とびっきりの問題児ども対ほねおじさん 7
「アセビッ!」
アセビが振り向くと、顔を赤くし、大粒の涙をポロポロとこぼすマーガレットがいた。鋭い目つきで見つめている。今にも飛びかかってきそうだ。
アセビは思わず1歩後ずさった。
「生きてるのよね!? アセビなのよね!?」
「うん。まぁ」
「おバカっ! バカバカバカバカバカ!!!!!!」
マーガレットは、鼓膜が破けそうになるほど大きな罵声をアセビにぶつけた。彼の胸を、涙を流しながら叩き続けている。
「な、なんだよこいつ……」
アセビは困惑してマーガレットから急いで距離をとるが、小走りで近づいてきたルピナスに抱きつかれてしまった。彼女はうつむいたまま抱きつき、なかなか離れようとしない。
「ルピナス……ちょっと……離してくれねえか? 痛いんだけど」
「……」
「ルピナスちゃん? ちょっと今日食ったパンが口から出てきそうなんだけど? いや、マジで」
「……」
ルピナスは何も答えない。絶対に離さないと言わんばかりに、強い力で抱きついている。アセビはルピナスの指を丁寧に1本ずつ開き、なんとか拘束から逃れることに成功した。
「ルピナスまでおかしくなってるじゃねえか……ん?」
アセビが視線を感じて目を向けると、サツキが顔を手で覆っているのが見えた。指の隙間からじっと見ていたらしい。アセビに気づかれるとサツキは急いで背中を向けた。
「サツキ、ちょっと助けてほしいんだけど。マーガレットが叩いてくるしルピナスがくっついてくるんだ」
「……来るな」
「そう言わずちょっと助けてくれよ」
サツキはアセビに背中を向けたままだ。一切見ようとしない。
アセビは助け舟を求めるように、サツキの腕を掴んで引っ張った。顔を覆っていた手が剥がされる。
「あっ」
「うぅ……見るなっ……」
どんなときも泣いている姿を見せなかった。そのサツキが泣いていた。顔を赤くし、瞳は涙で濡れている。
サツキはアセビの胸を弱々しく押し、再び背中を向けて両手で顔を覆った。その場にしゃがみ込んで、絞り出すように言葉を発する。
「お願い……見ないで……お願い……っ」
「あっ……はい」
問題児どもの行動を見て、アセビは動揺していた。ここから4人で結束して、不死王リッチと戦う流れになると予想していたのだ。だが、そうはならなかった。
アセビの背中を、マーガレットが思い切り手のひらで叩く。それには様々な感情が含まれている。
「いててっ!」
「どうして!? どうして泣いてる女の子にそんなひどいことするの!? 本当に最低!」
「いや、あのさ……これからみんなで……」
「バカバカバカ!」
アセビの感情は、だんだんと変化していった。以前マーガレットに用意した食事を拒否された、あのときの精神状態に近い。何もかも、面倒に感じていた。
「ダルいな……」
「な、何よそれ!」
アセビの口から、無意識に言葉がこぼれ落ちる。
マーガレットは赤く染まった顔をさらに赤くし、涙を流しながら拳を振り上げた。
アセビは肩をすくめ、苦笑する。
「これアレっスかね? オレあのまま死んでた方が良かった系男子的な感じっスかね?」
「そんなこと……ないわよ……っ!」
アセビは愛用の銅の剣に視線を移し、自嘲気味に笑みを浮かべた。
「まー、どっちにしろオレはここで死ぬんだからどうでもいいかっ!」
「どういう意味よ……? ちょっと!?」
アセビは銅の剣を自身の胸に向けた。そのまま突き立てようとしたが、マーガレットが腕に飛び付いた。必死に阻止しようとしている。
「何やってるのよ!? なんで死んでなかったのにマジで死のうとしてるのよ!? 本当におバカなの!?」
「いやそういうのもういいんで」
うつむいていたルピナスも事態に気づき、慌ててアセビの腕にしがみつく。遅れてサツキも加わり、必死に押さえた。
しかし3人がかりとはいえ、華奢な女子たちではアセビの力には敵わない。銅の剣が胸を貫くのは、時間の問題である。
「ちょっと、本当にいい加減にしなさいって!」
「……駄目だよぅ!」
「アセビ……やめるんだ!」
「うるせぇ! オレはもう死ぬんじゃ!」
地獄絵図である。
自害しようとする青年を、3人の女子が必死に止めようとする光景がそこにはあった。
アセビが自身の命を、自ら散らそうとした、その時である。
「まぁ……彼、頑張ったとは思うけどね」
不思議な温かさと優しさを感じる低い声が、アセビ一行の背後から聞こえた。全員が視線を向けると、そこには意外な人物がいた。不死王リッチだ。




