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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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ときには天使のように 2

「……う?」


 感動的な空気。壊してはいけない。絶対に壊してはいけないのだが。コミュ障は空気を読めない。

 ルピナスは腕を組みながら、瞳を閉じている。どうやら気になることがあるらしい。

 慰め合うアセビたちに近づき、マーガレットの背中を指でつついた。


「ちょっとまた聞いてもいい? ぼく気になったんだけど。マーガレットはなんで追放されたの?」


 ルピナスの空気を読まない発言に、アセビとサツキは頭を抱えた。


「ルピナス……お前……」

「あ……あたし……あたし……」

「お仕事で失敗したの?」


 サツキはルピナスの口を塞ごうか迷ったが、やめることにした。姉貴分として、マーガレットの追放理由を聞いておきたかったのだ。

 アセビが首を横に振り、ルピナスの頭にそっと手を乗せた。


「マーガレットは、追放されるレベルの極悪人じゃないさ。自分勝手で欲望の塊だけどよ」

「悪い天使じゃないよね。ただちょっと宝石勝手に持ち出してクレマチス滅ぼしそうになったけど」

「追放は重い罰だ。許されざる行為をした者にのみ与えられる大罪。マーガレットに限ってそれはない。これまでいろんな失敗をしてきたが」


 上げて落とすとはこのことだ。感動的な空気から、いつものアセビ一行の雰囲気に戻りかけている。

 マーガレットはむすっとした表情を浮かべ、アセビたちをじろりと見つめた。


「……あなたたち。あたしのこと上げて落とすのやめてほしいのだけれど」

「でも事実でしょうが」

「ぐぬぬ」

「で? どうして追放されちゃったの?」

「その……」


 ルピナスは興味津々らしく、瞳をキラキラと輝かせている。

 マーガレットは口をモゴモゴとさせていた。追放された理由を言いにくいのだろう。

 アセビはマーガレットの気持ちを汲み取った。これ以上の詮索はよろしくないと思い、ルピナスの口をつぐませるように両肩を掴んだ。


「ルピナス。もうやめようぜ。言いにくいこともあると思うんだ。追放って相当重い罰だからな」

「う?」

「マーガレット。お前がもし言いたくなったら、そのときにでも言えばいいさ。だから別に今無理して言わなくても……」

「いいえ……大丈夫よ」


 マーガレットはアセビの言葉を遮った。追放された理由を言う気になったらしい。

 マーガレットの瞳は輝きを失っている。追放されたことを思い出すのが辛かったのだろう。

 マーガレットは深い溜め息をつき、自嘲気味な笑みを浮かべている。


「無理しなくていいんだぞ」

「……たの」


 マーガレットが小声でぼそりと呟いた。


「ん? 今何て言ったんだ? ちょっとよく聞こえなかったんだけど」

「マーガレット。もう1度聞かせてほしい」


 サツキがの言葉を受け入れるように、マーガレットは再び口を開く。


「あたし……クソジジ……天使長様のおやつ……食べたの」

「えっと、それが追放理由?」

「……」


 マーガレットが気まずそうに、そっと頷く。

 何かが千切れる音がした。アセビとサツキがキレたのだ。


「おいおいおいおい! おやつ食っただけで追放はちょっと厳しすぎだろおい!」

「う? マーガレット、さっきクソジジイって言おうとしてなかった?」

「うむ! 私も許せん! その天使長とかいう奴に抗議させてもらうぞ!」


 アセビとサツキが怒りの感情を爆発させ、拳を震わせている。

 マーガレットはおやつを食べて追放されてしまったらしい。それが事実ならアセビとサツキがブチギレるのも無理はない。マーガレットは怒りの感情に支配されるふたりを見て、頬を膨らませ、顔を赤くした。


「そうよそうよ! あのクソジジイじゃなかった、天使長様許せないわよね! おやつ食べたぐらいでこのあたしを追放するだなんて! あー、なんかすげえむかついてきたわ!」

「もう完全にクソジジイって言っちゃったね」

「許せねえ! そのクソジジイ様とかいう奴、オレがぶっ飛ばしてやるよマジで!」

「うむ! みんなで天界に乗り込むぞ!」

「多分行けないと思うよぅ」


 異様な雰囲気が漂うみんなのお家だが、ルピナスだけはどこか冷静に物事を見ていた。空気の読めないコミュ障だからこそ、落ち着いて冷静に判断できるのかもしれない。

 ルピナスはマーガレットをじっと見つめ、再び疑問をぶつける。


「追放されて大変だったね。それで? マーガレットが天使長様のおやつ食べたのって……1回?」


 マーガレットが顎に人差し指を当てる。ツルツルの脳みそを回転させて、過去の記憶を思い出そうとしているようだ。


「1回じゃないわよ? う〜ん……100回以上?」

「は?」

「えっ」


 マーガレットの口から想定外の答えが飛び出す。

 アセビとサツキは問題児に目を向けた。彼女は顔を赤くして拳を上下に動かしている。過去のことを思い出して、怒りの感情が爆発したらしい。


「追放される時に、お前は根っこの部分から腐りきっているから、人間の世界で色々と学んでこいってジジイに叩き落とされたの! しかも魔法であたしの自慢の大きな翼まで小さくしちゃったのよ!? ひどすぎるわよねぇ!!?」

「……おぉ」

「なんかあたしが徳を積んだら、また翼は大きくなるって言っていたのだけれど……そんなの面倒くさいし今すぐ元に戻しなさいって感じ! ぶーっ! 絶対に許せないわ!!」

「……うむ」


 プンプンと怒り狂うマーガレット。頬は風船のように膨らんでいる。

 先程まで怒りの化身と化していたアセビとサツキ。しかしふたりが感じていたマーガレットへの同情心は、薄れてしまっていた。


「……で? なんでおやつ100回も食べたんだ?」

「あたしの近くにあったから」

「えぇ……」

「そもそもおかしいと思わない? 天使が誰かの幸せのために働くって!」


 天使の存在を揺るがす発言である。

 サツキは首を傾げながら腕を組んだ。


「いや……素敵なことだと思ったが……」

「そもそも自分を幸せにできない子が、他の誰かを幸せにできると思う? 思わないでしょ!!?」

「思うけど」


 完全に冷めてしまったアセビとサツキとは打って変わって、マーガレットは怒りに燃えている。彼女はどこか芝居がかった調子で胸を押さえた。


「だからあたしは自分のために行動したの!」

「……何をしたんだ?」

「何もしないことをしたの!」


 マーガレットは得意げな顔でアセビに向かって指を差した。


「ちょっと何言ってるかわかんねえんだけど」

「おひるねしたり、おやつを食べたりしてたの!」

「う? お仕事は?」

「ん〜……まぁたまに?」


 アセビたちの天使に対するイメージが、少しずつ崩壊していく。彼らは人々のため、優しい世界をつくるために働いている。そう思っていた。

 しかしアセビたちの目の前にいる問題児は、そうではなかったらしい。己の欲望を満たすためだけに堕落した生活をしていたのだ。

 これでは天使ではない。堕天使である。


「自分の幸せを求めていたら、ジジイにたまに呼び出しされちゃうのよね〜。ぐちぐちお説教してくるの。嫌なジジイだわ」

「……天使は徳を積んだ人間を影から助けないといけないんだろ? ひるねしたりおやつ食ってるだけじゃ、そりゃあ怒られるに決まってるじゃん」


 アセビの言葉にマーガレットは顔をしかめた。同じことを過去に言われたことがあったのだろう。


「ジジイにも言われたわ! だからあたし言ってやったのよ!」

「えっと、自分を幸せにできない子が他の誰かを幸せにできるかってやつ?」


 マーガレットは満足そうににうんうんと頷く。アセビが言ったことを覚えていてくれて嬉しかったらしい。


「そうよ! そしてついでにジジイの部屋の机に乗せられていたおやつも食べたの!」

「えっ。マーガレット、お前は天使長様にお説教されている途中で、お菓子を食べてしまったのか?」

「えぇ。食べたわよ?」


 マーガレットは悪びれる様子もなくサツキの質問に答える。

 アセビは息を大きく吐き出し、目を擦りながら堕天使に問いかけた。


「……なんで?」

「近くにあったから」

「えぇ……」

「おいしかったわよ」

「味は聞いてねえよバカだろお前」


 バカである。

 流石のサツキもフォローできないのだろう。困ったような顔でこめかみを指で押さえている。


「うむ……自分のためだけに行動する。それでは当然お説教をされる。そのたびに近くに置いてあるお菓子を食べる……か」

「それを繰り返したの? それで追放されたの?」


 ルピナスの口から改めて追放理由を問う質問が飛び出した。答え合わせの時間である。

 マーガレットは再び頬を膨らませ、芝居がかったように両手を広げ、顔を赤くした。


「そうよ! その通りよ! でもちょっとおやつ食べただけじゃない! ジジイ本当にひどいわよね!」

「100回はちょっとじゃないんだよなぁ。つーか天使長さんもしかして良い人なんじゃね? 説教100回までは許してくれてたってことじゃん」

「うむ……しかもマーガレットはお説教中にお菓子を食べていたみたいだからな……」

「オレなら拳っスよ」


 シンプルにまとめると、マーガレットはニート活動をしていたら説教されて、そのたびに近くにあった菓子を食べ続けた。その行為を繰り返し続けたせいで天使長の怒りに触れてしまい、他者を思いやる心を芽生えさせるために、人間の世界へ追放されてしまったのである。


「あたしが誰かのために徳を積めば翼はまた大きくなるってジジイが言っていたのだけれど……面倒よねぇ。そもそもみんながあたしに優しくすればいいじゃない。それならあたしが幸せになれるじゃない」

「こいつ本当に天使か? ずっと前から思ってたんだけど本当は悪魔なんじゃねえか?」

「ぼくの涙返してほしいんだけど」

「うむ……うむ……」


 理不尽な理由で追放された愛らしい天使など、どこにも、いなかった。アセビたちの目の前にいるのは、欲望を愛し続けて追放された堕天使だけだ。

 マーガレットは瞳を潤ませ、アセビたちに向かって両手を広げた。


「あぁ……可哀想なあたし……みんな見て! 可愛くて優しい天使が泣いてるわよ!」

「泣きてえのはオレたちなんだけど。少しでも可哀想だと思った時間返してほしいんだけど」

「みんな! あたしにもっと優しくして! もっともっと愛して! あたしに幸せをちょうだい!」


 マーガレット劇場開園である。彼女は悲劇のヒロインのように振る舞っているが、悲しいことに、誰も近寄る者がいない。

 自己愛に満ちた行動でニートになり、追放された。そんな愚か者に同情する者など、いるはずもない。

 アセビたちは顔を見合わせ、頷く。全員さっとマーガレットから離れていった。

 アセビが欠伸をしながら、ルピナスとサツキに視線を向ける。


「ふあ〜……さて、じゃあ今日はみんなフリーってことでよろしくな」

「うん。ぼく芋虫さんとお散歩してくる」

「私は実家に手紙を書くとしよう」


 ルピナスとサツキは自室に戻った。待ってと言わんばかりにマーガレットが泣き叫ぶ。自分がまだ悲劇のヒロインだと思っているのだろう。どこまでも、どこまでいっても愚かな女である。


「どうしてみんな冷たいのよぉぉぉ! あたしは誰よりも可哀相な天使ちゃんでしょぉぉぉ!? なでなでしなきゃダメでしょぉぉぉ!? あたしにもっと優しくしてぇぇぇ!」


 アセビは泣き叫ぶ悪魔に向かって声をかけた。


「おい、悪魔」

「天使よ!」

「オレさ。ちょっと安心したんだ」

「安心?」


 マーガレットはマーガレットだった。バカで自分勝手でナルシストで。そのせいで追放されたのは仕方がないことだろう。

 しかしマーガレットはこう言っていた。徳を積めば翼は大きくなる、と。

 アセビはコカトリス戦を思い出す。天使長に小さくされたと言っていたが、マーガレットの翼は非常に大きかった。徳を積めば大きくなる。つまりマーガレットは誰かのために行動し、少しずつ成長しているということなのである。

 アセビはマーガレットの肩を優しく叩いた。


「変わらなものなんてどこにもないってことだな」

「ん? どういうこと?」

「なんでもねえよ! それより今日はフリーだし甘いものでも食べに行くか?」

「行くわ!」


 マーガレットはアセビに抱きつこうとするが、華麗に避けられ、壁に激突した。


「外で待っててくれや。ちょっと準備するからよ」

「はーい!」


 マーガレットは手を挙げ、笑顔で返事をした。さっきまで大声を上げて泣いていたとは思えない。コロコロ変わる表情に、アセビは思わず苦笑する。

 マーガレットは出会ったばかりのころは悪魔のような問題児だったが、仲間のために行動し、ピンチを救ったことも少なくない。確実に善良な心を持つ天使に近づいているのだ。氷が溶けるように、ゆっくりとだが。

 いつか追放した天使長を見返すような、立派な天使になってほしいと、アセビは心の中で祈るのだった。


「それにしても……マーガレットは天使っていうよりやっぱ悪魔だよなぁ。まぁ悪魔にもきっと良いヤツはいるだろうしな。悪魔でもいいか」




 マーガレットは、アセビとお出かけということでご機嫌だった。天使長のことを思い出すと怒りで狂いそうになるが、この後デートなのだ。追放されたことは、水に流してやってもいいとすら考え始めていた。単純な女である。


「アセビったら、お庭さんを綺麗にしてるのね」


 マーガレットが庭に目を向けると、小さな花壇が手入れされていた。花たちが元気に咲き誇っている。

 マーガレットは花壇を楽しそうに覗き込んだ。どこか嬉しそうに笑っている。小さな世界で咲く花たちが、自分たちのように思えたのだ。

 

「この赤いお花さんがアセビで、こっちの小さな黄色いお花さんがルピナスで……」


 マーガレットが花壇を笑顔で見つめていると、空から銀色の鳥が舞い降りてきた。どこか高貴な雰囲気を漂わせている。

 マーガレットは鳥を見上げた。


「あら? 珍しい色の鳥さんじゃない。あなたもお花さんを見に来たの?」


 マーガレットが銀色の鳥に話かけると、彼はそっと肩に止まって、くちばしを開いた。


「マーガレット。久しぶり。よく頑張っているね」


 銀色の鳥が喋った。低く穏やかな声。マーガレットは目を見開く。聞き覚えのある声に衝撃を受けたのだ。


「この声は……!!」


 マーガレットは恐る恐る銀色の鳥に目を向ける。


「鳥さんの姿になっているけれど……ジジイよね?」

「うん。お前の知ってる天使長だよ」


 空から舞い降りてきた謎の銀色の鳥。彼の正体はつい先程まで話題にしていた天使長だったのだ。

 マーガレットはさらに目を大きく見開き、肩に止まった小鳥を穴が空くほどじっと見つめる。


「お前の翼は以前のように大きくなりつつあるね。安心したよ」

「フン! いいから早く元に戻しなさいよ!」


 マーガレットは肩に止まった銀色の鳥に向かって怒鳴りつけた。彼は楽しそうに体を揺らしている。マーガレットとの会話を楽しんでいるのだろう。


「相変わらず元気だね。そうそう、忘れずに伝えておかないと。お前のこと、そろそろ迎えに行くからね」

「なんですって!? どういうこと!?」


 マーガレットは再び衝撃を受けた。体をわなわなと震わせ、銀色の鳥を穴が空くように見つめている。


「以前のように翼は大きくなっているんだ。このボクもお前の成長を認めないといけないということだね。これからも忘れずに、誰かのために徳を積むんだよ」

「ま、待って!」


 銀色の鳥はそれだけ言うと、マーガレットの肩を蹴って空高く飛んでいった。彼女は急いで手を伸ばすが、届かない。銀色の鳥はあっという間に空高く飛び去ってしまった。

 マーガレットは遠ざかっていく銀色の鳥をただ見つめることしかできず、呼吸を荒くする。


「ジジイが……迎えに……来る……? あたし……アセビたちとお別れってこと……?」

「おい、マーガレット!」

「っ!?」


 マーガレットは急に肩を叩かれ、驚いてその場で飛び上がってしまった。振り向くと、アセビがゲラゲラと笑っている。マーガレットのリアクションが面白かったらしい。


「もうっ! びっくりさせないでよ!」

「びっくりさせたつもりはなかったんだけどな! ワハハハハ!!」


 大好きな青年の笑顔が、マーガレットの不安な気持ちを少しずつ和らげていく。ごまかすようにアセビの背中を叩くと、手を握ってそのまま庭を飛び出した。


「アセビのおバカ! 笑いすぎよ! さぁ、ふたりでおいしいものいっしょに食べに行きましょ!」

「いてて! わかったわかった! だからそんなに引っ張るなっての!」


 アセビとマーガレットは仲良く並んで商店街を歩いている。楽しいデートの始まりだ。

 しかしマーガレットの背中が寂しげに見えるのは、銀色の鳥のせいかもしれない。

 出会いがあれば、別れもある。それは誰にでも。

 マーガレットは芽生えた不安を拭い去るように、アセビの腕にしがみついた。


「アセビ、あたしおいしいもの巡りしたいの!」

「いいけど、予算はそんなにないからな。少しは手加減してくれよぉ……」

「えへへ! 手加減しないわよぉ!」


 マーガレットの笑い声が、商店街に響いた。

お読みいただきありがとうございました!

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