覚醒!!最強パワーの問題児 13
「あぁ……ちょっとまだ頭クラクラするわ……」
マーガレットは頭を押さえながら、前を歩くアセビの背中を睨みつけていた。ジャムパンを食べたことで、体力とエネルギーは回復している。しかしまだ本調子ではないらしい。だがアセビを必要以上に煽ったことが原因なため、本人の自業自得である。同情はできまい。
「ごめんごめん、次からは気をつけるからよ。また何かあったらよろしくね、マーガレットちゃん!」
「次なんてないわよ!」
アセビの背中をはたき、マーガレットは頬を膨らませて怒りの感情を爆発させる。そんな彼女を見て、ルピナスは申し訳無さそうにうつむいていた。
マーガレットが自分のためにエナジードレインで体力とエネルギーを吸いつくされたことに、責任を感じているのだろう。表情が暗い。マイナス思考を爆発させてしまう可能性がある。
落ち込むルピナスに気づき、マーガレットは慌てて手を横に振った。
「そんな顔しないの! あたしちょっと歩けばすぐ元気になっちゃうんだから! また疲れたら言うのよ? いつだってエネルギーあげちゃうんだから!」
「うぅ……ごめ……ううん。ありがとう」
「そう、それでいいの!」
マーガレットはルピナスに抱きつくと、頬を擦りつけた。彼女は顔を赤くし、照れくさそうにしている。しかしその嬉しさを隠し切ることはできず、ぎこちなくではあるが微笑んでいた。
サツキは扉に耳をつけながら、愛する妹分たちの仲睦まじい光景に目を細める。
「この部屋から音はしない」
「じゃあ罠に気をつけつつ、この部屋調べますかね」
アセビが扉をそっと開くと、女子たちもも隙間から部屋の中を覗いた。
木製の棚がところ狭しと並べられている。その中にはガラスの瓶が丁寧に置かれていた。
「もしかして」
「うむ」
ルピナスの表情が輝く。
ガラス瓶の中には液体が入っている。ルピナスとサツキは顔を見合わせ、ハイタッチした。
「お酒だね!」
「もしやと思っていたが、本当にあるとはな!」
この部屋は酒の保管庫だった。よく見ると木製の棚だけではなく、大きな樽も置かれている。中にはたっぷりと酒が入っているに違いない。
ルピナスは瞬きを忘れ、呼吸を荒くし、ただ部屋をじっと見つめていた。
「アセビ……はぁ……はぁ……はやく……ぼく……手が震えてきた……」
「ルピナスちゃん、目がイッてて怖いんだけど」
アセビが部屋の扉を開くと、アル中どもは部屋に勢いよく飛び込んだ。彼女たちは棚に並べられた瓶を、うっとりとした表情で眺めている。誰も己の中に眠る欲望には勝てない。
幸い棚と瓶に罠は仕掛けられていなかったが、警戒心を忘れているふたりを見て、マーガレットはやれやれと肩をすくめた。
「床に罠はないわ! それにしても、ふたりとも我を忘れちゃって危ないわねぇ……」
「おお……」
マーガレットは、暴走するアル中どもが罠に引っかからないよう、しっかりと床をチェックしていた。アセビは思わず感嘆の声を漏らす。あのマーガレットが冷静に行動しているからだ。
「マーガレット、ちゃんと見ててくれたんだな。アセビくんお前のこと結構見直しちゃった」
「これぐらいは流石に?」
マーガレットはそれだけ言うと、罠に注意しながら部屋を物色し始めた。金目の物を探しながら、白い鳥が隠れていないか、しっかりとチェックしているのだ。
アセビは今後はもう少しだけ、マーガレットに仕事を任せてもいいかもしれないと思い始めていた。
「アホウドリはいない。マミーもいない。安全ね」
熱心に行動するマーガレットだったが、ランタンの光が部屋の奥を照らすと動きをぴたりと止めた。
「あら……? あれは……?」
「ん? どうかしたか?」
アセビがマーガレットの目線をたどると、小さな机が置かれていた。頭が異様に大きい人形が複数並べられている。どう見ても酒の保管庫には不必要なものだ。
人形は豪邸を建てた貴族の趣味で作られた代物かもしれないが、どことなく不気味さを感じさせる。アセビは近づくのをためらった。マーガレットも似た感情を覚えたらしい。アセビの背中からそっと見つめている。
「なんか嫌な感じがするな。違和感があるというか、不気味っつーか……」
「キモいわねぇ。早く出ましょ……」
マーガレットは気味が悪いと思いながらも、人形から視線を逸らさずにいた。不気味なデザインが好奇心を刺激したのかもしれない。
しかしそれが不幸の始まりだった。
人形は異様に大きな頭だが、瞳は非常に小さく、アンバランスな造形である。
その時、マーガレットの全身に電流が走った。
「あの右の人形のお目々……宝石じゃない!?」
「えっ。あっ、確かにキラキラしてるな」
「でしょでしょ!?」
アセビがマーガレットの言う人形を見つめる。目が美しく、緑色に煌めいていた。
マーガレットは瞳を輝かせている。人形の目だけを見つめていた。
「キラキラして綺麗ねぇ。こんなオンボロなところになったんじゃもったいないわ! どこかにこの宝石に相応しい女の子がいるんじゃないかしら?」
「どうどう。落ち着けよ。しかしそれにしても、なんでこんな場所に不気味な人形があるんだろうな。酒の保管庫には必要ない……って!? ちょっと待てよ!?」
今度はアセビの全身に電流が走った。彼はリラが口にした言葉を思い出す。彼女は言っていた。人形には罠がある、と。
「つまりあの人形は撒き餌……欲にまみれたどこかの悪魔みたいな人間を排除するための罠!」
アセビは冷や汗を拭い、背後に控えるマーガレットに言葉をかける。
「マーガレット! あの人形は罠だ! 近づかずにこのまま部屋を出るぞ!」
「アセビさん! あたし調査してきます!」
「えっ!?」
マーガレットはアセビを無視し、部屋の奥に向かって全速力で走り、人形を持ち上げた。先ほど見せた歴戦の勇姿を思わせる用心深さは、忘却の彼方である。
誰も己の欲望には勝てない。
「やだ! 見てこれ、マジでやばい宝石よ!? 相当価値があるものじゃない!」
「いいから戻ってこいって! それ罠だって!!」
アセビが声を荒げながら指示を出すが、マーガレットは全く聞く気がない。瞳を輝かせながら宝石を至近距離で見つめている。
「マジやばいって! マジのマジ! あたしのコレクションにマジで加えなきゃ! やったわぁぁぁ!」
マーガレットの語彙力の失われた歓喜の叫びは、ルピナスとサツキの耳にも入り、注目を集めた。彼女たちは狂喜乱舞する問題児を見て冷静さを取り戻したのか、酒瓶を棚に丁寧に戻し、アセビに近づく。
「う? どうしたの?」
「アセビ? マーガレットがハイになっているが……」
「やだ、何から買うか迷っちゃ……」
マーガレットの煩悩のまみれた言葉は、途中で途切れてしまった。彼女が立つ床が急に開き、そのまま落下してしまったからである。
人形に仕掛けられた罠は落とし穴だった。持ち上げたら、しばらくすると床が開くようになっていたのだ。
アセビは頭を抱えた。
「言わんこっちゃない!」
「ひゃ〜! マーガレットが落ちたよぅ!」
アセビたちが急いで落ちたマーガレットを救出しようと近づくが、床は閉じてしまった。パーティは完全に分断されてしまったのである。
アセビは大きなため息をつくと、突然の出来事に固まっている女子たちに声をかけた。
「やれやれ。だから罠だって言ったのに。下の階に戻りますかね」
「マーガレット、待っててね」
「怪我をしてなければいいが……」




