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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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覚醒!!最強パワーの問題児 20

 サツキはうつむき、肩を震わせている。


「私は……は、恥ずかしい……うぅ……」

「へへっ、オレ腹減っちゃったなぁ!」


 アセビは自身の腹を押さえ、頭をかいて見せた。確かにサツキの胃袋の音は彼にも聞こえているはずだ。しかし自分が出したことにしようとしているらしい。女子を辱める趣味はないということだろう。

 見て見ぬふりをする優しさもある。

 サツキは気まずそうにアセビを見つめた。


「アセビ……私はさんざんお前のことをからかったというのに……お前という男は……」

「えっと、なんか食い物食い物……ちょっとだけ待っててくれよな!」


 アセビは内心助かったと思っていた。サツキの胃袋が悲鳴を上げたおかげで、理性と言う名の最終防衛ラインが弾け飛ばずにすんだのだから。


「ただひとりで食うのもなぁ。みんなで食べたほうが美味いって言うしな。サツキ、いっしょにどう?」

「うむ……いっしょにいただこうか……な」

「まだ練習中なんだけどね」


 アセビはポケットに手を突っ込んで、何かを探している。すっかり見慣れた光景だ。

 サツキは以前から抱えていた疑問を口にする。


「お前の服にはなんでも入っているが……どうなっているんだ?」

「金目のもの以外はなんでも入ってまっせ! 夢とか希望もな! あったあった! お口に合うか、わかりませんが」


 アセビはポケットから、竹の皮で包まれたおにぎりを取り出した。サツキの故郷でよく食べられているものである。長時間保存はできないが貴重な携帯食料だ。

 サツキは瞳を輝かせた。


「おにぎりか! 私の故郷では遠出をするときみんなこれを持っていくんだ。最高じゃないか! どうやって作り方を覚えたんだ?」

「以前お前が作っているのを見てね。真似させてもらったんだわ。まー、でも味は保証できないけどな。じゃあこれ、どうぞ」


 アセビは手にしたおにぎりを竹の皮ごと渡そうとするが、サツキは口を開けてじっと見つめている。まるで餌を待っている猫のように。食べさせてほしいと言わんばかりの態度だ。

 アセビはサツキの口元におにぎりを近づける。


「はい、あーん」

「あーん」


 サツキ自身気づいていなかったのだが、再びアセビに甘えたいという感情に支配されていた。口を開けて待っていたのは、本能によるものである。

 サツキは1口でおにぎりを口内に入れた。


「もぐもぐ……もぐもぐ……」

「味は大丈夫かな? 形は悪くなかったと思うんだけどさ」


 口内に広がる塩味のおにぎりは、サツキに故郷の懐かしさを思い出させる。塩だけでなく、細かく刻んだ梅干しも入っていた。


「フフフッ! 隠し味に梅干しか。食べやすいように種をとっているのも真心を感じさせる。お見事としか言えないな」

「それは良かったぜ。ちょっと不安だったが、それなりに満足してもらえたみたいだな」


 サツキは満足そうに口元をハンカチで拭った。


「それなりなものか。大満足だよ。おいしかった。本当にありがとう」

「もったいないお言葉です! しかしお姉様、まだあるんスよね」


 アセビはポケットから再びおにぎりを取り出した。先ほどサツキに渡したものより3倍以上大きく見える。


「おぉ」


 サツキは目を丸くしながらも、物欲しそうにおにぎりを見つめていた。彼女はアセビの梅干し塩おにぎりのことを気に入ったらしい。


「ちょっと大きすぎるよなこれ」

「いいじゃあないか。大きいことはいいことだぞ」

「オレ余ったご飯まとめて1つのおにぎりにしちゃったんだよね。よくよく考えたら、もう少し小さいおにぎりを小分けにして作ればよかったかな?」

「いいや、これでいい。ありがとう。いただくよ」


 サツキは大きく口を開く。大きかろうが小さかろうが関係ない。サツキはただアセビのおにぎりを欲する獣と化していた。

 アセビは口を開けてじっと見つめる姉貴分に対し、恐る恐る尋ねる。


「えっと……サツキ、まさかまた1口で食べようとしちゃってます?」

「言わずもがな」


 即答だった。

 アセビはためらいがちに、おにぎりを見つめる。


「……喉つまらないかなこれ……大丈夫かな」

「心配無用。お前のおにぎりは特別な味がするんだ。誰にも絶対に渡さない。あーん!」

「言っておくけど、これさっきと同じ味を大きくしただけだからな。期待はしすぎないでくれよ」


 アセビはサツキの口にそっとおにぎりを入れる。彼女の口内に綺麗に収まった。

 しかし流石に大きすぎたらしい。サツキはやや苦しそうに、忙しなく咀嚼している。だが懐かしい故郷の味を堪能することも忘れていない。満足そうに目を細めている。


「もぐもぐ……もぐもぐ……もぐもぐ……ん〜!」

「よ、よく口に入ったな。その表情を見るに、スペシャルビッグおにぎりの味も問題なかったみたいだな。安心したぜ」


 サツキは何度も頷いている。


「もぐもぐ……もぐもぐ……もぐもぐ」

「口の中のおにぎり全然減ってないんじゃないか? はは、やっぱちょっと大きすぎたかな?」


 サツキは心穏やかな表情で首を横に振った。食べにくそうだが満足しているらしい。

 アセビが作り、食べさせてくれる。その事実が何よりも味を極上のものとしていた。


「それにしてもさ。サツキ、オレに指示される前にあーんって口開けてたけどさ」

「……もぐもぐ……?」

「おにぎり食べさせてほしかったんだ? オレに?」

「っ!?」


 サツキの顔が赤くなっていく。彼女はアセビの言う通り、自然と口を開けておにぎりを食べさせてほしいと甘えていた。本能のままに。あるがままに。

 サツキはニヤニヤとしながらサツキの腕を肘でつついた。


「可愛かったよ。サツキって、いつもはしっかり者のお姉ちゃんだけど、ギャップがあってさ!」

「〜〜っ!」

「もしかしてだけど、サツキって結構甘えん坊さんだったりします?」


 サツキは否定しようとするが、口に入ったおにぎりが邪魔で言葉を発することができないでいた。このままでは甘えん坊ということになってしまう。

 実際アセビに兄になってもらいたい、甘えたいという気持ちはある。しかしサツキは素直になれない。お姉ちゃんは弟と妹を助けるべき存在と考えながら生きてきたからだ。幼い頃からの思考はなかなか曲げられない。そのせいで、自分の意志では甘えられないのだ。とことん面倒くさい女である。

 サツキの口内にはまだおにぎりがたっぷりと入っている。しかし彼女は何とか言い訳しようと口を開く。羞恥心に耐えられなかったのだ。


「……アセ……」

「はいストップ!」


 アセビがサツキの口をさっと手で塞ぐ。突然の行動に彼女は驚き、目を白黒させた。


「っ!?」

「お喋りするなら、口の中のおにぎりちゃんと全部食べてから! お行儀悪いぞ! お姉ちゃんなんだからしっかりしないと! 言いたいことあるなら、ちゃんとあとで聞くから!」

「ん〜〜〜!?」


 年下の青年に手で口を塞がれ、注意までされてしまった。サツキは羞恥心を刺激される。急激に体内が熱くなり、思考が定まらなくなっていた。しかし不思議とこの感覚は悪くないとも思い始めている。

 アセビは穏やかな表情でサツキを見続けていた。


「しっかりよく噛んで食べるんだぞ。喉に詰まったら危ないからな」

「〜〜っ!」


 サツキは必死に声を上げようとする。しかしおにぎりとアセビの手のひらに口を塞がれている。くぐもった声を上げることしかできない。


「しーっ! お喋りするのは、サツキがちゃんとおにぎりを食べ終わったらね! はい、モグモグして? できるかな? 大丈夫かな? ごっくんできるかな?」

「〜〜〜っ!!!!!!」


 アセビの噛んで含めるような物言い。サツキはさらに羞恥心を刺激されてしまった。

 アセビの手のひらに、サツキの吐息と口内から飛び出た米粒と唾液が当たる。どうやら必死に言い訳をしようとしているらしい。

 アセビは手のひらにくすぐったさと生暖かさを感じつつも、口から手を離そうとしなかった。サツキがおにぎりを食べ終わるまでそうしているつもりなのだろう。


「んん……っ」


 サツキは言葉を発するのを諦めて、口内のおにぎりを咀嚼し始めた。羞恥心で顔を赤くしながら。

 サツキは何とかアセビを納得させられる言い訳を考えなければと思っていた。心の奥底で感じている、不思議な快感に酔いしれながら。

 素直に言うことを聞くサツキを見て、アセビはニコリと微笑んだ。


「えらいえらい! サツキはお姉ちゃんだもんな! ちゃんとお行儀よくご飯食べられるよな!」

「〜っ……」


 アセビはサツキの頭を撫でた。心の底から嬉しそうな表情だ。まるで妹を可愛がる兄のように。

 一方サツキは恥ずかしさで顔が赤くなり、目を潤ませている。しかし不思議と精神的な苦痛は感じていなかった。もっと今の感覚を味わいたいとすら思っている。

 アセビは気づいていない。獣の本能を目覚めさえようとしていることに。


「サツキ、おにぎり食べながら聞いて……いや、聞かなくていいわ。独り言です」


 アセビは小さな声でボソリと呟く。


「もっと甘えていいから」


 特別な感情を持つ青年から聞きたかった言葉。サツキは目を見開く。


「ちょっと言うの恥ずかしいんだけど、サツキいつもありがとうな。オレにとってお前は強くてカッコよくて美人で……最高のお姉ちゃんなんだ。正直めちゃくちゃ頼りにしてるし尊敬してる」

「…………」


 アセビは頬を僅かに赤くして語る。改めて面と向かってサツキに感謝の気持ちを口にするのは、なかなかに照れくさかったのだろう。


「だけど疲れたときや甘えたいときってあると思うんだわ。サツキはスーパーお姉ちゃんだけど、ひとりの人間だし女の子だしな。だからそんなときは、もっとオレのこと頼ってほしいっつーか」

「…………」


 アセビの言葉がサツキの脳に響く。彼女は咀嚼することを忘れ、ただじっと聞き入っていた。


「もっと甘えてほしいっつーか」

「…………!!」

「サツキには頼りっぱなしだし、オレ自身そんな大したことしてあげられないとは思うから、あまり頼りにはならないだろうけど。しんどくなったときは、もっとオレに甘えてほしいんだ」

「…………!?」


 嬉しさと恥ずかしさで胸がいっぱいだった。サツキはなんとか言葉を紡ごうとするが、アセビは口から手を離してくれない。照れくさそうに笑っている。


「オレだけ一方的に普段思ってることを語るのはちょっと恥ずかしいんで、最後に一言だけ! サツキ、疲れたらお姉ちゃんでいること休んでもいいんだぜ!」


 アセビの言葉が理解できず、サツキは首を傾げた。


「……?」

「そのときはオレがお前のお兄ちゃんになるから!」


 サツキはアセビの言葉に大きく目を見開く。年下の弟が兄になってくれると言ってくれた。間違いなく。確かに。

 サツキにとってはあまりにも凄まじい衝撃。彼女は思わず口内のおにぎりをいっきに飲み込み、胃袋へ流し込んでしまった。

 アセビは言いたいことを言えてすっきりしたのか、頬を指でかきながらにししと笑っている。


「って言っても頼りないお兄ちゃんっスけどね!」


 アセビの手のひらにむず痒さが伝わる。サツキが唇を動かし、言葉を紡ごうとしているのだ。彼女はおにぎりを食べ終わったと伝えようとした。

 アセビはやっと口を塞いでいた手を離す。サツキは心地よい息苦しさと羞恥心からようやく開放された。


「ぷはっ!」

「はは、スペシャルおにぎり美味かった?」

「ご……ごちそうさま……お前のおにぎり、とてもおいしかったよ……フフフッ」

「それは良かった! さっきオレが言ったことも頭の片隅にでも置いておいてくれよな。まー、スルーしてもらっても全然いいんだけど」

「う、うむ……」


 サツキはもじもじとしながらアセビを見つめる。顔は血のように赤い。

 サツキは嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちを抱えてしまっていた。感情が複雑に絡み合っている。

 サツキはアセビの手をそっと握った。


「アセビ、私もお前に言いたいことがあって……」

「何でも言ってくれよな! オレができることならなんでも力になるからさ!」


 サツキは顔を赤くしながら、言葉を絞り出そうと必死になっている。


「私こそっ……お前に感謝しているんだぞ……私はいつもお前に支えられてばかりで……頼ってばかりで……」

「そうかぁ? 気のせいじゃないか?」

「そうなの! 気のせいじゃないの!」


 サツキは声を荒げた。

 アセビはいつも頼れる姉貴分に助けてもらってばかりだと思っている。一方サツキも大事な弟に助けてもらってばかりだと思っていた。

 ある意味ふたりは似たもの同士なのかもしれない。


「そんな私が……言えたことじゃないんだが……」

「おうおう! おせーておせーて!」

「……むぅ」


 サツキは言葉を詰まらせてしまった。本当に言いたいことを言ってもいいのか迷っているのだ。

 アセビは期待の眼差しをサツキに向ける。


「ほら早くしなって! 遠慮しないで、何でも言ってくれよな!」


 これからもずっと私のお兄ちゃんになってほしい、弱い私をずっと支えてほしい。サツキはそう言うだけでいいのだ。

 しかし年上の自分の本音を聞いて、アセビに拒絶されないだろうかという恐怖心が尻込みをさせていた。


「その……やっぱり……いや……なんでもない……」

「なんでもなくないだろ! 教えてくれよ! そうじゃないとまたおにぎり無理やり食べさせちゃうぞ!」

「ええっ!?」


 サツキは頬を朱色に染めた。アセビに無理やりおにぎりを食べさせてもらえる。また口を塞がれ、心地よい息苦しさと羞恥心を感じながら、聞きたい言葉を聞かせてもらえるのだ。サツキは一瞬のうちにそう思ってしまった。

 嬉しいけど恥ずかしい。サツキの体内はマグマのように熱くなり、感情が昂りかけていた。


「はぁ……はぁ……はぁっ!」


 サツキは自身の両頬を手のひらで叩いた。感情という名の本能を理性で抑えるために。


「サ、サツキ!? 急に何を!?」


 特別な感情を持つ青年に否定されるのは怖いと思っている。しかし聞かずにはいられなかった。

 サツキは恐る恐る尋ねる。


「アセビ……確か……さっき……わたしのお兄ちゃんになってくれるって……いってた……よ……ね?」

「言ったぜ! 間違いない!」

「いっても……だいじょうぶかな……わたし……ひていされないかな……」


 不安そうな表情のサツキ。

 アセビは自信たっぷりに頷き、親指を立てた。


「オレはサツキのこと否定しないって! なんでも言ってくれよ! オレはお前のお兄ちゃんだからな!」


 弾けるような笑みを浮かべるアセビ。サツキは息を大きく吐き出し、自然と笑みをこぼす。

 最初から不安に思うことなどなかったのだ。アセビはいつもどんなときも、サツキの良き理解者であり、可愛い弟であり、頼れるお兄ちゃんなのだから。

 迷いも恐れも、忘却の彼方。サツキはアセビの手のひらを握り、晴れ晴れとした表情のまま口を開く。


「アセビ……わたしの……おに……」

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