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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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犬によく吠えられる人っているよね 2

 1時間ほど歩いただろうか。

 アセビは違和感を覚えていた。どれだけ歩いても、霧の森に繋がっていた例の穴が見つからないのだ。

 不安を覚えていると、マーガレットが口を開く。


「ねえ? さっきから同じところ移動してない? あたしたちもしかして、迷子になっちゃった?」

「迷ったかもしれないな。だがなんとかなるだろ」

「本当に?」

「来た道を引き返すだけでいいはずだからな」


 アセビが根拠のない強がりを言う。本当は不安なのだが、そうするしかないのだ。

 アセビはこの問題児たちのリーダーなのだから。




 さらに1時間歩いた。まだ例の穴は見つからない。見渡す限りの霧と生い茂る木々。最早どこを歩いているかもわからない。

 流石のアセビの表情にも焦りが見えた。


「ルピナス、大丈夫か? 少し休もう」

「……あはは……大丈夫……」


 ルピナスが無理をして笑顔を作るも、明らかに無理をしているのが見てとれた。肩で息をし、呼吸が荒い。体力の限界が近いのだ。

 サツキはルピナスを心配し、彼女の前で背中を向けてしゃがんだ。


「ルピナス、私がお前を運ぼう。さあ、私の背中に」

「……いいよ……だ、大丈夫だから」

「お前の大丈夫は大丈夫じゃないな。サツキ、お前も少し無理してるだろ。ルピナスは俺がおんぶするぜ」


 アセビとサツキの心遣い。ルピナスは目の奥が熱くなる。

 自分は良い仲間に恵まれた。だからこそ、みんなに迷惑をかけたくない。ルピナスはそう思っていた。


「……えいっ」


 ルピナスは自分の頬をぴしゃりと叩き、気合いを入れ直した。


「ぼくはまだまだ元気だよ……」

「わかった。だが本当にきつくなったら、ちゃんと私に言うのだぞ」

「もしやばくなったら、ふたりまとめてオレがおんぶするからな!」

「うん。でも……大丈夫だから」

 

 気弱で体力が少ないコミュ障のルピナスが成長している。以前の彼女なら、疲れたらすぐにしゃがんで休んでいただろう。しかし今は違う。まだまだ歩けると必死に主張し、足を動かしている。

 アセビは感動でうち震えていた。人は変われるということを感じているのだ。

 ふとアセビがマーガレットに視線を移す。彼女はひとりまたふらふらと歩き出していた。

 アセビはどこか白けた表情でマーガレットに向かって声をかけた。


「お前何やってんの」

「うーん、あっちに宝石があるような、そんな気がしてきたのよね! 行ってみましょ!」


 体力の限界が近いルピナスと、少しずつ疲労が見え始めているサツキと違って、マーガレットはまだまだ元気そうに見える。

 アセビは思わず笑ってしまった。マーガレットの底なしの体力を見たからではない。周囲に迷惑をかけているにも関わらず、そのことに気づかず己の本能のままに動く白い悪魔を見て、呆れていたのだ。あまりの愚かさに笑うしかなかったのだ。


「お前さぁ。ルピナスとサツキを見ても、特に何も思わないのか? ふたりを巻き込んだことに対して、砂粒ほどでも申し訳ないと思ってないのか?」

「えっと……?」


 マーガレットが首を傾げている。アセビが何を言おうとしているかわかっていない。

 マーガレットは、自身のせいでルピナスやサツキが迷惑を被っていることに気づいていないのだ。

 アセビは人の心がわからない悪魔女を見て、自然と苦笑していた。


「お前のせいで、チームが全滅するかもしれないんだがな。今の状況わかるってるか?」

「大丈夫! なんとかなるわよ!」

「なんとかならないこともあるわよ。まあいいや。お前は思う存分、好きなだけ宝石を追いかけてくれ。じゃあな」


 アセビはそれだけ言うと、マーガレットに背中を向け歩きだした。ルピナス、サツキもあとに続く。

 マーガレットだけがこの場に残されてしまった。彼女はしばらく固まっていたが、自分が取り残されたことに気づき、急いでアセビたちを追いかけた。


「ひとりにしないでぇ!!」




 そして、今に至る。

 アセビ一行の体力と精神は限界に近かった。

 マーガレットが恐る恐る口を開く。


「あ、あたしたち運命共同体じゃない? 全員の絆の力でがんばればきっと……」


 マーガレットが言い終える前に、アセビが鼻で笑う。

 人の良い青年らしからぬリアクションだ。予想外の反応に、思わずマーガレットは黙ってしまった。


「な、なによぉ……」

「別に? ただ絆という言葉の意味が、少しわからなくなってしまったものでね」

「う、うぅ……」


 マーガレットの目に光るものがあふれそうになっていた。ようやく気づいたのだ。自分のせいで全員が窮地に立たされていることに。

 今まで黙っていたルピナスが口を開く。


「……4人でこのままいっしょに死なない? このままだと餓死だけど……みんなで思い出を語り合えば、きっとさびしくないよ……」


 ルピナスの言葉に、マーガレットの瞳から大粒の涙があふれる。彼女はルピナスを強く抱き締め、子どものように泣き喚いた。


「やめてぇ! そんなこと言わないでぇ!」

「そうだぞ、ルピナス。餓死だなんて言うものではないな。それはよくない」


 マーガレットに思わぬ味方が現れた。サツキである。

 マーガレットに笑顔が戻る。彼女は涙を流しながらサツキの手を握った。

 頼れるお姉ちゃんがにこりと笑う。


「4人で殺しあわないか? 私は餓死で死ぬより今を全力で生きて、そして死にたい。わかるだろ?」

「異議なし」

「……うん、いいよ」


 とんでもないサツキの提案に、アセビとルピナスも賛同してまった。このままでは、無意味な命の奪い合いが始まってしまうかもしれない。

 マーガレットは恐怖で震え、大きく息を吸い込み、大声で懇願した。


「ごめんなぁぁぁぁい! みんなぁぁぁぁ! お願いだからぁぁぁぁ! 生きてぇぇぇぇ!」


 顔をくしゃくしゃにして大声で泣くマーガレットを見て、サツキが頭を優しく撫でる。

 ルピナスも近づいて、諸悪の根源の背中をそっと優しく撫でた。

 サツキがアセビに期待の眼差しを向ける。


「お仕置きはこれぐらいでいいんじゃないか? マーガレットも十分反省しただろう。アセビ、お前には何か策があると見ているのだがね」

「まー、あるにはあるぜ。根本的解決にはならないかもしれないんだけどさ」


 アセビがポケットから何かを取り出した。得意気な顔で女子たちに見せつける。


「じゃじゃーん!」


 得意げに宣言したが、どこにでも売ってる小さなパンと木製の水筒である。

 アセビは非常時のために、常に食料を持ち歩くようにしていた。

 ルピナスとサツキは、ポケットを穴が空くようにじっと見つめている。違和感を覚えたのだ。

 

「……今ポケットから出したよね……?」

「うむ。人数分の食料をそこに入れておくのは不可能だと思うが……」

「細かいことはいいんだよ。それより、餓死の心配はしなくていいからな。ちゃんと人数分あるから、とりあえず食ってから今後のこと考えようや」

「流石だ」


 重苦しい空気は一変し、和やかな空気に変化しつつあった。

 マーガレットは涙をぬぐい、笑顔を見せた。

 少し離れた場所で、ルピナスが小さな声でぽつりと呟く。


「……ぼくは餓死でも良かったけどね……」

「ん? 何か言ったか? ルピナス」

「……別に」




 アセビたちは石に座って、パンを食べていた。あまり美味しくなかったが、贅沢は言えない。飢え死にするよりはましだろう。

 アセビはふとマーガレットが気になり、彼女に視線を向ける。木と木の間から、パンを食べるアセビたちをじっと覗いていた。

 マーガレットらしからぬ行動である。アセビは思わず吹き出してしまった。


「ほら、お前も」


 アセビはマーガレットの手を握り、木と木の間から引きずり出した。アセビたちを巻き込んだことを反省しているのか、うつむいている。


「お前もしかしてまだ気にしてるのかよ」

「う、うん……」

「もう終わったことだ。誰も怒ってねえよ。今はパン食っときな。腹が減ったままじゃ何もできないからな」


 アセビはそう言うと、マーガレットにパンと水筒を渡す。彼女も石に座って、食べ始めた。

 マーガレットは空腹だったのだろう。あっという間にパンを食べてしまった。水筒の水も一気に飲み干し、笑顔で手を合わせた。


「ごちそうさまでした!」

「おう! 戻ったらもっともっと、うまいモノたくさん食べような!」

「えぇ! それにしてもアセビっていい人よね」

「いい人じゃなかったら、お前の借金肩代わりしてないからね」


 マーガレットは気まずそうな表情を浮かべるが、すぐ笑顔に戻った。

 みんなと楽しく食事ができる。元ぼっちにとってはそれだけでしあわせなのだ。

 マーガレットは問題児である。自分勝手でわがままな性格だ。はっきり言って、あまりお近づきになりたくないタイプといえる。

 しかしマーガレットは、自身の暴走から仲間を巻き込んでしまったことを後悔し、反省していた。

 アセビは内心喜んだ。まだまだ精神的に未熟だが、この問題児は、これから少しずつ成長していくと確信できたからだ。


「えへへ! これからもよろしくね!」

「それはそれとして」


 アセビがマーガレットの頬をつねった。

 諸悪の根源と考えたら、怒りの炎に火がついたのだ。


「いたたたた! なんでほっぺたつねるのよぉ!」

「つい手が出ちゃった……」

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