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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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ぼっちは自分を助けてくれた人を逃さない 1

「じゃ、そろそろいってきます!!」


 赤毛の青年が高らかに宣言する。彼の名はアセビ・ワビサビー。のほほんとした雰囲気の青年だ。


「気をつけてな」

「怪我しないようにね」


 アセビの目の前にいるのは、祖父母だ。老夫婦は育ての親であり、恩人でもある。

 祖父母の背後には、風が吹けば倒壊しそうな小さな家が建っていた。木製の屋根と壁には、補強した形跡がいくつもある。アセビは不安そうに眉を下げた。


「一応直せるところは直しておいたけど。う〜ん、大丈夫かなぁ……」

「安心せい。きっと大丈夫じゃ!」

「そうですねぇ、おじいさん」

「そう信じるしかないかぁ。まー、でも少しだけ待っててくれよな。オレ、この家を豪邸にできるように街で立派に稼いでくるからさ!」


 祖父母に向かって、アセビは自信満々に宣言する。彼はこの小さな村で生まれ、貧しい生活を送りながら、たくましく育った。祖父母の涙ぐましい努力と、節約のおかげである。

 アセビは日頃から思っていた。じいちゃんとばあちゃんに恩返しがしたい、と。家族全員で豊かな暮らしができるよう自分が頑張ろう、と。

 アセビは前もって出稼ぎの計画をしていた。家族の未来のために。そして今日が旅立ちの日なのであった。


「アセビや。わしらのことはいいから、お前はお前の人生を楽しむのじゃぞ」

「無理するんじゃないよ。向こうに着いたら連絡ちょうだいね。風邪引かないようにね」

「気をつけるよ。あとは……」


 アセビの視線の先に、髪を結んだ幼い少女が映る。彼女は瞳を潤ませ、拳を震わせていた。アセビの視線に気づくと、頬を僅かに膨らましてそっぽを向いた。


「ネリネ! おいで!」

「……うん」


 ネリネと呼ばれた少女が、涙を流しながらゆっくりと歩み寄る。アセビはハンカチを取り出し、涙を優しく拭き取ってあげた。


「ほ〜ら、泣かない泣かない!」

「お兄ちゃん! なんで遠い街に行くの!? ここにずっといればいいじゃん!」

「だからオレ何度も言ったじゃん。みんなでいい暮らしするためだって」

「いや! いい暮らししたくない! お兄ちゃんといっしょがいい!」


 ネリネが再び泣き出してしまった。そのままぎゅっとアセビにしがみつく。


「ネリネ……」


 幼いネリネにとって、アセビは兄でもあり、父でもあるのだ。離れたくない気持ちが伝わり、老夫婦は痛ましい表情を浮かべる。

 アセビはネリネの頭を撫で、背中を優しく叩く。


「大丈夫。お兄ちゃんたくさん金稼いだら、絶対帰ってくるから!」

「いや!」

「新しい綺麗なお家に住みたいだろ?」

「いや!」

「新しい服とかアクセサリー欲しくないのか?」

「……」


 ネリネは深呼吸をし、アセビからそっと離れる。その目はすっかり乾いていた。先ほどまで泣きじゃくっていた少女には見えない。

 ネリネは元気よくアセビに向かって手を振った。


「お兄ちゃん! お仕事がんばってね! いってらっしゃい! 新しいお洋服買いたーい!」

「我が妹ながら切り替えが早すぎる」


 アセビは苦笑いしつつも、ずっと泣きじゃくられるよりはましだと考える。彼もまた、切り替えの早い人間なのであった。

 何も永遠の別れというわけではない。アセビが生きている限り、村に戻れば妹や祖父母にはいつでも会えるのだから。


「ネリネのことはわしらに任せて」

「この子といっしょに、みんなで仕送り楽しみに待っていようかねぇ」

「おう! 豪邸建てられるように頑張るからよ! だから楽しみに待っててよ!」


 祖父母は笑顔でアセビを応援する。大切な孫が生まれ育った村を出ようとしているのだ。せめてできることをやりたいと思っているのだろう。


「ついでに嫁さんも探したらどうじゃ?」

「いいですねぇおじいさん」

「じいちゃん、ばあちゃん、勘弁してくれよ! とりあえず今は金稼ぐことだけしか考えてないから!」

「見た目で嫁さん決めると、後悔することになるから気をつけるんじゃぞ。わしみたいにな」

「……じじい、喧嘩売ってるのかえ? お?」

「ほらもうおじいちゃんもおばあちゃんも! いい年して喧嘩しないの!」


 ネリネが祖父母の間に割って入る。これではどちらが保護者かわからない。

 アセビはやれやれと肩をすくめ、安物の銅の剣を腰に差した。


「3人で仲良くしててくれよな! じゃあオレそろそろ行くから!」


 アセビが旅立とうとしたその時である。祖父が心配そうな表情で口を開いた。


「アセビ、わかっているとは思うが……」

「ん?」

「お前が子どものころにわしが教えた『アレ』覚えとるか?」

「アレだろ? 覚えてるけど」

『アレ』を人前で使ってはいかんぞ。どうしても危ないときだけ使うようにするんじゃ」

「オッケー……最終手段として使うわ」

「まー、アレを狙ってできるかはお前次第じゃがの」


 普段おちゃらけている祖父が、真剣な眼差しでアセビに忠告する。彼は受け入れることにした。年寄りの言うことは素直に聞いておくべきだと思っているからだ。  

 アセビは伸びをして、祖父母と妹に向かって改めて宣言した。


「じゃあ、今度こそ行ってくるぜ!」

「気をつけてなぁ!」

「怪我しないようにねぇ!」

「お兄ちゃん! がんばってねぇ!」


 アセビは妹と祖父母に手を降り、生まれ育った村を旅立った。青年の希望の物語が、今始まったのである。

 アセビが目指す街の名はクレマチス。旅人、旅商人、キャラバン。多くの人々が訪れる街である。

 クレマチスで一攫千金を狙い、冒険者を目指す者は少なくない。そしてアセビもその中のひとりだった。


「みんな、期待しててくれよな」


 アセビはひとりつぶやき、徒歩で街を目指した。到着するまで1週間はかかるだろう。遠い道のりだ。しかしアセビは、家族の顔を思い出すと、体の底から力が湧いてくるのだった。




「はぁはぁ……」


 アセビは額の汗を拭い、木製の筒に入った水を一気に飲み干した。

 村を出て1週間。

 アセビは徒歩で、クレマチスに向かっていた。しかし何も好き好んでずっと歩いていたのではない。

 アセビは途中でキャラバンと出会えたら、便乗せてもらおうと思っていた。しかし不幸にも、出会うことがなかったのだ。先行きが不安になる旅立ちである。


「あ……見えて……きた……!」


 アセビの視界に、街を囲う石壁が見えていた。目的のクレマチスはすぐそこである。

 アセビは息を切らしながら、小走りで向かった。




「到着っ……!」


 アセビは門をくぐり、ついにクレマチスへと足を踏み入れた。

 石造りの壁。賑やかな町並み。行き交う人々。立ち並ぶ様々な店。

 アセビは圧倒されながらも、クレマチスに到着したことを実感し、喜びに震えた。


「いっぱい稼がないとな!」


 とは言ったものの、腹が減っては戦はできぬ。歩き疲れたアセビの胃袋は、悲鳴を上げていた。今すぐ食べ物を入れろと訴えている。

 アセビは照れくさそうに頬をかきながら、近くの食堂に入り適当に食事を済ませることにした。




 食事を済ませたアセビが目指すのは、クレマチスの冒険者ギルドである。そこで登録すれば、念願の冒険者になることができるのだ。

 街を少し歩けば、武器を背負った人間がちらほら目に映り込む。彼らは冒険者なのだろう。


「みんな強そうだなぁ。オレ大丈夫かなぁ」


 胃袋はいっぱいになったが、クレマチスに到着したばかりということもあり、アセビは不安な思いに駆られていた。しかし首を振って、気持ちを切り替える。地元に残した家族の顔を思い出せば、勇気が湧いてくるのだ。


「大丈夫! いけるぜ!」


 アセビは両頬を叩くと、冒険者ギルドを目指して、行き交う人々を避けながら進み続けた。




「あった!」


 しばらく進むと冒険者ギルドの看板が掲げられた石造りの建物を発見した。

 アセビは緊張感を和らげるため、深呼吸をしてから扉を開き、中に入る。

 冒険者ギルドは多くの冒険者で賑わっていた。酒を飲む者、依頼書の貼られた掲示板を見る者、情報交換をする者など様々だ。


「えっと……どこに行けば……」


 とにもかくにも、まずは冒険者になるには登録しなければならない。

 アセビがきょろきょろ周囲を見渡していると、声をかけられた。


「あの……冒険者ギルド、初めてですか?」


 アセビが声のする方向に目を向けると、赤いローブの茶髪の少女が立っていた。幼さの残る顔立ちだが、優しげな表情が、彼女の育ちの良さを物語っている。


「実はそうなんだ。やっぱそういうのわかる?」

「ふふ。あんなにきょろきょろしてたら、すぐわかっちゃいますよ」


 少女にクスクスと笑われ、アセビは照れ臭そうに頭をかいた。


「君は冒険者だよね? どこで冒険者登録すればいいのか、教えてもらえるかな?」

「えぇ冒険者ですよ。あそこを見てください。奥に受付がありますよね」


 少女が建物の奥を指差す。

 アセビは来たばかりで気づかなかったのだが、カウンターがあった。ここで冒険者登録、仕事の受付をするのだろう。

 アセビは少女に向かって頭を下げた。


「わざわざありがとうね! 行ってくるよ」

「いえいえ。お役に立てて嬉しいな」


 少女は小さく微笑むと、足早に去っていった。アセビは優しい子がいるんだなぁと感心しつつ、奥に向かって歩みを進めた。




「こ、こんにちは〜」


 受付には体格の良い褐色肌の大男が立っていた。頭部には毛がなく強面で人相が悪い。話しかけにくい雰囲気を醸し出している。

 美人の受付のお姉さんなど、どこにも、いなかった。

 大男はアセビに気づくと、笑みを浮かべて近くに来るように手招きする。見た目と違って、なかなかに親しみやすそうな男である。


「おっ、兄ちゃん見かけない顔だな! ウチの冒険者ギルドに入りてえんだな? そうだな?」

「はい、入りたいっス! 先生お願いします!」

「良い返事じゃねえか。じゃあこの紙に必要事項を書いてくれ! 兄ちゃん、あんた文字は書けるな? 犯罪歴があるなら隠さずに正直に書いてくれよ」

「な、ないっスよ……」


 冒険者と言えば聞こえは良いが、荒くれ者や犯罪者の社会復帰の場として使われることもある。冒険者ギルドは、夢を求める者だけが訪れる場所ではないのだ。

 大男はアセビから用紙を受け取った。


「名前はアセビ・ワビサビー。 使える魔法は身体強化魔法。愛用の武器は剣。犯罪歴は無し。これで間違いないな?」

「うっス!」

「おめでとう! お前さんは今日から冒険者ギルドのメンバーだ!!」


 受付の男が大袈裟に宣言する。

 この瞬間、アセビは夢を追う冒険者となったのだ。家族のために働こう、改めてそう強く決意した。

 アセビは早速依頼を受けたいと考える。大男に尋ねることにした。


「依頼を受けたいんだ。何か手頃なのないスか? 新人冒険者でもできそうなのがいいんスけど」

「新人の仕事と言えば薬草の採取だな。畑仕事の手伝いや掃除もある。だた今日は珍しく、その手の依頼がなかったな。明日来てくれや。いい仕事紹介してやるよ」


 アセビはがっくりと肩を落とす。早速初仕事を行いたかったのだが、出鼻をくじかれてしまった。

 しかし焦る必要はないのだ。明日また冒険者ギルドに来れば、新人向けの仕事を紹介してもらえるのだから。


「そうっスか。じゃあ今日は帰ろうかな……」

「あぁ、遅くなる前に宿借りておきな。まー、お前さんがよかったらウチの管轄の宿を……」

「あれ~? もしかして新人さん?」


 受付の大男が見てはならないものを見たと言わんばかりに、うっと声ももらす。

 アセビが振り向くと、ひとりの少女が立っていた。彼女は白い頭巾を被っており、白いワンピースから覗く足は細くて長い。元気の有り余った、活発そうな美少女である。

 アセビは白い少女の問いかけに頷く。


「うん、そうだけど」

「ちょうどいいわ! あなた! あたしと一緒に冒険してみない!? 夢を追いかけてみない!?」


 アセビは夢という言葉に魅せられる。今すぐにでも仕事をしたいと思っていた。ならば今日から夢を追いかけてもいいではないか。アセビの心は、そんな思いでいっぱいだった。


「よっしゃ! 夢追いかけようぜ! 俺はアセビ・ワビサビーだ! よろしく!」

「あたしはマーガレット・デット・ダメット! これからよろしくね!」


 ふたりは熱い友情の握手を交わす。

 大男が複雑そうな表情で見ていた事に、アセビは気づいていなかった。




「じゃあ依頼の確認をするわよ! こっちこっち!」


 アセビはマーガレットに腕を引っ張られ、依頼書の貼られた掲示板の前に立った。

 ゴブリンの討伐。キャラバンの護衛。商談の立会人など、様々な依頼書が貼られていた。

 マーガレットは1枚の張り紙を剥がし、アセビに勢いよく手渡す。

 そこにはワイバーンの爪の確保と書かれていた。


「ワイバーンの爪ねぇ……」

「そ! 爪取ってくるだけ。楽勝じゃない? それだけで50万イーサンよ!」


 新人冒険者からすると破格の報酬である。

 アセビは顎に手を当て考え込んだ。決められた素材を取ってくるだけなら、確かに簡単かもしれない。

 しかし目的の物はワイバーンの爪だ。強力なモンスターの体の一部を持ち帰るとなると、なかなか難しそうな仕事である。

 アセビは不安を覚え、すぐマーガレットに意見することにした。


「本当に大丈夫? 危なくない? それとも、もしかして君はワイバーンを倒せる魔法が使えるとか?」

「見つからないように取ってくれば大丈夫! 爪は巣に落ちてるだろうし簡単よ! 強力な武器も魔法も必要ないわ! まー、もし怪我しても大丈夫! あたし回復魔法には自信があるの!」

「そりゃすごい! 回復魔法は珍しいからね!」


 マーガレットは胸を張って誇らしげだ。

 しかしアセビは見つからないように、という言葉に胸騒ぎを覚える。マーガレットはワイバーンに見つかったときのことを、一切考えていないように思えたのだ。


「ちょっと不安だね。オレはもう少し簡単そうな仕事でもいいんだけど……」

「絶対大丈夫よ! でもそうね。もし何かあったら、お詫びとしてあたしのおっぱい触ってもいいわよ」

「えぇ……」


 マーガレットが自信たっぷりに宣言する。ここまで言うのなら、よほど自分の運や回復魔法に自信があるのだろう。

 アセビはマーガレットを信じることにした。

 冒険者になったからには、依頼を受けて金を稼がなければならない。地元に残した家族のために。もう進むしかないのだ。


「わかったよ。ワイバーンの爪を取りにいこう」

「そうこなくちゃ! やる気十分ね!」

「オレは我流の剣術、身体能力を強化する魔法、それから……」

「なになに? 他にも何か使えるの?」

「いや、なんでもない。あまり頼りにならないと思うけど頑張るよ」

「じゃ、いっしょに行きましょ! おじさーん、ワイバーンの爪とってくるわね!」


 マーガレットが受付の大男に向かって手を振る。彼はものいいたげな表情だが、口を閉じた。


「君はワイバーンの巣がどこにあるか知ってるの?」

「もちろん! こっちよこっち!」


 マーガレットが笑顔で親指を立て、アセビの腕を握って冒険者ギルドを飛び出す。

 アセビは夢と希望と不安を胸に、ワイバーンの巣へと向かうのだった。

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