きれいな悪魔 4
マーガレットたちは洞窟を出ると、足早に館へ向かった。
兄貴たちに報復されることはない。しかしまたモンスターに襲われる可能性はある。急いで移動するに越したことはない。
「さあ急ぐわよ! せめて夜になる前に、あの館に到着したいわね!」
「うん! あのね……」
「なになに?」
マーガレットがルピナスに視線を向ける。頬を赤くして、照れくさそうに笑っていた。
「マーガレット。今日は本当にありがとう。ぼく、マーガレットがいなかったら……」
「気にしないで! あたしにとってルピナスは大事な妹なの! 家族を助けるのは当然でしょ?」
「あはは……ありがとう。そうだマーガレットもいっしょに芋虫さんの背中に乗る?」
芋虫がマーガレットを見つめた。触覚を上機嫌に振っている。背中にどうぞと言わんばかりの態度だ。
芋虫はマーガレットに対して、苦手意識を持っていたのだが、今日で無くなった。今は親友に近い感情を持っている。
「やめとくわ」
マーガレットは芋虫に乗ることはなく、小走りで館へと急いだ。問題が解決したというのに、どこか自嘲気味な笑みを浮かべていた。
「芋虫くんにも背中に乗せる子を選ぶ権利はあるわ。あたしじゃきっと、また拒否されちゃうと思うの」
「そんなことないと思うよぅ。芋虫さん、マーガレットのこと大好きだと思うけどなぁ」
芋虫が何度も頷く。
しかしマーガレットは首を振って拒否した。以前背中に乗ろうとしたときに、避けられたことをしっかりと覚えていたのだ。根に持つタイプなのである。
「ありがと。気持ちだけもらっておくわね」
「そう……?」
「あたし嫌われ者でしょ? 嫌われ者だからこそ、せめてあたしのことを好きになってくれる人だけは、絶対守りたいのよ」
ぼっちは仲間思いなのである。
マーガレットにとって、同じぼっちだったルピナスは家族も同然なのだ。助けるのは当然だと思っている。
ルピナスはマーガレットに対し、恩と尊敬の念を同時に抱いた。
「ぼくにとってマーガレットはヒーローだよ!」
「ヒーローね。カッコいいけど、ちょっとあたしのイメージとは違くない?」
「そんなことないよ! ヒーローだよ! マーガレットはカッコいいもん!」
「まー、ヒーローでもいいかっ! あははっ!」
ルピナスは誓う。もしマーガレットがピンチになったら、次は自分が助けるのだ、と。
静寂な霧の森に、楽しそうな笑い声が響いた。
マーガレットたちは、その後特に問題なく館に到着した。しかしすでに日は落ち、夜になっている。
野宿は確定したが、特に不満も不安もなかった。マーガレットにはルピナスが、ルピナスにはマーガレットがいるのだから。仲間がいれば寂しくないのだ。
「ちょっと目をつぶってて。フラッシュ!」
マーガレットがフラッシュを唱えた。周囲が昼のように明るくなっている。これで活動しやすくなったというものだ。
「じゃあ、お掃除がんばるわよ! えいえいおー!」
「おー」
マーガレットは伸び放題伸びた雑草を抜き、ルピナスは枯れ木や枯れ葉を集め、庭を綺麗にした。館を宿代わりにさせてもらった恩はこれで返せたことだろう。
マーガレットとルピナスは笑顔でハイタッチした。掃除が無事に終わり、喜んでいるのだ。
「結構時間かかったわね! でも終わったわ!」
「綺麗になったね」
キャッキャと喜ぶマーガレットとルピナス。ふたりのことを、例の黒い犬に似た生物が物陰から見ていた。音もなく近づき、マーガレットの尻に噛みつく。
「いったぁ! バカ犬! コラ、待ちなさい!」
「わ、わんわん……」
マーガレットと黒い犬に似た生物の鬼ごっこが始まった。ホブゴブリンたちには追われる身だったが、今度は追う側になったのである。マーガレットの顔は赤く、まるで本物の鬼のようだ。
ルピナスは小さく笑いながら、鬼ごっこを見つめていた。
「あぁ~よく寝た! ルピナス、おはよ!」
「……おはよう」
マーガレットたちは庭で野宿をし、一晩過ごした。朝に弱いルピナスは、寝ぼけ眼でぼーっとしている。
ハプニングが発生したせいで、野宿をすることになってしまったが、終わりよければ全てよしだ。マーガレットとルピナスは、昨日のことを楽しそうに語りながらマシュマロを口に入れている。
「ぼくこれからはもっと気をつけるね」
「大丈夫! 何度だって助けるんだから!」
「……うん!」
「お腹も膨れたしそろそろ帰りましょ」
ふたりは朝食を終えると、来た道を戻ってクレマチスを目指した。例の穴を這って進み、山岳地帯を抜け、森を進む。慣れ親しんだ景色が目に映る。ルピナスは言葉にできない安心感を覚えていた。
「なんか帰ってきた感じがするよ」
「あはは、そうね! もうここまで来たらお家って感じよね」
その後特にトラブルが発生することもなく、無事にみんなのお家へと到着した。この瞬間、マーガレットとルピナスの小さな旅が終わったのである。
ふたりはほっと胸を撫で下ろし、リビングに置かれているソファに座った。
「あら? そういえばアセビたちがいないわね」
「アセビたちにも何かあったのかな?」
ルピナスが窓をそっと覗くと、アセビとサツキの姿が目に入る。半日いっしょにいなかっただけなのに、随分と懐かしく感じていた。それはマーガレットも同じなのだろう。外のアセビとサツキのことを、優しい目で見つめていた。
マーガレットはにししと笑い、ルピナスに勢いよく抱きつく。
「いろいろあったけど、楽しかったわね! またふたりだけで冒険しましょ! お買い物したりお茶するのもいいかもしれないわ!」
「うん。約束だよ」
「えへへ!」
マーガレットが照れ臭そうに頭をかき、ルピナスは珍しく満面の笑顔を浮かべる。
部屋は和やかな雰囲気が漂っていたが、家主のアセビが入ってくると雲散霧消した。
「コラァ! マーガレット! お前その服、泥だらけじゃねえかよ!」
アセビはマーガレットを見るなり怒鳴り付け、泥だらけになったワンピースをぐいぐいと引っ張った。買ったばかりの家を、泥で汚したくないのだろう。
お気に入りのワンピースを引っ張られたマーガレットは、胸元を押さえ、アセビを睨んで抗議する。
「いやん! 引っ張らないで! アセビのエッチ! 変態! ダンゴムシ!」
「いやんじゃねぇんだよ! はよ風呂入れボケ! あとダンゴムシはやめてね」
騒ぐアセビとマーガレットの姿を見て、ルピナスは珍しく手を叩いて大きな声で笑う。
カッコいいマーガレットもいいが、やはりこっちのほうが彼女らしい。そう思わずにはいられなかった。
ひとり外にいたサツキがみんなのお家に入ると、アセビとマーガレットが取っ組み合いをしている姿が目に映った。仲の良い兄妹の喧嘩が始まったと思っているのだろう。サツキは静かに微笑んで見つめている。
「ただいま」
「おかえり!」
今回もトラブルが発生したが、それぞれ仲間と協力して乗り越えることができた。元ぼっち同士で結成されたチームの絆が、より一層深まったのである。
アセビ一行はこれからも喜びを分かち合い、辛いときは支え合い、たくましく生きるのだろう。
お庭に根付いた雑草のように。
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