ふたりの黒い冒険者 3
アセビ、フジ、フクシアの新チームは早速森に来ていた。無論、ファンガス掃討ためである。
3人は世間話をしながら森を歩いていた。
「お前野宿してるのか!? ワイバーンを倒したときの報酬があれば、それなりのランクの宿に泊まれるし安い家でいいなら買えるだろ!?」
「ははっ……いろいろありまして……」
「いろいろって……アセビくん大丈夫ですか?」
世間話を続けようとしたそのときである。風がそよぎ、カビ臭いが3人の鼻腔を刺激した。
目の前にファンガスが2体。あまり大きくない個体だが、毒の成分が含まれた胞子を飛ばす可能性がある。油断はできない。
「でやがったな! いくぜぇぇぇ!」
アセビが気合いの雄叫びを上げる。銅の剣を片手に目の前のファンガスに接近し、胴体を切り裂いた。敵はたまらず逃げようと距離を取るが、アセビは逃がすまいと追いかける。
「オラァ! 逃げるんじゃねえ!」
「ファイヤーストーム!」
フジが高らかに叫ぶ。手のひらを広げ、目の前に向かってつき出す。炎の渦が放たれ、ファンガスをそのまま飲み込んだ。
焼けるような熱気がアセビにも伝わる。
「あちちっ!」
「悪いな。絶対触らないでくれよ」
炎が消えると、黒焦げになったファンガスが無惨に転がっていた。カビのような臭いは消え去っている。
アセビがファンガスだったものを軽く蹴ると、そのまま灰になって崩れ落ちた
「おぉ……す、すげぇ……これが炎魔法……」
アセビが口をあんぐりと開け驚いていると、気づいたフジが前髪をかき上げる。
「驚いてくれて嬉しいぜ。今のはちょっとした上級炎魔法ってやつだ」
「やるねぇ……あっ! そういえばキノコ野郎がもう1匹逃げたんだった! 追いかけないと!」
アセビがきょろきょろと周囲を見回すと、フクシアがファンガスだったものを引きずっている姿が見えた。それは黒焦げになっている。
フクシアも炎魔法を使うのだろう。彼女が笑顔でアセビに駆け寄る。
「アセビくん、怪我はありませんか?」
「あっ、はい。大丈夫っス」
「よし、ガンガン倒そうぜ」
3人はその後も引き続き森の奥へと進み、ファンガスを見つけては倒し続けた。キノコ狩りである。
少し歩けばファンガスに出会う。森はキノコの楽園になってしまっていた。
アセビは銅の剣を振り回し、ファンガスを追いかけ回す。
「オラァ! 逃げるなぁ!」
「フク!」
「任せてほしいな! ファイヤーボール!」
アセビがファンガスに突っ込み、逃げたところをフジとフクシアが炎魔法で倒す。この流れができていた。
アセビは尊敬の眼差しを送る。炎魔法が使えるフジとフクシアが、頼れる存在に思えたのだ。
「ふたりともすげえな……オレは身体強化魔法しかできないっていうのに」
「それだけできれば十分だぜ。最終的にものを言うのは純粋な力だろうからな」
フジが答える。皮肉や嫌味ではなく、心からそう思っているのだろう。
アセビは考え込む。先ほどから心に芽生えている純粋な疑問を、ふたりにぶつけることにしたのだ。
「あのさ。オレをふたりのチームに入れてくれたのはすごく嬉しいんだけどさ。オレ……必要ですかね?」
「必要?」
「うん。オレキノコ追いかけてるだけじゃん」
フジとフクシアが顔を見合わせる。ふたりは吹き出してしまった。おかしくてたまらないという様子だ。
「お前がいるからこそ、俺たちは楽にキノコを倒せるんだぜ? モンスターを倒すだけが仕事じゃないのさ」
「アセビくんがいなかったらフジか私が前に出ないといけないんですよ? 私たちは体を動かすのはあまり得意じゃないんです。だからアセビくんがいてくれて、すごく助かっているんじゃないかな」
「なるほど……?」
アセビは心から納得できなかった。どう考えても自分がいなくても問題ないのでは、と思っている。
フジがやれやれと肩をすくめた。
「お前自己評価低いタイプか? 何もかもひとりで全部背負うことはないんだぜ? チームっていうのはそれぞれ役割分担をするものさ。それぞれができることを全力でやればいい。そうだな、支え合いってやつだ」
「フジの言う通りです。支えあえるって素晴らしいことなんじゃないかな。アセビくんは、私たちを支えてくださっているんですよ」
アセビはクレマチスに来てからの人生を振り替えってみた。暴走する、欲深い、白い悪魔。彼女の尻拭いばかりさせられてきた。
支え合えるって素晴らしい。アセビはそんな思いでいっぱいだった。
「いいなぁ……チームって」
「アセビくん、苦労してきたんですね。今のチームを結成して支えてもらったことがありますか? 誰かに誉めてもらったことがありますか? 本音で語れることありますか?」
「フク、少し黙ってくれ」
フジが懐からナイフを取り出す。逆手で構え、目の前を睨み付けている。
視線の先には、長身のフジよりも大きいファンガスがいた。彼もアセビたちをじっと見つめている。
「普通のキノコとは違うな……」
目の前のファンガスは、身長が2メートル以上もある巨体で、肩からキノコが複数生えていた。色は墨のようにどす黒い。これまで見てきた個体とは違って、丸太のように太い腕も生えている。
フジがニヤリと笑った。
「あいつがキノコのボスか? 焼いたら3人でいっしょにキノコ料理屋でも始めるか?」
「わたしキノコ料理正直好きじゃないんだけど……」
フジとフクシアは余裕なのか、軽口を叩く。
しかしふたりとも気づいていなかった。30センチほどの小さなファンガスが、背後から忍び寄っていたことに。毒の胞子を撒き散らす個体だった場合、病に冒されてしまう。
小さなファンガスは頭をフジとフクシアに向ける。胞子を撒き散らすつもりだ。
「やらせるものかよ!」
アセビはいち早く存在に気づき、小さなファンガスを思い切り蹴り飛ばす。敵は勢いよく木に激突し、体を痙攣させていた。
「なにっ! キノコがいやがっただと!?」
「ファイヤーボール!」
フクシアが人差し指から火の玉を発射し、小さなファンガスにぶつける。あっという間に黒焦げになり、動かなくなった。
「さっきのデカいヤツは……!?」
先ほどまでアセビたちの目の前にいた黒いファンガスは、姿を消していた。子分の奇襲が失敗したため、撤退したらしい。
フジが額の汗を拭う。
「小さいキノコがいるとはな。知らなかったぜ。お前がいなかったらやばかった。助かったぜ」
「アセビくんがいなかったら、私たち胞子を吸っていたかもしれませんね。アセビくん、ありがとう」
「はは……」
フジとフクシアは頭を下げ、アセビは照れ臭そうに頭をかいた。褒められて嬉しかったらしい。
その後もアセビとフジとフクシアはファンガスを倒し続け、無事ノルマを達成した。3人の背後には、黒焦げになったファンガスが無惨に転がっている。
いつもより仕事が早く終わったことに、アセビは感動しつつ、冒険者ギルドに戻った。
「おっちゃん終わったぜ! ノルマ増やしたがなんとかなったよ!」
「おう! やったじゃねえか! ほれ、報酬は平等に分けておいたからな!」
大男が報酬の入った袋を3つアセビに渡した。ずっしりとした重みを感じ、アセビはニヤリと笑う。フジ、フクシア様々である。
大男はアセビに顔を近づけ、声を潜めた。
「なあ、アセビ。お前さん本当にフジとフクシアとチーム組んだんだよな?」
「ん? そうだけど。ふたりともすごい優秀でさ! オレなんかとは全然違うっていうか!」
大男は遠くでアセビを待っているフジ、フクシアを見つめる。何か言いたげな表情だ。大男はふたりに聞こえないよう、アセビに向かって、小声で語り始めた。
「フジとフクシアは絶対に誰とも組まない。だからちょっと驚いたんだ」
「そうなのか? オレはフジからチームに誘われたんだけどな。フジもフクちゃんも、炎魔法を自由自在に操る最強コンビって感じだったぜ?」
「炎魔法……? 妙だな」
「ああ、そうだけど」
「……まー、いいかっ! とにかくお疲れさん!」
アセビは急いでフジとフクシアの元へと向かった。ふたりに報酬の入った袋を渡す。中身を見てフジとフクシアも満足げな表情だ。
「ほう、悪くない」
「良いお仕事ができたみたいで嬉しいな。アセビくんのおかげですね!」
「ふたりとも今日は本当にありがとう! マジで助かりました!」
「アセビ、まだ時間あるだろ? せっかくだ。食堂で飯食おうぜ」
アセビが申し訳なさそうに両手を合わせる。フクシアがきょとんとした顔で首を傾げた。
「ごめん、ちょっと帰らないと……」
「アセビくん? どうしてですか?」
「キノコの胞子を吸った病人が3人いてね。あいつらにご飯と薬を用意しなきゃいけないんだ」
「なるほど。最近アセビくんがひとりだったのは、それが原因だったんですね」
「それじゃ急ぐから……」
アセビがフジとフクシアに背中を向ける。名残惜しそうに去ろうとしていた。
どこか寂しげな背中を見て、フジが声をかける。
「アセビ! 明日も3人でいっしょに行くか? 薬代稼がないといけないんだろ?」
「えっ! いいのか!?」
「ああ、行こう!」
アセビはフジとフクシアに向かって手を振り、足早に冒険者ギルドを去った。病人になった問題児たちの世話をするために。
アセビが去ったことを確認すると、フクシアは顔を赤くし、その場にしゃがみこんだ。
「アセビくん……やっぱりいいなぁ……素敵だなぁ」
「想像以上に良い奴だったな。あいつとなら、ずっと3人でやれるかもしれないぞ」
「うん! やれる! やりたいな!」
「それは本人次第だがな。あいつも結構苦労してそうな気がするぜ」
フクシアが立ち上がり、口を開く。
「私ならアセビくんを苦労させないし悲しませないし支えられるよ病気にもならないし炊事選択身の回りのお世話なんだってできるよアセビくんのためなら……」
「とりあえず、俺たちだけで飯行くか」
フジは食堂へと向かいながら、今日いっしょに戦った純朴そうな青年の顔を思い出す。フジは思った。アセビは間違いなく良いヤツ、気に入った、と。
一方フクシアの頭の中もアセビのことで、いっぱいだった。もっといっしょにいたいという想いを募らせるのだった。




