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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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館まるごと超決戦 10

 バラバラになったスライムは、再び自身の体をひとつにしようとしていた。実質何度でも復活できる。再生王の名に相応しいモンスターだ。

 スライムが脳内でアセビ一行を倒すプランを考え終わるころ、バラバラになった体はひとつになった。


「さて! 俺様の殺戮ショーの始まり……あれ?」

「何が始まるって?」


 スライムは自身の体に違和感を覚える。彼にはアセビ一行が大きく見えていた。まるで巨人のように。


「なんだ……? お前たち巨大化できる魔法でも使えたのか……?」


 アセビがニヤリと笑った。


「そんなもの使えねえよ。お前自分の体見てみろ。小さくなってるだろ? お前の体は、ほとんど芋虫が食っちまったぞ」

「なにっ!?」


 スライムは違和感の正体に気づいた。アセビ一行が大きくなったのではない。スライムが縮んでいたのだ。今は成人男性の拳ほどの大きさしかない。

 スライムが慌てて芋虫に視線を向けると、彼女は口をもぐもぐと動かしていた。体を食べているのだ。


「お、俺様の体を!? あの虫が食った!?」

「スライム、お前再生能力と炎以外痛みを感じない体に頼りすぎたな。余裕こいてないで、もう少し警戒するべきだったと思うぜ」

「ぷっぷっぷー! あんなに大きかったのに、小さくなっちゃったわね!」

「芋虫さん、グッジョブ!」

「不死王はもっと賢かったぞ」

「クソォォォ!!!」


 スライムは驚異の再生能力を持ち、痛覚もほぼ感じないため無敵に近い。しかしその体質が仇となってしまった。慢心し、不必要に攻撃を受けた結果、芋虫に体を食べられていることに気づかなかったのだ。


「さすがにこの体の大きさじゃ……」

「ぶつかってもそこまで痛くねえだろうなぁ」

「液体を飛ばしても構わないぞ? 私が全て防いでみせるがな」

「今炎の棒で叩いたら完全に蒸発するんじゃない? あたしが試してみましょうか?」

「おう、あとはマーガレットに任せるわ」

「うぅ……こ、このままでは……」


 マーガレットが火のついた棒を器用に回しながら、引導を渡すためにスライムに近づく。


「ベタベタな液体顔から剥がすの大変だったわ。痛かったのよねぇ……せめて一撃で終わりにしてあげる!」

「宝物庫の場所は! ダイニングルームを出て廊下の1番奥にある書斎の隠し扉だ!」

「えっ!? なんですって!?」

「これは嘘じゃねえ! 確かめてみろ!」


 突然の告白。マーガレットは一瞬視線を廊下に向けてしまった。スライムはこの隙を見逃さない。ダイニングルームを急いで飛び出した。


「じゃあな! マヌケども!」


 あまりのスピードにアセビ一行は一瞬固まってしまったが、すぐスライムを追いかけた。

 天井にずっと張り付いて、獲物が来るのを待っていた執念の持ち主だ。縮んだ体を元の大きさに戻したら、再びアセビ一行の前に立ち塞がるだろう。絶対にこのまま逃がしてはいけない相手だ。


「あたし書斎に行きたいわぁ……」

「気持ちはわかるが、今はスライムを追うぞ!」

「お酒……」

「またあとで取りにくればいいから! 行くぞ!」


 アセビはマーガレットとルピナスの言葉を遮り、ふたりの腕を掴んで引っ張った。スライムを倒す絶好のチャンスなのだ。もたもたしている暇はない。物欲に負けて逃がしたら、それこそただの愚か者だ。

 アセビ一行は、スライムから少し遅れて館を飛び出した。決着をつけるために。




「に、逃げねえと……!!」


 スライムは必死に霧の森を駆け抜けていた。今の状態で戦闘は不可能。逃げることしかできない。

 一方アセビ一行は追いかける側だ。逃がすまいと必死に走り続けている。スライムに追いつくまで足を止めることはないだろう。


「くそっ、しつこい奴らだ……」

「待ちやがれ! 絶対逃さねえぞ!」

「待つわけねえだろ! 逃げ切ってやる!」


 追い付かれたら間違いなく死が確定する。スライムはとにかく逃げ続けた。

 日は暮れ周囲は薄暗い。さらにこの森は霧が深く、逃げるにはうってつけの環境だ。追う側よりも追われる側のほうが有利だろう。


「最強ちゃんのところに行けば……あ、あの子なら俺様の体を……元に戻せるはず……」


 スライムは自分に言い聞かせるように呟き、全力で走り続ける。リベンジの機会があると信じているのだ。


「このまま逃げ切れば……うおっ!?」


 スライムは突然固いものとぶつかり、動きを止められてしまった。背後を見ながら逃げていたため、正面に赤いローブをまとった若者たちがいることに気づかなかったのだ。


「クソっ! なんだよおい!」

「あれ? 何かがぶつかったと思ったけど……これはスライムかな?」

「間違いなくスライムだ。だが、小さいな」


 スライムが恐る恐る見上げると、幼い顔立ちの少女が立っていた。興味津々に見つめている。隣の青年も顎に手を当て、じっと見下ろしていた。

 ふたりの赤いローブの若者たちの正体は、言わずもがなフジとフクシアだ。霧の森の調査を切り上げ、アセビ一行と合流しようとしていたのだが、そこにスライムがぶつかってきたのである。

 スライムは赤いローブを見て、炎を想像してしまったらしい。恐怖で体を震わせている。


「お……おお……」

「こいつ震えてるぞ。怯えてるんじゃないか?」

「猛スピードで突っ込んできたけど、何かから必死に逃げてきたって感じなのかな?」

「逃げてきた……?」

「大丈夫? もしかして恐ろしいモンスターに追われているのかな?」


 フジとフクシアからの同情的な目線を浴び、スライムは最強四天王としてのプライドを、大きく傷つけられてしまった。

 生き残ってリベンジをするためだったとはいえ、逃げることを選んだ。それは確かな事実。目を背けていた現実を、フクシアに突きつけられてしまった。

 スライムの小さなプライドに、怒りという名の炎が燃え上がる。


「俺様は再生王だ! 逃げたんじゃねえ! これは戦略的撤退だ!」

「おいおい。チビだけど元気がいいじゃないか」

「お前たちもあいつらもまとめてぶっ殺してやる!」

「えっと……ど、どうしようか」


 困惑するフクシアの態度が、自身をバカにしているように見えたのか。スライムはさらに感情を大きく爆発させる。体を震わせ、今にも飛びかかりそうな勢いだ。

 フジはスライムがいつ襲いかかっても対処できるように、いつでも得意の黒魔法を使えるように準備をしていた。

 フクシアは狼狽えながらも、何とかスライムを落ち着かせようと必死に頭を回転させている。


「大丈夫だから……落ち着いてほしいな」

「けっ、いい子ぶりやがって! お前からぶっ殺してやろうか!」

「いい子……ぶってる……?」


 フクシアの脳裏に、白頭巾の少女の顔が鮮明に映し出される。人をバカにした態度、煽るような口調、大好きな青年への接し方。彼女の姿が、彼女の声が、彼女の生き様が、彼女の全てが、不快だった。


「いい子ぶってない!」


 今度はフクシアが感情を爆発させた。顔を赤くして拳を震わせている。


「いい子ぶってない!」

「な、何を言いやがる……」


 フクシアが憤怒の表情を浮かべると、人差し指をスライムに向ける。フジが止める前に、その指から火の玉を放った。


「フク、ちょっと待て!」

「いい子ぶってない!」

「あっ……」


 水分が蒸発する音がフジの耳に届いた。

 スライムが最期に見たもの。それは、自身の体よりも大きい火の玉であった。救いがあるとすれば、苦痛もなく一瞬で死ねたことであろう。

 フクシアはスライムがこの世を去ったことに気づいていない。憎悪の感情をむき出しにして、ファイヤーボールを地面に向かって撃ち続けている。心に残った負の感情を全て吐き出すまで、終わらないだろう。


「いい子ぶってない! いい子ぶってない! いい子ぶってない! いい子ぶってない!」


 フクシアの声だけが静寂な森に響き渡った。

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