館まるごと超決戦 9
「……あっけないな」
不死王リッチいわく、リーダーと自分以外の最強四天王のメンバーは、あまり強くないらしい。それでも素早い動きや奇襲攻撃には手を焼かされたが。
アセビは思い出した。スライムが自ら再生王と名乗っていたことを。それと同時に、アセビの左腕に激痛が走った。
「うぉ!? なんだあっ!?」
「いやお前流石に油断しすぎだろ」
まっぷたつになったスライムが、煽るように体を高速で動かしている。
アセビが腕を確認すると、鋭い物質によって貫かれていた。痛みに耐えながら急いで引き抜くと、それをごまかすように大声を上げる。
「いってぇなぁぁぁ!? なんだよこれ!?」
「俺様は全身が武器みたいなものなんだぜ? そんな俺様に背中を見せるのは、バカのやることよ」
謎の鋭い物質の正体。それはスライムの体から作られた液体だった。それは尖らせ、アセビに向かって投げたのだ。
スライムのまっぷたつになった体は引き寄せられ、元の大きさに戻っていく。
再生王。その異名が意味するものは、この不死身のボディのことだったのだ。
「はい無駄でした。お疲れ」
「マジかよ……」
「スライムに再生できる能力があっただなんて……」
ルピナスは得意げに語るスライムを無視して、アセビに駆け寄った。腕を心配そうに見つめている。今にも泣き出してしまいそうだ。
腕を貫かれた痛みは激しい。アセビはこれまでのように、軽々と銅の剣を振り回すことはできないだろう。
スライムが勝ち誇ったように笑う。
「ワハハハハ! 俺様をそこらの雑魚スライムと同じと思わないことだな! ある日突然、殴っても斬られても何度でも再生できる特殊能力に目覚めたんだ! 再生王だ! 俺様は再生王スライム様だ!」
「あっそ! じゃあもっと刻んであげる!」
声の主はマーガレットだ。顔を赤くして怒りを爆発させている。
スライムの液体は無事顔から剥がれたが、口の回りはすっかり赤くなっていた。無理やりとったのが見てとれる。
マーガレットはアセビの銅の剣を握り、スライムに叩きつけるように振り下ろした。
「これでみじん切りにしてあげるわ」
「だから意味ないっての」
「オラァ!」
銅の剣が見事命中した。スライムはあっけなくまっぷたつになるが、マーガレットの攻撃はまだまだ続く。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。
今のマーガレットは、怒りと憎しみで暴走している状態に近い。落ち着くまで攻撃は止まらないだろう。
「オラオラァ! もっともっと切り刻んであげちゃうんだから!!」
「はいはい。お好きなようにどうぞ」
スライムは一切抵抗しなかった。再生能力がある時点で、自分が負けるはずがないと思っているのだ。
「はぁ……はぁ……」
マーガレットの攻撃という名のストレス発散が、やっと終わった。彼女は肩で息をしている。体力を大きく消耗してしまったらしい。
アセビは数えきれないほどバラバラになったスライムの残骸を見つめるが、それは少しずつ動き、ゆっくりとくっつき始めた。
掠れた声がアセビ一行の耳に届く。
「ご苦労だったな白頭巾。お前の無駄な頑張りは、全部無意味に終わったぞ」
「も〜〜〜!! 本当にムカつくわね!!」
「こいつまたくっつくぞ!?」
「当然だろ。俺様は再生王だからな」
「いやぁぁぁ!!」
スライムが言い終えると、体は元通りに戻った。マーガレットが悔しそうに地団駄を踏む。
殴っても斬っても死なない。何度でも蘇る。
スライムは不死王リッチに勝るとも劣らない、脅威的な存在なのかもしれない。
「……再生王を名乗るだけはあるな」
「そういうことだ。好きなだけ攻撃していいぞ? 俺様は疲れきったお前たちを、ゆっくりと好きなようにぶっ殺すだけだからな」
アセビは腕の痛みを忘れ、必死にスライムを倒す方法を考えた。
打撃や斬撃が実質無意味なら、痛覚を与えるマイグレインも効果がないだろう。発動しても、小バカにされるだけで終わりだ。
アセビは絶望するが、まだ切り札があることを思い出した。エナジードレインだ。
「再生できるって言っても、多少はエネルギーを使うはずだ……黒キノコもそうだったしな……」
手で触れてエナジードレインを発動させれば、エネルギーを奪い取ることができる。再生能力を封じればスライムを倒せる可能性は高い。
アセビの瞳に希望の光が灯る。自然と右の握り拳に力が入っていた。
それを見逃すスライムではない。体を丸めながら、アセビに向かって声を出した。
「おい赤毛。お前何かたくらんでるな?」
「ソンナコトナイヨ」
「お前の左腕は潰したが……これは右腕も潰したほうがいいかもなぁ」
「げっ」
「これでも食らいやが……」
スライムがアセビに向かって液体を飛ばそうと体を絞った瞬間、彼は素早く壁越しに移動した。謎の行動である。
アセビが首を捻っていると、ルピナスが松明を両手で握って、ゆっくりスライムに近づこうとしていた。
「ルピナス、危ないぞ! 下がるんだ!」
「うん。でも気になることがあったの。もしかしてだけど……スライムって火が嫌いなんじゃない?」
ルピナスは自信がないのか、うつむきながら小声で意見を述べる。
「そういえば……」
アセビはスライムの行動を思い出していた。打撃や斬撃には余裕の態度。攻撃を避けようともしなかった。まさに再生王を名乗るだけのモンスターだろう。
しかしルピナスの攻撃はどうだっただろうか。素早く距離を取って回避していた。脅威から逃げるように。
「確かあのとき、ルピナスの手には松明が握られていたはず……」
「うん。だから火に弱いんじゃないかって思ったの」
「なにほざいてくれちゃってんの? 俺様に? 弱点とか? ないが? 意味が? わかんないんだが? そこのチビバカなんじゃねえの?」
スライムが早口でまくしたてた。明らかに動揺している。火に弱いですと自白したも同然だ。
「ふ〜ん」
マーガレットはダイニングテーブルに並べてある木製の椅子を掴んだ。それをそのまま床に叩きつける。立派な作りの家具は、バラバラに砕け散った。
奇行と思われる行動だが、アセビはマーガレットのやりたいことを一瞬で理解する。ポケットから油とマッチを取りだし、投げて渡した。
「大事に使うんだぞ?」
「えへへ、ありがとっ」
マーガレットはバラバラになった椅子の脚を掴んで火をつけると、下卑た笑みを浮かべた。炎のステッキの完成である。
スライムは体を震わせていた。
「げっ……マジかよ……」
「スラりんって無敵だったわよねぇ? これも試してもいいかしらぁ?」
スライムが逃げるよりも先にマーガレットが素早く接近する。炎のステッキを思い切り叩きつけた。
液体が蒸発する音がダイニングルームに響く。スライムは無様に床を転がって、必死に火を消した。
「うぉぉぉあぁぁぁ!? あっちぃぃぃぃぃぃ!!」
「ヒャッハー! いいリアクションするじゃない! やっぱ火に弱いのね! ちょっともう10発ぐらい殴らせなさいよ! ひっひっひ!」
「こいつ悪魔か」
「怖いよぅ。サツキはもっと怖いよぅ」
「えっ」
「た、確かに俺様は火に弱い……弱いが……それだけじゃやられねえぞ!」
スライムは吐き捨てるように叫び、体を固くしながらマーガレットに飛びかかった。
本来スライムは火に弱い。焼かれるだけで倒されてしまう場合もある。しかし伊達に再生王を名乗ってはいなかった。誇りや面子が、一時的に恐怖心を吹き飛ばしたのだ。
「きゃっ……」
「死ねやクソ頭巾!」
「させるものかっ!」
突然の反撃にマーガレットは反応できなかったが、サツキが守るように前に進み出る。彼女は素早くヤグルマソウを抜き、スライムを両断した。
時間を稼ぐためだろう。サツキはスライムの体を何度も斬り刻んで、無数の液体にした。
「サツキ、ありがとっ!」
「礼は早いぞ! 今のうちに火の棒で攻撃を……」
「好きにしろよ! 俺様は体の一部分でも残ってたら再生できるんだ!」
「なんだとっ!」
「もちろん火に触れたら痛みはあるけどな! だがそれに耐えればいいだけってことよ!」
スライムは弱点がバレたのだ。もう素直に殴らせてはくれまい。死にものぐるいで抵抗してくるはずだ。
完全に再生するまでまだ時間はある。アセビはこれが最後のチャンスと考えた。
「体が残っていたら何度でも復活できる……つまり……」
アセビは必死に頭を回転させ、あるアイデアを思い付いた。
「芋虫! ちょっとお前の力貸してくれ!」
「芋虫さん、お願い!」
突然名前を呼ばれ、芋虫は驚いたが、すぐ冷静になった。彼女はアセビとルピナスに視線を向け、指示を待っている。
「お前にしかできねえことがあるんだ!」
「アセビ、それって……?」
「オレにいい考えがある」




