とびっきりの問題児ども対ほねおじさん 3
クレマチスの入り口で、大男と冒険者たちが不安そうな顔でアセビ一行を見守っていた。クレマチスの存亡がかかっている。全員で成功を心から祈っていた。
「大丈夫そうじゃない?」
「いや待て、よく見ろ」
途中まで良い雰囲気に見えたが、アセビと不死王リッチがぶつかり合いを始めた。大男と冒険者たちは、平和的な解決ができないことを察する。
「なんかやばくない?」
「どうせマーガレットが何かしたんだろ」
「多分それだわ」
大正解である。
不死王リッチの背後に控えていたスケルトンが、クレマチスに向かって歩き始めた。冒険者たちは顔を強ばらせる。確実に戦闘は避けられない。
クレマチスには若く未熟な冒険者もいるが、戦闘に慣れた経験豊富なベテランの冒険者もいる。
しかし流石に500体以上のスケルトンが相手となると、守り切るのは難しいだろう。あまりにも数が多すぎるのだ。
「厳しい戦いになるぞ……」
「でもやるしかねぇよ!」
「みんな、行くぞ! ウォォォォォォ!!!」
大男が背負っていた斧を両手で握り、スケルトンの集団に向かって走り出した。現役を引退したとは思えない力強い動きだ。若さだけが取り柄の新人には、決して遅れを取らないだろう。
大男ひとりに任せるわけにはいかないと、付き合いの長いベテラン冒険者たちも、雄叫びを上げてスケルトン軍団に向かっていく。
犠牲を考慮しない特攻だ。ある程度数は減らせるだろうが、このままでは大男とベテラン冒険者の尊い命が失われてしまう。
「スケルトンごときぶっ潰してやる! みんなでクレマチスを守るんだ!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
「食らえぇぇぇっっっとぉ!?」
大男の背後から炎の渦が現れ、スケルトンたちは飲み込まれた。一瞬で灰と化し、影も残っていない。
「今のは……?」
大男たちが振り向くと、赤いローブを身に纏った端整な顔立ちの青年が立っていた。涼しい顔で前髪をかきあげている。青年の名前はフジ。赤き黒魔法使いだ。
フジは軽薄そうな笑みを浮かべている。
「もっと考えて立ち回りなよ。無駄に突っ込むだけじゃ体力と命を無駄にするだけだぜ?」
「すまない、助かった!」
「あのフジが手を貸しただと……!?」
「信じられん……」
「どういう風の吹き回しだい? ま、素直に助かったと言っておくよ!」
フジは冒険者ギルドでは、得たいの知れない人物として敬遠されている。実力はあるが、妹分のフクシア、アセビとしかチームを組まないことで有名だ。
そのフジが、大男や他の冒険者たちのために炎魔法を使ったのだ。周囲にいる冒険者たちが驚くのも無理はない。
「勘違いするな。俺はアセビのために炎魔法を使っただけだ。クレマチスが無くなるとあいつが悲しむ」
「ん〜。多分だけど、今どきそういう感じのキャラは流行らないんじゃないかな?」
「フン」
フジの後ろから、ひょっこりと赤いローブの幼い顔立ちの少女が顔を覗かせた。フクシアである。
「早く消えてくれないかな」
フクシアは指先から小さな炎の玉を出し、1番近くのスケルトンにぶつけた。その結果、対象は少しずつ灰と化していく。
「フクシア! ありがたい! お前さんも助けてくれるのか!」
「アセビくんも頑張っていますからね! わたしも頑張らないといけないんじゃないかな!」
強力な助っ人の参戦に歓喜の声が沸き上がる。
フジはやれやれと肩をすくめた。自分の本当の姿を知っても、その態度でいられるはずがないと思っているのだろう。黒魔法は忌み嫌われた存在なのだから。
しかしこのまま何もせず、クレマチスが滅ぼされるのを待つのは、もっと面白くないとも思っていた。
フジとフクシアがスケルトン軍団を見回した。圧倒的な戦力差である。しかし特に怖気づく様子はなく、余裕の笑みを浮かべていた。
「『本気』は出さないが……やれることはやるか」
「うん! それでいいんじゃないかな!」
「実力のあるお前さんたちには、本気を出してほしいんだがな……と、とにかく! 頼りにしてるからな!」
フジとフクシアを守るように、武装した冒険者たちが一斉に周囲を取り囲む。強固な守りだ。そう簡単にフジとフクシアには近づけないだろう。
「頼むぜ! お前たちが切り札だ!」
「あの威力で遠距離攻撃をし続ければ勝てる!」
「希望が出てきたねぇ!」
フジは再びやれやれと肩をすくめ、冒険者たちを押し退けて前に進む。
フクシアは頭を下げながら、冒険者たちの間を遠慮がちに抜けながら進んでいく。
「おいおいおいおい!!」
慌てて他の冒険者たちが盾になれるように動くが、フジは首を横に振り、やや軽薄そうな表情で笑っていた。
「お、おい! あんたたちは切り札だ! 俺たちが守るから防御は任せてくれ!」
「悪いが、俺は俺のやり方でやらせてもらう。あんたたちは自分とクレマチスの心配だけをするんだな」
「お気持ちだけいただきますね! フジとわたしは大丈夫ですから! 皆さんもどうかお気をつけて!」
冒険者たちはさっとフジとフクシアから離れ、大男の指示を待つことにした。余計なことをして、足を引っ張ることだけは避けねばならないと判断したのである。
フジとフクシアの態度を見るに、手助けはしてくれるだろう。しかし大男や冒険者たちの指揮下に入るつもりはなさそうだ。それでも強力な助っ人ということに変わりはない。
大男は冒険者たちに向かって大声を出した。
「魔法や弓が使える奴は、スケルトンから距離を取るんだ! 体力と腕に自信がある奴は俺のあとに続け! 新人たちはクレマチスの入口で待機! 俺たちがへばったりやばくなったら援護を頼むぞ!」
「おー!」
「は、はいぃぃぃ!」
「俺たちの街を骨野郎に渡すものかよ!」
「ぶっ殺したる!」
大男の指示を聞き、冒険者たちが気合いの雄叫びを上げ、スケルトンに正面からぶつかっていく。
彼らにとって帰るべき場所、守るべき場所を失うことは死に等しく、それゆえ士気は高い。
しかし圧倒的な数の暴力を相手に、全員無事に生き残れるかはわからない。現実はがむしゃらに厳しいのだから。
「さて。フク、始めるか……俺たちの戦いを」
「ふふ、いつでもどうぞ」
フジとフクシアは不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりとスケルトンのいる方向へ歩みを進めた。
協調性のないふたりも、帰るべき街を失うわけにはいかないのだ。自分たちやアセビのためにも。




