とびっきりの問題児ども対ほねおじさん 14
「さて、帰るかね」
「おー!」
ギルドの冒険者たちやキャタピラーたちは、帰るべき場所に戻った。クレマチスの入り口周辺には、アセビ一行しかいない。
すでに夕日が顔を覗かせている。アセビの胃袋は悲鳴をあげそうになっていた。みんなのお家に向かって1歩踏み出すと、マーガレットが腕を握る。
「アセビ、あたしがんばったわよね? ご褒美のジャムパンが食べたいわ!」
「ぐりぐりでいいか?」
「ごめんなさい調子に乗りました」
「フフフッ」
サツキがマーガレットの頭を撫でた。アセビに向かって愛する妹分の背中を押し出す。
「私はご褒美をあげてもいいと思う。どうかな?」
「マーガレットのヒールは、悪魔の魔法みたいですごかったなぁ。あれが効いたから勝てたと思うの!」
「ルピナス、ヒールは癒しの魔法なのだけれど」
「う?」
クレマチス全体を巻き込み、大迷惑ムーブをしたマーガレットだが、彼女がいなければ不死王リッチを倒せなかったのは事実だ。それはアセビも認めている。
「しょうがねえなぁ」
「えへへ」
アセビがポケットからジャムパンを取り出そうとした瞬間、右腕に激痛が走った。まるで剣で貫かれたような衝撃。
アセビは左腕で右腕を押さえ、うずくまった。
「ぐおっ!? オレの右腕が……ッ! オレの右腕がぁぁぁ!!!」
「アセビさん? そういうのはもう卒業したでしょ?」
やれやれと呆れるマーガレットだが、アセビが意味なくふざける青年ではないことを知っている。
女子たちは全員で顔を見合わせ、はっとした表情を浮かべた。
「これがリザレクションの代償!?」
「やだよぅ! アセビしっかりしてよぅ!!」
「アセビ!?」
アセビは痛みで顔を歪めている。彼はこれからありとあらゆる苦痛に襲われるのだ。蘇生の代償は、あまりにも大きい。
ルピナスとサツキがアセビの手を握った。
「アセビ! 死なないでぇ!」
「代わってやれるなら私が代わってやりたいが……」
「へへっ……なんとかなる……さ……っ!」
アセビは歯を食いしばって、汗を滝のように流している。痛みが全身に広がっていく。地獄のような時間が訪れてしまった。
苦痛に襲われるアセビを見て、マーガレットは体を震わせた。不死王リッチ斬られ、一時的に命を失ったことを思い出してしまったのである。
「アセビ! あたしが絶対に死なせないわっ! 死なせるもんですかっ! ヒール!!!!!!」
マーガレットがステッキを振る。気合いの入った本気のフルスイングだ。光がアセビを包みこんでいく。
「いってぇ……あれ?」
アセビは体の痛みが引いていくのを感じていた。マーガレットのヒールのおかげだろう。自身の体を触り、その場で跳び跳ね、痛みがないことを確認する。
心配そうに見つめている女子たちを安心させため、アセビはその場で踊っておどけてみせた。
「アセビくん復活だよ〜ん!」
「良かったよぅ! アセビ死ななかったよぅ!」
「うむ! 私も嬉しい……」
「安心したぜ」
瞳を潤ませるルピナスとサツキ。心の底から無事を喜んでいるのだ。
アセビが視線を感じて目を向けると、マーガレットがじっと見つめていた。得意げな顔で腕を組んでいる。誰のおかげで痛みが引いたのか、それは理解してるんでしょおと言わんばかりの表情だ。
「アセビぃ。あたしにぃ。何かぁ。言わないとぉ。いけないことぉ。あるわよねぇ?」
マーガレットはニヤニヤとした笑みを浮かべ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。誰のおかげで、この窮地を乗り越えられたのかを理解させるように。元々誰のせいで死なないといけなくなったのか。そのことをすっかり忘れてしまっている。
アセビは踊るのをやめた。マーガレットを強く抱きしめ、頭を優しく撫でた。
「マーガレット、ありがとうな。オレが生きていられるのはお前のおかげだよ」
「あっ……」
アセビの予想外の行動に、マーガレットは目を白黒させる。悔しそうに自分に感謝の言葉を吐くと予想していたのだ。そんなアセビを見て、ゲラゲラ笑って煽るつもりだったのである。
マーガレットは急に恥ずかしくなり、アセビを突き飛ばそうとしたが、がっしりと押さえられている。抵抗することはできない。
「は、離してよ……恥ずかしいじゃない……」
「ああ、すまん! 痛かったよな」
「待って! やっぱりもうしばらくこのままで!」
マーガレットは嬉しさを隠せず、照れ臭そうに笑いながら、アセビに抱きつく。ルピナスとサツキは、優しい目をして眺めていた。
リザレクションは死を先延ばしにする、役に立たない黒魔法と言われている。しかしアセビと不死王リッチは仲間への思い、絆の力で乗り越えることができた。リザレクションは、支え合える仲間の大切さを使用者に再認識させるための魔法なのかもしれない。
「マーガレット? もういいかな?」
「もう少しだけ! えへへ!」
「ぼくもアセビにぎゅってしてほしいなぁ」
「フフフッ今はマーガレットに譲ってあげようじゃないか」
問題児はすっかり甘えん坊になってしまっている。マーガレットは、いつまでも、いつまでもアセビに抱きついているのだった。
「マーガレット……? もういいよな……?」
「いやん!」
「マジっスか……困ったなぁそろそろみんなで晩飯食べたいんだけど……」
「えへへ!!」




