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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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とびっきりの問題児ども対ほねおじさん 10

「不死王の野郎……っとっと!」


 アセビの足元が突如揺れる。そこから離脱していた芋虫が顔を出した。

 予想外の場所からの登場である。アセビは驚いて武器を落としそうになった。


「うおっ!? 芋虫!? お前どっから出てきてるんだよ!?」

「それより兄さん、あっちは大丈夫っス! 仲間たくさん連れてきたんで! 時間稼ぎはできるっス!」


 アセビがスケルトン軍団に視線を移すと、大量のキャタピラーの姿が目に映った。糸を吐き、体当たりし、必死にスケルトン相手に抵抗している。

 アセビは指を鳴らしてしゃがみ、芋虫の背中を勢いよく撫で回した。


「でかした! あれだけいたらなんとかなるぜ! お前が連れてきてくれたんだよな! やるじゃねえか!」

「もう戦えそうな冒険者さんは少ないっスけどね。とりあえず間に合って良かったっス」

「それにしてもよくあれだけ集められたな」

「こう見えて自分、群れのリーダーなんで」


 芋虫が得意げに体を伸び縮みさせる。褒められたからか、どこか誇らしげだ。

 アセビは芋虫の手をぎゅっと握り、頭を下げた。


「お前がいてくれて良かった。ありがとう」

「……照れるんでやめてほしいんスけど」

「お前こそ芋虫の王だよ。この戦いが終わったらたくさん葉っぱ食わせてやるからな!」

「言い忘れてたんスけど、自分メスなんスよね。芋虫の女王が正しいかな、と」

「お前メスだったの!?」


 アセビが驚愕する。どうやら芋虫のことをオスだと思っていたらしい。申し訳無さそうな表情で頭をかいている。

 芋虫がアセビをじっと見上げ、体を擦り付けた。


「兄さんのこと嫌いじゃないし、同じ虫けらだったら告白したんスけどね」

「ど、どうも……」

 

 芋虫の目に、不死王リッチに投げ飛ばされたルピナスが映る。


「じゃ、そういうことで!」


 芋虫は慌てて走り、ルピナスが地面に激突しないように背中で受け止めた。

 アセビはほっと胸を撫で下ろし、再度不死王リッチへと向かおうとした。絆の力を見せるために。

 しかしその前にサツキが動いた。


「どうだ!」


 サツキは地を蹴り、スピードを増しながらヤグルマソウを不死王リッチに振り下ろす。当たれば勝利が近づくだろう。しかし素手で簡単に掴まれてしまった。

 愕然とするサツキに、不死王リッチが強烈な蹴りを浴びせた。凄まじい衝撃が体を駆け抜ける。サツキは大きく吹き飛ばされるが、地面に当たる瞬間に受け身を取って、ダメージを軽減させた。


「一撃が遠い……」

「黒髪の女! 迷いがあるな!? わしが貴様たちの間に入ることで、絆を強くできたからであろう!?」

「むむっ!」

「迷いがある者が戦うな! その迷いが仲間を殺してしまうのだぞ!」


 サツキは不死王リッチに言い返せず、悔しそうに唇を噛んだ。アセビが素早く駆け寄り、腕を掴んで、急いで立たせる。

 遠くから見守っていたルピナス、マーガレットが小走りで近づいてきた。心配そうにサツキの背中を擦っている。


「あいつ魔法使わなくてもめちゃくちゃ強いじゃねえかよ。どうなってんだよ」

「自滅狙いのカウンター戦法も駄目だったわ!」

「ランダム召喚やっちゃっていい……?」

「いや、待てそれは危険だ! 新たな敵を呼び出す可能性があるぞ!」

「あたしに良い考えがあるの!」

「駄目だ」

「まだ何も言ってないでしょおおお!?」

「と、とりあえず……作戦タイムだ!」


 アセビ一行は円になって作戦会議を始めた。それぞれがアイデアを出すが穴があり、これといった打開策が見つからない。全員焦っている。表情に希望が一切見られない。

 遠くで作戦会議を見ていた不死王リッチが、手を振りながら口を開いた。


「だからさぁ! 俺さっきから言ってるじゃん! 絆の力見せてみろっつーの!」

「絆の力なら見せてるわよ! みんながんばってるじゃない!」

「気持ち的にはな! 物理的な意味で絆の力見せろってことだ! 何のために4人もいるんだよ貴様ら! 少しは脳みそ使えや!」


 不死王リッチの怒声にも近い助言を受け、アセビたちは顔を見合せる。

 実力の差は圧倒的だ。このままでは各個撃破されるだけだろう。

 サツキが額に浮かんだ汗を拭う。引き締まった表情を見るに、全員で同時に戦う覚悟ができたのだろう。


「奴の言葉に従うのは癪だが……絆の力、試してみる価値はあるな!」

「絆っていうか集団暴行だよね」

「と、とにかく! オレが先頭で行く! お前たちもあとから続いてくれ! 4人の力! あいつに見せてやろうぜ! 同時攻撃だ!」

「あっ、ちょっと待って」


 マーガレットはそう言うと、サツキの懐に手を入れてまさぐった。


「ちょっ……」

「あら〜? どこにあるのかしら」


 マーガレットは顔を赤くしているサツキのことを気にしている様子がない。自由人である。

 マーガレットはしばらくしてある物を取り出し、みんなに見せた。酒である。サツキが不死王リッチにプレゼントされたものだ。

 アセビはマーガレットの考えを察し、青ざめた。


「……それやったら逆にオレたちが危なくない?」

「そうかしら? まー、そのときはそのとき! 危なくなってから考えましょ!」

「お前今を全力で生きてるよな」


 マーガレットは酒瓶の飲み口をサツキに向ける。飲んでと言っているのだ。

 サツキは首を横に振った。当然の反応である。


「待て待て! この状況で飲んでる場合か!」

「今飲まなきゃ! ほら!」

「しかしだなぁ……今はみんなで……んんっ!?」

「サツキ! すまん!」

「ごめんなさい!」


 サツキが言い終わる前に、マーガレットが口に酒を流し込んだ。必死に抵抗しようとするが、アセビとルピナスが体にしがみついた。これでは身動きがとれない。


「んっ……んっ……」

「やったわ! これでサツキを酔わせてパワーアップ作戦成功よ! このままリッちんにぶつけたら十分勝機はあるわ!」


 サツキが酒瓶の中身を全て飲み干した。全員必死の形相を浮かべ、急いで離れる。


「ノリでやっちゃったけど大丈夫かねこれ」

「まー、大丈夫でしょ」


 サツキは顔を赤くし、虚ろな瞳をしている。体はふらふらと不規則に揺れ、腰に差したオトギリソウをゆっくりと鞘から抜いた。

 視線の先には、マーガレットが、いる。


「あれ……なんかあたしのこと見てない? リッちんじゃなくてあたしのこと見てない……?」

「見てますね……」


 サツキは目を細め、口元を緩ませた。

 マーガレットはトラウマを刺激されたらしく、恐怖で体を小刻みに震わせている。


「ん? マーガレット。寒いのか? フフフッ」

「そんなことないのだけれど……えへへ……」

「どれ、私が温めてやろう」


 サツキはそう告げると、マーガレットに向かってオトギリソウを振り下ろした。間一髪で避けるが、腰が抜けてしまったらしい。これ以上マーガレットがサツキの斬撃を避けることは不可能だろう。


「痛みもまた温かみなんだ。わかるだろ?」

「そうなの……?」

「たった今! この私が思い付いた! フフフッ!」

「いやぁぁぁ! 待ってぇぇぇ!」


 サツキはオトギリソウを再びマーガレットに振り下ろそうとしたが、間にアセビが入った。


「ストーーーーーーップ!!!!!!」


 アセビはサツキに銅の剣を向けた。まるで宣戦布告をするように。

 サツキは目を輝かせ、頬を赤く染ながら歓喜した。可愛い弟分が、命の輝きを確かめる行為をしようとしているからだ。そう、殺し愛である。


「サツキ、手合わせ願えますかな?」

「おぉぉ! 目覚めたか、アセビ! 私は嬉しい! お前とついに……さぁいっしょに命の尊さを確かめようではないかっ!」

「あ、あのサツキ。でも言いにくいんだけどさ。オレの前にリッチ大魔王さんが、お前との戦い予約してるんだよね」

「……む?」

「リッチさんが、お前とギリギリのバトルがしたいんだってさ。それが終わったらオレとも戦おうぜ」


 アセビは賭けた。

 サツキのターゲットを不死王リッチにしなければ、確実にマーガレットは死ぬ。絆の力も何もあったものではない。

 サツキは目を細めた。アセビの耳元で囁く。


「わかった。お前とはあとでゆっくりと愛し合うことにした。良い思い出にしよう」

「あっはい……」


 サツキは名残惜しそうにアセビを見つめ、不死王リッチに視線を移す。大地を蹴って、風のように早く向かっていった。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!」


 サツキは徐々にスピードを上げ、勢いを殺すことなく不死王リッチに斬りかかった。当たれば容赦なく切断されるだろう。

 不死王リッチは素手ではなく、骨の剣でサツキの攻撃を受け止めた。迷いのない斬撃が、本気を出させたのである。


「いい攻撃だ。迷いがなくなったな。だが! たったひとりでこのわしに勝てると思うな!」


 骨の剣がサツキの顔に向かって突きだされる。しかし僅かに首を動かし、避けた。間一髪である。下手をすれば首が飛んでいてもおかしくなかった。

 サツキは突き出された骨の剣を斬り払うと、そのまま体をねじった。勢いをつけて、不死王リッチに向かってオトギリソウを振り下ろす。


「やったか!?」

「いっけー!!」


 アセビとマーガレットが期待を込めて叫ぶが、そう簡単にいくものではない。攻撃が当たるその瞬間に、不死王リッチの強力な蹴りがサツキの胸に当たる。あっさりと距離を離されてしまった。あと1歩が届かない。


「クソったれが! あいつ足が長すぎるんだよ!」

「言っただろうが! 早く4人で来い!」

「フフフッ……」


 サツキは再び不死王リッチに斬りかかる。


「ワンパかよ! 何度でも蹴り飛ばしてくれるわ!」


 不死王リッチは再び蹴り飛ばそうとしたが、サツキはそれを待っていた。

 オトギリソウを離し、長い足を両手で掴む。貫くような衝撃が体全体に響くが、サツキはニヤリと笑ったまま離さない。


「捕まえたぞ?」


 サツキは右腕で足を掴んだまま、左腕で腰に差した木刀を抜いた。柄の部分で何度も叩く。足を。何度も。何度も。何度も。何度も。

 たまらず不死王リッチは骨の剣で突こうとするが、サツキはさっと足から手を離し、距離をとって攻撃を避けた。


「ぐおっ……俺の足が……!?」


 不死王リッチの足にひびが入っていた。再度攻撃されたら、確実に砕かれてしまうだろう。

 不死王リッチはじりじりと後ずさりながら、腕に力を込めた。白い骨の剣がどす黒く変色していく。色が完全に染まると、先端をサツキに向けた。


「貴様の実力、認めてやろう。だが後悔するなよ。骨の剣の真の力を見せてやるわ!」

「フフフッやはり面白いな。命の奪い合いは。貴様もそう思うだろ?」

「いやぁ……別に面白くはないかなぁ」


 サツキと不死王リッチはお互い同時に接近し、木刀と骨の剣をぶつけ合った。その瞬間、放たれる衝撃波。サツキの体は裂け、顔、手、足から血が吹き出た。

 不死王リッチの骨の剣は鋭く固いだけではない。真の力を開放することで、ぶつかるたびに衝撃波を放つようになっていたのだ。


「サツキ!」

「もうっ! いけると思ったのに!」

「痛そうだよぅ!」


 体から血を吹き出すサツキの姿を見て、アセビとマーガレットが声を上げ、ルピナスは目を覆った。希望が見えたと思ったら、再び絶望がやってくる。それでも戦うしかない。命が燃え尽きるまでは。

 不死王リッチが勝ち誇ったように叫ぶ。


「これがわしの本気よ!! わかっただろ!? だーかーら! 4人で! 同時に!! 来い!!!」


 サツキは裂けた頬から流れる血を指でなぞった。自身の体から流れるそれを見て、恍惚の表情を浮かべる。

 サツキにとって、血は命。命は尊い。尊いは生命。

 常人には理解できない価値観。変態である。


「血だ……美しい……」

「えっ……何言ってるのこの子」

「もっと見たい。わかるだろ?」


 サツキは木刀を腰に戻してヤグルマソウを抜くと、再び不死王リッチに斬りかかった。しかし攻撃が届くことはない。再び骨の剣で受け止められてしまった。その瞬間放たれる衝撃波。サツキの体はさらに痛々しく裂けていく。


「フフフッ! フフフッ! フフフッ!」


 しかし、サツキは、止まらない。何度も何度も骨の剣にヤグルマソウをぶつけ、自身の体をさらに赤く染め上げていく。


「何なんだこの女……」


 流石の不死王リッチも驚きを隠せずにいた。サツキの行動が自殺行為にしか見えなかったからだ。


「おいおいおいおい! 待てって待てって! 貴様痛くないのか!? 死ぬのが怖くないのか!?」

「痛いぞ? 怖いぞ?」

「じゃあなんで……」

「この感覚が私に生きることを実感させる。これ無しでは……もう生きられない!」


 不死王リッチは背後に高く飛んで距離をとった。サツキの狂気じみた価値観が恐ろしくなったのではない。気づけば骨の剣にひびが入っていたのだ。岩よりも硬い自慢の剣だというのに。


「こ、こんなことが……ありえん……」


 衝撃波を受けても、何度も、何度も、何度も向かう狂気が、偉大なる魔術師の剣とプライドを破壊しようとしている。確実に勝利へと近づきつつあった。


「フフフッ……」

「このサツキという女……」


 血は流れ、鋭い痛みが全身を貫く。それでもサツキは歩みを止めない。生きていると感じていたい。それだけの想いのために。

 サツキは恐ろしいほど美しい微笑みを浮かべ、再度不死王リッチに向かう。しかし、膝が折れてしまった。もう歩みを進めることはできない。

 サツキの精神は常人のそれを凌駕しているが、肉体には限界がある。とうとうその時が訪れたのだ。


「むぅ……? 何だ……? おかしいな……あ、足が動かないぞ……? お楽しみは……これからなのだが……」

「おかしいのは貴様だよ……何なのこの子マジで」


 不死王リッチは呆れと同時に恐怖を抱く。目の前の女は、死を恐れない狂戦士。今まで戦ったことのないタイプだったのだ。

 不死王リッチは骨の剣を握り、サツキに向かって足を進める。とどめを刺したいという狙いもあるが、痛みや苦しみから解放させたいという想いもあった。今のサツキは血で染まっている。目を背けたくなるほど。

 不死王リッチは骨の剣を、サツキの脳天に向かって突き刺そうと構える。

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