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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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とびっきりの問題児ども対ほねおじさん 13

「ヒール……ってもうできないわ。エネルギーがなくなっちゃったみたい。残念ね」


 マーガレットの連続ヒールが終わった。地獄のような時間がようやく過ぎ去ったのだ。

 不死王リッチは地面に這いつくばりながら、無様に震えていた。度重なるダメージの影響か、身長が元に戻っている。全身は目を背けたくなるほど無惨に傷ついていた。生きているのが奇跡な状態である。

 不死王リッチは死を超えた存在になった。しかしそのせいで生き地獄を味わうことになったのである。なんとも皮肉な話だ。


「……わ、わしは……俺は……不死王リッチ……! 誇り高き……孤高なる不死王……!」


 不死王リッチは絞り出すように声を出した。今の彼を支えているものは、気力と執念と不死王という名の異名だけである。


「ここは……戦略的撤退だ……この借りは必ず返す……それで俺の面子は保たれる……これは延長戦よ……」


 不死王リッチは地面を這いつくばりながら、なめくじが這うようにゆっくりと移動している。本当は撤退したくなかったのだろう。ぶつぶつと自分に言い聞かせるように、言い訳している。


「大丈夫だ……まずこの傷を……あっ」


 不死王リッチがふと視線を感じて頭を上げると、武器を握ったアセビ一行がいた。全員無表情のまま、黙って不死王リッチを見下ろしている。


「あ、あの……」


 アセビ一行は何も答えない。


「わし……お家に帰っても……いいかな?」


 アセビ一行は何も答えない。


「みんな人を殺すときの目しちゃってるじゃん。ほら笑顔笑顔? スマイルスマイル?」


 アセビ一行の目は、獲物を前にした猛禽類のそれと同じだった。瞬きすらしない。ただじっと不死王リッチという名の獲物を見つめている。

 これまで沈黙していたアセビが、口を開いた。


「お前たち……やれ」

「あいよー」

「うん」

「承った」


 その言葉を待っていたと言わんばかりに、マーガレットが、ルピナスが、サツキが、手にした武器を容赦なく不死王リッチの体に叩き込む。確かな手応えを感じながら、何度も、何度も、何度も。

 延長戦などないのだ。問題児どもは、ここで決着をつけるつもりなのだから。


「やっちゃえやっちゃえ!」

「えいっえいっ!」

「せいはっとぅ!」

「ぎゃああああああああ!!!!!!」

「食らえや! これでとどめじゃ!」


 アセビが不死王リッチの頭部に、銅の剣を思いっきり叩きつけた。そこには容赦も慈悲もない。全身全霊本気の一撃だ。

 骨が割れるような音が、周囲に響く。


「あらいい音ね」

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!」


 頭部へのダメージが体全体にも伝わったらしい。不死王リッチの肉体にヒビが入っていく。数秒もしないうちに綺麗に砕け散った。

 奇跡的に頭部は残っているが、ダメージのせいか、ひび割れている。すぐにでも砕けてしまうだろう。


「不死王リッチ! これが絆の力だ!」

「そうよ! これがあたしたちの力よ!」

「ぼくたちがんばったよぅ! 大逆転だよぅ!」

「うむ! 我々の勝利だな!」


 アセビが不死王リッチを指差し、その背後で女子たちが得意げな顔をしながら、それぞれ思い思いにポーズを取っていた。完全に気持ちよくなっている。

 不死王リッチが呆れたようにため息をついた。


「いやいやいやいや。絆の力っていうかさ。貴様たち寄ってたかって無抵抗のわしをリンチしただけじゃん。こんなもんその辺のちびっこでもできるわ」

「……そうっスね」

「ぶっちゃけわしの思い描いていたような戦いやってほしかったっつーか。4対1でバチバチにさ。そしたらほら、お互い気持ちいじゃん。それならわしも負けたとしても悪い気しないじゃん。お?」

「……そうね」

「なんかなかったの? 連携攻撃的なのとか」

「……ないよ」

「エネルギーを集めて発動する魔法的なのとか」

「……ない」

「何が絆の力だよふざけんなよ。ただの暴力じゃねえかよバカどもがよ」


 その通りである。

 アセビ一行は言い返せず、口をもごもごさせた。不死王リッチのため息だけが聞こえる。

 気まずい空気を変えるため、アセビが口を開く。


「リッチさん。そのぉ、正直あんたかなり手加減してくれてたよね」

「まぁ……バレバレよな」


 アセビの言葉を聞き、不死王リッチの口元が緩む。空気が和やかになったのを察し、アセビ一行は内心ほっとしていた。


「実はさ。俺元冒険者なんだよね。ちょうど貴様たちぐらいの歳に仲間を集めてさ……貴様たちを見てると昔の俺や仲間たちを思い出してしまって、どうしても本気を出せなくてなぁ……」

「なるほど。途中お節介焼きおじさんモードになったのは、そのせいと……」

「そう……あれは俺が若かりし日の……」


 不死王リッチの目は空洞になっているが、アセビには遠い目をしているように見えた。


「あの日俺は仲間のクッキーをつまみ食いしたせいで殺されそうになって……それで……」


 不死王リッチは過去を懐かしむように、しみじみと自身の思い出話を語っている。残念ながら、まだまだ終わりそうにない。このままでは長期戦は避けられないだろう。たまらずマーガレットが手を挙げた。


「リッちん! 続きはまた今度でいい!?」

「こっからが面白いんだぞ? ってかこれはわしの過去編やる流れじゃね?」

「ふざけんなよ骨野郎」

「ぼくたちもすぐそっちに行くよ。続きはそのときに聞かせてほしいかも」

「……そうするか」


 ルピナスに優しく諭すように言われ、不死王リッチは納得したらしい。思い出話は終了した。過去編など、あるはずもない。

 思い出話が終了したからだろうか、不死王リッチの頭部がふたつに割れた。少しずつ灰になっていく。終わりの時が近い。

 不死王リッチはまだ喋れるようだ。口を動かして声を出した。


「そういえば、さっき黒髪の女が自分たちは花だと言っていたな。どちらかと言うと貴様たちは雑草だろ。しかも何度抜いてもしつこく生えてくるウザいタイプ」

「ははっ雑草か……違いない!」


 アセビ自身、自分たちは雑草のような存在だと思っている。嫌われて、避けられて。しつこくて、無駄に根性があって。つまり、たくましく生きているのだ。

 雑草。まさに問題児たちに相応しい呼び名である。

 アセビはふと思った。宝石を奪われただけでなく、リンチされた不死王リッチのことを。よくよく考えたらやったことは盗賊そのものである。アセビは気まずそうに不死王リッチに向かって頭を下げた。


「なんか……本当すんませんっした……今さら言っても遅いけど」


 不死王リッチが僅かに頭部を楽しそうに揺らす。謝罪されて少しは溜飲が下がったのかもしれない。


「気にしないでいいよ。遅かれ早かれ、いつかあの街に攻め込む予定だったから」

「えっ、そうなんスか」

「死ぬのが早まっただけなのよ。それにもうわし十分生きて楽しんだしな」


 不死王リッチはけろりとした様子で語る。死を超越した存在となったが、自身の生き死にについては、わりとどうでもいいのかもしれない。大切なのは誇りと面子だけなのだろう。


「あっそうだ。俺を倒したとなると、仲間が黙っていないかもしれないからさ。そこだけは気をつけてね」

「えっ!? 仲間!? なにそれ!?」

「俺は最強四天王のメンバーだから。そこまで仲良くなかったから、スルーされるかもしれないけど」

「……四天王」


 ルピナスは四天王という単語に目を輝かせる。そんな状況ではないのだが、目覚めている年頃の少女だから仕方がないのだ。

 アセビは衝撃の事実に愕然とする。


「リッチのような猛者があと3人も……マジかよ……」

「勘弁してほしいわね」

「いや? 実力的に俺がナンバー2かなぁ。ぶっちゃけそんな強くないよ、あいつら」

「ぶっちゃけすぎだろ」

「安心したわ」


 不死王リッチの本音トークにアセビは呆れるが、内心安堵もしていた。仲間が復讐に来てもどうにかなると思ってたのだ。

 しかし安心できる情報だけではなかった。不死王リッチがさらに言葉を続ける。


「ただ……他の連中はともかく、リーダーの最強王ちゃんはマジに強いぞ」

「最強王……」


 アレなネーミングセンスである。

 しかしあの不死王リッチが警告するのだ。実力は本物に違いない。


「俺から言えるのはそれだけだ。じゃあな雑草ども。最強王ちゃん……地獄で応援してるからね」


 不死王リッチはそれだけ言うと灰になった。風とともに消えていく。戦いは終わったのだ。アセビ一行の勝利という形で。

 しかし不死王リッチが最期に残した言葉のせいか、マーガレットは不安そうな表情を浮かべている。最強王を恐れているのだ。心にしこりが残っているせいで、素直に勝利を喜べないのだろう。

 アセビがマーガレットの背中を叩く。笑いながら親指を立てた。


「おいおいなんて顔してるんだよ。今は不死王リッチとの戦いが無事に終わったことを喜ぼうぜ! マーガレットもよくがんばってくれたな!」

「そうね! やったぁ!」

「ぼくたちの勝利だね!」

「フフフッみんな頑張ったな!」

「お疲れさんでした!」


 アセビ一行は全員でハイタッチして喜んだ。長い戦いが終わり、平和が守られた。完全勝利である。

 アセビ一行が視線を向けた先に、冒険者たちとキャタピラーたちの姿が見えた。幸い死者は出ていないが、全員満身創痍である。


「マーガレット、もうヒール使えそうか?」

「多分大丈夫だと思うわ。やってみるわね」


 マーガレットがステッキを振り、声高々に唱えた。


「みんなありがとっ! ヒール!」


 マーガレットのヒールは広範囲に効力を発揮し、傷ついたものたちを癒す。彼らは傷だらけで疲れ切っていたが、少しずつ元気を取り戻していった。

 アセビは指を鳴らして喜ぶ。


「すごいな! 同時にあの数のを癒せるのか! お前は回復魔法の使い手としてどんどん成長しているよ!」

「えへへ! もっと褒めなさい! あたしは常に成長期なのよ! 褒められてすくすく伸びていくの!」


 アセビ一行は協力してくれたギルドの冒険者たちとキャタピラーたちに謝罪とお礼を言うために近づく。

 大男がアセビ一行に気付き、笑顔で手を振った。他の冒険者たちもアセビ一行を見て笑みを浮かべる。


「みんなー! リッちん倒したわよー!」

「結局みんなを巻き込んじまったなぁ……ごめん」

「気にするな! 終わり良ければってやつよ!」

「お前たちもやるじゃねえか! 不死王リッチを4人だけで倒したんだからよ!」

「キャタピラーたちを呼んでくれたのは、そっちの小さい子かい? こっちこそ助かったよ」


 大男や冒険者たちの優しい言葉に、アセビは胸の奥が熱くなっていた。目に光るものが浮かぶ。クレマチスを失うようなことにならなくて良かったと、心から思うのだった。

 アセビはこの戦いに関わった者たち全てに対して、感謝の気持ちを込め、深く頭を下げる。


「みんな……ごめん……でも、ありがとう!」


 アセビの隣でマーガレットが肩をすくめ、薄ら笑いを浮かべていた。不死王リッチという脅威が去り、余裕を取り戻したらしい。いつもの問題児に戻ってしまっていた。回復魔法の実力だけでなく、精神面の方も成長してほしいものである。


「みんなごめんなさいね! アセビのこと許してあげてくれないかしら? 彼こう見えて責任感あるのよ」


 何かが切れたような音がした。

 ルピナスとサツキが、頭を下げたままのアセビを見つめる。額には青筋が浮かんでいた。そこから血が吹き出しているのが見える。キレた。確実に、キレた。

 先ほどの異音は、アセビの我慢が限界を超えたことを知らせる音だったのである。


「ま? あたしのおかげで? 倒せだっ!?」


 マーガレットの言葉を遮るように、彼女の足首をアセビが蹴り飛ばす。地べたに倒れたマーガレットの足を掴み、自身のそれを絡めて、締めつけた。流れるように繰り出された四の字固め。見事なものである。

 マーガレットはたまらず悲鳴をあげた。


「いやああああああ! 痛いわああああああ!」

「お前のせいでこうなったんだろうがぁぁぁぁ!」

「ごめんなさぁぁぁい! アセビ! みんな! ごめんなさぁぁぁぁぁぁい!」

「許さん!」


 周囲の冒険者たちがゲラゲラと大声を出して笑う。

 不死王リッチとの戦いは終わったが、マーガレットの地獄は始まったばかり。お楽しみはこれからだ。


「もう許してぇぇぇぇぇぇ!!!」

「もう迷惑かけないか?」

「かけないですぅぅぅ!!」

「もうダンゴムシって言わないか?」

「……イワナイワ」

「延長戦入りまーす」

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」


 変わらない日常が、明日を待っている。

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