表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/161

お家が大好き 1

 木造1階建ての小さな家の前で、アセビ一行は佇んでいた。


「……入るぞ」


 アセビは震える手でドアノブをゆっくり回す。家に入るとすぐリビングが見えた。そこから個室、風呂、トイレ、キッチンに繋がっている。狭いが庭もあった。小さな花壇を作ることも、洗濯物を干すことも可能だ。

 マーガレット、ルピナス、サツキも口を開けながら物珍しそうに室内を見渡している。顔を見合わせ、満足げに何度も大きく頷いていた。

 アセビは両手を広げて満面の笑みを浮かべる。


「家! 買っちゃい! ましたァーッ!」

「イエーイ!」

「すごいよぅ! 立派なお家だよぅ!」

「嬉しいものだな!」


 アセビが歓喜の雄叫びを上げ、女子たちもいっしょに叫んだ。ご近所さんは迷惑に思っていることだろう。

 アセビは嬉しさのあまり、床をゴロゴロと転がる。マーガレットたちは優しい目で見つめていた。


「野宿生活もこれで終わり! 雨風に悩まされることもない! 最高だぜ! やったぜ!!」

「あっ、やばっ。あたしちょっと涙出てきたわ」


 マーガレットがハンカチで目頭を押さえている。辛かった野宿生活の思い出が脳裏を過ったのだ。

 しかしそれも過去の話。

 この新しい家から、アセビ一行の新しい1歩が始まるのである。


「お部屋、ちょうど人数分部屋あるね」

「うむ。アセビ、ひとりずつ部屋をいただいてもよろしいか?」


 サツキがアセビをちらりと見て尋ねた。快く部屋を譲ってくれると信じているが、家を買うための資金を集めたのはアセビだ。許可を得るのは当然のことである。親しき仲にもというやつだ。

 アセビは勢いよく起き上がり、親指を立てた。


「もちろん! 部屋はみんなの好きにしていいぞ!」

「かたじけない。お前には頭が上がらないな」

「アセビ、芋虫さんもお家に入れていい?」

「いいぜ! ご飯当番決めないとな!」

「アセビ、あたしもお願いがあるのだけれど」

「駄目だ」

「まだ何も言ってないでしょおおお!?」


 ルピナスとサツキは、アセビに向かって頭を下げて感謝した。野宿時代はプライベートな空間はなかったのだが、ここでは確保されている。精神的にリラックスできることだろう。


「よーし! 1度拠点に戻って必要なものを持ってこようぜ!」

「はーい!」


 拠点で使っていた雑貨や食料を家にどんどん入れていく。当然全員参加だ。

 家の作りは頑丈だがあまり部屋自体は広くない。考えなしに何でも入れたら、倉庫になるだけだろう。

 アセビは顎に手を当て、考え込んだ。


「う〜ん。食器や食料を入れる棚が欲しい……」

「あたしはふかふかベッドさん!」

「ぼくは芋虫さん用のお皿がほしいなぁ」

「なら、あとでみんなで買い出しに行こう」

「う~ん! みんなのお家最高だぜ!」


 アセビ一行は幸福感に包まれていた。




 アセビ一行は、家具購入組、雑貨購入組に別れ、買い物をすることにした。

 アセビはマーガレットと家具屋に、ルピナスとサツキは雑貨屋へ向かう。


「えっと……棚はどこかな……」


 アセビが店内を歩きながら周囲を見回すと、木製の立派な棚を発見した。興奮気味に急いで駆け寄る。

 さらさらとした心地よい肌触り。多くの食器を収納できる大きさ。

 木製の棚は、見事アセビの心を鷲掴みにした。


「これがいいなぁ!」

「あたしはあっちの鉄製のがいいと思うわ!」

「予算がね……」


 木製の棚を吟味しているアセビとマーガレットの背後から、体格の良い髭面の男が近づく。

 頭髪はなく、薄汚れた腹巻きをしている。頑固な職人を思わせる身なりの親父だ。


「よおいらっしゃい。兄ちゃんたちアレか? 冒険者だよな? はは〜ん、家を買ったんだろ?」

「あれあれ? わかりますぅ? そうなんスよぉ」


 アセビがにやけ顔で答えると、頑固親父がアセビの肩を勢いよく叩く。あまりの衝撃に、骨が砕けたと錯覚するほどの強さだった。


「いてぇ……」

「いいねぇ! 最近の若い冒険者どもは、夢がねえからなぁ! 安定だなんだ言いやがって! 家のひとつも買おうとしねえ! その点兄ちゃんたちには夢がある!」

「親父さんテンション高いわね……」

「ちょっとね……」


 親父の言う通り、最近は安定思考の冒険者が増えている。家具がなかなか売れなくなってきているらしい。

 アセビたちは、久々の上客になるかもしれない存在なのだ。親父のテンションが高くなるのも無理はない。


「ははっ……親父さん、オレこの棚にしようかな」

「良いの選ぶじゃねえか! こいつはわしの取って置きの自信作よ! 値段はそこそこするが……」

「あっ本当だ。結構いい値段っスね……」

「そっちの小さい棚にしない?」


 隣に並ぶ棚をマーガレットが指差す。彼女の身長より少し小さいが、その代わり値段も手頃である。

 今後は家のメンテナンスにも気を使わなければならないのだ。出費はできるだけ抑えたいところである。

 アセビは小さい棚をしばらく見つめ、頷いた。


「うん、そうだな。よし、こっちにするか!」

「そうしましょ!」

「あんたが最初に選んだこっちの方が良いぜ! わしが保証するぞ!」


 親父の必死な様子に、アセビとマーガレットは互いの顔を向き合わせ、意味深な笑みを一瞬浮かべる。ふたりは眉を落として、同時に口を開いた。


「でも、お高いんでしょう?」

「うっ……!」


 アセビたちは久々に、それなりの値段の家具を購入してくれそうな客だ。今後の付き合い次第では、また家具を買ってくれる可能性がある。

 親父は今ではなく、未来を生きる選択をした。


「そ、そうだなぁ! じゃ、じゃあちょっと安くしちゃおっかなぁ! この値段でならどうだい?」

「買う買う! 親父さん、ありがとう!」

「親父さんかっこいいわぁ!」

「へへっ……若いのを応援するのは、おっさんの仕事だからよぉ……」


 親父の目に光るものが浮かんでいたが、アセビもマーガレットも見て見ぬふりをした。

 命賭けの戦いをしているのは、何も冒険者だけではないのだ。

 アセビたちは棚以外にも、芋虫の部屋代わりに犬小屋を購入した。こちらもなかなか頑丈な作りである。親父の腕は確かなものであった。


「兄ちゃんの家どこだい? 若いのに届けさせるから教えてくれよ」

「至れり尽くせりだなぁ。クレマチスの隅っこに小さい家あるんスよ。そこっス」

「わかったよ。へへっ……だから……今後も……な?」


 親父がニヤリと笑ってアセビの腕をぎゅっと握る。アセビも笑いながら握り返した。

 きっと良好な関係になれる。お互いそう確信するのであった。




 家具屋チームと雑貨屋チームは合流し、冒険者ギルドの食堂で昼食をとっていた。

 ルピナスとサツキも良い食器を購入できたらしい。アセビ一行は全員ほくほく顔だ。

 気になることがあったのか。マーガレットがパンをかじりながら、芽生えた疑問を口にした。


「そういえば、霧の森に館があったわよね? みんな覚えてる?」

「ん、ああそう言えば……」

「今からお仕事するのも中途半端だし、今日あそこのお掃除しに行かない?」


 マーガレットの言うことも一理ある。お世話になった例の館には、礼をせねばなるまい。

 暴走したマーガレットのせいで道に迷ったが、1度行ったことのある場所だ。もう迷うこともあるまい。


「うん。そうしようぜ。お返しはしないとな」

「今日はお仕事お休みってことね」


 アセビ一行は食堂を出て、霧の森の館へと向かうことにした。




「またわんわんに会えるね」

「バカ犬っ! 次はあたしが噛んでやるわっ!」

「やめとけ怪我するぞ……お前が」


 アセビ一行は行き交う人々を避けながら、街路を歩いていた。サツキは後ろからアセビ、マーガレット、ルピナスを見てにこやかに微笑む。彼女にとって年下の3人は、可愛い弟と妹に等しい存在だ。楽しそうにしているところを見ると、幸せな気持ちになるのである。


「フフフッ」


 サツキも3人の会話に加わろうとしたが、何者かに手を握られ、足を止める。振り向くと、おさげの少女が立っていた。ぎゅっと手を握って離そうとしない。

 少女は真っ直ぐサツキを見つめていた。


「私に何か用かな?」


 サツキはそっと腰を落とした。少女の目線に合わせるために。彼女は絞り出すように、ゆっくりと、サツキに語りかけた。


「お姉ちゃん……冒険者さん……だよね……?」

「ああ、そうだよ」

「お願い! わたしたちの畑を守って!」


 少女がサツキに声高々に申し出た。

 街を行き交う人々が注目している。おさげの少女が急に大声を出したからだ。

 サツキが慌てて唇に人差し指をつける。


「コ、コラ、もう少し静かに!」

「ごめんなさい! では改めまして。わたしはシラーといいます! 畑を守ってください! 盗賊団に狙われているの!」


 シラーと名乗る少女が頭を深々と下げる。

 いきなり見ず知らずの少女に頭を下げられ、サツキは困ってしまった。

 もちろんシラーと面識はない。今日始めて会った少女である。


「ふむ。私のような流れ者の女に頼むよりも、警備隊に頼む方が、いいんじゃないかな?」

「その……お願いしたんだけど……子供のいたずらだろって聞いてくれなかったの」


 クレマチスには、治安を守るために警備隊と名乗る武装集団が存在している。彼らのおかげで、平和が維持されていると言ってもいいだろう。

 しかし警備隊は、子どもの言うことを軽視する傾向にあった。誰に対しても差別することなく、尊敬される集団になってほしいものである。


「それは……困ったな……」


 サツキがシラーに視線を移すと、うつむいて肩を震わせていた。今にも泣き出してしまいそうだ。

 サツキは自分が警備隊に言えばと一瞬考えるが、すぐにやめてしまった。子どもの言うことを信じない者たちに、何ができるものかと思ったのである。


「姉ちゃん!」

「ユッカ!」


 シラーの後ろから丸刈りの少年が走ってきた。彼は肩で息をし、首を横に振っている。

 少年の動きを見てシラーは肩を落とした。


「姉ちゃん駄目だ! 警備隊の連中やっぱ信じてくれねえよ! あのクソメガネどもがよぉ!!」

「そうだよね……」

「あれ? 姉ちゃん?  そっちの黒髪の姉ちゃんはもしかして……!」

「えっと……」


 ユッカと呼ばれた少年が、サツキを見上げる。希望に満ちた眼差しだ。サツキにはそれが眩しかった。

 ユッカはシラーが、サツキを雇うことに成功したと思っているらしい。小躍りして喜んでいる。


「あなたの弟か?」

「うん……」

「弟か……弟……弟……」


 サツキがシラーとユッカを見つめる。汚れなき眼をした純粋無垢な少女と少年だ。

 シラーとユッカは真剣な表情で、サツキをじっと見つめ返した。


「サツキ〜! 行くわよ〜!」

「みんなでお掃除しようね」


 サツキが声の方向に目を向ける。マーガレットとルピナスが手を振っていた。霧の森の洋館を掃除する。その目的をサツキは思い出した。

 目の前のシラーとユッカが、不安そうに体を震わせている。サツキがこのまま遠くに行ってしまうと思っているのだ。


「うむ……」

 目の前には年下の困った幼い姉弟がいる。そしてサツキはお姉ちゃんだ。このままほうっておくわけにはいかない。その思いで胸がいっぱいだった。

 サツキはマーガレットたちに向かって手を合わせた。


「すまない! 野暮用ができた! 掃除はお前たちに任せたい! この借りは必ず返すから! 頼む!」

「オッケー! でもこの貸しは高いわよ!」


 マーガレットが即答する。何か大事な理由があると察したのだろう。

 サツキを見つめるシラーの表情が明るくなった。八方塞がりな自分たちを助けてくれるのだ。希望が芽生えれば表情も明るくなるだろう。

 マーガレットたちはサツキに背中を向けた。そのまま館へと向かうのだろう。


「さてと。詳しいことは、あなたたちの畑に向かいながら聞こうか?」

「うん! ありがとう!」

「黒髪の姉ちゃん! こっちこっち!」


 シラーとユッカはサツキの腕を握り、ぐいぐいと腕を引っ張った。

 子どもたちの元気な力に圧倒され、サツキは思わず苦笑する。それと同時に、不思議と優しい気持ちになるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ