ぼっちは自分を助けてくれた人を逃さない 4
攻撃を外したワイバーンが、アセビたちの頭上に戻ってきた。
覚悟を決めたのか、ふたりは足を止めてワイバーンをじっと見上げている。
どちらかが死ぬまでこの戦いに終わりはない。
ワイバーンを見つめていたマーガレットが、下まぶたを指で下げ、舌を出して挑発しだした。
「バーカバーカ! バーカバカ! あんぽんたんのワイバーン!!」
小学生レベルの語彙力である。しかし効果は抜群だった。ワイバーンは怒り狂っている。
「ガァァァァァァ!!」
怒りに燃えるワイバーンが再び高速で接近する。狙いは、当然マーガレットだ。
「マーガレット!」
「アセビ!」
互いの名を呼び合い、アセビがマーガレットを背負った。
「身体強化魔法! ストレングス!」
アセビの足が光り輝く。脚力は常人より優れた状態となった。アセビは地面を蹴って空高くジャンプし、ワイバーンの攻撃を避ける。
3度も攻撃を外してプライドを傷つけられたのか、ワイバーンの怒りの炎はさらに激しく燃え上がった。次こそは絶対外さないと意気込み、空中から地面を睨みつけている。
しかし獲物の姿はどこにもなかった。地面を見わたすが、何度探してもアセビとマーガレットはどこにもいない。
ワイバーンは首を傾げる。すると、彼の背中から声が聞こえた。
「ここだぜ、トカゲ野郎!」
「やーいやーい、アホーアホー!」
「あっもう挑発しなくていいんで、黙っててもらっていいスか」
「あっはい。でも、ここからどうするの? あなたの武器は通用しなかったんでしょ?」
「言ったろ? オレにいい考えがあるってな!」
ワイバーンは気付いた。アセビとマーガレットが、背中に飛び乗っていることに。
もしワイバーンに風の刃を撃ち込まれていたら、アセビとマーガレットはバラバラになっていただろう。ワイバーンが突撃してくることにふたりは賭けたのだ。
アセビは自身の運の良さに感謝しつつ、村に残した祖父の顔を思い出していた。
「じいちゃん、ごめん! オレちょっと約束守れそうにないわ!」
「アセビ?」
アセビが勢いよくワイバーンの背中に触れた。温かい感触が手のひらに伝わっていく。
アセビは高らかに宣言した。
「食らえやっ! 黒魔法エナジードレイン! てめぇの体力、エネルギー、その他もろもろ! なんもかんもいただくぜぇ! オラァァァ!」
「ギャアアアアアア!」
「うわっ……黒魔法……」
出発前に祖父の言っていた『アレ』とは黒魔法のことだった。
エナジードレイン。それは触れた者の体力、魔法の使用に必要なエネルギーを吸い付くす黒魔法である。相手に触れないといけないので、戦闘で使うのは難しい。よほど実力差があるか、対象が隙を晒さない限り、うまく活用できないだろう。
ワイバーンの体力、エネルギーが、アセビに吸いつくされていく。エナジードレインの効果は絶大だ。抵抗する余地などない。
アセビはニヤリと笑い、体内からあふれる力を感じていた。
「力が湧いてくるなぁ! いい感じだぜ!」
「悪役っぽいセリフ……それにしても……いい考えってこれのことだったの……?」
「はい」
「うーん……」
マーガレットは口を押さえ、複雑そうな表情だ。彼女の反応を見て、アセビは祖父の言っていたことを理解する。黒魔法は忌み嫌われているのだ。人前で使ったらドン引きされてしまうのである。
「黒魔法って拷問とか苦しませるのが好きな人が使うんでしょ……? アセビってそっち系の人? やだ怖くなってきちゃった……」
「違いますっ!」
アセビは生まれてからずっと、小さな村でのんびり暮らしてきた。そのため、黒魔法が想像以上に世間から好ましく思われていないことを知らなかったのだ。
信頼できる者、腹を割って話せる者以外には使っているところを見せてはいけないのである。
「本当に? 黒魔法使ってあたしのこと襲ったりエッチなことしない……?」
「悪魔を襲う趣味はないんで」
「あらま」
ともあれ、アセビにとって黒魔法は切り札だ。もし使えなかったら、確実にワイバーンの晩ごはんになっていたに違いない。
世間体は悪い魔法だが、アセビは幼い頃にエナジードレインを教えてくれた祖父に、心から感謝して両手を合わせた。
「じいちゃん……ありがとう」
マーガレットは眉間にシワを寄せ、黙ってアセビを見つめていた。
ワイバーンは体力を吸いつくされて意識を失い、そのままゆっくりと地上に向かって落ちていく。
マーガレットは青ざめ、アセビの肩を揺すった。
「落っこちちゃうわ! 大丈夫よね!? あたしたち大丈夫よね!? ね!?」
「大丈夫だろ……多分……とりあえず衝撃に備えよう」
アセビとマーガレットは、落ちないように背中にしがみつく。体力を吸いつくされたワイバーンは、哀れにもそのまま地面に墜落した。大地に強い衝撃が走る。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
「きゃあああああ!!」
ワイバーンは墜落した衝撃で命を落とした。
アセビとマーガレットは背中から手を離し、ゆっくりと陸に降りる。
「親父、お袋。そっち行くのはまた今度にするよ……」
「怖かったよぉ~! うわぁぁぁん!!!」
マーガレットは、無事何事もなく生き残れたことを実感していた。大粒の涙を流し、アセビに抱きつく。
「お前も怖かっただろ? よくがんばったな」
「うぇぇぇん! もっと優しくしてぇぇぇ!」
アセビはマーガレットの頭を優しくなでるが、冷静に考えたら、諸悪の根源はこの悪魔のような少女であることを思い出す。心に芽生えた慈愛の心は一瞬で消え去った。
アセビはマーガレットを強引に引き剥がし、重い足取りでクレマチスへと向かう。
「もういい疲れた……帰る……」
「待って~!! 置いていかないでぇぇぇ!」
マーガレットはアセビに置いていかれないよう必死の形相で追いかける。
アセビはポケットからワイバーンの爪を取り出し、海よりも深い溜め息をついた。
「ワイバーンの爪……確保完了……!」




