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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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犬によく吠えられる人っているよね 3

 空腹も満たされ、アセビ一行は元気になった。暗いムードは消え去っている。

 気づくと周囲は薄暗い。夜が近づいてきている。野宿をするにしても準備が必要だ。

 アセビが手を叩くと、女子たちが視線を向けた。


「はーい、注目! 役割分担といこう。オレは火をつけるから、女の子チームは薪を集めてきてくれ。無理しない程度でたくさん頼む」

「オッケー」

「じゃ、みんなこれ握ってくれ」


 アセビは白い糸を女子たちに渡した。それを木に巻き付ける。


「迷ったら大変だからな。お前たちも自分の体にこいつを巻いてくれ。あまり遠くにはいかないようにな」

「これはなに? 紐じゃないわよね?」

「芋虫の糸だよ。柔らかいけど千切れにくいし、結構伸びるからな。安心してくれ」


 ルピナスは頷き、北へ向かって進んだ。

 マーガレットは普段より気合いが入っており、キリッとした表情で東へ向かう。少しでも汚名を返上したいと思っているのだろう。

 マーガレットとルピナスを見送り、アセビは火をつけるための準備を行った。 周囲に落ちている木の枝を拾い集め、燃えやすい葉っぱを集める。

 残ったサツキがアセビに問いかけた。


「アセビ? 私にも指示がほしいのだが」

「火をつけるのはひとりでも余裕だからよ。お前にも薪拾いを任せたいんだ」

「それは女の子の仕事だろ?」


 アセビは首を傾げた。


「いやお前女の子だろ? 男じゃないだろ?」

「う、うむ。男ではないが……」

「じゃあ女の子じゃん」


 サツキが顔を赤くし、目を伏せる。


「まぁ、その辺の男の100倍怖いけどな! お前にも女の子チームの仕事を頼みたいんだわ。いいかな?」

「そうか、そうか。女の子か。フフフッ」


 アセビの背中をサツキは何度も叩き、満面の笑みで南へ向かって歩みを進めた。機嫌が良いのか、鼻歌まで歌っている。

 アセビはサツキの背中の背中を見送ると、自身の作業に集中することにしたようだ。指をポキポキと鳴らして気合を入れている。

 

「さて、やりますかねぇ!」




「結構たくさん落ちてたわね」

「……うん」

「みんなお疲れ様。あとはアセビに任せよう」


 それぞれ違う方向に進んだ女子たちだが、気づけば合流していた。全員手にいっぱいの薪を持っている。これなら一晩中火を灯すことが可能だろう。

 全員で戻ろうとしたそのときである。マーガレットが目を細め、森のさらに奥を指差した。


「……ねえ? あれ館じゃない?」

「暗いし霧が深いのに……よく見えるね……ぼくは……ちょっと見えないなぁ」

「私にもうっすらとだが見える。しかし、こんなところに館か……」


 サツキが顎に手を当て考え込む。人気のない不気味な森に館があることに、違和感を覚えたのだ。

 もしかしたら誰かが住んでいるかもしれない。しかしまずは、アセビと合流した方がいいとサツキは冷静に判断した。すでに周囲は薄暗い。全員で行動した方が安全だ。


「気になるが、ここは1度戻って……」

「あたし、ちょっと行って見てくるわ!」


 マーガレットを止めようとしたが、すでに走って森の奥へ向かって走っていた。

 欲にかられての行動ではない。今のマーガレットは名誉回復のため、みんなのため、行動している。少しでも今の状況を良くしたいと思っているからこそ、無理をしてしまうのだ。

 当然サツキはマーガレットの考えをわかっている。こうなるとなかなかこの行動を咎めにくい。


「お前の気持ちはわかるが……」

「……行っちゃったね」

「とにかく、私たちも行こう! ひとりでは危険だ」


 ルピナスとサツキはマーガレットを追いかけると、彼女は何かを見上げている。


「ここは……?」

「……大きいんだなぁ……」


 マーガレットたちの目に、大きな館が映っていた。侵入者を拒むかのごとく、鉄の柵で囲まれている。壁はひび割れ、石を加工して作られた屋根は劣化していた。

 元は立派な館だったのだろう。しかし今はどう見ても廃墟にしか見えない。

 サツキがため息をつく。


「誰も住んでいなさそうだな。もし人がいたら、帰り道を教えてもらいたかったのだが……」

「とりあえず入ってみましょ! もしかしたら食べ物があるかもしれないし、ここなら安全に寝泊まりできるんじゃないかしら!」


 マーガレットが急いで館に入るために近づくが、すぐに足を止めた。

 入り口に侵入者を拒むかのように、こちらを睨むものがいたからだ。


「黒い……犬……?」


 それは黒い体毛に覆われた犬に似た生物だった。目は赤く、鋭い眼光が特徴的だ。

 激しい敵意を感じ、マーガレットは思わず1歩あとずさった。彼女は顔の前で手を合わせ、ウインクする。


「ご、ごめんなさいね! お邪魔するわよ!」


 黒い犬に似た生物は、マーガレットを睨みつけたまま微動だにしない。


「だ、大丈夫よね……?」


 マーガレットが1歩館の入り口に近づくと、黒い生物も1歩前進した。

 サツキが肩を掴んで、首を横に振る。彼女がマーガレットを止めていなければ、目の前の黒い生物が襲いかかっていたことだろう。


「マーガレット、あの黒い犬はただの番犬ではなさそうだぞ。戦えば勝てるとは思うが……」

「無駄な体力を使うわけにはいかないわよね……」

「うむ。残念だが戻ろう」


  マーガレットとサツキは館の入り口から離れた。中に入れないなら長居は無用だと考えたのだ。


「ルピナス、帰るわよ……えっ!?」


 マーガレットがルピナスに視線を送ると、彼女は黒い生物の目の前にいた。顔は赤く、少し興奮しているように見える。その目は可愛い動物を見る者のそれだ。

 黒い生物もルピナスに近づく。手を伸ばせば互いに手が届く距離だ。


「ルピナス!? 下がれ! 危ないぞ!」

「……わ、わんわん……」


 サツキの制止を無視し、ルピナスは黒い生物の頭に向かって手を伸ばした。頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めている。

 黒い生物は体を擦り付け、ルピナスに甘え始めた。


「……わんわん……かわいい……」


 マーガレットとサツキはずっこけた。

 先ほどまでの鋭い眼光はどこへやら。黒い生物はルピナスにすっかり懐いている。

 マーガレットとサツキは目を合わせ、頷き合う。彼女たちは急いで体に巻き付けた糸をほどく。

 黒い生物がルピナスに気をとられている間に、ふたりはゆっくりと館に侵入した。




 館の中は広かった。正面には階段があり、2階へと繋がっている。左右の壁には扉があった。他の部屋に通じているようだ。

 マーガレットとサツキは、窓から入る月の光を頼りに館を探検することにした。


「あたし2階行くわね」

「了解した。私は1階を調べる。何かあったら大声を出すんだぞ」


 マーガレットが2階の部屋を調べると、寝室を発見した。大きなベッドはふかふかで寝心地が良さそうに見える。

 他には物置部屋、空き部屋を見つけたが、食料は見つからなかった。

 マーガレットはサツキと合流しようと思ったが、まだ調べていない部屋があることに気づき、期待をこめてその部屋に入った。

 壁にはクモの巣がかかった絵画、埃かぶった椅子と机があった。しかしやはり食料はないようだ。


「そう都合良くはいかないわよね……」


 マーガレットが肩を落として部屋を出ようとした、そのときである。

 雲が晴れ、窓から入る月の光が部屋を照らすと、机の上で何かが光った。


「あら……?」


 マーガレットが机に近づく。その上を見ると、ガラスでできた小さなケースが3つ置いてあった。中には、ついさっきまで追い求めていた物が入っている。それぞれのケースに青い宝石、黒い宝石、赤い宝石が大切に保管されていた。


「やだ……綺麗……」


 マーガレットはうっとりとした表情で呟く。宝石のあまりの美しさに、すっかり虜になっていた。

 これらの宝石を見て、欲しがらない女の子はこの世に存在しないだろう。この世に、存在、しないだろう。

 マーガレットはケースを取って、至近距離で宝石をじっと見つめる。呼吸は荒い。静かに興奮している。


「見るだけよ……見るだけ……見るだけだから……」




 サツキは1階を調べていた。

 長い廊下を突き進み、扉を見つけては中に入る。食料や使えそうなものをくまなく探す。

 

「これでは空き巣と同じだな」


 サツキは苦笑し、さらに奥へと進んだ。大きな扉を見つけて中に入ると、そこは広い部屋だった。

 視線を向けると、真ん中に木製の大きなテーブルが置かれている。その上には銀のナイフとフォーク。それだけでなく、凝った模様の描かれている皿まであった。


「ここは食事室か」


 サツキはこの部屋がダイニングルームだと理解し、期待を込めて部屋をくまなく調べた。しかし残念ながら食料はない。あるのは食器だけである。

 サツキは諦めてダイニングルームをあとにした。


「まだこちらは調べていなかったな……」


 サツキが廊下をさらに進み、1番奥の部屋に入る。

 書斎だった。本棚が所狭しと並べられている。この館の主は読書家だったのだろう。

 サツキはそのまま書斎を調べることにした。


「食料は……あるはずもないか……ん?」


 書斎の奥に小さなテーブルがあった。埃かぶった紙が置いてある。サツキは思わず指を鳴らす。

 そこに置かれていたのは地図だった。館の周囲が詳しく描かれている。これを使えば霧が深い森を脱出することができるかもしれない。


「お宝発見だな。他には何か……」


 サツキが小さなテーブルの隣を見ると、ガラスで作られたケースが置いてあった。中には多くの瓶がずらりと並べられている。

 サツキはケースを開け、中を確認した。瓶の中には液体が入っている。蓋を取って匂いを嗅いだ。


「これは……お酒だな……お酒……」


 年代物の酒だろう。豊かな香りがサツキの鼻腔を刺激する。極上の味なのだろう。

 サツキは飲んでみたいという思いに駆られる。揺れる液体から視線を逸らせずにいた。

 サツキは生唾を飲み込む。


「見るだけだ……見るだけ……そう、見るだけ……」



 マーガレットが鼻歌を歌いながら1階に戻ると、既にサツキが待っていた。彼女は機嫌が良いのか、体をゆらゆらと動かしている。

 マーガレットに気づくと、サツキは手にした地図を見せた。


「これ地図じゃない! やったわ!」

「うむ! 1階に食料はなかったがな……まー、これで十分だろう」

「2階にも食料はなかったわね。ふかふかベッドさんはあったけれど」


 お互いの状況を報告し合い、マーガレットとサツキはさっさと館を出ることにした。食料がないとわかった以上、長居は無用ということだろう。


「あっ、おかえり」


 館の入り口を出ると、ルピナスがマーガレットとサツキと合流した。問題児トリオ大集合だ。

 マーガレットが視線を向けると、黒い生物は腹を向けて気持ちよさそうに眠っていた。番犬失格である。

 女子たちは黒い生物を起こさないよう、音をたてずに歩いて、アセビの元へと戻った。

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