お家が大好き 5
「すんませんでしたぁ!」
「ははーっ!」
盗賊団のリーダーが土下座をし、子分たちも地面に頭を擦りつけた。なかなか異様な光景である。
サツキとシラーとユッカが、盗賊団を冷めた表情で見下ろしている。
「さて……どうしたものか」
「八つ裂きで」
「斬首で」
「あいわかった」
シラーとユッカが盗賊団に死刑宣告をし、サツキがヤグルマソウを引き抜く。
「ちょっと待ってくだせぇ!!!」
「お慈悲をぉぉぉ!!!」
「お許しくださいぃぃ!!!」
盗賊団も死にたくないらしい。必死に泣き叫んで命乞いをしている。
見苦しさにサツキは顔をしかめるが、アセビは盗賊団に助け船を出してやることにした。
「おっさんたちさぁ。あんたたち本当は盗賊団でもなんでもないんだろ?」
「えっ、そうなのかい?」
「何というか。こっちを本気で殺す気がなかったというか。わざわざ予告状送るのもおかしいし、荒事にもあまり慣れてない感じがしたんだ」
「わかります!? 兄さんわかります!? 俺たちが善良な市民だってわかります!?」
リーダー格の男が、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらアセビの手を握る。
本当に善良な市民なら、集団で畑を襲撃するはずがないだろう。しかし余計なことを言うと心証が悪くなるため、アセビは黙っていることにした。
サツキは腕を組み、大きなため息をついて男たちをジロリと見つめた。
「今なら言い訳を聞いてやる。話してみろ」
「実は俺たち、ここからずっと北にある街……スノードロップからの流れ者でして……そこで農家をしていたんですわ……」
予想外の告白。男たちは盗賊団でもなんでもなく、農家の集団だったのだ。
「えっ、おっさんたち農家なのかよ」
「そうなんですよ坊っちゃん! スノードロップは今年になって気候が乱れてね。作物が全然取れなくて、俺たちの畑も全部駄目になっちまったんだ。高い税金を払うことができなくなっちまって……スノードロップを出ることにしたんですわ……それから……」
リーダーが涙と鼻水を腕で拭って、これまでの経緯を語り始めた。
元盗賊団はスノードロップを出たあと、自然と南に流れたらしい。気づけば似たような境遇の者たちが次々と集まり、自称盗賊団の農家集団が結成されたのである。
リーダーがたまたまクレマチスに立ち寄った時に、この畑を見た。その瞬間、野菜強奪計画を思い付いたのである。予告状を出して脅せば、簡単に奪える。そう思ったのだ。
1週間後には、クレマチス野菜カーニバルが開催される。そこで奪った品物を売れば、まとまった金も手に入るだろう。輝かしい未来を想像し、実行した結果がこれである。
犯した罪は許されることではないが、同じ農家ということで境遇に同情したのだろう。シラーもユッカも表情から怒りの感情が消え失せている。
「苦労したんだ……」
「おっさんたち……まー、大変だったね」
「お嬢さん……坊っちゃん……」
「どうする? 警備隊に突き出しても構わないが」
サツキが元盗賊団をじろりと睨みつけ、シラーたちの指示を待っている。
子どもたちは盗賊団を殺すか、警備隊に突き出すつもりだった。しかし彼らにも事情があったことを知る。複雑な気持ちになってしまっていた。
「どうしよう……」
「やったことは許せないけど……」
考え込んでいるシラーとユッカを見て、母親が手をぴしゃりと叩いた。
「そうだ! ちょっとあんたたち、また農家やらないかい?」
「おかみさん!? それは一体どういうことで!?」
「余ってる土地があるのさ。あんたたちに貸してもいいって言ってるわけ。同じ農家だから、あんたたちの気持ちもわからないわけじゃないのさ」
「ほ、本当ならありがたいが……」
「俺たちを許してくれるのか……?」
「使用料はちょっといただくけどね。どうだい?」
元盗賊団たちは困惑している。おろおろと顔を見合せていた。
畑を襲撃しただけじゃなく、大事に育てた野菜まで奪おうとした。それなのに、再起するチャンスを与えても良いと母親は言っているのだ。元盗賊団でなくても困惑するだろう。
アセビは再び助け船を出すことにした。
「お母さんに感謝しなよ! でもやったことのけじめはつけないとな!」
「け、けじめ……斬首はちょっとご勘弁を……」
「斬首はしないしない! おっさんたち、来週カーニバルあるの知ってるんだろ? 間に合うように、この畑の野菜の収穫手伝いなよ!」
「そうだね、それで水に流すよ。あんたたちまだまだ働ける立派な体なんだ。せこい盗賊団なんてさっさと辞めちまいな! 農家に戻るんだよ!」
元盗賊団は慈悲の心に胸を打たれ、涙を流し、再び頭を地面に擦り付けた。
シラーとユッカも穏やかな表情をしている。元盗賊団に対する憎しみは、もう微塵も残っていない様子だ。
気づけばすっかり夜は明け、美しい朝日が畑全体を照らしている。それに気づいたリーダーがはっとした表情で頭を上げて立ち上がる。子分たちも同じだ。次々と立ち上がって気合の入った表情を浮かべていた。
「お前たち! ぼやぼやしてられねぇぞ! 明るくなった今こそ収穫だ! いくぞおい!」
「うっす!」
「今からやるの!? おっさんたち野菜カーニバルまでまだ期間あるよ!?」
「お嬢さん、あんたたちには慈悲の心で許していただけただけじゃなく、再起するチャンスもいっしょに与えてもらえたんだ! 今度は俺たちが恩返しする番なんでさぁ! 体が痛む奴は5分だけ休むのを許す! それ以外の奴は俺に続きやがれ!」
「うっす!」
リーダーはそう言うと、畑に向かって全力で走り出した。5分休んでもいいと言ったが、休む子分は誰ひとりいない。全員楽しそうに、嬉しそうに、一生懸命収穫の作業を始めた。
慣れた手つき。無駄のない動き。元盗賊団の働きっぷりを見て、サツキとシラーとユッカは目を丸くする。
「すごい……」
「おっさんたち良い動きしてるな! 盗賊団なんて辞めて正解だぜ!」
「ははっ元気だねぇ! やっぱ農家の男はこうでなきゃいけないよ!」
「なぁサツキ。野菜泥棒にこの対応は、ちょっと甘いかな?」
サツキの口元が少し緩み、やれやれと言わんばかりに肩をすくめた。黒鬼と呼ばれて恐れられているが、平和に解決できるのならそれが1番だと思っている。
サツキはくすりと笑って目を細めた。
「いいんじゃないか? フフフッ」
「鬼の目にも涙……いや、黒鬼の目にも涙と言ったところですな! わはは!」
「アセビ! 私を! その名で! 呼ぶな!」
「ひえ〜っ!」
黒鬼が刀を抜いた。アセビは綺麗なフォームで畑の周囲を全力疾走する。
命がけの鬼ごっこが始まってしまったが、ふたりともどこか楽しげだ。仕事の達成感、無事平和に全て解決したことで爽やかな気持ちになっているのだろう。
「ひえ〜」
「コラーっ! 待てーっ!!」
美しい朝日が、ふたりの若者を優しく照らしていた。




