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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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覚醒!!最強パワーの問題児 14

「いたたた……」


 一方マーガレットは、部屋から落ちて背中を強く打ってしまい顔をしかめていた。部屋は暗く、どこにいるかもわからない。マーガレットは不安を覚える。


「何も見えないわ……アセビには使うなって言われちゃったけれど……」


 マーガレットは一瞬ためらったが、この状況なら周囲を照らすフラッシュを使っても問題ないと判断した。


「控えめの……フラッシュ!」


 マーガレットが高らかに宣言する。彼女が調整したフラッシュを唱えると、周囲が明るくなった。


「ここは……っ!?」


 マーガレットのすぐ側には、非常に鋭いトゲが設置されていた。運が悪ければ、命に関わる大怪我をしていたかもしれない。

 マーガレットは怯えた表情で体を起こし、他に罠がないか調べるため、きょろきょろと周囲を見回した。


「ひっ! ほ、他に罠はもうないわよね!? もうあたし大丈夫よね!?」


 幸運なことがある。この部屋にトゲ以外の罠はなかったことだ。


「……あら? 何か動いてるような……」


 不幸なことがある。この部屋にはマミーが多く存在したことだ。彼らはマーガレットを確認すると、じりじりとゆっくり近づき始めた。


「やばいわ! 早く逃げないと……!」


 マーガレットは扉に向かおうとするが、あまりにもマミーの数が多すぎた。彼らは一箇所に集まって白い壁となり、この部屋から出られないよう妨害している。今のマーガレットにできることは、部屋の隅に逃げることだけだ。


「あわわ……」


 マーガレットは恐怖に震え、目に涙を浮かべ、ただ無心に叫んだ。


「いやぁぁぁ!! 助けてぇぇぇ!! マミーにボコボコにされちゃうぅぅぅ!!!」




 アセビたちは床が開かないか調べていたが、耳にマーガレットの悲鳴が届き、動きを止めた。


「聞こえたか!? 今の悲鳴はマーガレットだ! 助けに行かねえと!」

「下にマミーがいるみたいだよぅ!」

「先に行くぞ! お前たちは罠に気をつけながら下に来るんだ!」


 サツキは部屋を急いで飛び出すと、階段を駆け下りて耳に手を当てた。マーガレットの悲鳴が聞こえれば、どこにいるかわかるからだ。


「マーガレットが落ちた位置からして、恐らくこの近くだとは思うのだが……クッ、わからない! マーガレット! 聞こえているかマーガレット! 大声を出すんだ! 私がすぐに行く!」


 マーガレットから返事はない。

 焦りの表情を浮かべるサツキは、鍵のかかった部屋を蹴り飛ばし、中に飛び込んだ。

 マーガレットはいなかったが、3体のマミーが部屋に存在していた。サツキに向かって拳を振り上げながらゆっくりと近づいてくる。


「邪魔だどけぇ!」


 サツキはマミーたちの頭を一瞬で斬り落とすと、そのまま勢いを殺すこと無く部屋を飛び出した。マミーと罠の存在を恐れている場合ではない。愛する妹分の命が失われる前に、助け出さねばならないのだ。


「クッ、また鍵がかかっている! ええい!」


 サツキは再度扉を蹴り飛ばした。


「マーガレット! すぐ助けるからな!」


 サツキが勢いよく部屋に入ると、多くのマミーが部屋の隅に集まっていた。何かに向かって何度も拳を振り下ろしている。

 あまりにも異様な光景。サツキは首を傾げた。


「何を……やっているんだ……?」

「ロック! ロック! ロック!」


 サツキは異様な光景に動きを止めていたが、耳に聞き慣れた声が届く。彼女はマミーが何を殴っているか理解した。そう、彼らはマーガレットを攻撃しているのだ。

 サツキはマーガレットの生存を確認し、ほっと胸を撫で下ろすが、まだ安心はできない。彼女を殴り続けるマミーを排除しなければ、助けだすことはできないのだ。


「ロック! ロック! ロック!」


 マーガレットは体を丸めて大粒の涙を流していた。身を守るため、体を岩のように固くする補助魔法ロックを唱え続けている。

 マミーたちは拳がボロボロになるのも構わず、本能のままマーガレットを殴り続けていた。


「ロック! ロック! ロック!」


 このままロックを唱え続けていれば、無慈悲に殴り殺されることはないだろう。しかし一方的にマミーたちに囲まれ、殴られ続けていることに変わりはないのだ。その恐怖は計り知れない。

 マーガレットは肉体的なダメージは受けずにいるのだが、精神に大きなダメージを受け続けているのである。

 サツキは床を蹴り、マミーたちの背中に向かって飛びかかった。


「貴様らぁ! マーガレットから離れろ!!」


 サツキは怒りの感情のまま、マーガレットを殴り続けるマミーたちの背中にヤグルマソウを振り下ろした。1体。2体。3体。それ以上。次々とヤグルマソウはマミーたちを斬り裂いていく。


「はぁぁぁぁぁぁ!!」


 目にも映らぬ速さであった。鬼の前で無防備に背中を晒すマミーたちは、動かぬ的に等しい。大勢いたが、あっという間に全滅し、灰と化した。


「はぁ……はぁ……マーガレットは!?」


 サツキは部屋にマミーが1体も残っていないことを確認すると、急いでマーガレットに駆け寄った。


「マーガレット!」

「大丈夫!?」


 アセビとルピナスと触覚も追いついたようだ。急いで部屋に足を踏み入れた。


「周囲に灰が積もってる……オレたちの出番はなかったようだな」

「サツキはやっぱり怖いよぅ」

「マーガレット、大丈夫か!?」


 サツキがマーガレットの両肩を握り、力強く何度も揺らす。彼女はゆっくりと顔を上げるが、マミーによって心を傷つけられたからか、目に生気がなかった。

 マーガレットは壊れたおもちゃのように、ゆっくりと口から言葉を紡ぐ。


「おそら……きれい……」

「マーガレット……?」


 マーガレットは、体は無事だったが精神はマミーたちによって傷つけられ、崩壊していた。天井に向かって手を伸ばし、口を開く。


「みて……あのくも……ふわふわ……」


 アセビたちが天井を見上げると、大きな蜘蛛の巣が目に映った。


「ん? 蜘蛛の巣しかねえぞ? マーガレットには何が見えているんだ?」


 ぶつぶつと呟くマーガレットを見て、ルピナスが口を開く。


「マーガレット、壊れちゃったよぅ」

「元々倫理観は壊れてたけどな」

「うん。そうだね」


 アセビとルピナスは思ったままに容赦なく言葉を吐き出すが、サツキは膝を付き呼吸を乱している。愛する妹分の精神が崩壊してしまったからだ。サツキは悔しそうに拳を床に叩きつけた。


「くもさん……おいしい」


 マーガレットは薄ら笑いを浮かべながら、手を口元に近づけている。サツキは瞳からあふれ出す熱いものを乱暴に拭い、マーガレットを力強く抱きしめた。


「むしゃむしゃ……おいしい」

「すまないっ……私がもう少し早くこの部屋に来ていればマーガレットの精神は……っ……何が黒鬼だ……私は大切な妹を守れない、ただの無力な女じゃないか!」


 悔し涙を流すサツキ。彼女の隣では、アセビがいつものようにのほほんとした表情を浮かべていた。


「サツキ、ちょっとどいてくれないか」

「アセビ……?」


 アセビは震えるサツキの肩にそっと手を置いた。彼女は何か言いたげに口を開くが、黙って従いマーガレットから離れた。

 アセビはうなだれるサツキの背中を心配するなと言わんばかりに叩く。


「さて」


 アセビはマーガレットと視線を合わせるため、しゃがみ込んだ。


「おい、マーガレット。大丈夫か?」

「おほしさま……きらきら……」

「結構イッちまってるな……」


 アセビの言葉が耳に届く。サツキは悔しさをにじませながら、再び拳で床を殴った。


「くっ……!!」

「だが大丈夫だ。おい、マーガレット! こいつが目に入らぬか!」


 アセビはポケットから緑色に煌めく石をマーガレットに見せつけた。彼が握っているのは、酒の保管庫に置かれていた奇妙な人形の瞳代わりに使われていたものである。マーガレットが下の階に落下したとき、人形は酒の保管庫の床に落ちた。宝石はそのときの衝撃で外れたのである。

 アセビはそれを見逃さず、ポケットに入れて持ち出していたのだ。


「ほ〜れ、お前の好きな宝石だぞ〜? ほらほら欲しいだろぉ? お? お? お?」


 アセビは緑色の宝石を、マーガレットの目に何度も近づけている。

 サツキはその光景を見て、瞳を閉じて唇を噛んだ。


「アセビ……マーガレットの精神を回復させようとしているみたいだが……あの子は繊細なんだ……心は壊れてしまった……もうどうすることもできない……私が至らぬばかりに……」

「あら!? アセビさん、それさっきのキモい人形に埋め込まれてた宝石じゃない!?」

「……あ?」


 サツキの耳に聞き慣れた声が届く。彼女が瞳を開くと、マーガレットが瞳をキラキラと輝かせている姿が映った。

 サツキが口をぽかんと開けていると、アセビがマーガレットの肩と背中を数回軽く叩いた。


「よし。特にどこも怪我はしていないな」

「あの程度で怪我なんてしないわよ! それより宝石もっと見せなさい!」


 アセビはマーガレットが元気になったことを確認すると、緑色の宝石を手渡した。


「ほら、お前が持ってな。落とすんじゃねえぞ」

「えっ……マジであたしが宝石もらっていいの?」


 アセビは小さく笑いながら軽く頷いた。緑色の宝石を没収する様子はなさそうである。


「持ち主がいるならまずいけどな。でも流石にもう死んでるだろうしお前のものにしてもいいんじゃね? 大事に保管されてた様子もないから、貴族への捧げ物って感じでもないしな」


 アセビからのお許しが出た。宝石はマーガレットのものとなったのである。彼女は嬉しさを隠しきれず、その場で何度も飛び跳ねた。


「このあたしがもらってもいいってことよね! やったわ! ハッピーヤッピー超うれピー!」


 マーガレットは満面の笑みを浮かべて、アセビの腕にしがみついた。ふたりはそのまま歩みを進め、部屋を出ていく。

 サツキはその様子を、無表情のまま黙って見つめていた。


「暑いんだけど」

「ぎゅ〜っ!」


 ルピナスがやっぱりねと言わんばかりにくすりと笑った。緑色の宝石を見せたら、マーガレットがすぐ元気になると、予想していたのだろう。


「簡単に前向きに慣れてうらやましいなぁ。でもすぐ元気になってよかったよ。じゃあぼくたちも行こうか、触覚ちゃん」


 ルピナスは触覚と顔を見合わせ、そのままアセビとマーガレットの後に続いて部屋を出ていった。


「ちょっと……休もう」


 ひとり部屋に取り残されたサツキは、大きなため息をついてその場に腰を下ろして首を回した。どっと湧いてきた疲労感のせいである。


「お姉ちゃん、マーガレットが元気になって安心したけど……ちょっと疲れたよ……」


 サツキは自分の行動は全て無駄だったのではと思い始めているが、彼女が急いでマーガレットを助けていなければ、修復不能なほど精神にダメージを受けていた可能性もある。サツキはベストを尽くし、最善を尽くしたと言ってもいいだろう。決して無駄ではない。


「サツキ! 早く早く!」


 サツキが顔を上げると、先ほど出ていったマーガレットが部屋に戻っていた。笑顔で手を伸ばしている。

 すっかり元気になったマーガレットを見て、疲労が吹き飛んだらしい。サツキは微笑み返し、マーガレットの手を握って立ち上がった。


「さっきは助けてくれてありがと! あたしサツキのこと大好き!」

「フフフッいつでも助けるさ。私はお前のお姉ちゃんだからな」

「えへへ!」


 マーガレットは大好きな姉貴分の言葉が嬉しかったのだろう。満面の笑みを浮かべている。

 サツキはそんなマーガレットの頬を摘んで、思いっきり引っ張った。


「いふぁいいふぁい!!!」

「それはそうと! やっぱり腹が立つ! コラ! お姉ちゃんをあまり心配させるな!!」

「ごふぇんなふぁい!!!」


 静かになった部屋に、マーガレットの声が響いた。

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