とびっきりの問題児ども対ほねおじさん 1
「おはよう。みんな早いな」
「おはよー!」
「……おはよう」
「フフフッおはよう」
いつも最初に起きるのはアセビなのだが、今日に限っては女子たちが先に目覚めていた。
テーブルにはすでに朝食のパンが並べられている。アセビが起きるのを待っていたのだ。
「サンキュー。朝食の準備してもらって助かるわ」
「たまには、ね! さっ食べましょ!」
その後アセビ一行は無言で朝食を食べ、食後の熱いコーヒーを飲み干し、席を立った。
マーガレットとサツキは館から持ち出した宝石と酒を忘れずに袋に入れ、ルピナスは不死王リッチと落ち着いて話せるように深呼吸をしている。
アセビは無事に全てが終わることを祈りながら、みんなのお家の扉を開き、声高々に宣言した。
「さぁ! 行こうか!」
アセビ一行がクレマチスの入口へ向かうと、そこにはすでに多くの冒険者が集まっていた。彼らは首を長くして待っていたらしい。
アセビ一行は期待と不安の眼差しを受けながら、前へ前へとゆっくり進む。
アセビの前に、巨大な斧を背負った大男がぬっと姿を表した。
「おっちゃんにも世話になったな。楽しかったぜ」
「死にに行くようなこと言うんじゃねえよ。うまくやれるんだろ?」
「そのつもりだけどね。クレマチス全体を巻き込んで本当に申し訳ないよ」
「街は街の人間全員で守るもんだ。俺たちも一応戦えるように準備はしておく」
大男の言葉を聞き、周囲の冒険者たちもそれぞれ所持する武器を強く握る。
結局無関係な者たちを巻き込んでしまったのだ。アセビの表情が曇るのを見て、周囲から声が上がる。
「ダンゴムシ、そう気にするな!」
「ダンゴ、アタイらはアタイらのやり方でこの街を守るだけさね!」
「ダンゴてめぇ必ず生きて戻ってこい! 問題児といっしょにまとめてブン殴ってやるからよ!」
「ダンゴムシ、貴様のやれることをやれ」
「みんなありがとう! でもダンゴムシ呼びはやめてほしいんだけどマジで」
周囲の冒険者たちからドッと笑いが起こった。アセビが責任を取ると宣言したことで、同じ冒険者ギルドの仲間と認めたのだ。そうでなくては、冗談を言うはずがない。
「みんなのためにも……絶対解決しないとな」
アセビ一行は冒険者たちに見送られながら、クレマチスを出てゆっくりと歩み始めた。視線の先に大きな人影が見える。その背後には武装したスケルトン軍団が控えていた。
「黒いローブの骸骨がいるな。そうか、あの男が」
「これはこれは……皆さんお揃いで……」
アセビ一行がしばらく進むと、黒のローブを身に纏った男が腕を組みながら待ち構えていた。その顔は、その体は、骸骨。肉片は一切ない。しかしただの骸骨ではない。数多の時を生き、知識を蓄えた偉大な魔術師だ。
彼こそが不死王を名乗る男、リッチである。
「……来たか」
不死王リッチは、アセビ一行を正面からじっと見つめていた。マーガレットが来るのを、今か今かと待ちわびていた様子だ。
不死王リッチの背後には、500体以上のスケルトンが控えている。彼らがクレマチスに侵入すれば、被害は甚大なものになるだろう。
アセビは深呼吸をして、1歩前に進んだ。
「みんな……行くぞ」
マーガレット、ルピナス、サツキが頷く。表情には緊張感が漂っていた。しかしここまで来たら、もう引き返すことはできない。
アセビが不死王リッチに近づき、深々と頭を下げた。
「お疲れ様っス! めちゃくちゃお忙しいなかわざわざご足労いただきありがたきしあわせに存じまする! オレはアセビ・ワビサビー! 冒険者してます! 不死王リッチ大魔王様でお間違えありませんかっ!?」
「いかにも。我は不死王リッチ」
アセビは緊張感のあまり、おかしなテンションになっていたが、真剣さは認めているのだろう。不死王リッチは特に指摘しなかった。首をポキポキと鳴らし、アセビの言葉を待っている。
「この度は仲間のマーガレットが大魔王様にめちゃくちゃ迷惑をかけてしまったようで……本当に、本当にすんませんっした! 勝手に持ち出した物資は全てお返しします! マジのマジに……すんませんっした!!」
「我は不死王リッチ……」
「オレはあの子の保護者みたいなものなので……オレにも責任があると思います!」
「あぁはいはい、なるほど。代わりに自分の命を差し出すとか、そういう系のこと言いたいのであろう?」
「その通りでございます!」
アセビは再び不死王リッチに頭を深々と下げた。誠心誠意謝る。これが最善と思っているのだ。
不死王リッチはアセビに近づき、肩を叩いて頭を上げさせた。
「貴様の言い分はわかった。だが、命を簡単に投げ出すのは感心せぬな。命はひとつしかないのだ」
「は、はい」
「貴様の仲間を守りたい気持ちは伝わった。前向きに考えておいてやる。命を使わない罪の償い方をな」
「ははぁ! ありがたきしあわせ!」
アセビは背後の仲間たちに視線を送り、前に出るように目配せする。
アセビの掴みが良かったのもあるが、不死王リッチはそれなりに寛大な心を持っているらしい。問題解決に向かって前進している。
なかなか順調な滑り出しだ。
アセビの視線を受け、ルピナスが前に進み、不死王リッチに頭を下げた。今にも泣き出してしまいそうなほど緊張している。
「……うぅ……ぼ、ぼく……はぁ……はぁ……」
ルピナスは呼吸を乱し、涙を流している。
アセビが急いでフォローする前に、不死王リッチが動いた。小柄なルピナスと視線を合わせるために腰を落とし、彼女の頬を両手で包んだ。優しく言い聞かせるように、ゆっくりと語り始めた。
「安心しろ。いきなり貴様の命を奪いはせぬ。落ち着いたら貴様の罪を告白するがいい」
「う……うん……すぅ……はぁ……」
ルピナスは深呼吸をした。気持ちが落ち着いたのだろう、体の震えと涙が止まる。
不死王リッチはルピナスの頬から手を離し、首をポキポキと鳴らしながら言葉を待った。
「はじめまして……ぼくはルピナス・ルミエール……ウルトラスーパー不死王リッチ大魔王様、ぼくの罪を……告白します」
「不死王リッチね。で、貴様の罪は?」
「わんわんと遊んだの。そのせいでぼくの仲間が館に入れたから……ぼくが全部悪いの」
「わんわん? えっまさか番犬のあいつのこと?」
「……うん」
不死王リッチは首をぐるぐる回したあと、大きなため息をついた。
ルピナスは顔を強ばらせる。気に障ることを言ってしまったと思ったのだ。
不死王リッチはすぐにルピナスをフォローした。
「ああ、違う違う! お嬢ちゃんに対してため息ついたんじゃないから! わしの未熟さにため息が出ただけだから!」
「……う?」
「100年かけて育ててやっと吠えられなくなったんだけど……まさか簡単に懐かれちゃうとはなぁ……それともわしがあいつに嫌われてるだけか……?」
「……う?」
「簡単に侵入されたあいつと、調教できなかったわしが悪いだけだからね。気にしないでいいからね。罪ってそれだけ? じゃあもう下がっていいよ」
ルピナスは不死王リッチに頭を下げ、さっとアセビの背中に隠れた。上手く罪を告白できただけでなく、普通に許されたので、ほっと胸を撫で下ろしている。
アセビとルピナスは、不死王リッチが思った以上に優しいおじさんだと内心喜んだが、まだ全ての問題が解決したわけではない。安心するのはまだ早いだろう。
サツキが自身の両頬を叩いて気合いを入れ、不死王リッチの前に歩みを進めた。
「私はサツキ・キサヌキ。ウルトラスーパーハイパーアルティメット不死王リッチ大魔王様。あなたに私の罪を告白させていただきたい」
「う、うん。で、彼女何したの?」
サツキは袋から酒瓶を取り出すと、不死王リッチにそっと手渡す。緊張しているのか、唇を噛んで審判を待っている。
不死王リッチは酒瓶をじっと見つめていた。
「……これは……あっ!」
不死王リッチは手のひらを叩き、うんうんと何度も頷いた。どうやらこの酒瓶が何だったのか、思い出したらしい。
「これアレだわ! わしの酒だわ!」
「そう、あなたの書斎にあったものだ。私は魔が差して勝手に持ち帰った……」
「なるほどね……あぁはいはい……」
「マーガレットを裁くなら、代わりに私を裁いていただけないだろうか……私は咎人だ……」
サツキは正座し、腰に差したオトギリソウを不死王リッチに差し出した。自分の首を切り落としてくれと目で訴えている。
不死王リッチは視線を合わせるため、ローブが汚れるのも構わずあぐらをかいた。差し出されたオトギリソウを握るその手を、そっと優しく押し返す。
不死王リッチの意外な行動。サツキは思わず、握ったオトギリソウを落としそうになってしまった。
「う〜ん。勝手に酒持っていったのは良くないんだけどさ。わしの館パッと見家主のいない廃墟じゃん? 気に入ったもの発見したら、まー、ちょっとだけ持って帰りたくなるよね」
「う、うむ」
「ぶっちゃけさ、酒はカッコつけて集めてただけなんだよね。よくよく考えたらわし別に酒? そんなに好きじゃ? ないし? で、ずっとほったらかしにしてたんだよねそれ」
不死王リッチはゆっくりと立ち上がり、サツキの腕を握って引っ張った。正座なんてしなくていい、立って話し合おうと言いたいのだろう。
サツキは急いで立ち上がり、オトギリソウを鞘に戻した。
「これ……いらねえや」
困惑しているサツキに、不死王リッチは返してもらったばかりの酒瓶を握らせた。
「あげるよ。酒好きなんだろ?」
「……人並みには……好きだが……」
「大きなお世話かもだけどさ。あの彼も彼女も簡単に命捨てるよね? それやめよ? 約束できるなら今度またウチに来たとき、酒全部持っていってもいいよ」
「……ご忠告痛み入る」
サツキは不死王リッチに深々と頭を下げ、アセビの背中にさっと隠れた。
命を差し出す代わりに許してもらうつもりだったのだが、酒をプレゼントされ、命の尊さまで説かれてしまったのだ。流石のサツキも面食らっている。
不死王リッチに許された3人が円の形になった。その表情は喜びと困惑で染まっている。
「大魔王様めっちゃ良い人じゃね? これ不死王じゃなくて慈悲王じゃね? これ大丈夫じゃね?」
「う、うん……」
「逆にどうしていいかわからなくなった……」
あとは残されたマーガレットが、無礼極まることをしなければ上手くいくだろう。無礼極まることをしなければ、上手くいくだろう。上手くいくだろう。




