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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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ぼっちは自分が気に入った人を逃さない 5

「え……サツキ……?」


 サツキは頭部から血を流し、地面に勢いよく叩きつけられた衝撃で吐血し、気を失った。


「サツキ! 大丈夫か!? クッソがぁぁぁ!!」


 アセビが銅の剣を抜き、ホブゴブリンに力任せにぶつかっていく。しかし相手は通常のゴブリンよりも体格が良く、アセビよりも身長が高い。

 そして何より、力も強い。ホブゴブリンのこん棒による一撃を鋼の剣で受け止める。衝撃が全身に走った。

 アセビは素早く距離を取り、大声で仲間たちに指示を出す。


「マーガレットォ! サツキに急いでヒールだ! ルピナス! お前は芋虫といっしょに逃げろ! オレが時間を稼ぐ! こいつは……強い!!」

「……はっ!?」


 マーガレットは、自分を庇ったせいで大怪我をしたサツキを見てショックを受けていたが、アセビの指示を聞いて我に返った。

 芋虫はルピナスを背中に乗せ、マーガレットに素早く近づく。その目は言っていた。サツキのいる場所まで運ぶから早く乗って、と。


「ストレングス、発動! ホブゴブリン! お前の相手はこのオレだぜ! 来いよ!」


 アセビはストレングスを使い、腕力を一時的に強化した。これで簡単には力負けしないだろう。


「シネェェェ!!!」


 アセビは再びホブゴブリンのこん棒を銅の剣で受け止める。衝撃はあるが、さきほどと比べたら対したものではなかった。

 棍棒を力で押しのけ、銅の剣でホブゴブリンの腕を切りつける。


「ギャアアアアアア!!!」

「効いてる効いてる!」

「コ、コロスゥゥゥ!!!!!!」

「ふぉっふぉっふぉ!」


 ホブゴブリンは痛みで悲鳴をあげ、アセビから距離を取って睨み付けた。棍棒を離すことはなかったが、確実に腕にダメージを与えている。


「ヘイ、カモンカモン!」


 アセビは口笛を吹き、手招きしている。

 善戦しているように見えるが、身体強化魔法の効果は長く続かない。連続では使えず、数分の時間を置かなければ再発動できないのである。

 それを悟られないように、あえてアセビは余裕の態度を見せる。全員で生き残るために。


「サツキ! 大丈夫!? どこが痛い!?」

「……多分全身が痛いと思う」

「ですよねー!!!」


 マーガレットが倒れたサツキを抱き起こす。目を覚ますようルピナスが体を揺するが、顔は青ざめたまま目を開かない。

 早く手当てをしなければ、サツキの命は失われてしまうだろう。


「サツキ、ごめんなさい……あたしのために……今すぐあたしの回復魔法で治すから……んっ」


 マーガレットの唇をサツキの人差し指が押さえる。どうやら意識が戻ったようだ。

 しかし頭部から流れる血は止まらず、呼吸も荒く見ているだけで痛々しい。

 しかしサツキは満足げに微笑み、ボソボソと呟く。


「血だ……ふふ……美しいな……」

「……サツキ?」


 サツキの様子を見て、ルピナスが震える。心配だからではない。

 自身の血を見て、恍惚の表情を浮かべるサツキが恐ろしかったからだ。


「ちょっとサツキ邪魔しないで! 回復魔法使わないとあなた死んじゃうわ!」


 サツキの指をはねのけ、マーガレットがステッキを握った。ヒールを唱えようとしたが、待ってほしいと言わんばかりに腕を掴まれる。


「サツキ……? ねえ、痛くないの?」

「フフフッ痛いよ。苦しいし、正直辛い……だが生きるというのはそういうことだろ?」

「えっ」

「生きることは素晴らしいことだ。だが同時に苦しいことでもある。だから生きるか死ぬかの瀬戸際っていうのは最も素晴らしく……苦しく……そして美しいんだよ」

「ど、どういうこと……?」

「わかってもらえるな? 私はこのままでいい。このままがいい。死にたくなるような……今を生きていたい」

「……ごめんなさい……ちょっとあなたが何を言っているのかわからないのだけれど……」


 マーガレットもルピナスと同様、サツキに対して恐怖する。発言全てが心の底から理解できなかった。どう考えても、脳にダメージを負って錯乱したようにしか見えなかったのだ。

 サツキの言葉を無視して、マーガレットが回復魔法を唱えようとするが、これまで沈黙していたルピナスが口を開いた。


「……ぼくは少しわかるかも」

「え!? わかるの!?」


 マーガレットが驚愕の表情でルピナスを見る。

 ルピナスは自身の命に執着心がない。そのため異常な価値観を理解できたのかもしれない。


「フフフッ……よっと……はぁはぁ……」


 サツキが足に力を入れ、ゆっくりと立ち上がった。膝は震え、まともに立っていられる様子ではない。

 しかし目だけはキラキラと輝いている。まるで、探していた宝物を見つけた、夢見る少女のようだった。


「サツキ! だからあたしがヒール使うから、おとなしくしてなさいって!」

「心配ご無用……」


 サツキは腰からオトギリソウを抜き、しっかりと右腕で握る。

 落ちていた石を左手で拾い、ホブゴブリンの頭に向かって投げた。




「グオォォォ!!!」

「テンション高いねぇ! ノリノリじゃん!」


 既にアセビのストレングスの効力は切れ、腕力は本来のものになっていた。

 しかしホブゴブリンはその事実を知らない。アセビの腕力と銅の剣を恐れ、攻めあぐねていた。


「コロス! コロス!」

「おお怖い! オラオラ来いよ!」


 お互いに相手から視線は逸らさない。

 瞬きさえ許されない状況だが、アセビは心の中でニヤリと笑う。もう数秒もすれば、再度ストレングスが発動可能だった。


「もう1回腕力と脚力を同時に強化して……短期決戦で全てを終わらせてやるよ!」


 アセビが勝利を確信し、ストレングスを使おうとしたそのときである。

 ホブゴブリンの頭に石が当たった。彼は何ごとだと思って後ろを振り向く。


「フフフッ……私はまだ生きているぞ?」


 血だらけの女がそこにいた。

 サツキは挑発するようにニヤリと笑っているが、肩で息をしている。立っているのもやっとという状態だ。


「キサマァァァ!!!!!!」


 ホブゴブリンは、石を当てたのがサツキだと一瞬で理解した。怒り狂ってこん棒を振り回している。

 ホブゴブリンは、命がけの真剣勝負に水を指したサツキに向かって、素早い動きで襲いかかった。


「おいおいおいおい!? なんでお前たちまだみんなで巣にいるんだよ!? オレ撤退しろって言ったじゃねえかよ!?」


 アセビはすでに女性陣がゴブリンの巣から撤退してると思っていた。まだこの場に留まっているとは夢にも思っていなかったのである。

 そのため一瞬判断が遅れてしまった。ストレングスを発動させても、サツキを庇うことはできない。


「クソッタレめ! 間に合えー!!!」

「グオォォォォォ!!」

「いい子だ……来い……お姉ちゃんが相手してやる……」


 サツキとホブゴブリンの距離が縮まる。ふたりが触れ合いそうになる、その刹那。

 オトギリソウによる目にも映らぬ斬撃が、ホブゴブリンの体を走り抜ける。


「ガ……」


 ホブゴブリンの体はバラバラに飛び散った。サツキの体を美しく赤く染め上げる。

 見事としか言えない一振りに、アセビはただ息を飲むことしかできなかった。




「フフフッ……」


 アセビたちが急いでサツキの元に集まる。今にも倒れそうな背中をルピナスが支え、アセビが腕を握る。


「サツキ、お前無理しすぎだぞ! 血だらけなのに動くんじゃねえよ!」

「フフフッ良い感覚だよ。わかるだろ? アセビ」

「わかるわけねえだろおバカ! マーガレット! サツキに早くヒール頼む!」


 それを聞いたサツキが、マーガレットに手をかざして制止する。息づかいは荒く、今立っていられるのも不思議なほどだ。

 マーガレットがサツキに駆け寄り青ざめる。


「サツキ! 本当いい加減にしなさい! このままだと死んじゃうわよ!?」

「フフフッ大丈夫さ。それより……アセビ、今ここで私と戦ってもらえないだろうか」

「なんだとっ」


 穏やかな表情を浮かべていた。サツキは嘘をつく人間ではない。心の底からアセビと戦いたいと願っているのだろう。


「私の最期は惨めに孤独に野垂れ死ぬものだと思っていた……だがお前たちに出会ってしまった……温かさを思い出してしまった……幸せだった……だから今ここで全てを終わらせなければならない……」

「何言ってんだお前」

「わかるだろ? 幸せなまま終われば……」

「満足して死ねるってか? どうかしてるぜ」


 サツキはホブゴブリンを一瞬でバラバラにした。まともにぶつかりあえば、流石のアセビも無傷ではいられないだろう。命を落とす可能性が高い。

 ルピナスが恐る恐る手を挙げる。


「……ぼく少しなら……わかるかもしれない」

「わかるの!?  っていうかいつからルピナスは理解者ポジションになったの!?」

「……今」

「あらやだ」


 幸せなまま早くに死ぬのが幸福か。平凡な人生を長生きするのが幸福か。それは本人が決めるものだ。アセビは後者を幸福と考えている。


「サツキ……戦うなんてダメだ。やめよう」


 当然アセビに殺すつもりはない。しかしサツキは首を横に振っている。


「フフフッ付き合ってもらう……アセビ……いくぞ?」

「マジでやるのかよ……」

「アセビ、やめて!」

「サツキもやめてよぅ!」


 サツキは右腕で刀を握り、じりじりとアセビとの距離を詰める。ゆっくりと、ナメクジが這うように。

 一方アセビは銅の剣を構え、サツキから視線を逸らせずにいた。


「どうした? こないのか……?」


 アセビは考えていた。恐らくだが、サツキにこちらを殺す気はない、と。本当に殺す気なら、すでにバラバラにされているだろう。

 サツキは期待している。アセビが自分を殺してくれることを。短い付き合いだが、心から楽しいと言える時間を共有できた仲間に殺されることを。


「……いかねえ」

「……では私から……いくぞ……?」

「いやちょっと待ってくれ!」


 サツキの命を奪わず、この戦いを終わらせる方法はないものかとアセビは必死に脳を回転させた。


「何か……何かないのか……」


 サツキは孤独を受け入れたふりをして、死にたがっているだけだとアセビは思っている。

 地元に残した家族もいるだろう。異国の地で惨めに命を散らさせるわけにはいかないのだ。


「お、オレの実力で止められるか……?」

「ダメー!」


 緊張感漂う空気の中、マーガレットがサツキに勢いよく抱きついた。この行為は不意打ちに近い。

 その衝撃で、サツキはオトギリソウを落としてしまった。思わぬ妨害を受け、動揺している。


「マーガレット!? 何をする!? 私はアセビに殺されないといけないんだぞ!?」

「サツキのおバカ! 死んだら終わりなの! どんなに辛くても、頑張って生きなきゃ駄目なの!!!」

「マーガレット良いこと言うじゃねえか! お前の言う通りだぜ!」


 これはチャンスだ。アセビはサツキを止める方法を思いついた。あったのだ。アセビにしかできない解決方法が。


「オラオラ行くぜ!」

「!?」


 今度はアセビが距離を詰めた。手のひらを勢いよく突き出し、サツキの頭に触れた。

 アセビは呪文を唱える。勝負を終わらせるために。


「黒魔法、エナジードレイン!!」

「なっ……!?」


 アセビがサツキの体力とエネルギーを吸い付くす。気持ちの悪い感覚が体全体を襲っているはずだ。


「体に力がみなぎるぜ……サツキ、動けないだろ?」


 お得意の黒魔法が、まさかこんな形で役に立つとは思っていなかったらしい。アセビは苦笑しながら、サツキの頭から手を離す。彼女は膝から崩れ落ちた。

 もう指1本すら動かす力も残っていないだろう。

 アセビはサツキの顔を覗き込む。その表情は、慈愛に満ちていた。


「なあサツキ。もうちょっとだけ頑張って生きてみねえか? ご家族や仕事のことも色々あったと思うけど、お前なら絶対! 絶対! 絶対! マジのマジに! 今より幸せに生きられると思うんだ!」

「そうよ! 今を楽しまなきゃ! だから死ぬなんて言うんじゃねえわよ!! 生きてたら良いこと絶対あるんだから!」

「ぼくが言う資格はないけど……生きることは素晴らしいこと……だったよね……? サツキは嘘つきじゃないよね……? なら、生きないとね……?」


 サツキはただ目を丸くすることしかできなかった。  

 そして同時に考える。何を生き急いでいたのか、この精神的に未熟なところが追放された理由だったのだろうか、と。

 サツキは年下のアセビたちの方が、大人だったことに気づく。その事実がたまならくおかしかった。


「フフフッ……あはははは!! そうだな! お前たちの言う通りじゃないか!」

「なっ!? オレのエナジードレインを食らったっていうのに、でかい声で笑ってるだと!?」

「どういうことなの……と、とりあえずサツキにヒール使うわよ! いいわね!?」

「……やっぱりサツキは怖いよぅ……化け物だよぅ……」

「あはははははは!!」 


 ゴブリンの巣にサツキの笑い声が響く。表情は穏やかで、幸福に満ちている。

 孤独に戦う女剣士は、小さな幸福を掴むため、生きる道を選んだ。

 順調に行くとは限らない。大変なことが待ち受けているかもしれない。苦しいこともあるかもしれない。

 それでも生きる道を選んだ。仲間たちの言葉を信じたかったから。

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