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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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きれいな悪魔 2

「お前ら! 帰ったぞ!」

「兄貴、お疲れさんっス!」

「兄貴、こっちは葉っぱと木の実ぐらいしか見つからなかったぜ!」

「兄貴!」


 ある洞窟で、ゴブリンたちが3体集結していた。

 先ほどルピナスを襲ったホブゴブリンは、彼らに兄貴と呼ばれている。この集団のリーダーで、間違いないだろう。

 兄貴は肩に担いだルピナスを下ろし、弟分たちに見せびらかした。


「人間の小娘を手に入れたぜ!」

「流石だぁ!」

「兄貴はやっぱりすげえや!」

「兄貴!」


 弟分たちはキャッキャと歓声を上げ、体全体で喜びを表現する。兄貴は満足そうにそれを見つめ、ゲラゲラと笑っていた。

 ホブゴブリンたちのやかましい声で、ルピナスは目を覚ます。自分の置かれた状況を一瞬で理解し、恐怖で体を震わせていた。


「ひっ……」

「こいつびびってんぞ! ヤっちまおうぜ!」

「どうやって遊ぼうかなぁ! 指折ったり、目玉引っこ抜いたりしようぜ!」

「兄貴!」


 弟分たちが下卑た笑みを浮かべ、ルピナスをなめ回すように眺める。錆びたナイフや尖った石を握りしめていた。ルピナスをオモチャにしようとしているらしい。

 兄貴は地面をこん棒で殴り、騒ぎ立てる子分たちを黙らせた。


「小さい子にそういうのはよくないと思う」

「お、おう……」

「あんた半端に良心残ってるよな」


 少なくとも、想像を絶する惨たらしい死を向かえることはない。ルピナスはほっとする。

 弟分たちは兄貴に疑問をぶつけた。


「兄貴、じゃあこいつどうするんだい?」

「そりゃ殺して食うに決まってるだろ?」


 ホブゴブリンたちからすれば、ルピナスはとびっきりのご馳走だ。このまま生かして帰すわけがない。

 弟分たちは再び手を叩いて歓喜する。


「首を切り落とすか。頭を潰すか。うーんどっちにするかなぁ……」

「どっちもエグくないか……?」

「俺たちはあんたのセーフティラインが、ちょっとよくわからねぇや……」

「フンまあどっちでもいいか。さて、昼寝したら飯にするぞ! お前たち、それまでこいつに触るなよ」


 ホブゴブリンは再びルピナスを肩に担ぎ、洞窟の奥へゆっくりと進んだ。

 弟分たちは獲物で遊ぼうと思っていたが断念する。彼らは兄貴を尊敬しており、彼の指示や命令を尊重することにしているからだ。


「どうせ殺すなら遊びたかったなぁ」

「しかし兄貴の命令は絶対よ」

「兄貴……」




 洞窟の1番奥まで行くと、兄貴はルピナスを地面に下ろした。逃げないように縄で縛ろうと思ったが、足が折れていることに気づく。

 兄貴はとくに何もせず、背中を向けた。ルピナスが逃げられないと判断したらしい。


「安心しろ。苦しまないように殺してやるからな」


 兄貴はそれだけ言うと、弟分たちの元へ戻った。慈悲深いのか、残虐なのか、いまいちよくわからない性格である。

 ルピナスはこれまでの人生を振り返った。何をやっても上手くいかず、くだらない人生だったと自虐的に評価する。

 しかしアセビたちと出会って、暗いどんよりとした人生は変わった。仲間たちの顔を思い出すと、胸が熱くなり、優しい気持ちになれるのだ。

 以前のルピナスなら、自分を苦しませずに殺してくれるホブゴブリンに感謝しただろう。

 だが今は違う。ルピナスは生きる楽しさ、仲間と喜びや達成感を共有する尊さを知ってしまった。少しずつだが、前向きに人生を歩み始めているのだ。

 ルピナスはぽつりと呟く。


「……死にたくないよぅ」




 マーガレットたちは、洞窟の前で歩みを止めた。糸がこの奥へと続いていたからである。

 急いで洞窟に入ろうとする芋虫をマーガレットが制止した。彼女はトレードマークの頭巾を脱いで地面に擦り付ける。それだけでなく、地面に横たわって転がり、泥だらけになった。白い悪魔は、すっかり汚れた悪魔になってしまったのである。

 芋虫はどこか冷めた表情を浮かべていた。


「……あんたこの状況でふざけてるんスか」

「暗い洞窟だと、白い頭巾と白いワンピって目立つでしょ? 少しでも目立たないようにしなきゃ!」

「なるほど……勉強不足だったっス……」


 冷静にルピナスを救出しようとするマーガレットを見て、芋虫は自身の未熟さを痛感する。焦るばかりで冷静さを欠けば、救えるものも救えない。

 マーガレットは芋虫の背中を優しく撫で、洞窟の奥へと向かう。彼女たちは岩陰に隠れながら、少しずつ慎重に進んだ。


「ルピナス……」

「大丈夫よ! ルピナスはきっと生きてるわ」

「白頭巾ちゃん……」


 芋虫は目の前の華奢な背中を見つめる。

 すぐ怒り、泣き喚き、欲のままに生きる少女。それがマーガレットだ。目の前の頼れる少女と同一人物とは思えず、芋虫は思わず首を傾げた。

 もしかしたらマーガレットは、頼られると実力を発揮するタイプなのかもしれない。そう考えたらこの勇ましい姿も、納得できなくもない。

 マーガレットが突然足を止めた。芋虫もぴたりと静止する。


「どうしたんスか……?」

「ほら見て。あそこにいるわよ」

「あっ……」


 マーガレットと芋虫の目に、大人数で動き回れるほどの空洞が映っている。そこでホブゴブリンと弟分のゴブリンたちがいびきをかいて眠っていた。

 

「流石にこの人数は厳しいわね……」

「自分も同じ意見っス」


 当然マーガレットと芋虫に、眠っているホブゴブリンたちを奇襲するという考えはない。失敗したときのリスクがあまりにも大きいからだ。

 眠っているホブゴブリンたちにばれないように、マーガレットと芋虫は、音を立てずに奥へと進んだ。


「糸……まだ奥に続いてるわね」

「結構暗いのによく見えるっスね。白頭巾ちゃん目が良いんスね」

「悪いところがないのがあたしの欠点なの!」


 マーガレットと芋虫がしばらく進むと、洞窟の行き止まりまで辿り着いた。彼女たちは長い距離を歩いたつもりだったが、100メートルも進んでいない。慎重に進んだため、錯覚たのだ。

 マーガレットと芋虫が目を見開く。はっきりと見えたのだ。ルピナスの姿が。


「ルピナス……!」

「良かった……まだ生きてるっスよ!」


 ルピナスは虚ろな瞳で地面を眺めていた。この世の終わりを思わせる表情を浮かべ、海よりも深い絶望感に支配されている。

 どうやらマーガレットたちが救出しに来たことに、気づいていないようだ。

 

「ルピナス……あたしよ、あたし」


 マーガレットがそっとルピナスに近づく。彼女はようやく気づいたらしい。はっとした表情を浮かべ、瞳に生気が戻る。


「マーガレット……?」


 マーガレットが唇に人差し指を当て、にこりと笑ってルピナスに敬礼をする。

 死を待つだけだったが、頼れる仲間が助けに来てくれたのだ。ルピナスの瞳から、涙があふれだす。


「えへへ、遅れてごめんなさい! さ、みんなで早く帰りましょ!」

「……あ……うぅ……」


 マーガレットが慌ててルピナスの唇を人差し指でぎゅっと押さえた。彼女の泣き声が洞窟に響くのを防ぐ。

 マーガレットはルピナスの口を押さえたが、彼女の涙は止まらず、嗚咽が漏れている。このままではゴブリンたちが目を覚ますかもしれない。


「しーっ! ルピナス、しーっ!」

「う~っ!!」

「大丈夫。あなたは絶対助かるわ。またみんなで冒険しましょ! アセビに怒られたりサツキに追いかけれるのもきっと楽しいわ!」


 マーガレットがルピナスを抱きしめ、彼女の耳元で優しく囁く。穏やかで優しい声だった。ルピナスの涙はぴたりと止まる。絶対に生きて帰れる気がしたのだ。

 マーガレットは泣き止んだルピナスの頭を撫で、芋虫は愛する契約者の命に別状がないことを喜んだ。


「良い子良い子! ルピナスは強い子! さ、急いで帰るわよ!」

「ごめん……ぼく……足が……」


 マーガレットがルピナスの足を見る。おかしな方向にまがっており、折れているのがわかった。

 マーガレットは一瞬顔をしかめる。ルピナスの足を折った者に対する怒りの感情が芽生えたのだ。


「……ヒール」


 マーガレットが小声で回復魔法を唱えると、ルピナスの骨折は一瞬で治った。足は問題なく動く。

 マーガレットはドヤ顔で胸を張った。


「ルピナス、ちゃんと歩ける? 芋虫くんの背中に乗ってもいいのよ?」

「大丈夫、ぼく歩けるよ……」


 ルピナスは責任感が強く、これ以上マーガレットたちに迷惑をかけたくなかった。そのため、自身の足で歩く選択をしたのだ。

 心配そうに見つめるマーガレットと芋虫だったが、ルピナスの意思を尊重することにしたらしい。顔を見合わせ、頷いた。

 マーガレットたちは、再び慎重に進む。しばらくすると例の空洞に戻ることができた。


「ぐぅぅぅ」

「がぁぁぁ」

「しめしめ。気持ちよさそうに眠ってるわ」

「怖いよぅ」

「大丈夫、気を付けていきましょ!」


 マーガレットが唇に人差し指を当て、ルピナスがこくりと頷く。

 ここまで順調に来たのだ、絶対に大丈夫。マーガレットはそう思っており、信じていた。

 しかし何事も上手くいくとは限らない。人生とはそういうものなのだから。

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