お家が大好き 3
「作戦会議するぞ~! 全員集合!」
「おー!!」
アセビの鶴の一声で、シラー、ユッカ、母親が急いで集まった。3人は手にそれぞれ武器を握っている。やる気は十分ありそうだ。
アセビは畑の周囲を見回すと、シラーたちに向かって語り始めた。
「ここは見晴らしがいいな。だから不意打ちされることはないと思う。恐らくだけど、盗賊団はあそこから来るんじゃないかな」
アセビが指差す先をシラーたちが見ると、木々が生い茂っていた。闇に紛れて逃げるには最適と言える場所だろう。
アセビの意見に納得したのか、母親が頷いた。
「害獣が来るときもあそこからだよ。逃げやすいんだろうね」
「というわけで、サツキはあっちで待機してくれ」
「承った」
サツキが木々を見ながら、ゆっくりと歩きだした。
まだ夜には時間があるが、盗賊団が律儀に時間を守るとも限らない。いつでも動けるように準備をしたいのだろう。
「シラーはこっち。ユッカはあっち。お母さんはシラーとユッカ、どちらの助けにも入れるように小屋の前で待機。恐らく盗賊団はサツキのいる方角から来るとは思うけど、連中を見たら大声出してくれよ。オレがすぐ行くから」
「はい!」
「わかった!」
「あいよ!」
アセビが的確に指示を出している。一家はすぐに理解し、何度も頷いた。表情を見ると、明らかに緊張しているのがわかった。戦闘経験のないシラーたちでは仕方のない話ではある。
アセビは少しでもリラックスできるよう、世間話をすることにした。
「それにしても野菜うまそうだな! そろそろ収穫の時期なんじゃないか?」
「みんなで一生懸命作ったの! 1週間後にクレマチスの野菜カーニバルでたくさん売るんだ!」
クレマチスは多くの冒険者だけでなく、キャラバンや旅商人が訪れる。彼らの目的は物を売ることだけではなく、良い商品を仕入れることでもあるのだ。
クレマチスの野菜カーニバルは年に2度、農家、キャラバン、旅商人が広場に集まり、作った作物の売買を行うビッグイベントなのである。
「盗賊団はこの野菜を奪って、そこで金を稼ごうって魂胆だろうな」
「許せねえ! ぶっ殺す!」
ユッカが怒りで体を震わせる。落ち着かせるために母親が両肩に手を置いた。
「安心しな。大丈夫さ。兄さん、あんたたちが守ってくれるんだろ?」
「任せてくれよな!」
日が暮れ始め、周囲が暗くなってきた。
アセビは周囲をきょろきょろと見回すが、盗賊団の姿はまだ見えない。律儀に時間通りやってくるつもりなのだろう。
不安そうな表情のシラーが、サツキの元へと歩みを進めた。
「サツキさん……」
「どうした? 不安か? 大丈夫、安心してほしい」
そう言うとサツキは腰から木刀を抜き、シラーの前で素振りを始めた。空を切る音が周囲に響く。
シラーは目を輝かせている。
「すごい! わたしもやってみる!」
シラーはくわで真似をするが、当然サツキのような素振りはできない。へっぴり腰で、ぎこちない動きだ。
「ほら、こうやって握って」
サツキがシラーに木刀を握らせ、彼女は指示通りに素振りを始めた。まだ動きにぎこちなさはあるが、鬼気迫る表情には、畑を絶対に守りたいという気持ちがあふれている。
サツキはシラーの頭を優しく撫で、背中を押した。
「私の木刀をあなたに預ける。それで大切な畑と家族を守るんだ。お姉ちゃんは誰よりも何よりも強くないといけないんだからな」
「うん!」
シラーはサツキの木刀を肩に担ぎ、そのまま自分の持ち場へと戻った。足取りは軽い。恐らく不安が消え、勇気が出たのだろう。
小さな背中を、サツキが優しい表情で眺めていた。
「サツキ先生、流石ですなぁ。オレにも指導していただけますかな?」
「フフフッお前には必要あるまいよ」
アセビが、頭を深々と下げる。サツキは手を横に振ると、シラーの残したくわを握って、軽く素振りをしてみせた。気合十分と言った様子である。
アセビがサツキの隣に立った。彼女の視線の先にいる一家をいっしょに見つめる。
「お前が依頼受けた理由は、あの女の子なんだろ?」
「……お前に隠し事はできないな」
「そうだと思った。あの子もお姉ちゃんだもんな」
アセビがサツキに視線を向けると、過去を懐かしむような遠い目をしていた。優しく、温かく、そしてどこか寂しげな表情。
そろそろ盗賊団が来るだろう。しかしアセビはサツキともう少しだけ語りたいと思ってしまったらしい。持ち場に戻ろうとはせず、伸びをし始めた。
アセビの考えを察したのか、サツキはくわを地面に置いて、腕を組んだ。
「語っても?」
「頼むわ」
「私には弟と妹がいた。ふたりとも可愛かったし、私と同じ剣の道に進んだときは嬉しかったよ」
サツキが言葉を区切った。気持ちが揺れたのか、深呼吸をしている。
「ふぅ。だからだろうか。弟と畑のために頑張るあの子を放ってはおけなかったんだ。私も弟がいる姉という立場だ。シラーを見ていると、過去の自分を見ているようでな……」
「出会ったばかりの女の子のために頑張る。サツキは本当に優しいと思うよ。そんなお前がお姉ちゃんで、弟くんと妹ちゃんも嬉しかっただろうな」
アセビに笑顔を見せようとしていたが、サツキにはできなかった。過去を思い出したことでさらに精神に負荷がかかったのだろう。小さくため息をつき、視線を逸らす。
「実力不足で追放された姉だぞ? 弟も妹も私のことを恥じていると思う」
「それだけどさ。多分サツキの剣の腕に問題があるから追放されたんじゃないと思うぞ。お前のやばい価値観のせいで追放されたんだと思うんだよなぁ」
「むぅ……? そうなのだろうか……?」
「そうだよ」
サツキは首を傾げて深く考え込み始めた。
生きることは難しいが素晴らしい。傷つき、ギリギリの生を感じるときこそ、人は真の幸福である。サツキの価値観と考えは、異常だ。
時代が違えば正しかったのかもしれない。やっぱり正しくなかったのかもしれない。多分絶対正しくない。
悲しみよりも怒りの感情が勝ったのだろう。サツキは拳を握って震わせている。
「どっちにしろ私の帰る場所はもうないんだから、どうでもいいかっ! 親父の顔思い出したらイライラしてきたぞ……フフフッ」
「……う、うん。今度お前の価値観について、ゆっくり話し合おうね……」
アセビはサツキからそっと距離を取り、反対方向に陣取った。
そろそろ盗賊団が来る時間だからという理由もあったが、八つ当たりされることを恐れたのだ。
アセビは盗賊団に少し同情した。彼らは怒りに燃えるサツキに、八つ当たりという名の制裁をされることになるのだろうから。
「暗くなってきたな。みんなしっかり見張るんだぜ!」
アセビの声を聞いて、シラーたちが手を振る。
それぞれの持ち場に、火の着いた蝋燭や明々とした火を灯すランタンが地面に置かれている。全員盗賊団の襲撃に備えているのだ。
サツキがはっとした表情を浮かべ、身構えた。その行為が意味することはひとつしかない。
「来たぞ!」




