビは少女に感謝し頭を下げ、地図を丁寧に折り畳んでポケットに入れた。これで調査が捗るだろう。

 いいお土産ができたとアセビはホクホク顔だが、少女はどこか寂しげな表情を浮かべている。


「じゃあさっさと帰れば? もうアンタと会うことはもう未来永劫ないわね」

「君、この森に住んでるんだろ? オレまたここに来るからさ。きっとまた会えるよ」

「フン、2度とごめんだわ」


 少女は吐き捨てるように答えた。しかし、にこやかな笑みを浮かべている。再びアセビと会える日を楽しみにしているのだろう。ある意味正直者である。

 アセビがマーガレットの元に向かうため背中を向けると、後ろから大きな声が耳に届いた。


「待ちなさいよ! アタシはリラ! リラ・チグリジアよ! アンタは!?」


 アセビは振り向き、リラに向かって大声を出した。


「アセビです!! オレの名前は、アセビ・ワビサビーです!!」

「アセビね! 気が向いたら覚えておいてあげる!」

「ありがとう! じゃあ君のことはチーちゃんって呼べばいいのかな?」

「で、できればリラがいいわね……」

「オッケー! じゃあ、またな! リラちゃん!」


 リラと名乗る少女は顔を赤くして背中を向けると、全力疾走でアセビから離れていった。木々の間を風のように早く駆け抜けていく。

 アセビはマーガレットの元へと急ぐ。恐らくなかなか戻ってこないことに、腹を立てているはずだ。

 アセビは走りながらリラのことを思い出す。それと同時に、脳裏にマーガレットの顔が一瞬過った。


「リラちゃんか。なんだろう……あの子、ちょっとだけマーガレットと同じ感じがしたな……」




 リラは顔を赤くし、全力で走っていたが、次第に走るのを止めた。ゆっくりと歩きながら、先ほど出会った青年の顔を思い出す。


「フ、フン! 変な奴だったわね!」


 人の良さそうな、のほほんとした顔。親しみやすそうな雰囲気。毒を吐かれても構わず助ける優しさ。思い出す度にリラの心が満たされていく。


「あいつ……確かアレやってから、アタシのこと助けに来たのよね……」


 アレとは当然アレのことである。性別、年齢関係なく誰もがやる生理現象のことである。


「……手洗ったのかしら」


 アセビはリラを1秒でも早く助けるため、急いで戻ってきたのだ。アレをしたあとに手を洗う暇はなかっただろう。


「まっ、いいかっ!」


 リラはくすくすと笑い、自身の手に優しい眼差しを向けると、恐る恐る唇をゆっくりと近づける。彼女はアセビの顔を思い出しながら、頬を朱色に染め、恥ずかしそうにそのままキスをした。


「……えへへ」


 リラは、誰よりも、何よりも、幸せだった。

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