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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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覚醒!!最強パワーの問題児 24

「きゃっ……」


 油断していたこともありマーガレットは反応できなかった。このままでは激しい体当たりを食らって屋上から叩き落されてしまう。

 しかしマーガレットの前にサツキが立ち塞がった。ヤグルマソウを抜いて待ち構えている。


「やらせるものか! 私の大切な仲間には手出しさせない!」

「おっと! 怖いねぇ!」


 サツキのヤグルマソウとコカトリスの爪がぶつかり合い、火花を散らす。1度や2度ではない。何度も、何度も。

 両者1歩も譲らない激しいぶつかり合いに、思わずルピナスは息を飲んだ。


「す、すごい……」


 コカトリスは首を傾げた。毒が付着しているくちばしと爪に触れたものは、すぐ破壊されるのだが、ヤグルマソウにはその気配がないからだ。


「普通はあっしの爪とくちばしで攻撃されたらどんなものもすぐ壊れてしまうんだがねぇ。それなりに良い武器を使っていると見えますなぁ」

「親父から受け継いだ名刀だ! その辺の安物といっしょにしないでいただこう!」


 両者激しく打ち合っているが、体格の差もあり、サツキがやや優勢だ。じりじりと少しずつ押している。

 コカトリスは後ろ足で踏ん張りながら、爪で必死にヤグルマソウを受け止め続けている。


「どうした、どうした、どうした!」

「なかなか手強いねぇ……」

「いいわよサツキ! いけるいける!」


 マーガレットの黄色い声援。その声を血肉とし、サツキはさらにコカトリスに強力な斬撃を叩き込もうとしていた。


「むっ!」


 しかしサツキは攻撃するのをやめ、大きく後ろへ飛んで距離を離した。これまで幾多の修羅場をくぐり抜けてきた黒鬼の直感。今コカトリスの近くにいては危ないと感じたのだ。


「はぁぁぁ〜〜〜!!」


 コカトリスは口から紫色の息を吐き出した。見ただけで吸ったらいけないと分かる。そう、毒の息だ。それはアセビ一行を大きく焦らせた。彼らの表情が一気に強張る。


「絶対やばいやつだぞアレ! みんな気をつけろ!」


 アセビの必死の叫び声が響く。

 コカトリスは楽しそうに首を上下させた。


「惜しいねぇ……黒髪の姉さんをギリギリまで引き寄せてからこいつをぶつけようと思っていたんだが」

「あれ毒だよな!? みんな離れろ!」

「吸ったら死んじゃう!」


 アセビは急いでジャケットを脱いで風を起こした。毒の息が自分たちに向かってこないように。

 マーガレットも負けじと手で扇いでいる。そよ風レベルの援護だが、ないよりはましだろう。

 サツキはルピナスと芋虫たちを扉まで下がらせ、再度ヤグルマソウを構えた。その目に恐怖心はない。あるのは仲間を守り抜くという想いだけだ。


「不意打ちに武器破壊の爪……そして毒の息か」

「卑怯だと思うかい?」

「まさか。貴様の得意な戦い方なのだろう? ならばそれを全力でぶつけてくればいい」


 予想外の答えにコカトリスは驚く。罵られることを予想していたからである。

 シャクナゲ出身のサツキにとって、戦いとは生きるか死ぬかの真剣勝負。卑怯という言葉は存在しない。

 サツキは再度コカトリスへと向かおうとするが、アセビが肩を掴んで動きを止めた。


「サツキ、危険だ! オレが行く! オレのグータラソードは名剣だから破壊されることはないだろうし、強力な一撃を浴びせられるはずだぜ!」


 サツキはアセビに向かって振り向くと、いつものように優しく微笑んだ。


「ここは私がやる。大丈夫、信じてほしい」

「わかった。ただし、やばいと思ったらオレも戦闘に参加するからな!」

「うむ!」


 サツキは満足げに頷き、コカトリスへ向かって飛びかかった。ヤグルマソウを振り下ろすが、先ほどよりもスピードが遅い。コカトリスに簡単に攻撃を避けられてしまった。


「遅いねぇ! 止まって見えるよ!」


 次は自分の番だと言わんばかりに、コカトリスは爪で引っかこうとするが、接近戦の得意なサツキには届かない。全て防がれてしまった。しかしそれは計算のうちである。


「むっ!」

「意識が爪に向きすぎていたねぇ!」

「なんだと!? あ、あれは……!」


 アセビの予想していない場所からの攻撃。コカトリスの蛇の尾がサツキの腕に噛み付いていた。当然毒が仕込まれている。サツキは膝をついて体を震わせた。


「くっ……!!」

「サツキ! クソ! よくもやりやがったな!」

「た、助けに行かないと!」


 コカトリスは再度首を上下させた。嬉しくて嬉しくてたまらないというように。


「はっはっは! 1番やっかいなあんたから倒せたとなるとあっしも嬉し……」

「おい」


 勝ち誇るコカトリスに対し、サツキが体を震わせながら立ち上がった。無理をしている。痛々しい姿に、コカトリスは自然と笑みがこぼれた。しかしその余裕も一瞬で消し飛ぶ。


「えっ」


 なぜなら、コカトリス自慢の尾を、サツキが握っていたからである。


「これはもらっておくぞ?」


 一瞬のうちに切断されたのだろう。コカトリスは自身の尾が切断されていることに気づかなかった。しばらくして激痛がコカトリを襲う。


「いってぇぇぇ!? あっしの尾が!? い、いつのまにぃぃぃ!?」

「油断しすぎだぞ。私がお前の尾のことを忘れているとでも思ったのか?」

「ぐぬぬ……」

「不意打ちが得意な貴様のことだ。不意をついてこの尾を使おうとしていたのだろう? 仲間に噛みつかれたらたまったものではないからな。まずはやっかいなこれを優先して切断させてもらった」


 肉を切らせて骨を断つとはこのことだ。サツキは自分を犠牲にすることで、仲間たちが少しでも安全に戦えるようにしたのである。

 コカトリスはわなわなと震えていた。


「まさかさっき攻撃が遅かったのは、あっしを油断させるために……?」

「そうだ。そもそも1番の目的は尾を手に入れることだったからな。それはもう手に入れた。このまま遠慮なく貴様の全身を斬らせてもらう」


 コカトリスは慢心していたことを反省し、じりじりと後ずさる。彼の目の前にいる黒い鬼は、自分の体を犠牲にしてでも戦おうとする戦闘狂だ。何をしてくるか予想できないのである。


「ルピナス! これを!」

「うん!」


 サツキは尾を扉へ向かって投げた。ルピナスが両手でそれを掴む。持って帰って抗体から薬を作り出せば、もう2度とクレマチスの住人は、毒に悩まされることはなくなるだろう。

 サツキは首を鳴らしてコカトリスを睨みつける。


「目的のひとつは達成できたというわけだ」

「あっしを倒せたらの話だがねぇ……あんたを倒したらすぐ奪い返すさ……」

「貴様は必ず倒す。今日、ここで」


 サツキは自信たっぷりに言葉を返すが、コカトリスの尾に噛まれ、体内に毒が注入された状態だ。体の震えは止まっておらず、まともに戦闘を続行することは不可能に近い。

 コカトリスがサツキに向かって飛びかかった。


「はっ! まずは黒髪の姉さんから地獄へ送ってやろうかねぇ!」

「むぅ!」


 コカトリスの猛攻をサツキが受け止めた。しかしそれもいつまで持つかわからない。コカトリスの毒を注入された生物は、いかなる場合でもすぐ動けなくなり、少しずつ衰弱して死に至るからだ。

 勝利を確信したのか、コカトリスがくちばしを大きく開いた。


「動けば動くほど! あっしの毒はあんたの体を蝕んでいくのさ! 地獄の扉はもうすぐそこだねぇ!」


 このままではサツキは毒で死んでしまう。絶望的な状況だ。

 コカトリスの攻撃がサツキに当たる前に、彼女は迫真の表情でヤグルマソウを振り下ろした。


「はぁ!」


 サツキは先ほどよりも力が増している。逆にコカトリスを押し始めていた。明らかにサツキが優勢だ。


「どうした! どうした!! どうした!!!」

「なっ……なんなんだいこの姉さんは!?」


 コカトリスは爪でサツキの攻撃を受け続けることは困難と判断し、再度毒の息を吐いて仕切り直しを試みようと考えた。


「フフフッ」


 サツキは口が裂けそうなほど、恐ろしい笑みを浮かべている。まるでコカトリスが毒の息を吐くのを待っているかのように。彼は恐怖心を覚えた。


「むっ! なら、ここは……!」


 白い鳥は屋上の隅まで飛んで距離をとった。少しでも離れた方がいいと、本能が感じとったからだ。

 サツキは笑みを浮かべながら手招きしている。


「どうした? 毒を吐かないのか?」

「あんた……確かに俺の毒を食らったはずなのになんで平気なんだい?」

「平気ではないぞ?」

「えっ」


 コカトリスはサツキを見つめる。顔は青ざめ、体は小刻みに震えており、今にも倒れてしまいそうな状態だった。毒が一切効いていないわけではないのだ。

 コカトリスは内心していた。目の前の黒鬼にも限界があることを知ることができたからだ。


「毒は効いてるみたいだねぇ……」

「あぁ。今にも倒れてしまいそうだ」


 毒は確かに効いているのだ。しかしサツキは明らかに力が増していた。わけのわからない事態に、コカトリスは首を傾げることしかできない。

 アセビとマーガレットは青ざめながら、互いに顔を見合わせた。


「あっ……サツキってギリギリで生きるのが好きなちょっとアレなタイプだったわ……」

「現在進行系で命燃やしてるのね……」


 サツキは生きているということを実感すればするほどパワーアップする。つまり今の彼女は普段以上の実力を発揮していることになるのだ。しかし文字通り、今のサツキは命を燃やして戦っているに等しい。つまりあまりよくない状態でもある。

 コカトリスはアセビたちの発言を聞き、サツキの本質を少し理解したらしい。倒すべき目の前の黒い鬼は、変態だった。


「変態……ってやつだねぇ」

「誇り高いと言ってほしいな」


 変態に常識は通用しない。まさかコカトリスも、毒を受けてパワーアップするとは予想できなかった。否、予想できるはずもない。

 サツキは頭をかきむしりながら、狂気の笑みを浮かべる。


「熱い、寒い、苦しい……でも……あぁ……いい!! 私は生きている! 生きているぞ!」

「サツキ壊れちゃった。まぁもとから壊れてるけど」

「他の最強四天王メンバーはこんな化け物と戦ってたのかい……同情するねぇ」


 それでもコカトリスは、まだ勝機はあると確信している。毒が効いているなら持久戦を狙えばいいのだ。

 しかしサツキは待ってくれそうにない。コカトリスに向かって1歩前進した。


「おい、どうした? 来ないならこちらから行くぞ」

「うぉぉぉ!? いきなり来るんだねぇ!?」


 サツキがヤグルマソウを構えた。コカトリスは急いで空中に高く舞い上がると、猛スピードで急降下する。彼は毒だけでなく、スピードにも自信があった。体に毒が回った人間が、自分についてこられるはずがないと思っているのだ。

 サツキとコカトリスが激しくぶつかり合った。屋上に衝撃が走る。


「サツキ!?」

「やったの!?」


 サツキは全身血だらけだった。これは彼女のものではない。コカトリスの血だった。それを全身に浴びたのである。


「ぎゃああああああああ!!!」


 コカトリスは片翼を斬られただけでなく、片足も斬り落とされていた。それだけでなく、胸にも大きな傷ができている。体のあちこちを斬られたことで、引き裂かれるような激痛が全身を駆け抜けていた。

 目にも止まらぬサツキの剣技。アセビとマーガレットは震え上がった。


「いつ斬ったんだ!?」

「見えなかったわ!?」


 サツキは狂気の笑みを浮かべながら、コカトリスに向かってヤグルマソウの先端を向けた。


「その程度の速さで私に勝てるはずもなかろう」


 ルピナスは瞳を輝かせていた。頼れる姉貴分の圧倒的な強さに感動しているのだ。


「サツキ……かっこいい!」

「ぐおぉ……この傷薬は切り札だったんだが、もう使うしかないねぇ……!!」


 コカトリスは翼に忍ばせていた木製の容器を取り出すと、それの中身を傷口に向かって流し、急いでサツキから距離を取った。


「翼と足を失ったが……とりあえずはこれで……」


 コカトリスの胸の傷は癒えた。斬られたことによる痛みも治まっている。しかしコカトリスは片翼と片足を失った。受けたダメージは非常に大きいと言える。このままでは、サツキにバラバラにされる運命が待っているだろう。

 しかし天はまだ、コカトリスのことを見捨ててはいなかった。

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