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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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ぼっちは自分に優しくしてくれた人を逃さない 1

 アセビの朝は早い。日が昇ると同時に目を覚ます。

 アセビは朝焼けに照らされながら、慣れた手つきでお湯を沸かし、コーヒーを淹れていた。


「この香り……最高だ!」


 朝食のコーヒーの準備は終わった。しかしアセビにはまだやることがある。

 幸せそうな顔で眠っているマーガレットを、起こさなければならない。起こさないと、いつまでもテントの中で寝ているからだ。

 マーガレットは、本能のままに、あるがままに自堕落に生きる女なのである。


「お~い、朝だぞ。そろそろ起きな」

「う~ん……眠いわ……もうちょっと……眠らせて」

「じゃあもう少し眠ってていいぞ。おやつがあるんだけど、オレが全部食うからな」


 おやつという言葉にマーガレットの脳が反応する。僅かに眠りから覚醒しつつあった。


「あ~ん……」


 マーガレットは半分寝ぼけているが、おやつを食べたいという意思で本能のままに行動していた。口を大きく開けて、アセビが食べさせてくれるのを待っている。

 これでは餌を食べさせてもらう雛鳥と変わらない。

 アセビは呆れつつも、コーヒーを木製のコップに注いだ。そしてそのまま、マーガレットの大きく開けた口に向かって、流し込んでいく。


「んん!?」


 マーガレットは目を大きく見開き、口からコーヒーを勢いよく吐き出した。


「ゴホッゴホッ! 何よこれ! 苦いじゃない! おやつは!?」

「おはよう。おやつなんてあるわけねえだろ」


 マーガレットを起こすには、優しく肩を揺らす程度では駄目だ。普通のやり方では効果がない。

 マーガレットは怒りで体を震わせていた。


「嘘つくなんて最低!! アセビは悪魔の生まれ変わりなんじゃないの!?」

「悪魔はお前だろ。早く食べな。片付かないだろ」


 アセビがマーガレットに小さなパンと水を手渡す。彼女は引ったくるように奪うと、勢いよくガツガツと食べ始めた。


「今日は畑仕事にしようか。天気も良さそうだしな」

「ぶ〜!」


 マーガレットはアセビを睨みながら、パンをかじっている。完全に機嫌を損ねてしまったようだ。

 アセビは流石にやりすぎたと思ったのか、頭を下げて謝罪の言葉を口にする。


「ごめんごめん。機嫌直してくれよ」

「ダンゴムシのくせに。ダンゴムシに興奮する異常者のくせに……」

「あのさ、その言い方やめてほしいんだけどマジで」




「お前さんたちよく来たな! ガハハ!」


 アセビとマーガレットが冒険者ギルドに入ると、受付の大男が待ってましたと言わんばかりに近づく。ふたりの肩を何度も叩き、ゲラゲラと笑った。

 大男は強面で体格が良いため、意味のわからない行動をすると非常に不気味である。


「おっちゃん。畑仕事の依頼ないかな? 清掃の仕事とかでもいいんだけど」

「あたしはルックスを活かした仕事がいいわね。美術のモデルのお仕事ないかしら?」

「畑仕事もモデルの仕事もいいんだがな! ちょっとお前さんたちに頼みがあってなぁ! 昨日の酒うまかっただろ? な?」

「おいしかったわ! いいわよ! あたしたちになんでも任せなさい!」


 ふとアセビは昨日のことを思い出す。

 大男のくれた酒は善意のものではなかった。アセビたちに頼みたいことがあり、断りにくくするために渡したものだったのだ。

 アセビは頭を押さえて苦笑いする。


「やられたぜおっちゃん……」

「なんのことだ?」


 大男はニヤニヤしながらとぼけた。

 タダより高いものはない。人はこうして学び、大人になっていく。


「期待してくれるのは嬉しいんだけどさ。命がけの仕事は勘弁してほしいんだぜ。ぶっちゃけワイバーン倒せたの奇跡だからさ」

「何言ってるのよ! ギルドのみんなにまた奇跡を見せてあげようじゃないの!」

「お前はなんでそんなに自信満々なんスか」


 マーガレットが得意げな顔で腕を組んだ。


「決まってるじゃない! あたしがスーパーアイドル天使マーガレットちゃんだからよ!」

「お薬多めに出しておきますね」

「いやいや、そんな難しい仕事じゃねえさ。ちょっと相手してあげてほしい子がいてな。お~い、ちょっとこっちに来てくれるか~?」


 大男の視線の先に、オーバーサイズの服装の小柄な少女が壁にくっつくように立っていた。彼女はゆっくりとカウンターに近づく。まるでなめくじのように。

 モコモコとした黄色い髪型が特徴的だった。触り心地が良さそうである。


「さ、自己紹介しな」


 大男に言われ、少女は震えながら頷くと、ゆっくりとアセビたちの前に立った。緊張しているのか、ハーフパンツから覗く頼りない細い足は小刻みに震えている。視線を合わせないようにするためか、うつむいていた。

 少女はなかなか口を開かない。すかさず大男がフォローに入る。


「はは! つい最近ギルドに来た子でな! 新しい環境になかなか馴染めていないみたいなんだ!」

「あら? 馴染めてないの? ふ〜ん、そういう子もいるのね。珍しいわ」

「お前ちょっと鏡見てこいよ」

「っていうわけでよ。お前さんたちに、この子の面倒をちょっとだけ見てほしいんだ。今日の仕事はこれでどうだ? 気持ち程度のお礼はするからよ!」


 アセビが少女を見ると、申し訳なさそうにうつむき肩を震わせていた。

 マーガレットは首を傾げ、手を挙げる。


「はいは~い! 素朴な疑問なのだけれど! 普通職場環境の問題って、冒険者ギルドの運営さんたちが面倒見てあげるものなんじゃあないの? あたし職員さんが相談に乗ってあげてるの見たことあるのだけれど」


 大男が頷く。マーガレットの目撃情報に間違いはないようだ。


「新人へのアドバイス、教育、メンタルのケアは俺が担当しているぜ。でもほら? 俺ちょっとだけ顔怖いかもしれないじゃん?」

「怖いわよ」

「この子に怖がられてるみたいでよ。ちょっとだけ顔が怖いから……」

「めちゃくちゃ怖いわよ」

「なかなか心を開いてもらえなくてよ。ちょっとだけ顔が怖いから……」

「マジでめちゃくちゃ怖いわよ」

「マーガレット、もういいだろ……」


 アセビがマーガレットを止めた。彼女は思ったことをそのまま口にするタイプだ。知らず知らずのうちに、素のテンションで人の心を傷つけるのである。どこまでも悪魔のような女だ。

 大男の目に光るものが浮かんでいたが、アセビは見て見ぬふりをした。


「アセビ……頼めるか……?」

「あぁ……いいよ……」


 アセビが再び少女に視線を移す。顔は青ざめ、体全体が震えていた。

 気になることは多々あるが、何にせよまずは自己紹介をするべきだとアセビは思った。互いのことを知らなければ、何も始まらないからだ。


「やぁ! オレはアセビ・ワビサビー! この冒険者ギルドに来たばかりの新人冒険者だ。よろしくな!」

「あたしはマーガレット・デット・ダメット! 回復魔法が得意な心優しい美少女よ!」


 少女が口を開いた。


「………ぼ、ぼく……は……ルピナス……ルピナス・ルミエール……で……す……」


 ルピナスは視線を合わせず、蚊の鳴くような声でゆっくりと答えた。勇気を振り絞って答えたのだろう。何度も深呼吸している。

 そんなルピナスを、マーガレットはじろじろと珍しいものを見るような目で見つめていた。


「じろじろじろじろ」

「ひっ……」


 アセビは確信した。ルピナスは他人との会話が超苦手なタイプである、と。俗に言うコミュ障である、と。


「ルピナスちゃんだね? 覚えたよ。よろしく」

「……よ、よろ……しく……」


 アセビは握手をするため、ルピナスの前に手を差し出した。彼女はためらっているが、目の前の青年は親しみやすそうなオーラを放っている。

 危害は加えないと判断したのか、ルピナスが恐る恐るアセビの手を握り返そうとした。そのときである。


「わ~! やわらか~い!!」


 マーガレットが、ルピナスのモコモコした髪をベタベタと触り始めた。気持ちよさそうに目を細め、犬を撫でるように手を動かしている。


「お前何やってんだマーガレットォ!!」


 アセビが怒鳴りつけるも、マーガレットはルピナスの髪の毛から手を離さない。ヘアースタイルがどんどん乱れていく。

 緊張しているコミュ障に刺激を与えてはならない。ルピナスは体を震わせ、目には涙が浮かんでいた。


「うぅ……怖いよぅ……」

「この子は赤ちゃんと同じぐらいデリケートに扱わないといけないタイプだ! 間違いねぇ! だから早く離せってマジで!」

「モコモコ~! これは癒されるわ~! ルピナスだっけ? あなたの髪の毛わんこみたいね! ほらアセビも触っでっ!?」


 アセビの強烈なデコピンが、マーガレットの額に容赦なくぶちこまれた。脳天を貫く痛みに耐えきれず、彼女はダンゴムシのように体を丸めている。

 アセビは怒りで肩を震わせていた。

 一方ルピナスは目頭を押さえて泣き出している。

 大男が天を仰ぐ。


「俺には祈ることしかできねぇ」

「とりあえず……食堂行って何か飲もうか……」


 悪い流れを変えなければならない。

 アセビは額を押さえるマーガレット、目頭を押さえるルピナスの手を取った。


「あっ……」


 ルピナスの細く頼りない手が震えていた。

 心配したアセビが、腰をかがめ視線を合わせる。ルピナスは目を伏せた。


「どうした? どっか痛い?」


 アセビが尋ねると、ルピナスはためらいがちに口を開いた。


「食堂……人……多そう……」


 コミュ障にとって人口密度の濃い場所は、危険地帯なのである。

 アセビは笑いながら食堂を指差した。


「昼になると多いけど、今の時間帯ならそんなに多くないよ。立ったまま話すのもアレだし、ゆっくり座って話さない?」

「……うん」


 ルピナスは納得したのか、こくりと頷く。

 慎重に、確実に、刺激しないように。

 アセビは、必死だった。

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