ふたりの黒い冒険者 11
アセビたちがファンガス軍団と激闘を繰り広げていたころ、マーガレットたちは部屋の掃除を終わらせて、ゆっくりとしていた。
「疲れたわね……」
「アセビがいないから……」
「うむ……」
女子3人はベッドに腰かけ、それぞれここ数日のことを思い出している。視線を逸らしたくなるような日々だった。アセビに対して、肉体的にも精神的に大きな負担になっていたことだろう。全員頼れる青年との別れが近いと思っている。
自然とルピナスの瞳から涙がこぼれ落ちた。それを見てマーガレットは、自身の頭を何度も叩いた。
「あたしのせい! あたしのせい! こうなったのはあたしのせい!」
「マーガレットやめろ!」
サツキがマーガレットの腕を掴んだ。
「お前だけのせいじゃない! アセビに負担をかけすぎた全員の責任だ!」
「マーガレット、自分だけを責めないで」
マーガレットは、自分が仲間に恵まれていたこと気づく。ルピナスとサツキはマーガレットを責めない。自分たち全員に問題があったと主張しているのだ。
ふたりの優しさに触れ、マーガレットの涙はさらに流れ続けた。
「優しくしないでよぉ……余計涙がでるじゃんかぁ……」
「泣いてもいいんだよ……」
「いっぱい泣いたら……明日からまた……3人でがんばろうな……」
1時間ほどしてマーガレットは気持ちが落ち着いたのか、すっかり泣き止んでいた。目は腫れて、赤くなっていたが、笑みを浮かべている。
マーガレットは、ベッドに腰掛けている仲間たちに声をかけた。
「ねえ? おじさんにお部屋使わせてもらったし、お礼言いにいかない?」
「……ぼくもそれがいいと思う」
女子3人は部屋を出て冒険者ギルドへ向かった。
マーガレットは「4人」で行きたかったと言いそうになり、首を横に振った。思ったことをすぐ口にするのはやめようと、心に誓う。その行為はきっと、誰かを無意識に傷つけてしまうことになるのだから。
「お前さんたち元気そうじゃねえか」
「やっほ! おじさんお部屋ありがと! 明日から本格的に冒険者に復帰するわ!」
マーガレットたちは冒険者ギルドに来ていた。まだ夕方前で人気が少ないからか、周囲はいつもより静かである。
女子たちは大男に深々と頭を下げた。
「ガハハ! そんな気にするな! 困ったときはお互い様ってやつよ!」
大男が大声で笑う。
「アセビにもよろしくな!」
アセビの名を聞き、マーガレットたちは表情を曇らせる。その様子を見て、大男は顎を擦った。彼もアセビ一行とはそれなりの付き合いだ。他人事と流せないこともある。
「お前さんたち、アセビと何かあったか? 最近あいつは他の冒険者とチームを組んでたが」
マーガレットがこれまでの経緯を語る。途中で言葉に詰まると、ルピナスやサツキが代わりに説明することもあった。
大男がうなりながら口を開いた。
「飽きたから食わなかったのはまずかったな。あいつお前さんたちには見せてないとは思うが、ここではいつも疲れきった顔してたからな」
「反省してるわよぅ……もう遅いけどぉ……」
マーガレットがうつむき肩を震わせる。瞳には涙がじわりとにじんでいた。
ルピナスが泣きそうな顔で大男をじろりとにらむ。もっと優しくしてあげてと言わんばかりの目だ。
「そう怖い顔しなさんなって! なんかお前さんたち絶望してるけどよ。そもそもアセビがチーム解散するって言ったのか?」
「言ってないわよ……でも……今のチームのほうが……きっといいに決まってるわ……」
「あいつはお前さんたちのこと大切に思ってるさ。じゃなきゃ、毎日あんな必死に働けねえよ」
大男の言葉にマーガレットの不安が少し和らぐ。運命共同体という言葉を思い出した。
それと同時にルピナスが恐る恐る手を挙げ口を開く。
「……どうかな……解散宣言する必要すらないと……思われてるんじゃない……?」
「いやぁ……そんなことないと思うがね……」
「……だってぼくたちは……アセビにとってお荷物の役立たずなんだもん……」
アイスエイジ到来である。
ルピナスが負のオーラを撒き散らす。彼女の口は、まだまだ止まりそうにない。
静かなギルドは、より深い静寂に包まれた。




