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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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館まるごと超決戦 8

「すんませーん! お前たちのトーク終わるの、明日まで待たないといけないですかねぇ?」


 アセビ一行が声の聞こえた方向に目を向けると、スライムが存在をアピールするかの如く、体を大きく上下させていた。流れが落ち着いたため、声をかけたのだ。

 不意打ちが得意なくせに、なかなか空気の読めるモンスターである。


「じゃあ流れもなんかいい感じになってるし、自己紹介といくぜ! 俺様は最強四天王のひとり、再生王スライム様だ! ワハハハハ!!」


 アセビは不死王リッチの言葉を思い出していた。

 最強四天王。それは、不死王リッチが所属していたチームのことだ。


「お前が不死王リッチの言っていた仲間か!」

「そうよ! 最強四天王のメンバー様よ!」

「そ、そうだったわね。あなたスラりんだったわね。忘れてないわよ」

「いやぶっちゃけ俺様のこと忘れてたよね。なんか戦闘中なのに変なことゴチャゴチャ言い始めてたしさ。一応俺様も幹部なんだけど……」

「なんかごめんなさい」


 スライムは体を捻り、大きくため息をついた。


「それにしても、仲間で殺し合いねぇ。頭がイカれてやがるぜ。正直ドン引きだわ」

「私の仲間を侮辱するのはやめてもらおうか!」

「サツキ。言いにくいけど、スラりんは多分あなたのこと言ってると思うのだけれど」

「むむ?」


 サツキが首を傾げ、ルピナスが吹き出した。

 スライムの反応は、当然だろう。味方同士で殺し合いをしたいなんて言ったら、引かれるに決まっている。

 マーガレットがステッキをスライムに向けた。


「ここであなたが待ってたのは、お友だちのリッちんの仇討ちをするためだったのね!」

「いや? 別に友だちって言うほど仲は良くなかったかなぁ」

「えっ」

「あいつのこと嫌いじゃなかったけど、友だちの友だちぐらいの関係? だったしな。でもまー、一応仲間だったし? このままスルーするのも? なんかちょっとダサいし心がない対応じゃん?」

「えぇ……」


 スライムの言葉にアセビ一行は困惑する。特に仲が良かったわけでもないのに、仇討ちをするということは面子のためだろう。不死王リッチもそれを何より大事にしていた。


「お前たち、どうせ不死王リッチの宝物庫狙いでここに来たんだろ? ずっとあそこで待っていたのになかなか来ないからよ。ダイニングルームの天井に移動して、待ち構えてたんだぜ。わざと音を出してよぉ!」

「やはりマーガレットが聞いた音は罠だったのか!」

「まんまと引っかかったってわけだ!」

「ねぇ。あのまま帰ってたら、スライムはずっとこの館で天井に張り付きながら、ぼくたちが来るのを待ち続けてたのかな?」


 想像するとシュールである。


「うん……そうなってたかもね……うん」

「なんか俺様は策士みたいな空気になってたけど、正直無計画だなぁって思う」

「……うん」


 スライムが気まずそうに、声を落として答えた。明らかにテンションが下がっている。


「ちょっと待って!」


 マーガレットが手を勢いよく挙げ、気まずい空気を破壊した。その目は宝石のように輝いている。

 計画性のなさを突っ込まれる流れになりかけていたので、スライムは内心マーガレットに感謝していた。


「宝物庫って……なに?」

「おいおい。お前たちなんでこの館に来たんだよ。戦利品を奪いに来たんじゃねえのか?」

「不死王リッチからお酒をもらってもいいと許可を得ていたのでな。回収するために来たんだ」

「は? そうなの?」

「そうだよ」

「は? それだけ?」

「それだけ」


 スライムは恐怖で体を震わせた。このまま不死王リッチの館で、生涯アセビ一行を待ち続けていたかもしれない自分の姿を想像したようだ。


「俺様はてっきり宝物庫狙いかと……」

「ねえ、宝物庫ってどこにあるの」

「オレたちはお前に恨みがあるわけじゃない。このままお互い見なかったことにして、解散じゃ駄目か?」


 アセビがスライムに和解を提案するが、彼は体を高速で横に動かし拒絶する。

 最強四天王の面子のため、友だちの友だちレベルの間柄だった不死王のため、スライムはずっとこの館でアセビ一行が来るのを待っていたのだ。その意思は何よりも強い。


「フン! もうお前たちとは、潰すか潰されるかしかねえんだ! 全員地獄に送ってやるよ!」

「ねえ、聞いてるの」

「そっか。なら仕方ないね。大地を揺るがす。天を引き裂く。偉大な力を持つ救世主。召喚! 芋虫さん!」


 ルピナスが契約の本を片手に呪文を唱えると、煙が立ち上り、数秒してから芋虫が元気に飛び出した。彼女は愛する契約者の前に立ち、スライムを威嚇している。

 数では圧倒的にアセビ一行が有利だ。しかしスライムは余裕の態度を崩さない。強がりではないだろう。


「5対1か。だがそれでも俺様には勝てねえよ」

「ほ・う・も・つ・こってなに?」

「貴様の得意の不意打ちは、もう私たちには通じないのだぞ? それでもか?」

「それでもだ」


 サツキがヤグルマソウを抜いて、スライムを睨みつけた。ある意味アセビに独特な価値観と生き方を受け入れてもらえたのは、目の前の敵のおかげだ。そのことはサツキ自身感謝しないわけではなかった。

 しかし命がけの戦いに私情を持ち込むべきではないことも、しっかりと理解している。


「人間どもと虫ケラよぉ! 最強四天王の力見せてやるぜ! この再生王様がなぁ!!」

「ねえってば!!!!」

「うるせえんだよ、てめえはさっきからよぉ!」


 しつこく宝物庫の場所を聞き出そうとするマーガレットに、とうとうスライムがブチギレた。体から液体をマーガレットに向かって飛ばす。


「んっ!?」


 マーガレットの口にネバネバとした液体が張りついた。必死に剥がそうとするが、粘着性があり、ぴったりとくっついている。


「んん~!?」

「これで静かになったな! まずはお前からだ!」


 スライムはマーガレットに向かって、体当たりをしかけた。得意のカウンター魔法、ロックを発動させようとしたが、口についた液体が邪魔で唱えられない。間一髪スライムの攻撃を避けることができたが、そう何度も上手くいくものではないだろう。


「フン、逃げるのは得意ってわけか!」


 スライムの体はゴムまりのように柔らかいが、液体でできた体は自由に固さを調整できるらしい。体当たりを受けた木製の棚は、粉々に砕け散っていた。


「逃げ足の早い奴め! 次は逃がさんぞ!」

「んん~!!」

「オレのことも忘れんじゃねえぞコラァ!」


 マーガレットを庇うように、アセビがスライムに向かって銅の剣を振り下ろす。当たれば一刀両断だ。しかしスライムは背後に素早く飛んで避けた。

 見た目より素早い。アセビはスライムの動きに舌打ちするが、焦ってはいない。


「逃げ足が早いのはお前もじゃねえの?」

「フン」


 館のダイニングルームは広いが、壁や天井があるためいつまでも逃げ続けられるものではない。少しずつ追い込みながら戦えば、いつかは攻撃が当たる。アセビはそう考えていた。


「よし、アセビ! 私もいくぞ! 左から挟み込むようにすればっ!?」


 サツキはアセビの援護をしようとするが、突然マーガレットに抱きつかれてしまった。彼女は涙を流しながら口についた液体を必死に剥がそうとしている。

 自分だけでは剥がせないので、サツキに助けを求めているのだろう。


「むぐ〜!!」

「うむ! 私に任せるといいぞ!」

「んん!」


 サツキが液体を引っ張ると、しっかりと口に張りついていることがわかった。引っ張ると顔に激痛が走るらしく、マーガレットは涙を流してくぐもった声を上げている。

 愛する妹分の涙にサツキは心を痛めた。


「可哀想に……ん? まてよ……フフフッ」

「ん?」


 サツキは頬を染め、マーガレットの口についた液体を指でつつきながら語り始めた。


「お前は今、生きることの素晴らしさを感じられる状況にある……わかるな?」

「ん?」

「私がお前の鼻をそっと摘まんで、オトギリソウで斬ったら……フフフッ」

「んん!?」

「大丈夫だ。ちゃんと顔に張り付いた液体も、綺麗に斬ってみせる。呼吸が止まる前には、な」

「!?」


 サツキがそっとオトギリソウに手を伸ばす。自分が体験できなかったことを、マーガレットにするつもりなのだ。もちろん悪意はなく、善意で行おうとしている。

 サツキにとって、死の淵に立って生命を感じる瞬間こそ、何より大切で尊いものなのだから。


「サツキィ! お前なにやってんだぁ!?」


 アセビがサツキの異変に気づき、声を上げる。

 間一髪だった。あと数秒遅れていたら、大惨事になっていたかもしれない。

 アセビはスライムから距離をとって、急いでマーガレットとサツキに駆け寄った。


「命に関わるような助け方はダメ! お前の生命感じちゃうタイムはこの戦いが終わってからだ! 良い子だから、ね!?」

「フフフッ」

「フフフッじゃありません!」

「うむ」

「マーガレットのこと頼んだぜ! オレはスライムをなんとかするからよ!」

「フフフッ」

「……本当に頼んだからな?」


 アセビはマーガレットのくぐもった悲鳴を聞いたような気がしたが、振り向かずに銅の剣を握った。スライムに視線を向ける。

 アセビが攻撃をしかけるその前に、ルピナスが口を開いた。


「芋虫さん! 糸お願い!」


 ルピナスの指示で芋虫が糸をスライムに向かって吐き出した。絡めとられてしまい、身動きが取れない状態となっている。


「なんだこれは! うぜえよ!!」


 キャタピラーの吐く糸は、細く丈夫で簡単には千切れない。もがけばもがくほど絡まるのだ。

 素早いスライムも、このままではただの的である。

 アセビとルピナスが指を鳴らした。


「芋虫さん! グッジョブ!」

「でかした! ナイスコンビだぜ!」


 アセビは歓喜の声を上げ、ルピナスが芋虫の頭を撫でる。彼女は嬉しそうに体をくねらせた。芋虫はルピナスに褒められることこそ、最高の誉れだと思っているのである。

 アセビがゆっくりとスライムに近づいた。


「よぉ。不死王リッチはもっと強かったぜ」


 銅の剣が、芋虫の糸とスライムの柔らかい体を綺麗にまっぷたつにした。確かな手応えを感じ、アセビは背中向ける。

 しかし妙な胸騒ぎを覚えていた。

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