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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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とびっきりの問題児ども対ほねおじさん 8

 アセビ一行は、それぞれが必死になっていて気づかなかったが、不死王リッチが少しずつ近づいていたのである。宿敵は目と鼻の先にいる。手を伸ばせばすぐ届く距離だ。

 不死王リッチはなにか言いたげな表情で、アセビ一行をじっと見つめている。

 アセビは思い出していた。不死王リッチの労いの言葉を。


「お前たちさぁ、今日会ったばかりのリチャードさんの方がオレのことわかってくれてるじゃん。どういうことなのこれ」

「えっリチャードってわしのこと? わしの名前リッチなんだけど」

「ペンジャミンは関係ないでしょ! これはあたしたちの問題なの!」

「もうわしの名前原型ないじゃん……流石にこの空気作っちゃったわしにも責任あると思うのよね」


 不死王リッチはヒートアップするアセビとマーガレットの間に入る。ふたりがこのまま喧嘩をしないよう、距離を離した。

 ルピナスは目頭を押さえたまま、サツキは顔を覆って指の間からじっと様子を伺っている。


「じゃあ……まず彼からいくか」

「なんだよ」


 不死王リッチがアセビの正面に立つ。思わず身構えたが、敵意や殺意を感じなかった。アセビは銅の剣から手を離す。

 不死王リッチは1度頷き、愛用の骨の剣を遠くに放り投げた。危害は加えないと言いたいのだろう。


「その気はないけど一応ね。自分たちもそのほうが安心できるでしょ?」

「お、おう」

「ところで彼さ。ちょっと女の子たち見てよ」


 アセビが不死王リッチの指示に従い、女子たちに目を向ける。

 マーガレットは怒ったような表情、ルピナスは今にも泣き出しそうな表情、サツキは悲しさと嬉しさが混ざったような表情を浮かべていた。

 3人とも涙で目を赤くし、アセビから視線を逸らしている。


「泣いてる女の子ってちょっと良くない? おじさん結構興奮するんだけど」

「えっ」


 性癖開示。アセビは不死王リッチの意外な言葉に、素の言葉を漏らしてしまった。

 尊大な態度の王はもうどこにもいない。目の前の骸骨は、ただの変態おじさんである。

 不死王リッチの言葉に、女子たちは顔をしかめた。


「は? この骨マジキモくて無理なんだけど」

「早く死んでくれないかな」

「見損なったぞ不死王」


 女子たちの不死王リッチに対する心ない罵声は、当然と言えば当然である。仲裁のために間に入ったかと思えば、自身の性癖をオープンしたのだから。

 不死王リッチは愉快そうに肩を揺らし、笑いを堪えている。どうやらこいつも特殊なタイプらしい。


「泣いてる女の子にこうやってボロカス言われるのがまたいいんだわ。わかるだろ? 彼」

「えぇ……」


 ドン引きするアセビ。

 一方問題児どもはこれでもかと嫌悪感をむき出しにして不死王リッチをにらみつけていた。


「この骨相手したら駄目なタイプね。無視するわよ」

「もう死んでほしいって思ったよぅ」

「何が不死王だ恥王に改名しろ恥王に」


 女子たちの罵声はまだまだ続きそうだったが、吐き出せば不死王リッチを喜ばせるだけである。彼女たちは口をつぐみ、汚物を見るような目でにらみつけた。

 不死王リッチは満足げにその視線を浴び、アセビに向かって優しく語りかけた。


「女の子たちはさ。貴様が死んですごく悲しかったんだよ。それは近くで見てたわしが1番よくわかってる」

「急に真面目なテンションになって語りかけてくるのやめてほしいんスけど」

「でも生きてただろ? 悲しさと嬉しさが同時に押し寄せてきて、女の子たちも感情がうまく処理できなくなっているんだ。本当は嬉しいのよ。嬉しくないわけがねえのよ」


 アセビが視線を感じて目を向けると、女子たちがじっと見つめていた。彼女たちは不死王リッチの言葉を否定せず、どこか気まずそうにしている。その行動が意味するものはひとつ。不死王リッチの言葉が正しいことの証明だった。


「な? そうだろ?」

「そうだったんだ……なんかごめん……オレ、みんなのこと心配させちゃたみたいで……」

「アセビがあたしのせいで死んだと思ったし……でも生きてて……ごめんなさい……あたし……わけがわからなくなっちゃって……と、とにかく! アセビが生きてて嬉しくないわけがないじゃない!」

「アセビ、もう死なないでね!」

「フフフッ嬉しいよ」


 先ほどまでの険悪な雰囲気は消え去った。アセビ一行の周囲には、和やかな空気が漂っている。仲直りは無事に終わった。全員気まずそうにしながらも、笑みを浮かべている。

 不死王リッチは満足そうに頷き、女子たちの正面に立った。


「じゃあ、次は女の子ね!」

「無視よ無視」

「未来永劫ぼくたちの目の前に現れないでほしい」

「ここで死ぬか? あ?」

「う~んこのアウェイ感最高だよね」


 先ほどの発言のせいで、女子からの評価が最低レベルにまで落ちていた。しかしそれで落ち込むほど、不死王リッチの精神は貧弱ではない。変態とは、そういう人種なのだ。


「彼、女の子たちにアレ使ったの言ってもいい?」

「別にいいっスけど。結構みんなの前で頻繁に黒魔法使ってるんで」

「へぇ黒魔法をね……わしの時代とは違うな。いや、貴様たちの絆の賜物か?」


 もったいぶる不死王リッチに、女子たちがイライラしているのが見てとれる。彼女たちは顔をしかめ、ため息をついていた。


「で? アセビは何したの? 早く言いなさいよ」

「彼、リザレクション使ったのよ」

「リザレクション……?」

「う?」

「何だそれは」


 不死王リッチが自身の額を手のひらで叩く。


「あっちゃ〜、やっぱ女の子たち知らなかったか。そりゃ知ってたら、あんなに悲しまないわな。じゃあ教えるけど、リザレクションはね、死んだ時に使える黒魔法なの。心臓が停止して数分後に復活できるの」

「そうなの!? アセビも人が悪いわよね! そんな便利な黒魔法使えるなら、最初からあたしたちに教えておいてくれても良かったじゃない!」

「教えたらお前が余計なこと言うかもって思ってさ。それに……あまりこれは使いたくなかったんだ」

「言うほどリザレクションは便利じゃないのよ。対価としてエネルギーとは別に、宝石も必要だしね」


 不死王リッチの言葉が途切れると同時に、アセビがポケットに手を入れた。そっと手のひらを女子たちに見せる。赤くキラキラと輝く宝石にヒビが入り、2つに割れてしまった。マーガレットが声を上げる。


「あっ! それもしかして!」

「すまん。スケルトンの神殿にあったやつだ。お前に返し忘れててな」

「役に立って良かったわ! えへへ、これを見越してあたしはスケルトンの箱から盗ったのよ!」


 得意げな顔でブイサインを作るマーガレットに、アセビは苦笑する。しかしこの問題児のおかげで、リザレクションを使えたのは事実だ。

 マーガレットが過去神殿から宝石を盗っていたことを知り、不死王リッチが低い声でうなる。話題を流すように咳払いをした。


「おっほん! リザレクションには対価以外にも大きな欠点があってね。生き返れるけど、1時間後にあらゆる苦痛が使用者を襲うんだ。発狂して死ぬパターンがほとんどなんだよね」

「……えっ」

「……うそ」

「……なんだとっ」

「だからリザレクションは死を先延ばしするだけの、役に立たない黒魔法とも言われてる。どうせ死ぬなら静かに死にたいだろ?」


 女子たちは目を見開き、アセビに詰め寄った。


「アセビ!? 嘘でしょ!? リッちんあたしたちのこと騙してるんでしょ!?」

「いや、マジだ。さっき言っただろ? どっちにしろオレは死ぬって」

「……そんな……リザレクションを使ってまで……ぼくたちやクレマチスを……守ろうとしていたなんて……」

「犠牲は少ないほうがいいからな。覚えてるか? 不死王はいきなり街を攻撃するんじゃなくて、わざわざ手紙に宝石を返せって書いてただろ?」

「確か……そうだったわね」

「そのとき思ったんだ。面子を大事にするタイプなんじゃないかって。報復するよりも、宝石を奪われたままなのが我慢ならない性格なんじゃないかって」


 不死王リッチが頷く。


「うん、おじさん面子を大事にするタイプです。この街本気出せば数時間で消し炭にできると思うよ」

「ひゃっ……」

「でもそれだと宝石を奪われたままってことになるじゃん? それだと不死王の名に傷がついたままになってしまうわけ。宝石を奪い返すのが理想と思ってクレマチスに来たけど、それが無理なら誰かに責任を取らせることで、わしの失った面子を立てるつもりだったの。宝石を奪い返せたから、誰にも責任を取らせなくて済んだとは思っていたがね」

「でもマーガレットが暴走したから、誰かが責任を取らないといけなくなった……」

「そうだね。あの無礼極まりない行為を許したら、不死王の名前に傷がつくからね」


 アセビの予想は的中していた。不死王はプライドが高く、自身の異名を大切にするタイプだった。


「最初から最悪の事態になったら、命を捧げたあとにリザレクションを使うつもりだったんだ。まー、ある意味予想通りになったな。オレが死ぬことで一応『責任』をとったことになっただろうからな」

「うん。アレで責任をとらせたつもりだったよ。だから貴様が死んだ時点で、白頭巾の無礼は許したつもりだったんだよね。一応アレでわしの面子保たれたことになったから」

「はは、あんたも結構わかりやすいな」


 アセビは苦笑しながら頭をかいている。

 サツキは恐る恐る言葉を発した。


「その……もし私たちが不死王のことを敵討ちしようとしなかったら……?」

「不死王リッチはオレの死体を見て、マーガレットに対する怒りが静まっただろうから、多分帰ってくれてたかもなぁ。ほら、何度も言うけどオレが死んだことで、責任がとれたわけだしな……」


 アセビが申し訳なさそうに小声で語った。

 ルピナスとサツキが敵討ちを仕掛けなければ、不死王リッチはスケルトンたちと廃墟のような館に帰っていただろう。今ごろクレマチスに、平和が訪れていた可能性が高い。

 ルピナスとサツキは顔を見合せしゅんとしている。

 マーガレットは残酷な現実を知り、今にも泣き出しそうになっていた。


「アセビ……また死んじゃうの……?」

「彼不器用だけどよくやってるよ。仲間の尻拭いのためとはいえ普通ここまでやれないわ。そういうところはわかってあげてね」


 誰も何も喋らない。

 アセビは生き返ったが、それは束の間の喜びだったのだ。その事実に、女子たちは再び絶望する。

 沈黙を破ったのは不死王リッチだった。


「わし人間だったころあるんだよね。そのときに1回だけね? 1回だけリザレクション使ったことあるの」

「だからなによ……」

「苦痛は半日ぐらい続いた。きつかったわ、マジで」

「……何が言いたいの?」

「文字通り復活できたんだよ! 確かにリザレクションを使うと発狂してそのまま死ぬパターンが多い! だが俺は死ななかった! 乗り越えられたんだ!」

「つまり希望はあるわけだな!?」


 不死王リッチの気迫のこもった声。女子たちの瞳に希望の光が灯った。腕を握り合って喜び合っている。

 不死王リッチは語っているうちに力が入ってしまったのか、握り拳を作って震わせた。


「苦痛が俺の体を蝕んだ! 何度も早く死にたいと思った! だが! 死ぬわけにはいかなかった!」

「何でよ!」

「仲間がいたからだ! あいつら俺がリザレクション使ったの知ったら悲しそうな顔しやがって! いつも喧嘩してるのによ! なら死ぬわけにはいかねぇだろ!」


 不死王リッチは過去を思い出したのだろう。段々とヒートアップしてきている。

 不死王リッチはアセビの肩に手を乗せた。顔を近づけて額をぶつける。アセビの頭蓋骨に衝撃が走るが、不思議と痛みはなかった。不死王リッチの気迫に圧倒されてしまったからだ。


「苦痛が貴様を襲った時は絆の力だけを感じろ! 貴様たちはこれまで、数多の窮地を支えあって、乗り越えてきたのであろう!? そうだな!?」

「うっス!」


 アセビは姿勢を正し、無意識に返事を返した。


「白頭巾! 意味はないかもしれんが、回復魔法を使えるのなら唱え続けろ! 思いは必ず届く! どんなときもそうだ!」

「わ、わかったわ!」


 マーガレットがペコリと不死王リッチに頭を下げる。


「そこのふたり! 貴様たちはこいつの手をずっと握っていろ! そして無事に終わると信じ続けろ! 奇跡はある! どこにでも、必ずな!」

「は、はい!」

「承った!」


 ルピナスとサツキもマーガレットを見習い、不死王リッチに深々と頭を下げた。これではまるで、弟子たちを激励する師匠である。

 アセビは不死王リッチの言葉を心に刻みながら、女子たちに向かって微笑んだ。


「じゃあ1時間後みんなのお世話になりますわ」


 マーガレット、ルピナス、サツキはアセビの無事を心から祈った。奇跡の存在を信じながら。

 こうしてアセビ一行は無事和解し、絆がより一層強くなったのだった。


「ったく。若いのは世話が焼けるわ。まー、俺の人間時代もあんな感じだったがね」


 不死王リッチはそれだけ言うと、そのまま正面を向いたまま、ゆっくりと後ずさっていく。


「じゃ、これで全部解決かな?」

「リッチさん、すんません。なんかいろいろ面倒見てもらっちゃって。あんたわざと変なこと言って、オレたちを仲直りさせてくれたんスね」

「リッちん、ごめんなさい。あなたのこと変態骨男って思ってたわ……」

「あれは半分事実だからね! だからおじさん多分変態かもなぁ! ガハハ!」

「半分は事実なのか……」


 不死王リッチは高笑いし、アセビたちから距離を取って、投げ捨てた骨の剣を拾った。

 アセビ一行は、変態な王に向かって尊敬の眼差しを向ける。彼がいなければ、きっと仲違いしたまま永遠の別れとなっていただろうから。

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