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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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覚醒!!最強パワーの問題児 21

 その時、サツキに悪寒が走る。背中に視線を感じ、ゆっくりと壊れたおもちゃのように首を動かした。

 サツキの目に愛する妹分たちが映っている。じっと興味津々に見つめていた。


「あ、気にしないで? どうぞ続けて続けて!」

「う? おにってなに? おにってなに?」


 冷水を頭からぶっかけられたように、サツキの体内は急激に冷えていった。彼女は冷静さを取り戻すため、深呼吸をしている。


「す〜……はぁ〜……フフフッ」


 サツキは妖麗な笑みを浮かべる。道を歩けば100人の男ども全員が振り向く。そういった顔だった。

 しかしマーガレットは確信する。自分たちはサツキの大切な時間を邪魔した、と。地雷の上で踊り狂ってしまった、と。

 サツキは震える声で、妹分たちに尋ねる。


「お前たち……どこから……見ていた? ん?」

「えっと……今起きた……ところよ?」


 マーガレットは目を泳がせている。確実に嘘をついている者のそれだ。

 サツキは目を細めながら口を開く。


「そうかそうか。何も見ていないのだな? いや、別に見られても? 問題は? ないのだが?」

「えへへ……そ、そうよね……」

「ぼくは、サツキがアセビに甘えたいのにって言ってたところから見てたよ」


 ほぼ最初からである。

 気まずい沈黙だけが、部屋を支配していた。


「ちょっとルピナス!? あたしもそっから見てたけど、本当のこと言わなくてもいいでしょ!?」

「うん、でもね。ぼく正直に生きていたいんだ。こんな世の中だからこそ、正直に生きていたいんだ」

「あなたなんで急に前向きなキャラに目覚めたの」


 ルピナスはどこか誇らしげな顔だが、マーガレットは青ざめていた。目の前の黒鬼が、羞恥心で顔を血のように赤くし、体を震わせていたからである。

 サツキはアセビに向かって小さく手を振った。


「もしも生まれ変わったら……私はまたお前のそばで生きていたい」

「サツキ……?」


 サツキはそれだけ言うと素早く正座し、腰のヤグルマソウを抜いた。己の胸に突き刺そうとしているのだ。


「来世で会おう! クレマチスのどこかで!」

「サツキお前何やってんだァ!?」

「ちょっとサツキ!?」

「ひゃ〜!?」


 3人は同時にサツキに飛びかかった。アセビはサツキを押し倒し、マーガレットは足を押さえ、ルピナスは手にした武器を奪う。見事な連携プレイだ。

 サツキは口を開けて、涙を撒き散らした。


「恥ずかしい! 恥ずかしい! 死ぬ! もう今すぐこの場で死んじゃう!」

「待て待て! 死ぬことはないって! ちょっとマーガレットたちが見てただけだって!」

「恥ずかしい! 死ぬ! もう死ぬしかない!」


 サツキはジタバタと体を動かそうとするが、アセビたちがそうはさせじと力強く押さえつけている。

 遠くで芋虫と触覚が様子を伺っていた。アセビたちだけでサツキを押さえつけられなくなった場合、すぐにでも行動できるよう準備しているのだろう。


「みんなの前で甘えてしまったぁぁぁ! うぅ! 恥ずかしい恥ずかしい!!!」

「おかしいね。サツキ、さっきまで結構ノリノリでアセビに甘えてたのにね。なんで急に恥ずかしがってるんだろうね」

「ルピナス、マジでいい子だから黙ってなさい!」


 コミュ障特有の本音トークは、時に人を傷つける。今がその時だった。

 サツキは顔をさらに赤くし、瞳を潤ませ、首だけを激しく動かしている。


「恥ずかしい恥ずかしい!」

「恥ずかしくない恥ずかしくない!」

「恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!」

「恥ずかしくない恥ずかしくない恥ずかしくない恥ずかしくない!」


 アセビとサツキの大声が室内に響き渡る。


「アセビ、恥ずかしくないが1個多かったわよ」

「つまりオレの勝利というわけか」

「う? これそういうゲームだったの?」

「勝負ってのは勝ちって思ったらもう勝ちなんだ。だからオレが勝ったからサツキは恥ずかしくないんだ」

「アセビ。お前わけのわからない理論を展開して恥ずかしくないのか。天国の親御さんに対して恥ずかしいと思わないのか」

「なんでお前急に冷静になってんだよ」


 サツキは冷静さを取り戻したらしく、抵抗せずに大人しくなっている。彼女の拘束をアセビたちは解いた。

 だがサツキはまだ羞恥心が残っているらしい。力無くアセビの胸に倒れた。


「恥ずかしい……」

「恥ずかしくない」


 アセビはサツキの両肩を掴みながら、正座する。そのままゆっくり自身の膝の上に彼女の頭を乗せた。


「サツキ、少しは落ち着きましたか」

「……うん」


 サツキは気持ちは落ち着いたらしいが、今度は愛する弟分と妹分の前で錯乱したことを後悔し始めていた。瞳が僅かに潤んでいる。

 サツキはアセビを見上げながら、ポツリポツリと言葉を吐き出し始めた。


「私はお姉ちゃんだったのに。お前たちのお姉ちゃんで良かったのに。それなのに……アセビのせいだ……お前が私を壊したんだ……」


 サツキの発言にマーガレットが反応し、目つきが鋭くなった。彼女は訝しむようにアセビの顔をじっと覗き込んだ。


「アセビ、サツキに何かやったの? まさかエッチなことしたんじゃないでしょうね?」

「してないですぅ! 冒険者の誇りにかけて何もしてないですぅ!」


 マーガレットの突き刺さるような視線が、アセビを無慈悲に貫く。彼は首を何度も振って否定していた。


「ほんと? アセビさんエッチダンゴムシじゃない」

「エッチダンゴムシってなんだよ」

「アセビのことよ」

「答えっていつもすぐそこにあるんだね。悲しいね」


 アセビは何も知らない。彼の無自覚な行動と言動がサツキの心の支えになり、癒やしていたことを。頼れる姉貴分が自分に兄になってほしいと思っていることを。

 しかしアセビを責めることはできまい。そもそもそんなことを予想できるはずがないのだから。

 マーガレットはしばらくアセビを見つめていたが、納得したらしく肩をすくめた。


「ごめんなさい。そうね。あなたは人を傷つけるようなことはしないわよね。田舎の人だもの」

「ぼくもそう思うの。アセビは田舎の人だもの」

「お前たちの田舎の人間に対する熱い信頼はどこからきてどこへ行くの」


 アセビは誤解が解けてほっとし、膝の上のサツキに目を向ける。彼女は両手で顔を覆った。指の隙間からアセビのことを見上げている。


「もう完全に落ち着いたみたいだな。安心したぜ」

「すまない。やっと落ち着いたよ。それにしてもまた私のせいでアセビを困らせてしまったな……」

「オレの方こそごめんな。年上の女の子をからかうようなことしたらダメだよな……」

「そ、そうだな! ダメだぞ!」


 サツキはそう言いつつも、アセビにからかわれて悪い気はしていなかった。嬉しさと恥ずかしさが同時に押し寄せている。

 すかさずマーガレットが口を挟む。


「そうよ! 女の子はナイーブなの! アセビ、絶対に忘れたらダメよ!」

「そうっスね。気をつけますぅ……でもさ」

「でもなによ」

「オレ妹がいるって言ったよな」

「うん、前聞いたよ。地元に残してきたんだよね?」


 アセビが頭をかきながら、照れくさそうに答える。


「さっきサツキがほっぺた膨らませて、そっぽ向いたんだよね」

「む……私としたことがそんなことを……」

「ああ、恥ずかしがらなくていいから! お前を辱めるような趣味はなくて、あくまで確認だから!」

「むぅ……そうか……」

「なんで残念そうにしてるんですかね……」


 アセビは変態をスルーし、言葉を続ける。


「オレの妹がさ。よくそれやってたんだよね」

「えっ……」

「アセビの妹さんが? しっかりしてそうなイメージがあったのだけれど、子どもっぽいわね」

「あいつまだ10歳だからな。歳の割にはしっかりしてる子だとは思うけどね」


 アセビは村に残した妹を思い出し、遠い目をする。


「あいつ怒ったり不機嫌になるとさ。いっつもほっぺた膨らますんだ。サツキを見てつい思い出してね……」

「マーガレットみたいだね」

「あらやだ。あたしそんなことしてるかしら」


 ルピナスの目が言っている。いつもそんなことしているよ、と。

 アセビはマーガレットをスルーし、言葉を続けた。


「まるで妹のことを見ているみたいで、ついサツキのことをからかいたくなっちゃってさ。不思議と素直に何でも言えたし、お兄ちゃんみたいにしっかりしなきゃって思ってしまったんだ」


 つまりサツキは、アセビの妹の動きを再現してしまっていたのである。無意識のうちに。その行動が、アセビのお兄ちゃん心を刺激してしまっていたのだ。


「そういうわけで……サツキ、ごめんな!」

「妹さんに見えた……私が……?」


 サツキは顔を覆っていた手を開く。口元をむずむずとさせてる。感情を必死に押さえていた。

 サツキは知らず知らずのうちに、アセビの妹がよく見せた動きをしていた。どこか子どもらしい仕草を。


「つまり私は……私は……」


 サツキは思った。妹さんと同じ動きをしていたということは、自分は妹になれる資格があるのでは、と。

 とんでもない超理論である。しかしサツキ本人はすっかりその気になってしまっていた。正しさが真実になるとは限らないのである。

 サツキはぶつぶつと呟きながら、小さな笑みを浮かべていた。


「サツキ? なんかぼーっとしてるけど大丈夫か?」

「フフフッ! 大丈夫に決まっているであろう!」


 サツキはさっと体を起こし、アセビに向かっていつものように優しく微笑んだ。張り切っている姿を見るにメンタルは回復したらしい。

 アセビはいつもの頼れる姉貴分が戻ってきたと、心の底からほっとしていた。


「サツキ、もうお前のこといじるのやめるから、これからも……」

「フフフッ構わないさ。またお前の好きなときに好きなように辱めてからかうといい。あとそうだな。またあの大きなおにぎりを、私に無理やり食べさせてくれてもいいのだぞ?」


 サツキはチラチラと、アセビの様子を伺っていた。頬は朱色に染まっている。感情が昂ぶっているのだ。

 アセビは不安を覚え、恐る恐る尋ねる。


「お前恥ずかしいの嫌なんじゃなかったっけ……? おにぎりも苦しそうに食べてたけど……」

「嫌だけど嫌じゃないというか……もっとやってほしいというか……苦しいけど気持ち良いというか……」


 突然の問題発言。アセビとマーガレットとルピナスは顔を見合わせた。


「えっ」

「さりげなく危ない発言が出たわね……」

「よくわからないけど怖いよぅ」

「まぁ……その……うむ」


 アセビとふたりきりなら何をされても気持ちが良いし大丈夫。もっともっと苦しめて、辱めてほしい。サツキは思わず口からでそうになったそれらの言葉を飲み込んだ。周囲に妹分たちがいるからである。

 サツキは両頬を押さえてどこか幸せそうな表情を浮かべていた。そんな変態を見てアセビは青ざめる。


「お前に羞恥心耐性ついたらもうアレじゃん。マジの無敵の人じゃん」

「どうやら私は無敵になってしまったらしいな。フフフッ!」

「フフフッじゃありません! サツキ、お前多分やばい扉開いちゃってるぞ! 帰ってこい!」


 心の扉は完全に破壊され尽くした。もう獣の疾走を止めることはできない。

 サツキは楽しそうに親指で豊満な胸を押さえた。


「どこにも行かないさ。私はここにいるのだから」

「う? 常時変態ってこと?」

「変態お姉ちゃんだな!」

「変態じゃないわ! ド変態よ!」

「むぅ……ひどい言われようだな……しかし悲しいが否定はできぬか」


 宝物庫にアセビ一行の笑い声が響く。サツキは精神的に辱められることが得意になったわけではない。アセビに構ってもらいたいという本能が、目覚めただけだ。

 それでもサツキにとって、今回のことは、大きな1歩になったことは事実だろう。甘えてもいいという大義名分を得ることができたのだから。

 アセビが元気よく手を挙げた。


「サツキさん、ひとつ教えてほしいのですが」

「言葉だけじゃ足りないから工夫がほしい。具体的に言えば、おにぎりを無理やり食べさせるとか」

「誰がお前の好きな変態プレイの内容言えと言った」


 頬を朱色に染め、早口で語るサツキ。マーガレットとルピナスは青ざめていた。

 当然の反応である。


「やっぱ、サツキって変態だわ……」

「今を一生懸命生きるてるね。すごいね」

「ルピナス、言葉に心がこもってないわよ」

「そういうこと聞きたいんじゃなくて、どうやったらお前にダメージ与えられるか知りたいんだわ。お前弱点なくなったようにしか見えないんだよね」


 アセビはリーダーであり責任者だ。サツキが暴走したときに、止める手段を知りたいのである。


「私の弱点……」


 アセビの純粋な問いかけ。サツキは腕を組んで真剣に考えた。

 痛みは怖くない。辱められると嬉しい。苦しいのは気持ち良い。どこに出しても恥ずかしくない無敵の変態である。

 サツキに弱点はない。一見そう思えるが、完璧な人間などいない。サツキにも恐怖心はある。


「私は以前アセビのことをを傷つけた……お前に見捨てられてしまったら……見限られてしまったら……否定されてしまったら……そのとき私は……私は……」


 サツキはそれ以上は言えず、押し黙った。例え話だったとしても、口にはできなかったのだ。

 最悪の未来を想像してうつむくサツキ。彼女を安心させるためマーガレットが言葉をかけようとするが、その前にアセビが動く。やれやれと肩をすくめ、サツキの背中を優しく叩いた。


「おいおいマジか。それじゃあ、どうやってもオレじゃお前にダメージ与えられないじゃねえか」


 アセビの言葉。それはサツキを絶対に見捨てず、否定しないことの証明。彼女の心が満たされていく。

 サツキは瞳を潤ませ、言葉を詰まらせた。


「アセビ……お前という男は……」

「無敵のお姉ちゃん! これからもよろしくな!」

「あたしのこともよろしくね!」

「サツキは素敵なお姉ちゃんだよ。変態で怖いけど」


 アセビが楽しそうにルピナスの頭を撫で回す。


「それでいいんだ。お兄ちゃんやお姉ちゃんは優しくてちょっぴり怖い存在でいいのさ!」

「変態なのは?」

「……そこも含めてみんなのお姉ちゃんだ!」

「おぉ」


 サツキはアセビを見つめる。彼の目は、大切な妹を見つめる兄のように優しく、温かかった。

 サツキは口元をむずむずとさせる。アセビに飛びつきたいと思ったが、ぐっと堪えた。もし周囲にマーガレットたちがいなかったら、理性が弾け飛んでいたに違いない。

 サツキは素早く立ち上がると、部屋の出入り口へと向かった。


「そういうことだ。私は無敵のお姉ちゃんだからな。お前たちはもう少しゆっくり休むと良い。大丈夫とは思うが、私が部屋の前で見張りをしておこう」


 サツキの表情はアセビたちには見えない。彼女は鼻歌を歌いながら、後ろ髪を揺らしている。恐らく満面の笑みを浮かべていることだろう。

 部屋を出る前に、サツキは1度振り返った。


「ではこれからも頼むぞ? お兄ちゃん?」


 サツキは満足そうにそれだけ言うと、部屋を出ていった。アセビは大きな妹を微笑ましい気持ちで見送る。

 マーガレットが口を開いた。


「前から思っていたのだけれど、アセビもあたしと同じ回復魔法の達人かもしれないわね! うん、きっとそうよ!」

「オレがぁ?」


 マーガレットの発言に疑問を覚え、アセビは首を捻った。悲しい現実だが彼に魔法の才能はない。今アセビが使えるのは、黒魔法と身体強化魔法だけだ。


「覚えてないかもだけどさ。オレお前に魔法の基礎教えてもらったんだわ」


 マーガレットが記憶を失い、天使になっていたころのことである。


「あらやだ。全然覚えてないわね。あたし回復魔法以外の魔法使えないのだけれど」

「ちょっとだけコツを掴みかけてたんだけど。結局できなかったんだよなぁ。もうちょっとで炎魔法できそうだったんだけどよぉ……」


 記憶を失い、天使のように純粋無垢だったマーガレットと特訓したことをアセビは思い出す。残念ながら結局魔法を取得することはできなかった。

 あのままマーガレットの記憶が戻らなければ、もしかしたら熱心な指導の末、覚えられたかも知れない。

 しかしそうはならなかった。天使が悪魔に戻ってしまったからである。

 マーガレットは小バカにするように、アセビを肘で何度もつついた。


「ぷぷぷっ! アセビって魔法の才能ないのね! もうあきらめちゃいなさいよ」

「自分、不器用ですから」

「持って生まれたものじゃないなら、きっとあなたには必要ないものってことよ。それにほら、アセビさんには黒魔法があるじゃない」

「人前ではなかなか使いにくいからなぁ」

「しょうがないわ。キモいし印象最悪だもの」

「泣きそう」


 落ち込むアセビを見て、マーガレットは手を叩いて笑った。


「魔法は使えなくても、やっぱりアセビさんは回復魔法の達人よ。間違いないわ!」

「回復魔法の達人さんに言われてもなぁ」


 マーガレットは笑顔で答える。いつもの下卑た笑みではない。嫌味や皮肉で言っているのではないだろう。


「ねえ、サツキ見た?」

「そりゃ見たって。さっきまでいっしょだったしな」


 アセビの脳裏に、鼻歌を歌いながら部屋を出るサツキが過る。間違いなく、幸せそうだった。


「アセビと交流して心が癒やされたんだと思うわ! 恥ずかしそうにおにぎりさんを食べていたけど、あなたの言葉を嬉しそうに聞いてたもの! まー、ちょっと心の底の本能目覚めさせちゃったけれど。完全にやばい方向に覚醒しちゃってたけれど」

「そうか? オレは何もしてないが……」


 マーガレットは首を横に振り、口を開く。


「癒やされたのはあたしもなの! すっかり心と体が満たされたわ!」


 マーガレットは自身の額を撫で、マミーによるダメージはもう残っていないと主張する。

 隣でルピナスが何度も首を縦に振っていた。彼女もまた、アセビのおかげで心身ともに癒やされていたのだ。


「ぼくもアセビのおかげで元気になったんだよ」

「ほら? あなたのおかげでみんな回復したわよ!」

「オレお前たちに膝枕しただけなんだけどな。回復魔法は逆立ちしたってできそうにねえや」


 マーガレットはにししと笑い、アセビの背中を何度も叩いた。


「えへへ! それでいいのよ! もうアセビは回復魔法を使えるんだから! これからも変わらずに、優しいアセビさんのままでいてね!」

「お母さんみたいだったなぁ。嬉しかったなぁ」


 ルピナスはそれだけ言うと、照れくさそうに顔を覆ってしまった。自然と口にした言葉だったのだが、恥ずかしくなってしまったらしい。

 マーガレットはルピナスをからかうように、ニヤニヤとしながら肘で何度もつついている。


「お兄ちゃんとかお父さんじゃなくて? ルピナスもまだまだ甘えん坊さんなのね」

「恥ずかしいよぅ……」

「ふ〜ん……オレが回復魔法の達人ねぇ……」


 アセビは気づいていないが、問題児どもの精神的な支えとなっている。彼女たちはいずれ立派に巣立つことが恩返しになると思っていた。いたのだが。その目標は非常に遠く険しい道程となってしまっている。自らの意思で居心地のいい環境から出ることは、非常に難しいことなのだ。問題児どもが立派に巣立つ日は、まだまだ遠いだろう。

 アセビが回復魔法について考えていると、マーガレットが指で彼の膝をつつく。


「アセビ、もう1回膝枕いいかしら! サツキが見張りしてくれてるし大丈夫よね?」

「ぼ、ぼくも……」

「あ、あのですね……男の子としては、膝枕やってもらうことに憧れてるんスけどね……」

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