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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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覚醒!!最強パワーの問題児 12

「水は大事に飲んでくれよ。食料はまだ余裕があるからガンガン食べていいぞ」

「ありがとね」

「ありがとう」

「かたじけない」


 タライ事件も終わり、アセビ一行は仲良く休憩タイム中である。のんきな行動に見えなくもないが、焦って白い鳥に勝負を仕掛けるよりは、少しでも万全な状態で挑んだほうがいいだろう。体力の回復は最重要事項だ。

 アセビとルピナスは壁を背にもたれかかり、腰を下ろして体を休めていた。


「そろそろ芋虫さんも呼ぼうかな?」

「ギリギリまで残しておいたほうがいいと思う。芋虫は最後の切り札だ」


 ルピナスはアセビのアドバイスに納得したらしく、素直に従うことにした。仮に罠やマミーによってパーティを分断されたら、彼女を守れるのは芋虫だけだ。最悪な状況を回避するために温存する。アセビのその判断は間違ってはいないだろう。


「じゃあ、触覚ちゃんに、もう少しだけ頑張ってもらおうかな。大丈夫?」


 ルピナスの期待のこもった声に反応し、触覚がその場で飛び跳ねた。彼女もマーガレット同様、頼られると燃えるタイプなのかもしれない。

 触覚の姿を見てアセビは自然と笑みがこぼれるが、ふとルピナスに目を向けると、表情が暗い。体調が良くなさそうである。


「ルピナス、お前気分悪いのか? なんかしんどそうな顔してるぞ」

「そんなこと……ないよ」

「そんなことあるよ。慣れない場所での探索だ。きっと疲れとストレスが蓄積されちまってるんだ」


 アセビは頭を必死に回転させる。ルピナスの体調を整える方法を考え始めた。


「ぼく……大丈夫だよ」

「大丈夫じゃない子はみんな大丈夫って言うんだわ。ほら、手出しな。エナジードレインを使ってオレのエネルギーを分ければ、少しは元気になるはずだ」


 アセビのエナジードレインは、本来は体力やエネルギーを奪うものだが、分け与えることもできる。忌み嫌われている黒魔法も、使い方次第では仲間を支える補助魔法として使えるのだ。


「ダメだよ! ぼくこれ以上みんなに迷惑……」


 アセビはルピナスの言葉を遮るように、両頬を軽く摘んだ。手の温もりが、彼女の体全体に広がっていく。


「コラ! そんなこと言わない! 全然迷惑じゃないっての! 仲間は支え合うものだからな!」

「でも……」

「お前は最後の切り札でもあるんだぜ」

「う?」


 ルピナスは自身のことをマイナス思考の止まらないお荷物の役立たずと認識している。その自分が切り札とはどういうことなのだろうと首を傾げていた。


「ランダム召喚は禁じ手だが、最後の切り札でもあるんだぜ」

「う?」

「もし状況がどうにもならなくなった時は、お前に託したい。そう、ランダム召喚の出番だ!」

「おぉ」


 アセビの言葉が耳に届く。ルピナスは気合いが入ったのか、少しだけ表情が穏やかになった。


「ランダム召喚したいときに、体力やエネルギーがなかったら困るだろ?」

「で、でも必ずしもぼくたちの味方をしてくれるモンスターが出るわけじゃ……」


 アセビはマイナス思考を爆発させるルピナスの両頬を軽く引っ張った。


「そんときはそんときよ! でもお前はやればできる子だから、オレは良い結果になると信じてるぜ!」

「プレッシャーだなぁ。いやだなぁ」

「大丈夫! やばい奴呼んだらオレがごめんって謝って許してもらうさ!」


 アセビは親指を立てて屈託のない笑顔を見せる。根本的な解決にはなっていないのだが、不思議とルピナスは気が楽になっていた。マイナスな考えは吹き飛び、アセビの手に自身のそれを重ねてぎこちなく笑う。


「あはは……その時は……よろしくね」

「おう!」


 アセビはルピナスの頬から手を離し、モコモコした頭を撫で回した。照れくさそうにしつつも、ぎこちない笑みを浮かべる彼女を見て、触覚が嬉しそうにぴたりと体をくっつける。


「じゃあ早速……」

「アセビ、待つんだ」


 サツキが口を挟んだ。アセビとルピナスの前に移動して、ゆっくりと座った。

 サツキは最低限の水分補給だけを済ませ、マミーが入ってこないよう入り口で見張りをしていたが、どうしても言いたいことがあるらしい。腕を組み、片目を閉じたままアセビを見つめた。


「お前は私たちの司令塔だ。できれば良好な状態を維持してほしい。体力とエネルギーをルピナスに渡すのはやめてもらおう」

「そうは言うがな、サツキ。正直オレがいなくても何とかなるだろ? オレはお前みたいに戦闘が得意でもないし、マーガレットやルピナスみたいに特殊なことができるわけでもないしな」

「お前は自己評価が低すぎる」


 問題児たちをまとめあげたのはアセビだ。的確な指示を出し、そばにいるだけでも士気を上げている。絶対に必要なリーダーである。

 サツキはアセビの手を握り、じっと見つめた。


「私の体力を吸ってくれ。休憩はできた。少しぐらいなら持っていかれても大丈夫だ」

「おいおい、白い鳥のスピードについていけるのはサツキだけだぞ? お前こそ万全な状態じゃないとダメじゃねえのか?」

「むぅ……しかし……」

「ふたりとも、ぼくは大丈夫だから……」


 3人とも仲間を想う気持ちは強いのだが、それ故に自分のことを蔑ろにしてしまっている。話は平行線のまま進み、なかなか結論が出ない状態にあった。

 状況が進まないことにしびれを切らしたサツキが、膝を叩いて声を上げる。


「もういい! お姉ちゃん特権だ! お前たちはこの私の指示に従ってもらう! アセビ、私にエナジードレインを使うんだ! いいな!?」

「ずるいぞ!」

「卑怯だよぅ!」

「なんとでも言え! ちなみにだがお前のエナジードレインは、体のどこを触っても発動できるのか?」

「まぁ……多分」


 サツキは目を細めて、アセビの手に視線を向ける。サツキは一瞬獲物を狙う猛禽類のように鋭い目つきとなったが、ルピナスはそれを見逃さなかった。


「ひゃっ……」

「アセビ、私が寝転がるから馬乗りになるんだ」

「いや、手握るだけでいいんスけど」

「しっかりと押さえつけるんだぞ。動かないように」

「いや、手握るだけでいいんスけど」


 サツキの頬が、少しずつ、血のように赤く染まっていく。今の彼女は、心の扉を開放している状態である。

 ルピナスは尊敬する姉貴分に恐怖心を抱きつつ、ぼそりと呟いた。


「元気が有り余ってるような人がいたらいいのにね」

「まー、それが1番ではあるが……」

「それができない以上私の体力をだな……」


 いる。たったひとりだけ、いる。

 アセビたちの思いは、部屋を盗賊のように物色する白い問題児へと注がれる。彼女は棚から取り出した銀のコップを、つまらなさそうに見つめていた。


「お金になりそうなのは、これぐらいかしらねぇ……他の部屋に期待……えっ」


 マーガレットは信頼できる仲間たちが、瞬きもせずに視線を向けていることに気づく。


「マーガレット、お前の体力とエネルギー。ちょっとだけもらっていいスか」

「い・や・よ!」


 即答である。

 マーガレットは以前アセビにエナジードレインを使われ、エネルギーを吸い付くされた経験があった。そのことをしっかりと覚えていたのである。


「あのエネルギー吸い取る黒魔法でしょ? アセビは知らないと思うけどアレキモい感覚がするんだから!」


 どうやら2度と受けたくないらしい。マーガレットは胸を押さえてアセビを睨みつけた。


「そこをなんとか頼む! お前の好きなおやつ3個まで買ってあげるから!」

「……だ、ダメなものはダメなのっ! いやなのっ!」

「結構揺れてたね」

「もう少しだな」


 両手を合わせて懇願するアセビに対し、マーガレットはそっぽを向いて拒否した。

 無理やりエネルギーを奪うという手段も取れなくはない。しかし問題児とはいえ仲間だ。できればそういった行為はしたくないとアセビは考えていた。


「困ったな。このままだと……」

「じろじろじろ」


 マーガレットはもう少し駆け引きをしてくれたら、体力とエネルギーを渡しても良いと思っていた。アセビに自分自身の価値を証明できると思っているのだ。とことん面倒くさい女である。


「しょうがないわねぇ。どうしてもって言うなら、あたしの体力とエネルギー……」

「そっか。無理なお願いしてごめんな」

「えっ」


 意外と素直に引き下がるアセビを見て、マーガレットは目が点になる。描いた未来予想図が、音を立てて少しずつ崩れ落ちていく。

 アセビはマーガレットに背中を向けると、サツキに向かって両手を合わせた。


「オレとサツキの体力とエネルギーを少しずつルピナスに渡そう。それなら問題ない」

「不本意だが……それが1番か」

「悪いな。じゃあちょっとだけもらうわ」


 サツキは理想のシチュエーションで、体力を吸い付くしてほしいと思っていたのだが、素直に頷いた。己の欲望と仲間の健康状態。どちらが大切かは理解している。

 サツキはアセビの手を握り、エネルギーを差し出す意思を見せた。


「触覚?」


 これまでおとなしく見守っていた触覚も、アセビに向かって小さな手を伸ばす。体力とエネルギーを分けると言っているのだろう。


「お前も協力してくれるのか? サンキュー! じゃあ少しだけもらうからな」


 アセビが頭を撫でて小さな手を握ると、触覚は嬉しそうに体を揺らした。

 ルピナスは申し訳無さそうにしつつも、自分のために仲間たちが協力してくれるこの状況を喜ばしく思っている。瞳には光るものが浮かんでいた。


「ちょっ、ちょっと待ちなさい!」


 マーガレットが必死の形相で近づき、アセビの手を握る女性陣のそれを無理やり振りほどいた。

 どうやら元ぼっちの問題児は、それぞれが支え合う微笑ましい空気を、自分もいっしょに感じていたいと思ったらしい。

 マーガレットは上目遣いでアセビをじろじろと見つめ始めた。


「あたしも? 協力しても? いいのだけれど?」


 アセビは首を振って扉を指差した。


「それよりさ。お前包帯人間が入ってこないように見張りしててくれよ」

「しょうがないわね! ほら、あたしのエネルギー持っていきなさい!」

「いや、いいって」


 マーガレットは顔を赤くし、腰に手を当て、アセビの額に自身のそれをぶつけた。


「いててっ」

「あたしはちょっと休めばすぐ元気になるの! ルピナスのことは任せなさい!」

「いやいや、だからもういいって!」

「は・や・く!」

「えぇ……なんじゃこいつ」


 マーガレットはアセビに向かって手を伸ばす。


「じゃあ手握るぞ」

「黒魔法ってどこ触っても使えるんでしょぉ? アセビさんがぁ、望むならぁ、おっぱいでもぉ」

「手握るぞ」

「あっはい」


 アセビはマーガレットの誘いを見事にスルーし、手をそっと握る。彼女に軽く頭を下げ、素直に感謝の気持ちを口にすることにした。


「サンキューな! マーガレットちゃんにはマジで感謝ですわ! これでルピナスも元気になるぜ!」

「ありがとうね」

「もっと褒めなさい! 感謝しなさい! 崇め奉りなさい! 優しくしない! 愛しなさい!」

「マーガレットちゃん最高!」

「おーっほっほっほ!!」


 珍しくアセビに感謝され、マーガレットはドヤ顔である。日頃の悪行の数々のせいで感謝される機会はなかなか無い。得意げになるなというのは無理な話である。


「そう言えばさっきアセビさんさぁ……」

「ん?」

「タライが頭に……ぷっぷっぷー!」

「……うん。そんなこともあったね……」

「ガシャーンって! ぷっぷっぷーのぷー!」


 誰にでも触れてはならないものはある。それは当然アセビにもだ。

 少しずつ不穏な空気が広がっていることに、マーガレットは気づいていない。ルピナスとサツキは、アセビの額に浮かぶ青筋を見逃さなかった。


「最高だったわ! もう1回あれ見せなさいよ! ぷぷぷのぷー!!」

「……じゃあそろそろ、お前のエネルギーちょっともらいますかね」

「必死の叫び声もセットよ! あれがまぬけな感じがしでぇぇぇぇぇぇ!?」


 部屋にマーガレットの叫び声が響き渡る。アセビが黒魔法エナジードレインで、無尽蔵に近い体力とエネルギーを奪えるだけ奪い取ったのだ。少しだけもらうつもりだった。しかしマーガレットは触れてはならないものに触れてしまったのである。アセビは己の感情を制御できなかったのであった。


「……まー、こうなるよね」

「……うむ。これはマーガレットが悪い」


 アセビはようやくマーガレットから手を離した。少しすっきりしたのか、ニコニコと笑いながら首をボキボキと鳴らしている。

 アセビは白目を向いて痙攣しているマーガレットを見下ろし、苦笑いしながら口を開いた。


「ん? 間違ったかな? アセビくん、エナジードレインの力加減ミスちゃった! えへへ!」

「……」


 アセビの白々しい言い訳が聞こえているのかいないのか。マーガレットは一切反応しない。痙攣したままである。


「ほれ、これでも食べて早く元気になりな」


 アセビはマーガレットの大きく空いた口に、ジャムパンを無理やり押し込んだ。その後何事もなかったようにルピナスに視線を向けて、手を伸ばす。

 尊い犠牲になったマーガレットのエネルギーを無駄にしてはいけない。ルピナスは勇気を出して、アセビの手を握った。


「よ、よろしくね……」

「いきまっせ!」


 ルピナスの体内に体力とエネルギーが流れ込む。その結果、少しずつ彼女の表情が和らいでいく。

 サツキはほっと胸を撫で下ろすが、尊い犠牲が出たことを忘れてはいない。白目を向いたままの妹分が、すぐ元気な姿を見せてくれることを祈るのだった。

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