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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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館まるごと超決戦 4

 アセビ一行とフジフクシアコンビは森を抜け、山岳地帯へ到着していた。例の近道へと繋がっているゴブリンの巣へ向かって周囲を警戒しながら進んでいる。


「ここだったな。一応気をつけながら入ろう」

「わかったわ」


 中に入ると音がなく、モンスターの気配もない。

 よく見ると、以前アセビたちが倒したゴブリンの血が壁に飛び散っていた。過去殺戮に近い行為が行われたことの証明である。そのせいでモンスターが近づかなかないのだろう。


「ゴブリンはいないか。安心したぜ」

「ククッ、住人はお前たちが殺したんだろ?」

「正解! サツキさんがやりました!」

「わ、私だけじゃないぞ!」

 

 アセビは例の穴があった場所へ向かった。埋められていたらと不安になったが、しっかりと残されている。問題なく霧の森へと進めるだろう。


「この穴だぜ。霧の森に繋がってるんだ」

「思ったより小さいな。俺でも通れるだろうか」

「大丈夫大丈夫。這って進めば、体の大きさは関係ないからさ」


 アセビとフジが穴を観察していると、女子たちも周囲に集まってきた。

 マーガレットは欲に溺れて暴走した結果、仲間たちに迷惑をかけてしまった過去を思い出したらしい。呼吸を荒くしている。アセビが気付き、手を優しく握った。


「マーガレット、もう誰も気にしてないから忘れろ。クレマチスにもちゃんと帰れたし、今じゃみんなで笑える思い出みたいなもんだ」

「そうね! あたし嫌なことぜーんぶ忘れちゃった!」


 マーガレットが目を輝かせ、得意気に胸を張る。アセビは僅かに口元を緩め、穴に向き直った。

 嬉しそうなマーガレットを見て、ルピナスがそっと口を開く。


「確かマーガレットは、この後不死王リッチの館で宝石を持っていって……」

「しーっ」


 サツキが唇に人差し指を当てて、ルピナスの言葉を遮った。過去の過ちを掘り返すのは無粋だと判断したのである。


「じゃあオレたちから先に穴に入るから、女の子たちは後からついてきて」

「はーい」


 アセビはそう言うと、さっさと穴に入った。しばらくしてフジが女子たちを見回し、サツキに目を向ける。


「黒鬼……じゃなかったサツキ」

「……どうした?」

「あんたは最後に入ってくれないか。ゴブリンがやってこないとも限らないからな。守りは任せたい」

「そのつもりだ。安心してほしい。守ることは私の得意分野なのだからな」

「助かるぜ」


 サツキの心強い言葉を聞き、フジは頷く。彼もアセビのあとに続き、穴へと入っていった。


「次はわたしが行きますね」


 フジのあとに続こうと、フクシアが小走りで穴に向かうが、マーガレットが背後から声をかける。


「そういえばぁ、フクチャン、さっきぃ、あたしにぃ、何かぁ、言おうとぉ、してたわよねぇ?」


 マーガレットのねっとりとした声が、フクシアの耳に届く。

 ルピナスは空気がサッと変わるのを感じ、サツキの背中に隠れた。


「怖いよぅ」


 背中を向けていたフクシアが振り向いた。笑みを浮かべている。


「……何のことかな?」

「とぼける気? あたし記憶力には自信あるのよね。何とかのくせにって言ってたでしょ?」

「……覚えてないな。勘違いじゃないかな?」

「ふ〜ん。いい子ぶらなくてもいいわよ」


 アセビがいないことをいいことに、マーガレットはネチネチと口撃し始める。

 フクシアはのらりくらりとかわし、笑顔のまましらばっくれた。一見すると余裕を感じさせる態度だが、内心どう思っているかはわからない。

 マーガレットがフクシアに詰め寄ろうと動いたその瞬間、サツキが肩を掴む。


「マーガレット、フクシアは私たちの恩人だ。忘れたわけではないだろう?」

「怖い顔しないでぇ……ちょっと聞きたいことがあっただけなのよぉ……」


 サツキに睨まれ、マーガレットは小さくなった。黒鬼の異名を持つ姉貴分のことは恐ろしいようだ。

 マーガレットはサツキの手から逃れると、壁の近くまで下がった。


「もう……サツキは怖いわね……ん?」


 マーガレットが正面を見ると、フクシアがナイフを握っていた。笑顔はない。無表情のまま、マーガレットをじっと見つめている。


「なに……?」


 フクシアはナイフをマーガレット目掛けて投げた。迷いは、ない。

 鋭い切っ先のナイフはマーガレットの頬をかすめ、壁に突き刺さった。あと数センチずれていたら、大惨事になっていただろう。

 マーガレットはショックで、口をパクパクと動かすことしかできずにいた。その様子を見たフクシアが、苦笑しながら壁をそっと指差す。


「その虫には毒があるんですよ」


 恐る恐るマーガレットが首を動かすと、蜘蛛に似た赤色の虫が、ナイフで貫かれていた。すでに絶命しているのか、動かない。

 マーガレットは恐怖で体を震わせる。少しでもずれていたら、自分がこうなっていたのでは、と。


「あなたは炎魔法の使い手なだけでなく、ナイフ投げの達人でもあったんだな」

「達人だなんてそんな……」


 サツキの称賛の声にフクシアは頬を赤く染める。彼女は壁に刺さったナイフを抜くと、怯えたような目で見つめるマーガレットに向かって、冷たい笑みを浮かべた。


「何をそんなに怯えているのかな?」

「あ……あ……」

「ん?」


 フクシアはマーガレットの頬から血が流れていることに気づく。拭き取るために、アセビからもらったハンカチを取り出した。

 しかしフクシアは首を横に振った。


「……これを汚していいのはわたしだけ」

「何を言って……」


 フクシアはマーガレットに抱きつき、そのまま舌で彼女の頬を舐めた。奇行としか思えない行為。

 マーガレットは体を硬直させ、ルピナスとサツキも目を丸くしている。

 フクシアはマーガレットの耳元に口を近づけ、小さな子どもに優しく言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「アセビくんが一生懸命働いて用意した食料を食べなかったくせに、いつも迷惑かけてるくせにって、そう言ったんですよ」

「……えっ?」


 フクシアはそれだけ言うとマーガレットに向かって微笑み、穴へ入って行った。


「うぅ……」


 マーガレットは忘れたい過去を掘り返され、精神的に大きく揺れている。頬を押さえ、その場にしゃがみこんでしまった。


「あたしが全部悪いのだけれど、嫌なこと思い出させてくれるわ……サツキとは違う怖さね……本当に……」

「サツキも怖いよぅ」

「むむ! 私は怖くないぞ!」

「とりあえず……あたしたちも行きましょうか」


 マーガレットは両頬を叩いて立ち上がると、例の穴へと向かって歩みを進めた。

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