表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/154

ふたりの黒い冒険者 14

 アセビはマーガレットたちに盗み聞きされていたとは露知らず、のんびりと宿屋に入った。

 のんきな男である。


「なんか戻ってきちゃったって感じがするなぁ」


 相性の良い黒魔法使いチームの勧誘を蹴って、問題児チームを選んだ。そのことに関してはアセビに後悔の気持ちは一切なかった。嘘偽り無く。多分。


「ただいま〜」

「アセビィ!!!!!!!!!!」

「アセビが戻ってきてくれたよぅ!」


 アセビが部屋に入るなり、マーガレットが勢いよく抱きつく。顔をくしゃくしゃにして涙を流していた。

 困惑しているアセビに構わず、ルピナスも涙を流しながらアセビの足にしがみつく。絶対に離さないと言わんばかりの力強さだった。


「お前たち!? どうしたんだよ!? もう健康になったと思ったが、まさかまだ体が痛むのか!?」

「アセビィ! ごめんなさぁい! りんごちゃんとパンさん食べなくてごめんなさぁい! あたし絶対良い子になるからぁ! アセビに褒められるような子に絶対なるからぁ! えぇぇぇぇぇん!!!!!!」

「……アセビ……ごめんね……アセビ……ごめんね……」


 マーガレットとルピナスが、謝罪の言葉を繰り返している。アセビは困惑していた。ふたりがなぜそのような行為をするのか意味がわからなかったのだ。

 アセビが助けを求めるようにサツキに視線を移す。彼女は微笑みながら瞳を潤ませていた。背中を軽く押せば涙があふれてしまいそうだ。


「あの……サツキさん……これはどういう……?」

「アセビ……許してほしい。お前のさっきの会話を……みんなで盗み聞きしたんだ……」

「えっ」

「私たちのことをお前は……それなのに私は勝手にお前に見限られたと思い込んでしまって……弟を信じられない悪いお姉ちゃんで本当に申し訳ない……今回休ませてもらった分、私がお前を楽させてあげるからな……」

「み、見限る……?」


 アセビにずっとしがみついていたマーガレットが顔を上げる。涙で顔は濡れているが会話はできるらしい。泣きながら口を開いた。


「だって……ルピナスがもう……アセビとぼくたちは終わりだって……」

「ルピナス……お前なんでまたマイナス思考モード発動させちゃったんだよ……」

「アセビが……この関係は終わりって言ってたよぅ……」

「アレはオレだけ労働して、お前たちがお休みちゃん状態の関係が終わるってことだったんだけど……」

「そうだったの……良かったわぁ……」

「嬉しいよぅ……涙が止まらないよぅ……」


 止まらぬ女子たちの泣き声や嗚咽。端からみたら異様な光景である。

 アセビは泣き止まないマーガレットとルピナスの頭を必死に撫でながら、ふとサツキの言葉を思い出した。

 盗み聞き、確かにそう言っていた。


「あのさ。さっき盗み聞きって言ってたじゃん。ちなみになんだけど……どっから聞いてた感じスかね?」


 アセビが恐る恐る、女子たちに尋ねる。少し前に、真面目なテンションで、フジとフクシアに問題児たちに対して熱く語ってしまった。その部分を聞かれていないことを祈りながら、アセビは女子たちの言葉にそっと耳を傾ける。

 マーガレットが涙を拭いながら答えた。


「うっ……ひっく……大将、キノコの発生源が……わかったぜって……ところから……うっ……」

「最初からですね……」

「……こいつだ……うっ……ひっく……こいつが地面に触れると……ひっく……」

「あっルピナス、もう続けなくていいから……」


 アセビは羞恥心に耐えきれず手のひらで顔を覆ってしまった。全部聞かれていたのだ。赤裸々に。全部聞かれていたのだ。思っていること全てを。

 アセビはぽつりと呟いた。


「やっぱオレフジたちのチーム行くわ。お前たちはお前たちだけで強く生きてくれ。じゃ、解散……」

「いやああああああ!! 行かないでぇ!! ずっとここにいてぇ!! 離れないでぇぇぇ!! 捨てないでぇぇぇぇぇぇ!!」


 マーガレットのデカい声が部屋中に響き渡る。間違いなく、外にも聞こえているだろう。

 これ以上騒がれるのはまずいとアセビは判断し、必死になだめた。


「わかった! わかった! 解散しない! 今のは嘘ですぅ! 冗談ですぅ! それでいいだろ!?」

「ほんとうに!? ほんとうのほんとうに!?」

「本当だっての! だから静かにしろって!!」

「……本当に良かった……良かった……ぼく……」

「うむ……うむ……」


 ルピナスがようやくアセビの足から離れる。いっしょにいてくれるとわかって安心したのだ。

 ルピナスは今度はサツキの胸に飛び込む。言葉にできない喜びを噛み締めているのだろう。

 サツキは慈愛の眼差しを送りながら、ルピナスの背中を撫でていた。


「はぁ……なんかアセビくん疲れちゃった……」


 アセビはため息をつく。自分の帰らないといけない場所に戻ってきたことを実感していたからだ。ストレスだらけの毎日がまた始まるのである。しかし不思議と悪い気はしていなかった。

 アセビにとって問題児たちの存在は、大きな心の支えになっているのかもしれない。


「まー、その、なんだ……みんなで飯でも行くか?」

「やったぁぁぁ! ご飯さん何でも食べるわっ!」

「……みんなでご飯……嬉しいなぁ……」

「フフフッどこまでもついていくさ」




 アセビたちは冒険者ギルドの食堂に来ていた。みんなで食事をする。日常が帰ってきたのだ。

 アセビたちは、運ばれてきた酒がたっぷり入ったグラスを握る。


「女子たちの復帰祝いと……」

「アセビの頑張りに……」

「かんぱーい!」

「かんぱーい!!!」


 アセビ一行は割れんばかりにグラスをぶつけて、酒を飲んだ。舌を駆け抜ける心地よい苦み。喉を通り抜けるいつまでも感じていたい刺激。疲れた体と心を癒すにはこれしかない。

 マーガレットとルピナスは、久々の酒ということもあり、喜びに震えている。

 アセビがちらりとサツキを見ると、酒を飲んだ彼女は顔を赤くしていた。これ以上飲んだら、恐らくだが、鬼になる。

 アセビの視線に気づいたサツキが頷く。


「安心してほしい。もうお酒は飲まない。フフフッ」

「頼むぜ。お前が酒のせいで暴走するオチは、もう絶対駄目だからな!」


 アセビはそれだけ言うと酒を一気に飲み干す。グラスの中身はあっという間に空になってしまった。アセビが追加の酒を頼もうととしたその時である。


「よっこいしょっと!」


 隣に座っていたマーガレットが、距離をつめて、アセビにぴったりとくっついてきた。問題児はニコニコと笑いながら、肩に頭を乗せる。


「酒飲みにくいんだけど。つーか熱いんだけど」

「えへへ! いいじゃない!」

「よくないじゃない」


 アセビがマーガレットを引き剥がそうとするが、決して離れようとはしない。さらに肩に頭を乗せるだけでなく、腕も絡ませてきた。絶対に離れないという強い意思を感じさせる。


「……ぼくも」


 ふたりのコミュニケーションを見ていたルピナスが席を立ち、アセビの膝の上に座った。ほのかな重みを感じさせる。

 アセビが困惑していると、膝の上のルピナスが顔を向けた。いつもとは別人のように、弾けるような笑顔を浮かべている。


「あはは」

「お前がそこに座ると酒飲みにくいんだけど」

「今日だけ……ね?」

「本当に飲みにくいんだけどね」


 ルピナスはアセビの膝から一切動こうとはせず、酒をゆっくり飲み始めた。滅多に笑顔を見せない少女を邪険に扱うわけにもいかない。そのままアセビも酒を飲み始めた。


「えへへ!」

「あはは」

「まー、たまにはいいか……ん?」


 アセビは正面から視線を感じた。目の前には顔を赤くしたサツキがいた。チラチラとアセビを見ている。いつもの頼れるお姉ちゃんらしくない行動だ。

 アセビは首を傾げた。


「サツキ? どうしかしたか?」

「うむ……その……なんだ」


 マーガレットとルピナスがサツキの気持ちをいち早く察する。妹分たちのように、いっしょに甘えたいのだろう。お世話になった弟分に、物理的にも精神的にも近づきたいのだろう。

 マーガレットはそんなサツキに、助け船を出すことにした。


「サツキもこっちにくれば? アセビにご飯さん食べさせてあげて」


 サツキは待ってましたと言わんばかりに急いで席を立ち、アセビの隣に座り、ぴったりとくっつく。完全に身動きが取れなくなってしまった。

 サツキはテーブルに並べられた焼き魚から、箸で器用に骨を取った。そのままアセビの口元に近づける。


「ほら……あーん」

「いやひとりで食えるんだけど」

「フフフッお姉ちゃんに遠慮しなくていいのだぞ?」

「いや遠慮してないって……」


 気づけばマーガレットとサツキにぴったりとくっつかれ、膝の上にはルピナスがいた。これでは酒や食事を楽しむどころではない。

 アセビは体を左右に動かした。


「だからお前たち離れろって!! 飲み食いしにくいんだってマジで!!」

「えへへ! いやよ!」

「あはは! 悪い子になっちゃった!」

「フフフッ! お姉ちゃんに甘えるといいぞ!」


 アセビに怒鳴られたが、女子たちはそのまま離れようとはしなかった。なぜならぼっちは、自分に優しくしてくれた人を、絶対に逃がしたりはしないからだ。

 問題児たちは心の中で誓う。今度は自分が、アセビの力になる、と。楽をさせてあげよう、と。


「しょうがねえ問題児どもだなぁ」


 食堂にアセビ一行の笑い声が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ