ぼっちは自分を助けてくれた人を逃さない 3
「やったわ! 手に入れたわよ!」
来た道を全力疾走で戻る美少女がいた。マーガレットその人である。
山岳地帯を戻り、森を抜けたらすぐクレマチスだ。マーガレットは笑みを浮かべながら走っていた。
「あたしだけ逃げちゃったけど、アセビはまー、大丈夫でしょ。身体能力強化できる魔法あるんだもの。ワイバーン倒せるでしょ。多分」
相方をワイバーンの前に置き去りにするという、悪魔の所業にも等しい行いをしたマーガレット。アセビを信頼してるからこそ、任せてもいいと判断したのだが、新人冒険者が簡単に倒せる相手ではない。
やはりこの女、ただのバカで悪魔である。
「てめえ追い付いたぞ悪魔女がッ!!!」
マーガレットの後ろから、鬼の形相をしたアセビが全力疾走で追いかけてきた。彼は怒りの感情をむき出しにしている。今にも噛みつきそうな勢いだ。
「オレを犠牲にして得た金で食う飯はそりゃあうまいだろうなァ! おい聞いてんのか! 悪魔女ァ! おい聞こえてるだろ悪魔女ァ!」
「うん、きっとおいしいわ!」
「頭おかしいのかな? いっしょに病院行く?」
マーガレットのズレた回答。アセビの怒りの炎は一瞬で消えた。頭のおかしい奴を相手にしてはいけない。つまりこの依頼を受けた時点で、運命は決まっていたのである。
マーガレットは、横並びに走るアセビに向かって笑みをこぼす。
「また会えて嬉しいわ! 運命感じちゃう! あなたもそう思うでしょ!?」
「クソみたいな運命だな! まー、でもどうでもいいかっ! 次お前と会うときは多分地獄だからな!」
「え? どういうこと?」
マーガレットはアセビの言葉に首を傾げる。彼女が後ろを向くと、憤怒の表情で夜空を舞うワイバーンの姿が見えた。巣に侵入したアセビとマーガレットの命を奪うため、追いかけてきたのだ。
「えええええ!? あなたワイバーン倒したんじゃないのぉぉぉ!?」
「ふざけんな! 倒せる分けねえだろボケッ! オレの剣は一撃で折れたわ! 逃げるので精一杯だ!」
「あの……ちょっとやばくない……?」
「ちょっとじゃないんじゃない」
青ざめるマーガレット。
薄ら笑いを浮かべて現実逃避をするアセビ。
ふたりの命は風前の灯である。
「で、でも! 山岳地帯は抜けたわ! このまま森に入れば、隠れながら逃げられるわよ!」
「う〜ん、どうでしょう」
巣を荒らされ怒りに燃えるワイバーンは、自身の翼を羽ばたかせ、風の刃を発生させた。無論、アセビたちにぶつけるためである。
風の刃はふたりに当たることはなかったが、周囲に広がる岩を一撃でバラバラにした。当たれば無事ではすまされないだろう。
「これじゃ隠れられねえな! あいつ最悪木を全て伐採してでもオレたち探す気だぞ!」
「環境に優しくないわね……」
「ネリネ、じいちゃん、ばあちゃん。天国の親父とお袋といっしょに見守ってるからな」
「いやぁぁぁ! あきらめないでぇぇぇぇぇぇ!」
悲鳴を上げるマーガレットが石につまずきずっこけてしまった。涙を浮かべ、足を押さえている。アセビは白けた表情でマーガレットを見つめていた。
「悪魔女、お前は先に地獄へ逝け。オレもすぐそっちに逝くから」
「待ってぇぇぇ! 置いてかないでぇぇぇ! 死にたくない! まだ死にたくない! もう少しだけ! あたしあと1000年は生きたいの! 誰かを犠牲にしても何を犠牲にしても! もっと生きたい!」
「お前やっぱ悪魔だわ」
爪で狙ったほうが早いと判断したのだろう。ワイバーンが、高速でマーガレットに襲いかかる。自身の命の終わりを覚悟したのか、目をつぶっている。
「きゃっ……」
マーガレットの体に衝撃が走った。彼女の体をアセビが突き飛ばしたのだ。
「いってぇぇぇ! おい! 死にたくないんだったら最後まで諦めるんじゃねえぞボケが!」
「あ、あなた……」
アセビは半端に人が良い自分を呪った。体が無意識に動いてしまったのだ。
アセビの肩からおびただしい量の血が流れていた。気絶しそうになるほどの激痛が走っている。マーガレットを突き飛ばしたときに、ワイバーンの爪が肩をかすめたのだ。まともに受けていたら、アセビの腕は容赦なく千切れていただろう。
幸運とも言えるが、現状死が先延ばしになっただけにすぎない。当然アセビもそのことはわかっている。
「クッソ……悪魔みたいな女を庇って出血死か……パッとしない人生だったな」
「ア、アセビ!」
マーガレットはポケットから小さなステッキを取り出すと、天に向かって祈りを捧げる。
「ヒールッ!!」
マーガレットが呪文を唱えると、瞬く間にアセビの血は止まり、傷が塞がった。痛みもなく、後遺症の心配もないだろう。
マーガレットが回復魔法が得意と言ったのは、本当のことだったらしい。
アセビは感謝したが、置き去りにされたこと、この状態に陥った原因が目の前の悪魔だったことを思い出す。
「……礼は言わねえ……これで貸し借りは無しだからな」
「うん……」
流石のマーガレットも自分のせいで大変なことになったと理解し、反省した様子である。根は悪い少女ではないらしい。
そんなマーガレットを見て、アセビに闘志が戻ったらしい。目に力が入っている。
「おい悪魔女」
「マーガレットよ!」
「こうなりゃ運命共同体だ。協力してもらうぞ。オレにいい考えがある。賭けに負けたら死ぬけどな」




