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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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ダンゴムシ

 さんさんとふりそそぐ太陽の恵み。それは作物を実らせ、洗濯物を乾かす。人々の生活になくてはならないものだ。

 しかしその太陽の恵みに感謝をしない者もいる。


「暑くない? 太陽って本当に必要なのかしら?」


 マーガレットである。

 白い頭巾、白いワンピースを泥だらけにしながら、熱心に薬草の採取に励んでいた。

 マーガレットの発言を聞き、赤毛の青年アセビが笑顔を向けた。半端な人の良さが災いし、貧乏くじを引いてしまった哀れな男である。


「お前もこの暑さにはすぐ慣れるさ! さあもう少しで袋いっぱいに薬草が集まるぞ! もう少しだけがんばってくれ!」


 地元の村で毎日畑仕事をしていたアセビにとって、太陽の日差しは恵みであり、友だちだ。あって当然のものである。


「ぶ~! でもいつまでも愚痴っていられないわ! じゃあもう少しだけがんばるわね!」

「おう、その意気だ! ちなみにお前がさっきから大事に集めてるのそれ薬草じゃないから。雑草だから」

「えっ」




 ここ数日、アセビは薬草の採取、畑仕事を中心に行っていた。ワイバーンを倒した大型新人にしては、地味な仕事である。

 マーガレットは疑問を覚えていた。新人向けの仕事以外に挑戦してもいいのでは、と。


「ねぇねぇ。新人さんのお仕事じゃなくて、もう少しレベル高いお仕事しない? サイクロプス退治とかタイタン退治とかどう?」

「もう少しってレベルじゃねえぞ! いいか! 無理はダメだ! 命は! 1つしか! ないんだから!」


 アセビとマーガレットがワイバーンを倒せたのは、奇跡としか言いようがなかった。冒険者ギルドでは功績が認められて有名になったが、当然純粋な実力で勝てたわけではない。当然アセビはそのことを認識している。そのため、地道にコツコツ稼ぐ道を選んだのだ。


「よし! 袋いっぱいになったな。帰ろうぜ!」

「やったぁ~!」


 マーガレットが手を叩いて喜ぶ。トレードマークの白い頭巾と白いワンピースは、すっかり泥で汚れてしまっていた。

 しかしマーガレットは気にしていない。汚れたのなら洗えばいい。そして何より、労働のあとの食事が楽しみなのだ。

 それはアセビも同じである。働いたあとに食べる食事は別格なのだ。


「アセビ! はやくはやく!」

「あいよ」


 マーガレットは満面の笑みを浮かべ、食事が待ちきれないとばかりにアセビの腕をぐいぐいと引っ張った。

 本能のままに生きるわがままな少女だが、不思議とアセビは微笑ましい気持ちになっている。ただの問題児と思っていたが、一生懸命労働に取り組む姿に、心が動かされたのだろう。


「えへへ! 薬草これだけ集めたんですもの。報酬ちょっとはおまけしてくれるかもしれないわね!」

「そうだといいな! ちなみにだがお前の集めたのほとんど雑草だったから。半分以上捨てたから」

「えっ」


 ふたりは森を出て、急ぎ足でクレマチスへと戻った。




 クレマチスの冒険者ギルドは、酒場と食堂も同時に経営している。仕事を終わらせた冒険者が利用することが多く、いつも賑やかなのはこれらが原因だ。

 アセビたちは素早く食堂の席に着き、マーガレットが大声で注文を叫ぶ。


「おばちゃんいつものお願い!」

「パンの耳と野菜スープセットのことっス」

「あいよ! 待ってな!」


 恰幅のよい食堂のおばさんが元気よく返事をし、厨房に入った。

 冒険者ギルドで1番安い料理は、パンの耳と野菜スープのセットだ。節約したい冒険者専門の料理である。質素ではあるが、量はそれなりに多く、味も悪くない。

 何より労働後の食事だ。まずいわけがないのだ。

 しばらくすると、食堂のおばさんが注文したパンの耳と野菜スープセットを持ってきた。


「ゆっくりしていきなよ!」

「わーい、いただきます!!!」

「あざーす! いただきます!」


 アセビは野菜スープの中に入ったキャベツを味わいながら、正面を見る。マーガレットが、幸せそうな表情でパンの耳をかじっていた。よほど美味しく感じたのだろう。質素な食事なのに、まるでご馳走を食べているかのような表情だ。

 アセビはマーガレットに自分の食事を分けてやることにしたらしい。パンの耳を手渡した。


「オレの分のパンの耳食べるか?」

「いいの!? ありがと!!」

 

 マーガレットが再び幸せそうな表情で、パンの耳をかじった。両頬を押さえ、喜びで体を震わせている。パンの耳でこれだけ満足できるのは、冒険者ギルド内でもマーガレットだけだろう。

 アセビはふと思ってしまった。悪魔みたいな女のくせに、少しは可愛いところがあるじゃないか、と。


「よぉ! お前さんたち、パンの耳と野菜スープだけで満足かぁ? 足りなくないかぁ?」


 アセビの耳に聞き覚えのある声が届く。

 振り向くと受付の大男が両手に酒瓶を握っていた。意味深な笑顔を浮かべている。元々強面な顔のため、少々不気味だ。

 大男はテーブルに酒瓶を置くと、用はすんだとばかりに背中を向け立ち去ろうとしていた。


「おっちゃん、これは?」

「俺の奢りだ! ガハハハハ!! 遠慮するんじゃねえぞ?」


 アセビとマーガレットの顔を見ず、大男は足早にその場を去った。


「マジでお酒!? 本当にいいの!? おじさんありがと! 優しいのね。顔怖いけど」

「……」


 マーガレットは狂喜乱舞するが、アセビは妙な胸騒ぎを覚えた。彼は俗に言うマーガレットちゃん係だ。運営の人間、所属している冒険者たちもその認識である。

 そのおかげだろう。食堂でおかずをサービスしてもらったり、報酬を増やしてもらえたことが、これまで何度もあった。


「お酒久々ね! いっただきまーす!」

「酒か……確かに嬉しいけど」


 アセビは大男が持ってきた酒瓶を見つめる。この酒も、冒険者ギルドからのちょっとしたお礼の気持ちなのだろうか。

 アセビは不安に思いつつも、久々の酒を楽しみたいという思いに駆られる。誰も酒の魅力には逆らえない。


「あはは~! お酒最高!」


 マーガレットはすでに酒を飲み干していた。欲のままにあるがままに生きる女である。


「まー、いいよな……たまには……飲んでも……」

「アセビ。ちょっといい?」

「まだ食い足りないのか?」

「ううん。そうじゃないの。アセビは信用できるからあたしのこと話しておくわね」

「ん? 何を話すって?」

「あたし本当は天使なのよね。人を幸福にするため、徳を積むためにここにきたの。内緒にしてね」


 マーガレットは突拍子もないことを言い始めた。彼女は頬を赤くしてにししと笑っている。

 何を言ってるんだこの女は。お前は天使じゃなくて悪魔だろ。アセビはそう思わずにはいられなかった。


「天使ねぇ……」

「そ! 絶対誰にも言わないでね!」


 マーガレットはニヤニヤとしながら、アセビをじっと見つめている。顔は赤く、完全に酔っぱらっているようにしか見えない。

 アセビは思わず鼻で笑ってしまった。


「へっ、何が天使だ。悪魔みたいな女のくせに」

「ちょっと信じてないでしょ!」

「借金背負った天使がいるものかよ」

「もうっ! 借金はちゃんと返すってば! それと可哀想な人見るような目であたしを見るのやめなさい!」


 アセビの小馬鹿にする視線に対して、マーガレットが赤い顔を膨らませる。

 これまでの所業を見ると、天使というより悪魔そのものである。アセビの反応も仕方がないだろう。


「信じてないでしょ!」

「ああ、信じてるよ。天使ね、はいはい。それより借金早く返せよ」


 マーガレットは、自分の言うことを信じてくれないアセビに苛立ち始めていた。酒を飲んだこともあり、怒りやすくなっている。 

 マーガレットは苛立ちを抑えきれず、アセビの分の酒瓶を手に取り一気に飲み干した。


「あっ!? オレの酒が!?」

「フン! あたしの話をちゃんと真面目に聞いてくれないからよ! いい? よく聞くのよ? あたしは天使なの! だから……」

「ならよォ~! 今すぐこの場で本物の天使にしてやるよオラァッ!」


 アセビは楽しみにしていた酒を奪われ、怒りの化身になっていた。顔がみるみるうちに赤くなっていく。

 アセビはマーガレットの背後に素早く移動し、彼女のこめかみを拳で挟んで圧迫した。マーガレットの頭部に激痛が走る。


「いやぁぁぁぁ! ぐりぐりしないでぇ!! アセビのお酒飲んでごめんなさぁぁぁぁい!」

「許してやるよぉ! あと10分耐えたらなぁ!」

「10秒にしてぇぇぇぇぇ!」


 奪われた者による、奪った者への制裁が始まった。アセビの怒号、マーガレットの悲鳴が、周囲に響き渡る。

 食堂の客たちはゲラゲラと笑っていた。こんなに面白い見世物はないと言わんばかりに。

 食堂はいつまでも、いつまでも、怒号と悲鳴と笑い声が治まらないのであった。




「アセビ、頭が痛いわ。おやつを食べたら、すぐ良くなると思うのだけれど」

「雑草で我慢しろ。それよりそろそろ戻るぞ」


 夜はすっかり更けてしまっていた。アセビとマーガレットは、足早にクレマチスの外に出る。ふたりの向かう場所は宿屋ではない。


「ふかふかベッドさんで眠りたいわね……」

「誰かさんが借金していなかったら、そういう未来もありえたかもしれないね」

「ぐぬぬ」

「ブランドの服買いまくったり、ギャンブルで80万イーサン近い借金作るって……やばすぎでしょ」

「えへへ!」

「褒めてんじゃねえんだよ、えへへじゃねえよブン殴られてえのか」


 宿を拠点にする選択肢もあった。しかしアセビはマーガレットの借金返済のために、報酬の半分以上を失ってしまったのである。

 生活費を削って仕送りをしているので、金銭的なゆとりもない。宿屋に泊まることなど、できるはずも、なかった。


「はぁ……」

「アセビさん、ため息つくと幸せさんが逃げるのよ」

「もうオレに幸せさん残ってないよ。ワイバーン事件で一生分の幸運を使った気がするんだわ」

「ならいくらでもため息つけるじゃない! あたし安心したわ!」

「何に安心したんですかね……」


 アセビたちは、クレマチスから少し離れた草原を拠点代わりに利用していた。少しでも節約するには、野宿するしかなかったのだ。

 幸いこの草原の周辺は、モンスターや盗賊の目撃情報がなく、身の安全は保証されていた。野宿をしても問題はないだろう。

 しかし命の心配をしなくていいとはいえ、疲れた時はふかふかなベッドで眠りたいものだ。アセビは寝床をできるだけ早くなんとかしたいと思いながら、慣れた手つきで、粗末な布を取り出した。


「あたしもテント張るの手伝うわ!」

「お前余計なことしそうだから、何もしないでもらっていいスか」

「まっ! 失礼しちゃう!」


 マーガレットは不満そうに頬を膨らませているが、アセビは無視して作業を続ける。

 数分後、無事にテントを組み立てることができた。ふたりまでなら十分入れるサイズである。


「そろそろ寝るぞ! 明日も仕事がんばろうな」

「おー!」


 先にマーガレットがテントに入り、そのあとにアセビが続く。

 テントの中は狭く、風通しが良すぎて肌寒い。そのまま寝転んで眠るよりはましだが、とても快適な寝床とは言えなかった。


「アセビ……もう寝た?」

「ああ寝た寝た」


 マーガレットは元気が有り余ってるらしく、寝付けない様子だ。しかしアセビは明日に備えて早く眠りたいと思っている。悪魔の相手はしないで、さっさと眠ることにした。


「アセビ、あたしのこと襲うなよぉ?」

「お前襲うぐらいならダンゴムシ襲うわ。はよ寝ろ」

「アセビってそういう特殊な趣味があったのね。大丈夫よ、あたしはあなたがどこまで堕ちても、ずっといっしょにいるから……じゃあ、おやすみなさい!」

「おい勘違いするな! 今のはあくまで例えだぞ! オレにダンゴムシを襲う趣味はねえぞ!!」


 おかしな方向に誤解されてしまい、アセビは自身の無実を訴えた。マーガレットの肩を揺するが、彼女はもう話すことはないと言わんばかりに背中を向ける。2度と目を開かなかった。

 アセビはため息をついてテントを出ると、原っぱに寝転がり夜空を見上げた。


「月が綺麗だな……」


 月と星々がまるで宝石のように煌めいている。アセビにはそれらが、歪んで見えていた。

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