ふたりの黒い冒険者 12
「おい黒キノコ。お前を……守ってくれる……薄汚い子分どもは……品切れか……?」
「……」
フジとフクシアが肩で息をしている。体力とエネルギーを激しく消耗したのだ。
黒いファンガスが引き連れてきた子分たちは、全て処理されていた。周囲には、かつてファンガスだったものが転がっている。無惨な死骸と化していた。
黒いファンガスは、何も答えずにフジとフクシアに向かって1歩近づく。心なしかその歩みに余裕を感じさせる。
フジとフクシアは顔をしかめた。
「はぁ……はぁ……今のわたしたちになら……勝てるって思ってるのかな?」
「気に入らねえな……子分がいないと宣戦布告もできねえ糞キノコがよ……」
フジが口から暴言を吐き出し、フクシアは地面に膝をつきながら、黒いファンガスを睨みつけていた。
「……」
ふたりの前に黒いファンガスが近づく。腕に丸太を握っている。ふたりを叩き潰すつもりなのだ。
「よし、タイマンなら……勝ちの目はある!」
ずっとフジたちの背後で控えていたアセビが、銅の剣を構えた。気合が入っているのか、その表情はどこか頼もしい。
黒いファンガスは再生能力を持っているからか、アセビを見ても怯む様子は全くない。まとめて叩き潰してやるとでも思っているのだろう。
フジはやれやれと肩をすくめる。
「アセビ、すまんが……しばらく任せたい。いいか?」
「オッケー!」
「アセビくんごめんなさい……わたしたち……ちょっとだけ……疲れたかな……」
「オッケーオッケー! 後ろで休まさせてもらったからね! お疲れ! あとはオレがやる!」
アセビは黒いファンガスに向かって走り出した。
黒いファンガスは迎撃するため、丸太を両手で握って待ち構えている。
アセビはそれを見てニヤリと笑い、銅の剣を振り下ろすことなく、そのまま勢いよく投げつけた。
「オラァ! 食らいやがれ!」
銅の剣が吸い込まれるように黒いファンガスへと向かっていく。
さっきはうまくいった。しかしそう何度も当たるものではない。
黒いファンガスが丸太を勢いよく振り下ろして、銅の剣を叩き落とした。以前の経験が活きたのか、アセビの動きを予想していたのかもしれない。
「バカがよ! 隙を見せたな!」
しかし丸太を勢いよく振り下ろしたことで、アセビに大きな隙を晒してしまった。彼はすでに目と鼻の先まで接近している。腕が塞がった状態では身を守れない。
しかし黒いファンガスは隙を晒したとは思っていなかった。素手の人間に自分は殺せない。魔法を使えたとしても、腕を犠牲にすれば、いくらでも耐えられる。そう思っているのだ。
「失礼しますよっと!」
アセビは黒いファンガスの腕を掴む。ぬるぬるとした気持ち悪い感触だった。
「う〜ん、正直こいつのエネルギー奪いたくないんだけど……もうこれしかねぇ! エナジードレインッ! 体力とエネルギー全部よこしやがれ!」
アセビの腕が光り、黒いファンガスの体力とエネルギーを奪い尽くす。気持ちの悪い感触が体を駆け巡った。
「うわっ、キモッ! だがこれでお得意の再生能力も使えねえよなぁ!!?」
今度は黒いファンガスが膝をつく番だった。体力やエネルギーを奪われ、立ち上がる力すら残されていないようだ。
アセビは勝利を確信し、フジとフクシアに視線を向ける。
「フジ、フクちゃん! あとちょっとだけ根性見せてくれぃ!」
「クク、何が俺がやるだよ……フク!」
「アセビくんの期待に応えるしかないなぁ!」
フジとフクシアは、残されたエネルギーを全て解放することにした。ふたりは手のひらを黒いファンガスに向ける。
フジは拳を握って腕を引き、フクシアはそのまま黒いファンガスをじっと睨みつけた。
「テラー!」
「コンタミネーション!」
黒いファンガスの首、腕、足が引き千切られ、胴体は腐り落ち、2度と動くことはなかった。アセビにエネルギーを奪い尽くされ、再生する力が残っていなかったのである。
黒魔法使いチームの見事な連携による勝利だ。
フジとフクシアは、体力とエネルギーが尽きたことで後ろに倒れそうになったが、アセビが急いで近づいて背中を支えた。
「ふたりともお疲れ様!」
「それにしてもアセビ……お前まさかエナジードレインまで使えたなんてな……やるじゃねえか……」
「アセビくん……やっぱりすごいなぁ……」
「いやいや、ふたりのほうがすごいから! オレだけじゃ倒せなかったから!」
アセビは黒いファンガスが引き連れてきた、無惨な姿になった子分たちの死骸を見つめる。フジとフクシアが処理しなければ、エナジードレインは黒いファンガスに届かなかっただろう。
結束の力だ。
アセビは手を頭の高さまで上げ、フジ、フクシアもそれに続く。3人は笑顔でハイタッチし、勝利を祝福しあった。
「やったぞ! オレたちの勝利だ!」
「終わり終わり……まぁまぁ楽しめたぜ。ククッ」
「帰りましょうか……でもちょっとだけ休んでからにしたいな……」
疲れ切ったフクシアを見て、フジがアセビに耳打ちした。
「こういうのって、普通逆じゃねえの?」
「フクにご褒美ってことでさ。頼むぜ」
アセビが正座し、自身の太ももを叩いた。
フクシアはそれをきょとんとした顔で見つめる。
「アセビくん?」
「フクちゃん……疲れたなら……休む?」
フクシアは理解した。一瞬で理解した。
アセビは膝枕をしてあげると言っているのだ。フクシアは脱兎のごとく近づき、しゃがみこむ。
「でも……は、恥ずかしいかなぁ……」
言葉とは裏腹に、フクシアはアセビの太ももに頭を預け、無防備な姿を晒す。頬を赤く染め、満足げな表情である。
フジがニヤニヤと笑っている。妹のように可愛がっているフクシアが幸せだと、嬉しいのだ。
「ア、アセビくんの太ももいいなぁほどよく固くて気持ちがいいと言うかちょっとくんくんさせてもらってもいいかないいですよねああ今のわたしはアセビくんでいっぱいですしあわせですわかりますかわかりますよね」
膝枕だけでは飽きたらず、アセビの腹部に抱きつき匂いを嗅ぎ始めた。今のフクシアは、己の本能と欲望のままに動く獣である。
アセビは思わず恐怖し、硬直した。
「フジ、フクちゃん……大丈夫かこれ……」
「ちょっと大丈夫じゃねえなぁ。まー、しばらくフクの好きにさせてやってくれ」
それだけ言うとフジはアセビたちから離れ、黒いファンガスの死骸を見つめる。バラバラになっており、もう2度とくっつくことはない。
フジは黒いファンガスの頭部と腕を掴み、黒い笑みを浮かべた。
「俺にできることはやっておかないとな……」
アセビがここ数日で働いて得た報酬は、薬代や仲間たちの食費で消えてしまった。これではあまりに報われない。フジはそう思っている。
「お前にもご褒美をやらないとな……」
「ん?」
「俺のとっておきの黒魔法教えてやるよ。使う機会はないとは思うが……金は命で買えなくもないんだ」
「……どういうこと?」




