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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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覚醒!!最強パワーの問題児 25

「む? おかしいな」


 サツキが膝をつき、体を震わせていた。彼女自身の精神はとっくに人間のそれを超越しているのだが、肉体はそうもいかない。限界がきてしまったのだ。


「震える……? 熱い……? いや寒いような……?」


 サツキの体は毒に染まっていた。そのせいで、とうとう動けなくなってしまったのである。

 コカトリスはくちばしを曲げてニヤリと笑う。


「まだあっしにも勝ち目はあるねぇ……翼と足は持っていかれたが、あんたさえ倒せばどうとでもなるさ!」

「マーガレット!」

「わかってる!」


 アセビとマーガレットとコカトリス。ふたりと1匹は同時に素早く動いた。

 コカトリスは残った足でサツキを攻撃しようと接近する。しかしアセビが間に入った。グータラソードでコカトリスの攻撃を受け止める。屋上に爪と剣がぶつかり合う音が響く。


「あんた邪魔だねぇ! もう少しで倒せそうなんだ。このまま引っ込んでてほしかったねぇ!」

「邪魔はてめえだよ! やらせるものかよ!」

「アセビ、そのまま時間稼いで! サツキ、そのまま動いちゃダメよ! ヒール!!」


 コカトリスの猛毒は、流石のマーガレットでも全力でエネルギーを使わなければ完治できない。今のヒールでは気休め程度しか回復していないだろう。それでも何もしないよりはずっとましなのだが。

 マーガレットはサツキの体を引きずって、戦闘から離脱させた。

 コカトリスは狙いをアセビに変えたらしい。じっと彼を見つめながら首を上下させた。


「兄さんの早さであっしについてこられるかねぇ。言っちゃあ悪いが、あんたは止まって見える」

「うるせぇ! やってみるさ!」


 アセビとコカトリスの戦闘が始まった。片翼と片足を失いスピードは落ちている。それでもコカトリスには脅威的なスピードがあることに変わりはない。

 アセビは何とか攻撃が当たらないよう、必死に攻撃を避け続けていた。


「よっ! はっ! ほっ!」

「どうしたんだい兄さん! 避けてばかりかい?」

「うるせぇ! 今てめえの動きを見極めてるところなんじゃい!」


 アセビとしては、何とか一撃でいいから攻撃を当てたいところである。

 しかし、速い。あまりにも速い。サツキは先ほどまで風のように速いこのモンスターと戦っていたのだ。

 アセビはコカトリスの隙がなかなか見つからず、防戦一方となっていた。


「クックック、反撃しないのかい?」

「うっせえな! 今やろうとしてたんだよ!」

「そうかい。で? それができるのかい?」

「できらあっ!」


 アセビのグータラソードは虚しく空を切った。




「はぁ……はぁ……」

「サツキ、大丈夫!? 応急処置代わりのヒールは使ったけど……完全に解毒はできていないと思うわ!」


 サツキは地に膝を付き、何度も深呼吸をしている。マーガレットにヒールを使ってもらった結果、頭が冷えて冷静になったらしい。

 サツキは心の底で後先考えずに暴走してしまったことを反省しつつ、感謝の気持を込めて頭を下げた。


「助かった……はぁ……はぁ……」

「いいわよ! 仲間だもの! それより体大丈夫? 立てそう? 動ける?」

「……まだ少し苦しいな……申し訳ないが、足もうまく動かせるかどうか怪しい……」


 回復魔法の達人のマーガレットですら、完璧に癒やすことはできない。それほどコカトリスの毒は強力なのである。

 マーガレットは1度頷き、ステッキを握る指に力を込めた。エネルギーを大きく消費して、本気のヒールを使おうとしているのだ。


「マジモードのヒールを使うわ! これならサツキの体を完全に……」

「待て、マーガレット」


 サツキが首を横に振る。


「サツキ?」

「その分のヒールはアセビにとっておいてほしい」


 マーガレットが本気のヒールを使えば、コカトリスの毒を取り除くことはできるだろう。しかし多くのエネルギーを消費することになる。そう簡単に何度も使えるものではない。


「でも! あなたに全力ヒール使ってアセビとふたりでコッコ倒すっていうのは!?」

「それも悪くないが、正直数の差でどうこうできる相手ではない。奴にはあの毒の息がある。アレをどうにかしない限り、同時に戦うのは危険だ。私が再び命の輝きを感じることができればもしかしたら……」

「それは駄目! 絶対!」


 マーガレットが指でばってんマークを作り、サツキのアイデアを却下する。再び変態モードになれば、最悪相打ちには持ち込めるだろう。しかし確実にサツキの命はない。

 誰かを犠牲にして得る勝利。マーガレットはそれを望んでいない。その強い眼差しがそう言っている。


「とにかく、さっきみたいに暴れるのはなしよ!」

「し、しかしだな……」

「ぼくが行こうか……?」


 これまで出入り口で待機していたルピナスが、芋虫と触覚を引き連れて近づいてきた。心配そうにサツキの顔を覗き込んでいる。


「どうかな……?」

「気持ちはありがたいが……芋虫たちとコカトリスの相性は最悪だ。奴の武器は毒だけじゃない」

「スピード……」


 サツキが頷く。


「そうだ。芋虫たちはのろまなわけではないが……追いつけずに射程外から毒の息を吐かれるだけで、完封される恐れがある」

「そうね。糸で援護しようにもアセビに絡まったりしたら大変だわ。ルピナスはこのまま待機よ」

「悔しいよぅ……ぼくだけ何もできないよぅ……」


 目に涙を浮かべるルピナス。その背中をマーガレットが何度も叩いた。


「何言ってるの! あなたは切り札! もしどうしようもなくなったら、ランダム召喚をお願いするわ!」

「おぉ! ぼくの出番だね!」

「奴がアセビを無視して私たちに飛びかかってきたときに、芋虫と触覚に守りを任せたい。迎撃気味になら糸も当たるかもしれない……よろしいか?」

「うん!」


 ルピナスは切り札扱いされて張り切っている。本を片手にコカトリスの動向を必死に観察していた。

 芋虫と触覚はいつでも動けるように、体を伸び縮みさせて気合を入れている。

 マーガレットはサツキを見つめた。まだ本調子ではなさそうだが、顔色は良くなっている。しかしサツキの表情を見るに、もう少し休ませなければ戦闘はできないだろう。


「あとは少しでもサツキを休ませて……」

「うぉぉぉああああ!?」


 アセビが転がりながら屋上の扉に激突した。彼は激しい痛みを堪えながら、急いで立ち上がる。女子たちを守るように、彼女たちの前に移動した。


「いてて……」

「アセビ!?」

「痛そうだよぅ!」


 ルピナスがアセビを心配して背中を支える。マーガレットとサツキも駆け寄った。


「あいつあまり大きくないけどそこそこパワーもありやがるぜ! ちょっと油断してたわ」


 コカトリスは油断できるような相手ではない。今の発言は、アセビなりの強がりだろう。少しでも仲間たちを不安にさせないために。

 アセビを心配そうに見つめる問題児たち。彼女たちを安心させるようにアセビは親指を立てた。


「そんな顔するなって! 余裕で大丈夫だぜ! グータラソードは頑丈だし盾にもなるからな! 奴の爪やくちばしに壊される心配はなさそうだぜ!」

「それならいいけど……でもアセビの攻撃、全然コカトリスに当たりそうにないね」

「……だがコカトリスだっていつまでも元気に動き回れるわけじゃねえんだ。戦ってるからわかるが、確かに奴のスピードは落ちてきてる。そのうちバテて動けなくなるはずだぜ。そのときが勝負ってわけよ!」

「でもそれって希望的観測だよね?」


 相変わらずマイナスなことばかり言うルピナス。アセビの強がりを全て否定してしまった。


「このまま持久戦でオレが勝つのが理想だが……」


 アセビはマーガレットに目を向ける。彼女は記憶を失う前は、氷魔法を自由自在に使っていた。つまり、確実に魔法を使えるはずなのだ。

 アセビはマーガレットの可能性を信じた。瞳を見つめながら肩を掴む。


「マーガレット!」

「な、なによっ!?」


 突然アセビに真剣な表情で両肩を掴まれ、マーガレットは動揺して頬を赤くする。内心できれば平和な時にこうしてほしかったわと思いつつ、答えを待った。


「マーガレット、氷魔法使えるか!?」

「多分無理よ……あたし回復魔法だけしか……」

「お前は才能の塊なんだぜ? 記憶無くした時すごかったんだからな!」

「才能の塊……」


 そのとき、マーガレットの脳裏に、白髪の長髪の男の背中が過った。


「ジジイ……確か以前……魔法を見せてくれたわね……」

「ん? マーガレット? どうした?」


 マーガレットに1度だけ、ある魔法を見たことがあった。それは光り輝く優しい光。マーガレットはあの日の光景を確かに記憶している。

 『彼』はマーガレットに言ったのだ。お前ならいつかきっとこの優しい魔法を使える、と。

 マーガレットはゆっくりと立ち上がり、ステッキを強く握った。


「あの魔法……確かジジイがあたしにならできるかもって言ってたわね……」


 ブツブツと意味深なことばかり呟くマーガレットを見て、アセビの表情が輝く。魔法という言葉が耳に届いたからだ。


「おお、よくわからんが魔法やってくれる気になったんだな! マーガレット、頼むぜ!」

「すまない……今はお前に任せるしか……」 


 アセビとサツキの視線がマーガレットに集まる。全ては彼女に託されたのだ。

 マーガレットは複雑そうな表情を浮かべる。


「でも正直ちょっと自信ないのよね。あたし回復魔法以外の魔法って野蛮なものって印象があって……そういうの使うのあたしのイメージじゃないでしょ? あたしって可愛くて性格良くて優しい美少女じゃない?」

「お、おう」


 アセビはイメージ通りじゃんと言いかけたが、黙っておくことにした。空気の読める男である。

 マーガレットは何度も深呼吸し、コカトリスへと視線を向けた。彼はボロボロの体を引きずり、アセビたちに少しずつ近づいている。


「おやおや、今度は白いお嬢さんが相手かい? 5秒持つかねぇ?」


 マーガレットはコカトリスの挑発を無視した。瞳を閉じて集中している。過去に見たあの『魔法』を再現するために。

 マーガレットは瞳を閉じたまま、アセビに向かって声を出す。


「エネルギー全部使っちゃうわよ。解毒はもうできないし気休めのヒールもできないわ。それでもいい?」


 アセビは静かに頷いた。


「やってくれ」

「オッケー!」


 マーガレットは自信たっぷりにニヤリと笑う。遠い日の思い出を脳裏に過ぎらせながら、全身のエネルギーを全て放出しようとしてい。


「いくわよ!」


 マーガレットはコカトリスに向かって手のひらを広げると、勢いよく前に突き出した。


「遠距離からの魔法かい? ならこちらも毒の息を吐かせて……」

「はぁぁぁぁぁぁ!」


 彭大なエネルギーが、マーガレットの手のひらに集まっているらしい。空気が弾けるようなバチバチとした音が、アセビたちの耳に届く。

 周囲の異変にコカトリスは僅かに動揺していた。動きを止めて、マーガレットを見つめ、警戒している。


「何をしようっていうんだい!?」

「これから見せてあげるわよ!」


 空気が弾ける音はさらに激しくなっていく。鼓膜が破けてしまいそうなほどに。


「な、なんかすごいことが起こりそうだぞ!?」

「バチバチ言ってるよぅ! 耳が痛いよぅ!」

「見せてあげる! これがあたしの最強魔法!」


 そのとき、信じがたい光景が、アセビたちの目に映った。

 マーガレットの背中が膨れ上がったのだ。そこから白く大きな美しい翼が生え、自由を求めるように広げられた。まるで天使のそれだ。

 アセビたちは、マーガレットの背中から生えた翼を見て、驚愕の表情を浮かべた。


「マーガレット!? この翼は!?」

「どういうことなの!?」

「マーガレット……これはいったい……?」


 マーガレットがアセビたちに向かってゆっくりと振り向く。そこにあったのは、天使のような邪気のない満面の笑顔だった。


「えへへ! あたしの翼、綺麗でしょ?」


 アセビは以前マーガレットがハーピーとの戦いで、空を飛ぶかのごとく高くジャンプしたことを思い出していた。恐らく彼女は、仲間たちに見えないよう、この翼を使って実際に飛んでいたに違いない。


「マーガレット……」


 サツキは目を見開いている。流石の歴戦の猛者も、あまりの衝撃に何も口にすることができないらしい。動きを止めて、ただ愛する妹分を見つめている。


「綺麗だなぁ……天使さんみたい!」


 一方ルピナスは頬を赤く染め、マーガレットの大きな翼を見つめていた。年頃のルピナスにとって、背中から生えたそれは劇薬だ。興奮しっぱなしなのである。


「えへへ、だってあたし天使だもの!」


 マーガレットは照れ臭そうに笑うと、コカトリスをじろりと睨みつけた。天使から戦う問題児に戻ってしまったようだ。


「な……な……」


 コカトリスは激しく動揺している。体をわなわなと震わせていた。

 

「あんた……人間じゃなかったのかい!?」

「あたしは天使! 天使よ、て・ん・し!」


 コカトリスは動きを止めて大きな隙を晒している。このチャンスを逃すマーガレットではない。彼女はニヤリと笑い、広げた手のひらをコカトリスへと向けた。


「コッコ、安心しなさい。この魔法はどこぞの嫌味なアホウドリの使う毒とは違うわ。温かで清らかで優しい魔法よ」

「優しい魔法……それはいったい……?」

「……多分だけれど」

「多分て」


 マーガレットの翼が輝く。コカトリスは目を逸らせずにいた。美しく光り輝くこの翼に、見覚えがあったからだ。


「輝く翼……これは……まるで……最強ちゃんの……」

「はぁぁぁぁぁぁ!」


 マーガレットが叫ぶと同時に、手のひらから閃光が放たれ、コカトリスを優しく包み込んだ。


「これは……!?」


 コカトリスは謎の閃光を浴びて動揺するが、すぐに落ち着いた。彼を包んだのは温かな光。どこか懐かしさと優しい気持ちを思い出させていた。


「なんだいこれは……あっしは死ぬ。間違いなく地獄へ落ちる。それなのにこの温かな気持ちは……」


 コカトリスの体が少しずつ灰になっていく。しかし恐怖心はないらしい。コカトリスは穏やかな表情を浮かべている。

 

「これから死ぬっていうのに怖くない。不思議な気持ちだ。最強ちゃん、あっしみたいな嫌われものを四天王に入れてくれて、本当にありがとう。嬉しかったよ。あっしの出番はここまでだねぇ。どうかお元気で」


 コカトリスは、薄れゆく意識の中、大好きだった仲間たちの顔を思い出している。彼らは必要以上に馴れ合わなかったが、それでも面子や絆のために戦うことを選ぶ者たちだった。

 コカトリスは地獄に落ちたらまた最強四天王に入りたいと思いながら、残された最後のリーダーに祈りを捧げる。幸せになれますように、と。

 コカトリスは小さく笑みを浮かべると、灰になり、この世を去った。

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